2021年02月03日
1 はじめに
お寺が破産したというニュースに触れることが時々あります。また、税金を滞納して、墓地が差し押さえられ、公売にかけられたというニュースもありました。
お寺がこのような経済的苦境に陥るのは、住職が投資に失敗したケースや大規模な納骨堂、墓地を造成したものの販売不振に終わったというケースが多いようです。
墓地には多くのお墓があります。このようにお寺が経営難になり、破産してしまった場合、お墓はどうなってしまうのでしょうか。
2 墓地を再開発する?
破産したお寺の墓地を取得した債権者や第三者が、墓地を更地にして開発することを考えるかもしれません。そのようなことはできるのでしょうか。
まず、墓地は墓地以外に土地利用することができませんので、墓地廃止許可が必要となります。そして、墓地廃止許可を得るためには、既存のお墓を全て改葬する必要があります(S44.7.7環衛第9093号、S45.2.20環衛第25号)。
したがって、各墓地使用者を説得し、全てのお墓を他の墓地に移すことができれば、墓地廃止許可を得て、土地を開発することが可能となります。
なお、全ての墓地使用者を説得できなくても、残ったお墓の数がさほど多くない場合には、墓地の一角にお墓を改葬してもらい、他の更地の場所について分筆をして、開発することは考えられます。
3 墓地使用権を対抗できないか?
多数ある墓所区画の全員の同意を得ることは至難の業でしょう。そこで、改葬に応じない墓地使用者に対して改葬を強制することはできるのでしょうか。
墓地使用者と墓地使用契約を締結した宗教法人は消滅しています。そのため、墓地使用者が墓地区画に墳墓等を設置する契約上の権利、墓地使用権も消滅したことになりますから、土地を取得した者に対して墓地使用権を対抗することはできないことになります。
確かに、墓地使用権は単なる契約上の債権ではなく、永久性、固定性のある物権類似の権利だという考えもあります。そして、お墓が建立されていることによって、墓地使用権の存在は第三者に公示されているといえそうです。
しかし、このような事実上の公示方法によって、あくまで「物権類似の権利」である墓地使用権を第三者に対抗することはできないという結論になるでしょう。
4 お墓を強制的に撤去できるか?
以上を踏まえると、土地を取得した第三者は、訴訟を起こし、墓地使用者に対して墓所区間の明け渡しを求めれば、それが認められることになりそうです。
しかし、お墓は単なる記念碑とは異なり、先祖の焼骨が納められているもので、永久性、固定性のあるものです。そのため、このような訴訟を起こした場合、裁判所は、何らかの法的構成によって明け渡しを認めない結論を出す可能性が高いと考えられます。
だからといって訴訟をせずに、重機を入れてお墓を撤去することは、墳墓発掘罪などの刑法(第188条ないし第191条)に触れる犯罪となりますので、このような強硬手段をとることもできません。
墓地使用権を墓地取得者に対抗できないとはいえ、墓所区画の明け渡しを強制されることにはならないでしょう。
5 土地の取得者はどうする?
以上のとおり、土地の取得者は、強制的にお墓を撤去することができません。そうすると、土地を取得した者は墓地経営を引き継ぐか、自ら経営しない場合には他の宗教法人や公益法人に土地を譲渡することになります。
他の宗教法人や公益法人が経営を引き継ぐ場合には問題はなさそうですが、土地取得者が墓地経営をする場合には、墓地使用者にとって問題が起こり得ます。
土地取得者が墓地経営を引き継ぐ場合、消滅した宗教法人が締結していた契約は終了していますので、改めて、各墓地使用者と墓地使用契約を締結する必要があります。この再契約の際に、管理料の値上げなど墓地使用者の負担を重くされてしまう可能性がありますし、墓地管理を十分にせず、墓地がどんどん荒れていく可能性もあります。
このような新しい墓地経営の対応に嫌気がさして、残った墓地使用者も他の墓地に自ら改葬していくかもしれません。
この記事を書いたのは
- 代表弁護士春田 藤麿
- 愛知県弁護士会 所属
- 経歴
- 慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設
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