弁護士法人 春田法律事務所

異教徒からの埋蔵要求

異教徒からの埋蔵要求

「正当な理由」なく埋蔵は拒めない

墓地埋葬法第13条は、「墓地、納骨堂・・・の管理者は・・・埋蔵、収蔵・・・の求めを受けたときは、正当の理由がなければこれを拒んではならない。」と規定しています。

そして、正当の理由なく拒んだ者は「千円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する」(同法第21条1号)と規定されており、刑事罰を受けることになってしまします。

なぜ焼骨の埋蔵等を拒んではならないかというと、墓地管理者が焼骨の埋蔵等をみだりに拒否することを許せば、埋蔵等の施行が困難になり、焼骨について遺族その他の関係者の感情を著しく損なうことになるからです。

墓地の収容力として新たな埋蔵等を行う余地がない場合や、依頼者が墓地の正当な管理に支障を及ぼすおそれがある場合などには「正当の理由」があると解されています(神戸地判H5.7.19判タ848号296参照)。

異教徒からの埋蔵依頼は拒めるか

徳川幕府の時代に国民を寺院の檀家として登録する檀家制度がつくられ、寺院の檀徒となることによって初めて寺院墓地に墳墓を所有することができました。

このような歴史的沿革からは、異宗の者からの埋蔵依頼を拒むことができるという慣行があるといえます。

他方、改宗離檀した者が先祖代々の墳墓に埋蔵したいと思う宗教的感情にも配慮する必要があります。

そこで、寺院が改宗離檀した異教徒からの埋蔵依頼を拒むことに、「正当な理由」が認められるかが問題となります。

なお、以下の議論は、既に寺院墓地に墳墓を有する墓地使用者を前提としています。新たに寺院墓地の使用申込みをしてきた異教徒の埋蔵を拒否することには「正当な理由」は認められます。

行政の見解

この点について異教徒からの埋蔵を拒否することは「正当な理由」に該当しうるという厚生省の通達がかつてありました。

しかし、その後、内閣法制局は、依頼者が他の宗教団体の信者であることのみを理由として拒否することは「正当の理由」としては認められないという見解を示しました(前記の通達は廃止されました。)。

ただし、墓地埋葬法第13条は、埋蔵行為自体について依頼者の求めを一般に拒んではならない旨を規定したにとどまり、埋蔵の施行に関する典礼方式についてまで依頼者の一方的な要求に応ずるべき旨を定めたものではないと述べています(昭和35.2.15法制局一発第1号)。

かかる行政の見解によれば、依頼者が自身の典礼方式は実施しない(無典礼)場合には埋蔵は拒絶できないことになりそうです。また、寺院がその宗派の典礼を施行しようとしたときに依頼者がこれを拒絶できるのかは明らかではありません。

裁判所の見解

改宗離檀した者からの埋蔵依頼についての裁判例があります(津地裁昭和38.6.21判タ146号174頁)。

同裁判例は、墓地の固定性・永久性という性質から墓地使用権にも永久性が認められるので、異教徒というだけで埋蔵を拒否できないのは墓地使用権設定契約の内在的制約としています。

もっとも、自派の典礼施行を伴うことが寺院墓地と共同墓地との本質的な差異であって、典礼施行を必須的に伴うことこそ寺院墓地のそもそもの開設以来今日まで永年に亘って行われた慣行であることから、

ある宗派の寺院墓地管理者に埋蔵依頼をした以上、その者は墓地管理者が自派の典礼を行うについては、依頼者は当然これを受忍すべきと述べています。

そして、以下のようにまとめています。

  1. 異宗教であることを理由とした埋蔵拒否は「正当の理由」には該当しない。
  2. 埋蔵に際して寺院墓地管理者は自派の典礼を施行する権利を有する。
  3. 異宗の典礼施行を条件とする依頼、無典礼で埋蔵を行うことを条件とする依頼(異宗の典礼は施行しないが、当該寺院の典礼の施行も容認しない趣旨の依頼)を拒否することは「正当の理由」にあたる。

なお、最高裁も「寺院が檀信徒のために経営するいわゆる寺院墓地においては、寺院は、その宗派に応じた典礼の方式を決定し、決定された典礼を施行する自由を有する。」として寺院の典礼施行権を認めており、寺院は墓地使用権設定契約にあたり当該寺院の典礼方式に従って墓石を設置する旨の合意をすることができ、その合意に違反する墓石の設置を拒否することができると判断しています(最高裁H14.1.22判タ1084号139頁)。

