立ち退き料の相場(目安)と裁判例

立ち退き料の相場(目安)と裁判例

立ち退きにかかる費用の補償がどこまでなされるのか、賃借人にとっては非常に関心の高い事項です。以下では、実際の裁判例をもとに、具体的なケースごとの立ち退き料の相場(目安)についてご説明します。

1 老朽化したビル建て替えによる事務所(オフィス)の裁判例、相場

⑴ 立ち退き料の裁判例

老朽化によるビル建て替えを理由とする立ち退きの裁判例は数多く存在しますが、立ち退き料の支払いなしに正当事由が認められた事例は極めて少ないです。

たとえ老朽化が進んでいたとしても、立ち退き料なしで立ち退きを実現するには、賃貸人の使用の必要性が入居者の使用の必要性を上回っていることが明らかであること、建物が朽廃していることが必要です。

立ち退き料の金額が問題となる典型的な事例とは、老朽化が深刻ではない建物を取り壊して、私的に土地活用をするケースが多いと思われます。

たとえば、東京地方裁判所判決(H1.7.10判時1356号16頁)では、建物の老朽化および土地の有効利用に伴う事務所及び工場の賃貸借契約の更新拒絶をした事案について、6000万円の立ち退き料の提供をもって正当事由を認めています。

また、賃貸人の使用の必要性が、入居者の使用の必要性に比べて、かなり劣っている事例においても、「地域の実情」と「高額の立退料提供」を補完要素として正当事由を肯定しています。

東京高等裁判所判決(H2.5.14高民集43巻2号82頁)によれば、周辺では建物の中高層化が進んでいること(地域の実情)、建物が老朽化していて、継続使用のためには大規模な補強工事が必要であることを理由として、2億8000万円の高額な立ち退き料の提供と引き換えに正当事由を認めています。

⑵ 立ち退き料の相場

立ち退き料は、概ね、下記の算定基準が基本となります。
【立ち退き料=(新規賃料―現行賃料)×1~3年+移転費用+新規契約金】

移転費用と新規契約金は、固定化しているため、立ち退き料増減のポイントになるのは、賃料差額及びその補償期間となります。

また、事案によっては、上記算定基準には反映できない賃借人の損害もあります。たとえば、借家権価格、居住権の補償、再開発利益の配分額、転居による慰謝料、その他の名目によるものが該当します。

これらの損害項目をプラスアルファとしてどれほど交渉において説得的に主張できるかが、立ち退き料増減のポイントといえます。

2 賃貸マンション、アパート建て替え(取り壊し)による住居の裁判例、相場

⑴ 立ち退き料の裁判例

住居の立ち退き料については、大家と入居者それぞれの建物使用の必要性、建替えの必要性を考慮して、立ち退き料を算出することが通常です。

たとえば、大阪地方裁判所判決(S59.11.12判タ546号176頁)は、賃貸人側の居住の必要性が、賃借人のそれを上回るとして、立ち退き料100万円の提供をもって正当事由が認められるとしました。

他方、賃貸人と賃借人の双方の使用の必要性がほぼ同等であった東京地方裁判所判決(H1.11.28判時1363号101頁)においては、500万円の立ち退き料の支払いによって正当事由を認めています。

建替えの必要性に関する裁判例として、東京地方裁判所判決(H3.11.26判時1443号128頁)は、建物の老朽化が著しく、倒壊の危険がある場合には、立ち退き料の提供なくして正当事由が認めています。

これに対し、老朽化しているものの、緊急性が認められない場合の建て替えであった大阪地方裁判所判決(S59.7.20判タ537号169頁)においては、150万円の立ち退き料の支払いによって、正当事由が認められるとしています。

⑵ 立ち退き料の相場

住居の立ち退きは、前記の算定基準、「立ち退き料=(新規賃料―現行賃料)×1~3年+移転費用+新規契約金)」によって立ち退き料が算定されることが多く、固定部分である新規契約金、引っ越し費用に加え、賃料差額を考慮します。

