介護事故が起きた場合の対応

介護事故が起きた場合の対応

1 介護事故発生後の初期対応

介護事故が発生した場合に、適切な対応が可能かどうかは、日ごろからの取組みによるところが大きいといえます。

日常業務でのヒヤリハット事例を集め、改善策を検討し、リスクマネジメントを実践することは、介護事故の予防だけでなく、万が一、介護事故が発生してしまった場合の対応にも役立ちます。

また、普段から正確かつ丁寧な記録を残しておくことも重要です。

では、介護事故が発生した場合の初期対応は、どのようにすればよいでしょうか。

大きく、以下の4点が重要であると考えます。
①応急手当・安全の確保、病院への連絡
②家族への連絡
③事故状況の記録
④保険会社(損保会社)への連絡

まず、①は、事故に遭ったサービス利用者(入居者、入所者)の被害をできる限り小さくするために、必要不可欠であることは言うまでもありません。

病院への連絡の際も、利用者(入居者、入所者)の健康状態や認知症の程度、服薬の状況などを引き継ぐ必要があります。

また、本人が「大丈夫」などと言う場合でも、認知症等の影響で、適切に状況が伝えられていないおそれもありますので、観察を継続し、病院への搬送を決断すべき場合も少なくないと考えます。

利用者とのコミュニケーションがうまくいかず、病院への搬送ができなかったり、遅れたりした場合には、「高齢者虐待」等の介護事故以外のトラブルに発展するおそれもあるので、注意が必要です。

②については、難しいこととは思いますが、冷静かつ正確に状況を伝えるべきです。

ご家族の不安を煽るべきではないですが、意図的にではなにせよ、事実を矮小化して伝えることが、事後的にトラブルにつながるおそれもあるので、注意が必要です。

③の事故状況の記録は、事業者側の損害賠償責任の有無の判断や保険会社から保険金が支払われるか否かの判断、家族への報告、事案の解明、今後の再発防止に極めて有用です。

そして、人間の記憶はどんどんと変容、消失していくものですから、可能な限り、事故発生の当日に、事故状況の記録をしておくことが望ましいといえます。

なお、事故が起きた際の職員の姿勢や、被害者となった利用者の体勢、動きなどを文章で説明することは難しく、絵を描いて説明をしても、実際の事故状況が細部まで伝わるかどうかは定かではありません。

そのため、当事者となった職員と、別の職員とで、事故状況を再現し、その様子を写真や動画に撮影することが有用です(ただし、再現が正確でなければ、逆効果となってしまうおそれもあるので、ご留意ください)。

事業者が事業者賠償責任保険などの賠償責任保険に加入している場合には、④のとおり、保険者たる保険会社に対して、早期に連絡をしておくことが望ましいです。

保険会社の調査には時間がかかることが多く、これにより、利用者側とのトラブルにつながるおそれがあるため、それを見越した対応です。

2 介護事故後の家族への対応・報告

⑴家族への謝罪・お詫び

介護事故が発生した場合、事業者側は、損害賠償請求を受けるのではないか、損害賠償責任を負うのではないか、裁判になるのではないか、事業所・施設の評判が悪くなるのではないか等、不安を抱えてしまいます。

そして、利用者やそのご家族に謝罪をすれば、事業者側が責任を認めたことにつながるのでは、とお考えになる方もいらっしゃるでしょう。

しかし、道義的な責任を認める謝罪することと、法的な責任を認めることとは、別の問題です。

介護事故によって重大な結果が生じているのであれば、原則として、まずはその結果に対して遺憾の意を示したうえで、謝罪をし、利用者やご家族の気持ちに寄り添うことが誠意のある対応ではないかと思います(ただし、上記のとおり、法的責任を認めたと誤解されないような謝罪が不可欠でしょう)。

⑵お見舞金

お見舞金は、その名のとおり、利用者やそのご家族への「お見舞い」のため支払われるもので(死亡事故の場合には、「香典」として支払われることもあるでしょう)、事故の精神的損害による慰謝料などとは異なり、事故による損害賠償責任の有無と関連するものではありません。

そのため、事故が起きた場合に必ず支払わなければならないものではありませんが、個別具体的な事情に応じて、施設側の気持ち・誠意として支払うこともあり得ます。

このように、見舞金は賠償金とは別であり、また、決まった金額があるわけではないことから、利用者が過失によってお亡くなりになった事案であれば、おおよその目安として、5万円から10万円程度、骨折などのお怪我をした事案であれば、数万円程度をお渡しすればよいと考えます。

