不倫の慰謝料請求は調停と裁判どちらを利用すべき?弁護士が解説
最終更新日: 2024年01月23日
不倫相手に慰謝料を請求するには裁判をしないといけないの?
調停と裁判、どちらを利用して慰謝料を請求すべきなの?
調停を成立させるときの注意点は何かある?
不倫相手に慰謝料を請求する場合、最初は話し合いをしますが、話し合いで解決に至らないときには法的手続をとります。この法的手続に裁判以外にも調停がありますが、いずれを選択すべきなのかわからない方も多くおられるでしょう。
そこで今回は不倫問題を数百件解決してきた専門弁護士が裁判と調停、いずれを利用すべきかについて解説します。
不倫の慰謝料調停とは?
調停とは、裁判のように勝訴、敗訴と白黒をはっきりさせる手続きとは異なり、話し合いをして合意、和解をすることを目指す手続きです。
裁判は原告と被告がお互いに主張と証拠を提出して、裁判所がどちらの言い分が正しいのか判断します。
一方、調停は、お互いに主張し合い、証拠も提出することがありますが、調停員が間に入って、双方に譲歩を引き出し、お互いが納得する形で和解を目指し、和解ができないときには調停は不成立で終わります。
離婚調停については聞いたことがある方も多いと思います。離婚調停は家事調停といって家庭裁判所で開かれるものです。一方、不倫の慰謝料の調停は家事調停ではなく一般調停、民事調停と言われるもので、簡易裁判所で開かれます。
調停は、双方の当事者の間に、一般市民から選ばれた調停委員が入って双方の調整を行います。前面には出てきませんが、調停員は担当の裁判官と協議しながら対応します。
調停委員は、原則として40歳以上70歳未満の人で、弁護士、医師、大学教授、建築士などの専門家の場合もありますが、専門家ではなく地域社会で幅広く活動してきた人などから選ばれることもあります。
不倫の慰謝料請求で調停を利用するメリットとデメリット
調停手続は裁判とは異なることはお分かりいただけたかと思います。このような調停を利用することにはメリットだけでなく、デメリットもありますので、それぞれ確認しておきましょう。
メリット
まずは不倫の慰謝料請求で調停を利用するメリットを5つご紹介します。
公平な第三者が仲裁してくれる
不倫相手と直接交渉をしていますと、関係のない話で揉めてしまったり、お互いの考える妥当な慰謝料の金額に開きがあったりして、いつまで経っても話がまとまらないことがあります。
公平な第三者である調停委員が裁判官の助言を得ながら双方の仲裁をしてくれますので、建設的な話し合いがしやすくなります。
相手と直接やりとりしなくて済む
調停では交互に部屋に入って調停委員と話をしますので、不倫相手と直接やりとりをする必要がありません。待合室も離れた別の部屋になります。
このように不倫相手と直接やりとりしなくて済むことから、余計なストレスが軽減されます。
調停が成立すれば調停調書ができる
調停委員が双方の主張を仲裁し、お互いが納得できる解決案に合意した場合には、裁判所が調停調書を作成します。
この調停調書の効力は裁判の判決と同様に強力で、例えば、不倫相手が慰謝料の支払いを怠ったときは、直ちに不倫相手の給与や財産を差し押さえることも可能となります。
当事者間で和解書を作成した場合、不倫相手が慰謝料の支払いを怠ったときは、その和解書に基づく支払いを求めて裁判が必要になります。調停調書が作成された場合にはこのような裁判が必要ない点で大きなメリットとなります。
弁護士費用がかからない
3つ目のメリットは、弁護士費用がかからないことです。裁判の場合には白黒をつける手続きのため、訴訟の戦略など専門的知識、経験が重要となります。
一方、調停の場合にはあくまで話し合いでの解決を目指す手続きのため、弁護士はつけず自分で対応することも可能です。
証拠がなくても解決の可能性
調停は証拠から認められる事実をもとに判決を出す裁判とは異なります。証拠がなくとも、調停委員の仲裁のもと、不倫相手が慰謝料を払ってもいいと考え、その金額について合意に達すれば慰謝料の支払いを受けることができます。
