工事請負契約における代金支払い

工事請負契約における代金支払い

1 請負契約の工事代金

請負契約の成立と工事の完成によってはじめて工事代金を請求することができるのが、民法の原則です。

もっとも、発注者において目的物の引渡しを受けるまで代金を支払わないと主張する権利(同時履行の抗弁権)があるため、請負人が工事を引き渡さなければ代金の支払いを受けることはできません。

2 工事請負契約の支払条件

しかし、工事を完成できなければ代金を発注者に請求できないという原則を貫くと、下請負人に工事金額を払えない資金力のない建設業者は、工事を完成することができません。

そのため、実際には、工事請負契約書に様々な支払方法を定めて、民法の原則を大きく変更しています。

⑴ 工事請負契約書における着手金

多くの場合、工事着工前の段階で、発注者から建設業者などの受注者に対し、契約金・着手金名目で、総工事代金の10~30%の金額が支払われます。

公共工事などでは、前払金(または前金払)ということもあります。

工事開始前に工事代金を発生させていることからも分かるように、現実には、工事を完成しなければ請負代金を請求できないという民法の原則は大きく変更されています。

これは、建設業者としても、始めに資金がなければ、工事を開始する準備すらできないからです。

⑵ 工事請負契約書における出来高払い

中間金、完成時金などの名目で、実際に受注者が行った工事内容に応じて残金を支払う方式を出来高払いと言います。

新築の家づくりにあっては、上棟金などの名目を使うこともありますが、発注者から受注者に対して、工程の進行内容に応じて、まとまった工事代金が支払われます。

3 下請負人による未払い工事代金の回収

⑴ 下請けの未払い代金に関する法規制

元請負人は、受注者である下請負人が工事を行った場合、速やかに工事代金を支払うことが求められます。

一般的に資金力の乏しい下請負人にとって、迅速な債権回収は極めて重要です。

建設業法では、下請負人の元請負人に対する債権回収の問題について、下請負人を保護する規定を置いています。

元請負人が、下請負人から出来高の引渡しを受け、発注者から当該出来高に相応する工事代金の支払いを受けたときは、発注者から支払いを受けた日から1カ月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払いをしなければ、建設業法に違反します(建設業法24条の3)。

元請負人となる建設業者が、特定建設業者(※財産的基礎及び金銭的信用のある建設業者のみ許可されます。その他の内容については、建設業法15条1号から3号を参照。)であり、下請負人が一般建設業者である場合には、支払いに関する規制も設けられています。

すなわち、下請負人が引渡しの申出を行った日から起算して50日以内で、かつ、できる限り短い期間内に下請代金を支払わなければなりません。

この場合、発注者から元請負人に代金が払われたかどうかは問いません。

⑵ 工事契約書なしの代金未払い

本来、建設工事の当事者は、請負契約に関する書面を作成しなければならないのが原則です(契約書の内容は、建設業法19条1項の1号から14号に定められています。)。

しかしながら、実際の建設業の現場では、元請負人と下請負人が、口頭で簡単な内容で合意し、請負契約書もなく下請負人が工事に入る事例は多くあります。

下請代金を回収でき、工事が回っている限りそれでよいかもしれませんが、このような運用では、万一のとき、下請負人が重大な不利益を被ります。

有事になって初めて、私たちのような法律事務所に相談に来られますが、残念ながら手を付けられない事案も多いです。

もちろん、工事請負契約書がないからといって工事代金の請求ができないわけではありません。

発注書、請書、見積書、メールなどの様々な資料を用いることで、請負契約が成立したことを証明することは可能です。

しかし、紛争となれば、途端に、合意した請負契約の内容が不明確になるため、下請負人による工事代金の回収は困難に陥ることになります。

4 消費者の家づくりにおける支払方法

⑴ 住宅ローン

注文住宅による家づくりの場合、注文者は一般の消費者であるため、個人で高額な工事代金を用意できないのが通常です。

そこで、注文者の資力不足を補うため、通常用いられるのが住宅ローンによる支払方法です。大手のハウスメーカーによる場合はもちろん、小さな工務店であっても利用できます。