⑶対応についてのその他の留意点

介護事故は、事故に関与した職員「個人」と利用者・利用者家族だけの問題ではありません。事業者・施設が当事者意識を持って、「組織」として対応することが望ましいです。

また、利用者・利用者家族への対応窓口を一本化しておくことも重要です。

窓口がいくつもあれば、連絡ミスが生じる可能性もあり、そのことが事態をより悪化させたり、利用者・利用者家族からの信頼を損なうおそれもあります。

3 介護事故の行政報告(報告書の作成等

介護保険事業者は、介護保険事業所において、事故が発生(ただし、報告を要する事故が規定されています)した場合には、市町村等に報告等を行うことが厚生労働省令及び各市町村の要綱等で定められています。

たとえば、大阪市では、報告すべき事故の内容を、サービス提供中における死亡事故及び負傷等と、その他サービス提供に関連して発生したと認められる事故で報告が必要と認められるものと定めています。

そして、具体例として、転倒などのいわゆる介護事故だけでなく、一定の条件を満たす感染症・食中毒や、職員の法令違反などもあげられています。

明記はされていませんが、サービス提供中に、利用者同士のトラブルで負傷した場合も、報告の対象となるでしょう。

また、介護保険法上の介護保険事業所については市町村への報告が必要とされていますが、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅からの事故報告は、福祉局高齢者施策部介護保険課へとされています。

以上は、大阪市の例ですが、事故報告の必要性、報告先の窓口の名称(高齢者福祉課、事業者指導係、高齢者支援係など様々です。)、報告の内容や報告書の様式などは、市町村により異なります。

利用者の保険者が他市町村の場合は、その保険者の定めるところによるとの規定も見られます。

このように、行政への報告は、やや複雑といえますので、事業者・施設側としては、迅速な対応のためにも、関係する市町村の定めを事前に確認しておくことが重要です。

なお、報告書の様式には、事故発生状況を記載する欄が設けられていますが、その記載欄は比較的小さい場合が多いようです。

もっとも、事業所・施設としては、その記載欄の大きさに左右されることなく、上記1で述べたように、必要十分な事故状況の記録をしておくべきと考えます。

4 介護事故でしてはいけない対応

⑴介護事故を報告しない

上記のとおり、報告を要する介護事故が発生した場合には、市町村等への報告が要求されています。

意図的に報告をしないという選択をとるべきでないことは当然ですが、誤って報告ができなかったという事態を避けるためにも、報告を要する介護事故か否か、正確な判断が不可欠です。

⑵介護事故を隠す、隠蔽する、嘘をつく

事業者側が介護事故に対する責任を逃れるため、報告書に虚偽の記載をしたり、意図的に事故を隠蔽したことが発覚した場合には、利用者や利用者家族からの不信感が大きくなることは当然であり、紛争が拡大することは避けられないでしょう。

利用者側が弁護士を介入させ、証拠保全などの措置をとった場合に、利用者側への説明と行政への報告とが異なっていたことが発覚する場合も想定されます。

訴訟になった場合には、隠蔽等が不利に評価される可能性も極めて高いといえます。

また、市町村等への報告に虚偽があった場合には、場合によっては、当該事業者に対して、指定取消処分が課される可能性も否定はできません。

介護事故が起きた場合には、利用者及びその家族に誠意をもって対応すべきであり、いかなる理由があっても隠蔽や虚偽報告などを行ってはなりません。

5 職員への対応~介護事故で退職を避けるために

介護事故に直面した場合、その当事者となった職員の精神的ショックは計り知れないものと推察します。

トラウマのような症状や精神障害等により、介護の現場に戻ることが困難になる方もいらっしゃるでしょう。

不幸にも、介護事故の当事者となってしまった職員は、自責の念に苛まれているはずです。

そのため、事業者側として、何よりも心のケアをすることが重要であり、決して、「あなたのせいだ」等という姿勢で追い打ちをかけることは避けるべきではないでしょう。

その職員に過失があったとしても、安易にその職員を責めるべきではなく、組織の問題、設備の問題、人員配置の問題など、介護事故が発生した原因を究明し、研修や教育を通じて再発を防止する姿勢が重要です。

もちろん、職員による故意の犯罪行為のような場合には、この限りではなく、厳正な対応が必要となるでしょう。

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