大家の正当事由が相当程度認められる事案であることを前提に、家賃差額がそれほど高額にならなければ、相場としては、100~200万円となることが通常です。

ただし、入居者の建物利用の必要性が高い場合など、大家の正当事由が劣後する場合には、迷惑料など、交渉によって更なる上乗せを見込むことが可能となり、500万円を超える立ち退き料が認められることもあります。

3 借地上の持ち家である一軒家(一戸建て)の裁判例、相場

⑴ 立ち退き料の裁判例

借地上の持ち家の立ち退き事案については、借地人において土地不動産を使用する必要性が、賃借人のそれを上回っていると認められる場合、立ち退き料の提供を必要とせず、正当事由を認めています。

たとえば、借地人が、当該持ち家を使っていないこと、借地契約を締結して数十年経過したことなどが考慮されています。

借地の賃貸人・借地人双方の必要性が同程度である場合、必要度の比較では、正当事由を決することができないことから、立ち退き料の提供によって正当事由を補完することが多いです。

借地上の持ち家の立ち退きに関する裁判例としては以下のようなものがあります。

東京地方裁判所判決(H1.7.4判時1356号100頁)は、建物朽廃により消滅する可能性のある借地権の保全等を理由とする解約について700万円の立ち退き料を認めました。

東京地方裁判所判決(H17.5.30判例秘書)は、賃貸人の借地利用の必要性が高く、借地人の借地利用の必要性が格段に高いとはいえないという事実関係を前提に、借地権価格1500万円を参考とし、700万円の立ち退き料を認めました(なお、700万円の立ち退き料は、賃貸人が申し出た金額であり、これがそのまま考慮されたようです。)。

東京地方裁判所判決(H17.7.12判例秘書)は、かつて従業員寮として利用していた借地について借地権価格の3分の1程度の金額である2850万円の立ち退き料を認めました。

⑵ 立ち退き料の相場

借地の持ち家の立ち退き事案において、算定基準は判例によって明確にされているわけではありません。

一般的には、①引っ越し費用、②借地権の補償、③賃料差額、④建物の買い取りなどが主な要素になると考えられています。

ただし、借地上の持ち家の立ち退き事案では、一概にいくら認められるかという目安を提示することは極めて困難なので、事案ごとに適正な立ち退き料を算定する必要があります。

4 店舗の立ち退き料の相場(目安)と裁判例

⑴ 立ち退き料の相場

店舗の立ち退きの場合には、居住用借家に比べて算定要素が多様であり、明確な基準を提示することが困難になっています。

裁判例上考慮される算定要素としては、①引っ越し費用、②新規契約金(前家賃の5~6か月分相当額)、③代替店舗確保に要する費用、④賃料差額2~3年分、⑤借家権価格、⑥一定期間の賃料補償、⑦営業補償額、⑧再開発利益の分配額、⑨慰謝料などがみられます。

必ずしも全ての要素が認められるわけではありませんが、居住用建物の立ち退きにはない営業損害といった項目があることから、店舗の規模によって、500~5000万円が立ち退き料の相場になることが多いでしょう。

⑵ 立ち退き料の裁判例

店舗の立ち退きに関して以下の裁判例が参考になります。

東京地方裁判所判決(H9.11.7判タ981号278頁)は、倉庫、車庫、事務所、社宅を兼ねた建物について、当該建物の借地権価格(1662万円)及び賃借人に生じる営業損害(386万円)を合計した2048万円の立ち退き料を認めました。

東京地方裁判所判決(H14.10.3判例秘書)は、借地権を1億円で譲り受けたこと、新規出店の内装工事費を要することなどを理由として、5000万円の立ち退き料を認めました。

最近の裁判例に、東京地方裁判所判決(H30.3.7判例秘書)があります。ラーメン屋の立ち退きを求めた事例で、賃貸人において当該建物を使用する必要性が高いことを前提として、賃借人の営業補償(特に得意先損失補償として700万円程度)に加え、移転費用等の補償が必要であるとして1500万円の立ち退き料を認めています。

5 美容室の立ち退き料

⑴ 立ち退き料の裁判例

東京地方裁判所判決(H17.7.20判例秘書)は、テナントである美容院の立ち退きについて、立ち退き料70万円の提供によって正当事由が認められるとしました。なお、この事案の立ち退き料が低額なのは、賃借人側に家賃の滞納があったことから、賃貸借契約が継続困難であるとして、賃貸人有利に判断したものと考えられます。

