遺留分減殺請求制度の改正について

相続法の改正について

民法のうち、相続法と呼ばれる分野の法律について、約40年ぶりに大きな改正が行われました。

今回の相続法改正では、

  1. 配偶者の居住建物について定めた配偶者居住権(配偶者短期居住権)の創設
  2. 遺言書の方式に関わる自筆証書遺言に関する改正
  3. 遺言執行者の権限に関する規定の変更等

大幅な見直しが行われ、今後の相続財産及び遺産分割の調停・裁判実務に大きな影響が生じることが見込まれます。

また、相続法のうち、遺留分の分野でも、従来の「遺留分減殺請求」から、「遺留分侵害額請求」へと改められるなど、重要な改正が行われました。

併せて、経営承継円滑化法の遺留分に関する民法の特例についても改正が行われており、中小企業の経営者も、除外合意等の相続対策を行えるようになりました。

なお、改正相続法においても、法定相続分や遺留分の割合などの基本的な部分には変更はなく、短期消滅時効も維持されることになりました。

 

遺留分制度改正の目的~遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求へ~

土地等の不動産や株式に関する問題

相続法改正前の民法においては、被相続人の遺贈・贈与によって侵害を受けた、法定相続人の相続財産に対する権利(=「遺留分」)は、「遺留分減殺請求権」という権利を行使することにより確保されてきました。

遺留分減殺請求権が行使されると、減殺に必要な範囲で、遺言者による遺贈(=遺言、遺言書に基づく贈与)、もしくは贈与の効力が消滅し、遺贈・贈与の目的となった相続財産に対する所有権のうち、その一部である持分権が当然に遺留分権利者に復帰すると解されていました。

すなわち、遺留分権は、所有権の一部分である持分権の返還を求める物権的請求権と考えられていたということです。

しかし、このような解釈によると、遺留分減殺請求権の行使により、遺贈・贈与の目的となった相続財産は、受遺者(=遺言により相続財産の贈与を受けた者)又は受贈者(生前に贈与を受けた者)と遺留分権利者との共有関係となってしまいます。

仮に、遺贈・贈与の目的物が自宅等の不動産や事業用財産・株式等の相続財産であった場合、共有関係の解消や後継者との事業承継などを巡って新たな紛争を生じかねません。

また、不動産等の共有割合は、固定資産税評価額や相続税評価額、鑑定評価等を参考に算定した不動産の評価額等を基準に決められるため、その評価額によっては、分母・分子共に極めて大きい数字となり、持分権の処分に支障が出る恐れがあります。

なお、改正前民法においては、遺留分減殺請求を受けた受遺者・受贈者が、不動産等の現物の返還に代えて、金銭によって価格弁償をすることが許容されていました。

しかし、土地等の不動産においては、弁償する価格も高額なものとなり、価格弁償を行うこともできずに解決が難航するケースも多々ありました。

 

請求権の金銭債権化

今回の相続法改正では、上記問題点を解消すべく、「遺留分減殺請求権」という権利から「遺留分侵害額請求権」という権利へと改められました。

遺留分侵害額請求の行使により、遺留分侵害額に相当する「金銭」の給付を目的とする金銭債権が生じることになりますので、贈与された相続財産に対する「持分権」の返還を求めるのではなく、当初から金銭の支払いを請求することができることになりました。

これにより、上記共有関係になる場合や、価格弁償ができずに遺留分の確保が難航するといった問題点が解消されることが期待されています。

 

遺留分侵害額請求(現金)の支払期限

交渉や調停によっても遺留分の問題が解決できない場合、弁護士に依頼し、遺留分侵害額の支払いを求める裁判を提起することになります。

遺留分侵害額を裁判で請求する場合には、遺留分侵害額請求を行うことになりますが、時にその金額がかなりの高額になることがあり、請求を受けた者が速やかに支払うことが困難なことがあります。

そこで、今回の改正により、請求を受けた債務者に対し、裁判所が、金銭債務の全部又は一部の支払いにつき相当の期限を許与、すなわち支払いの期間を猶予することができるという仕組みが設けられました。

直ちには金銭を準備することができない受遺者・受贈者へ配慮した仕組みであり、債権者は、許与された期限を経過するまでは遅延損害金を請求することも出来ません。

 

改正前民法における生前贈与の取り扱い

第三者に対する生前贈与は1年

改正前民法では、遺留分の対象となる相続人以外の第三者に対してされた生前贈与については相続開始前の1年間にしたものに限り、その価額を遺留分算定の基礎財産に算入するものと規定されていました。

 

相続人に対する生前贈与は?

判例及び実務では、生前贈与が共同相続人に対してされた場合には、その時期を問わず原則としてその全てが遺留分を算定するための財産に算入されるとの運用がされていました。

すなわち、相続人以外に対する生前贈与については1年間の時期的な期限が設けられていた一方、相続人に対する生前贈与については、時期的な期限はなく、無制限に遺留分算定の基礎財産に算入されるという運用がされていたということです。

改正後の民法における生前贈与の取り扱い

第三者に対する生前贈与

今回の民法改正では、第三者に対する贈与については、相続開始前の1年間にされたものに限り、遺留分算定の基礎財産となる財産額に算入するものとの規定は維持されました。

 

相続人に対する生前贈与は10年に

改正法では、相続人に対する生前贈与については、第三者である受遺者・受贈者の法的安定性と相続人間の実質的公平という要請の調和の観点から、相続人に対する生前贈与については、相続開始前10年間にしたものに限り算入するものとされました。

 

改正により、相続人に対する生前贈与は10年かつ特別受益に

相続人に対する生前贈与については、婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与、すなわち特別受益と評価される価額に限り、遺留分算定の基礎財産に算入されるといった運用がされていたところ、今回の改正によりこれが条文に明記されました。

したがって、今回の改正では、相続人に対する生前贈与については、相続開始前の10年間にされたものであり、かつこれが特別受益と評価される価額に限り、遺留分算定の基礎財産に算入されることとなります。

遺留分制度の改正はいつから?

遺留分制度改正の施行日

遺留分制度の改正を含む民法改正の施行日は2019年7月1日とされています。

したがって、2019年7月1日以前に発生した相続については改正前の遺留分制度、それ以降に発生した相続については改正後の遺留分制度が適用されることとなります。

 

遺留分制度の改正に伴う経過措置

遺留分制度の改正については、改正に伴う経過措置は特段設けられていません。

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