また、住宅ローンでは、総工事費を着工金、中間金、完成時金の部分払いになります。

ハウスメーカーなど大きな建築会社に依頼する場合は気になりませんが、小さな工務店のような建設業者だと、完成時金が払われるか不安になり工事を止めることもあります。

発注者の支払能力については、住宅ローンの金融機関が保証するので、建設業者としても安心して工事を進めることができます。

しかも、ローン返済が開始されるのは、家の引渡しを受けた後になるため、注文者にとって安心して家づくりを進めることができます。

⑵ リフォームローン

リフォームで家づくりをする際、金融機関によってはリフォームローンという商品を用意しています。

リフォームローンは、リフォームの完成を条件に決済を行い、施工業者に一括で工事代金を支払うもので、民法の原則に従った支払方法です。

前払金がないまま工事を進めなければならない点で、資金力のあるハウスメーカーなどでなければ受注しにくいというデメリットがあります。

反面、工事が完成しない限りローンは実行されない以上、施工業者は家づくりに責任を持ちます。

その結果、リフォームローンによる支払方法は、途中で工事を投げ出されるなどして、注文者が損をする危険が少ないため、家づくりをする消費者としては、安全な方法です。

⑶ 自己資金による場合

人によっては、工事代金を全額自己資金で賄える場合もあります。ただ、総工事費を一括で支払えるからといって、工事着手時に全額を支払うのは危険です。

現実には、資金繰りの悪化により、工事ができなくなる建設業者はたくさんあります。

そのような建設業者は、工事代金を満額得てしまうと、それ以降工事完成を目指すインセンティブが働きません。

しかも、万一、工事の途中で受注者となった建設業者が倒産すれば、前払金として支払いすぎた工事代金の回収は絶望的です。

注文者としては、受注者の工事内容をよく見て、出来高に合わせて工事代金を支払っていくよう心掛ける必要があります。

5 債権回収の法的手続

建築紛争は、専門性の高さから、当事者では問題点を把握しにくく、かつ、互いに不信感が積み重なるなどして、紛争の原因が根深くなりやすい問題があります。

それゆえ、法律事務所に法律相談に来る請負代金の債権回収は、容易に解決できるものではありません。

大抵の法律事務所は、内容証明郵便通知によって、未払いの請負代金の請求をかけるところから始めますが、それだけで債権回収できる例はまれです。

相手が法律事務所から催促を受けることに慣れている場合、一切の連絡に応じないこともあります。

⑴ 仮差押え

発注者に不動産、売掛金、預貯金などの資産があれば、これを仮差押えすることができます。

しかし、資産の所在や、債務者を特定できるだけの情報がなければ、仮差押えをすることはできません。

仮差押えによって重要な資産の動きを止めることができれば、それだけで有利に交渉を進めることができるので、使いどころ次第では強力な回収方法といえます。

反面、仮差押えする資産を見誤ると効果はなく、紛争をかえって激化させることも多いので、仮差押えの利用は慎重に検討する必要があります。

⑵ 交渉

債権回収の前提として、①請負契約の成立と②工事の完成という民法の原則をきちんと履行している事案の債権回収では、交渉を有利に進めることができますが、いずれかが不十分という事案は問題です。

このように問題のある債権回収の事案においては、専門家である弁護士であっても、満額の債権回収は容易ではありません。

自身の債権の価値が額面より下がったと考えて、「相手に譲る」ことが有力な債権の回収方法となります。

債権回収をする弁護士としては、極めて不利な状況であっても、いかに「相手に譲った」と思わせるかにかかっています。

⑶ 訴訟

弁護士費用も高額で、何より入金まで時間がかかります。

施工者に資金力がなければ、資金繰りが悪化した状態で訴訟を乗り越えなければならないため、訴訟に持ち込まれるだけで不利な債権回収といえます。

とはいえ、訴訟で勝つことができれば、相手にどのような事情があろうと強制的に支払わせることができるので、強力な債権回収方法であることは間違いありません。

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