同じ宗派の者が寺院の典礼を拒否した場合

改宗離檀したわけではなく、寺院の檀信徒である者が、遺骨を埋蔵するにあたり何らかの事情で当該寺院の典礼を拒否した場合、寺院が遺骨の埋蔵を拒絶することに「正当な理由」はあるのでしょうか。

このような場合は、異教徒の埋蔵とは異なり、埋蔵拒否を正当化できるほどに寺院の宗教感情が害されるとはいえません。

そのため、墓地使用規則に埋蔵の際に当該寺院の典礼を受けることが明記されていない限りは、遺骨の埋蔵を拒絶する「正当な理由」は認められない可能性があります(東京高判H8.10.30判時1586号76頁参照)。

墓地使用規則の整備を

  1. 他宗派の典礼による埋蔵を拒絶できるか
  2. 無典礼による埋蔵を拒絶できるか(寺院の典礼方式に従うことを求めうるか)
  3. 墓地使用権を承継した者に寺院の典礼による埋蔵を求めうるか

上記1については判例でも寺院は他宗派の典礼を拒絶できることが明らかになっています。

他方、上記2、3については、判例の立場は確立されていません。

そのため、墓地使用規則においては、寺院の典礼方式に従わなければならないこと、墓地の承継者も寺院の典礼方式に従わなければならいことを明記しておくべきです。

異教徒に埋蔵を強行された場合

改宗離檀した者が、寺院の典礼を受けずに埋蔵を強行した場合、寺院は、墓地使用契約を解除して、墓地の明け渡しを請求することができるのでしょうか。

この点について、裁判例は、永代使用権は代々承継される永久性のあるものであり、改宗離檀したものが自派の典礼を受けずに埋蔵したことだけをもって永代使用権の消滅を主張し、墳墓の収去を求めることはできず、改宗離檀して当該寺院との関係を断ち切ろうとする意思が明確になったときに初めて永代使用権の消滅を主張できると判断しています(仙台高判H7.11.27判タ905号183頁)。

改宗離檀したというだけでは埋蔵拒否に「正当な理由」は認められないという判断ですから、改宗離檀したというだけで墓地使用契約を有効に解除することはできないでしょう。このことは、墓地使用規則に、檀信徒でなくなったことを墓地使用契約の解除事由として定めていたとしても同様です。

そのため、寺院としては、契約解除という事後対応ではなく、他宗派の典礼による埋蔵がされそうな場合には、それを阻止する仮処分の申し立てを検討するべきでしょう。

では、寺院の典礼施行権を無視して、埋蔵を強行した行為には何ら問題はないのでしょうか。

前記のとおり、改宗離檀したというだけでは埋蔵は妨げられません。そして、その固定的・永続的な性質ゆえに墓地使用権は物権類似の権利と考えられていることから、裁判所は、埋蔵を妨害する寺院に対する妨害排除請求を墓地使用者に認める可能性があります(東京地判H2.7.18判タ756.217頁)。

しかし、改宗離檀した者がこのような司法手続を経ずに埋蔵を強行した場合には、その態様によっては、寺院の典礼権を侵害し、その名誉・信用を損なうものとして損害賠償義務を負う場合があります(前橋地判H11.12.22は50万円を認容。)。

また、埋蔵後に他宗派の典礼を行う場合には、寺院の典礼権を侵害する違法行為と評価できますので、有効に墓地使用契約を解除できる可能性があります。

墓地の承継者が異教徒の場合

墓地使用者が亡くなり、祭祀承継者となった親族が異教徒だった場合、寺院はその者の墓地承継を拒絶できるのでしょうか。

異なる宗派であることを理由とする埋蔵拒否が「正当な理由」に該当しないという前記の判断を踏まえますと、このような場合に承継を拒否することはできないということになるでしょう。もっとも、寺院には典礼権がありますので、そのお墓の祭祀供養は寺院の典礼に従う必要があります。

両者の信教の自由を尊重した現実的な対応としては、焼骨を分骨し、当該承継者には他の墓地に移ってもらうことになるでしょう。この場合、寺院にあるお墓については、当該承継者が引き続き墓地使用者となるか、他の親族・縁故者が墓地使用者となる、あるいは将来の墓じまいを前提に寺院が祭祀承継者となることも考えられます。

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