⑵ 立ち退き料の相場

一般的に、美容院は、場所によって売り上げが大きく影響するため、店舗移転を余儀なくされることによる売り上げの減少について補償する必要が高いと考えられます。

そのため、立ち退き料は、営業補償額としての側面が強く表れることから、算出した営業損害などの金額次第では、立ち退き料は高額になる可能性があります。

6 飲食店の立ち退き料

⑴ 立ち退き料の裁判例

前掲した東京地方裁判所判決(H30.3.7判例秘書)においては、ラーメン屋の立ち退きについて、得意先損失補償を加え、1500万円の立ち退き料を認めています。

東京地方裁判所判決(H17.4.27判例秘書)は、飲食店の立ち退きについて、賃貸人の建物使用の必要性が上回っていることを前提として、賃借人が賃貸物件に改装費用などを支出していなかったこと、近くに代替物件が多数存在することなどを理由として、180万円の立ち退き料の支払いによって正当事由が認められるとしています。

⑵ 立ち退き料の相場

営業損害があったり、移転による改装費用が生じる場合には、高額な立ち退き料が認められやすい傾向があります。
ただ、飲食店については、近隣の代替物件が比較的多いという実情があります。また、居ぬき物件を利用するなどして、改装費用を節約することも可能です。

賃借人において、移転にかかる諸費用のうち、負担する必要がないものについては、立ち退き料として考慮されないこともあるので注意が必要です。

7 クリニック、医療機関の立ち退き料

⑴ 立ち退き料の裁判例

東京地方裁判所判決(H1.12.4判例秘書)は、東京駅近くの大規模再開発地区に所在していた歯科医院の立ち退き事案です。

賃貸人の再開発の必要性と、他の賃借人の退去状況、賃借人の移転先となる代替物件があることなどを理由としてあげつつ、当該物件の利便性が高いこと、賃借人に年間3500万円もの収入があることなど、賃借人の使用の必要性を踏まえ、2億円の立ち退き料を認めています。

⑵ 立ち退き料の相場

クリニック・医療機関については、医療機器の移転に高額な費用を要するほか、移転先の内装工事にも高額な費用を要します。また、診療報酬も大きいことから、休業損害も高額となる可能性が高いです。

クリニック・医療機関に特別に認められる費目があるわけではありませんが、医療機器や、精密機器などがあり、各費目の金額が他の物件に比べて高額であることから、立ち退き料の相場は高くなる傾向にあります。

8 再開発の立ち退き料

⑴ 立ち退き料の裁判例

東京高等裁判所判決(H2.5.14判タ729号158頁)は、再開発の立ち退き事案について、賃貸人において、複数の物件を保有しているなど、問題となっている土地の明け渡しを受けて再開発しなければ生活が成り立たないという事情はないことを前提に、賃貸人の使用の必要性は、賃借人のそれよりも劣後しているとしました。

しかしながら、周辺建物の中高層化が進んでいること、建物が老朽化していることなどを理由として、2億8000万円という高額の立ち退き料の提供と引き換えに正当事由を認めました。

このように、再開発の裁判例においては、賃貸人の使用の必要性を、賃借人と比して、かなり低く捉えていると思われますが、それを補っても余りある立ち退き料を支払わせることによって、バランスを取り、正当事由を判断しているようです。

⑵ 立ち退き料の相場

再開発による立ち退き事案の場合、賃貸人の使用の必要性が、よほど賃借人のそれを上回っていると言えない限り、高額な立ち退き料を認めている事案が多く、立ち退き料の相場は高いケースであるといえます。

これは、賃借人が被る不利益のうち、通常は余り認定されない損害項目についても立ち退き料の算定根拠として勘案されているからと考えられます。

たとえば、営業用物件に関する立ち退きの東京地方裁判所判決(H1.7.10判時1356号106頁)によれば、移転費用や、休業補償はもちろん、顧客減少による営業の損失までもカバーし、6000万円の立ち退き料を認めています。

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