立退料と正当事由

立退料と正当事由

2020年03月27日

1 立退料とは

賃貸物件から退去を求められた場合、立退料が支払われることがあるという話を聞いたことがあると思います。しかしながら、立退料は、元々、借地借家法に定められた概念ではありませんでした。現在の借地借家法となる前の旧法時代の裁判例において、貸主が明渡しを求めるための正当事由がやや不十分という場合に、正当事由を補完する要素として、立退料が用いられ始めたことで、立退料は、一般的な法律概念として確立しました。
もっとも、立退料は、借主の法的請求権ではないため、貸主が立退料を支払う意思を明示しない限り、立退料が問題となることはありません。

2 正当事由と立退料の関係

正当事由の判断は、貸主側の事情(正当事由にプラスに働く考慮要素)と借主側の事情(正当事由にマイナスに働く考慮要素)の比較によって行われます。しかし、借主にとっては、貸主側の事情によって既存の生活基盤あるいは経営基盤が失われるのですから、貸主側にとって特に必要性が高いといえるだけの事情がなければ、正当事由は認められません。
そのような事情がない場合、基本的には正当事由がないという判断になるため、明渡請求は棄却されます。ただ、一定程度の必要性があり、かつ、貸主が立退料を支払う意思を明示した場合、立退料の支払いを条件に賃貸物件を明け渡すよう求める引換給付判決が出されます。
逆に、正当事由を具備していると認められる事案であれば、無条件で賃貸物件の明渡しを求めることも可能ですが、実際には、明渡しの判決が出るまで長期間の裁判を要しますし、判決が出たにもかかわらず、任意に明渡しを拒む場合には強制執行をしなければならないので、かなりの労力を要します。そのため、正当事由を具備していると認められる事案であっても、早期の明渡しを実現するため、実務上は貸主から一定の立退料の支払いを申し出ることが多いと思われます。

3 立退料の判例

 立退料の算定方法は、正当事由がどの程度認められるのかという事情に加え、当該賃貸物件の利用方法など、個別具体的な事案によって様々です。そのため、全ての事案を網羅するような一律のルールは存在しないのですが、立退料に関する裁判例から、ある程度、実務の流れをつかむことはできます。

⑴ 借主側の事情

まず、裁判例では、一定期間の経過によって賃貸物件を明け渡す合意をしていた場合、正当事由の積極的要素として考慮する傾向にあります(なお、借地借家法では、一時使用目的が認められる場合、正当事由の規定を適用していませんが(借地借家法25条、40条)、ここでは、かかる一時使用目的については無視してください。)。
 このような事案で立退料の支払いを命じた裁判例では、退去費用(不動産会社に支払う仲介手数料、礼金、引越し代など)に加え、数年分の賃料相当額を立退料としていました。

⑵ 貸主側の事情

 また、裁判例で現れたその他の特別な事情としては、貸主の家族が賃貸物件に居住する具体的な予定ができた場合、建物の老朽化のため建替えが必須といえる場合などがあります。この場合、貸主の自己使用の必要性が高いと認められるため、正当事由が認められやすい傾向にあります。
 このように、貸主の自己使用の必要性が高く認められる事案では、そもそも立退料が発生しないか、かなり低額な立退料(前述した退去費用程度)によって正当事由が認められる可能性が高いでしょう。
他方、裁判例で認められる特別な事情がない場合、基本的には、正当事由が不十分であるため、そもそも明渡請求が認められないか、明渡請求を認容する条件としてかなり高額な立退料の支払いを求められる可能性が高いと思われます(たとえば、前述した退去費用に加え、借地権価額相当額を加えた立退料の支払いを求めた裁判例もあります。)。

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