デメリット
このように色々なメリットのある調停ですが、デメリットがあるからこそ不倫の慰謝料を請求したい方が皆さん調停をするわけではないのです。ここではそのようなデメリットについて4つご説明します。
相手が出てこない可能性
まず、不倫の慰謝料を請求する調停を申し立てたものの、不倫相手が調停に出てこない可能性がある点が挙げられます。裁判の場合は裁判に出なければ、訴えた原告の主張が全て認められて敗訴してしまいます。
一方、調停の場合、調停に出頭するかどうかは不倫相手の自由で、調停に出頭しなかった場合には調停は不成立又は取り下げという形で終わるだけです。そのため、不倫相手が調停に出てこない可能性があるのです。
不成立なら時間の無駄になる
調停は概ね一月に一回のペースで開かれ、一回あたり2時間から3時間ほど時間がかかります。
そのため、例えば、調停期日が3回開かれて、結局合意に至らなかったときは、約3か月、合計10時間ほどの時間を無駄にすることになります。
和解の圧力を受けることも
調停委員は公平な第三者で、双方の主張を尊重しながら合意を目指すのが建前です。
しかし、トレーニングを受けた裁判官とは異なり、人の好き嫌いが露骨に出る調停委員も実際にはいます。また、和解させることに熱心で、和解をするよう圧力を受けることもあります。このような圧力に屈して望んでいない内容の和解が成立してしまうことがあります。
証拠がないことばれる可能性
調停では不倫相手と直接話し合うのではなく、交互に調停委員のいる部屋に入って調停委員と話しをします。調停委員からは不倫についてどのような証拠があるのか聞かれますので、もし証拠がない、不十分な場合にはそれを調停委員は把握します。
和解を目指すのであれば、証拠がない、不十分であることは本来相手に教えるべきではないのですが、トレーニングを受けた裁判官とは調停委員異なりますので、そのことを相手に知らせる、あるいは悟られる言動をとってしまうことがあるのです。
そのようにして証拠がない、不十分であることを不倫相手に知られてしまえば、当然、不倫相手は慰謝料を支払わずに済むと思って、それ以降、調停には出てこなくなるかもしれません。
不倫の慰謝料請求は調停がいい?裁判がいい?
以上の調停のメリットとデメリットを踏まえ、結局、不倫の慰謝料請求をする際には調停と裁判といずれを選択すれば良いのでしょうか。
結論としては、早期解決とできる限り高い慰謝料を求めるのであれば裁判を選択し、証拠がない、不十分な場合は調停を選択することが良いでしょう。
調停期日を重ねたものの結局合意に達しなければ時間の無駄となりますし、調停は双方に譲歩を求めますので、不倫の慰謝料を請求する方も慰謝料金額について譲歩することになります。
ですから、早期解決を求め、またできる限り高い慰謝料を求めるのであれば調停を選択するべきではありません。
ほとんどの方はいずれか、または両方を求めるはずです。そのため、不倫の慰謝料を請求したい方が調停を選択すべき場合は、裁判に負けてしまう場合、つまり証拠がない、または不十分な場合に限られます。
不倫の慰謝料調停の申し立て方
不倫の慰謝料を請求する調停は、不倫相手の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てることになります。申立人は東京都に住んでおり、不倫相手は大阪府に住んでいる場合には大阪の簡易裁判所に調停を申し立てなければなりません。
そのため、不倫相手の住所地によっては、調停を選択することが困難になります。一方、裁判の場合には自身の住所地を管轄する裁判所に提訴できます。
調停の申立書は簡単ですから、裁判所のホームページからひな形をダウンロードして作成することもできますし、簡易裁判所の窓口で教えてもらうこともできます。
費用は請求金額によりますが、不倫の慰謝料請求の場合、概ね1万円前後になるでしょう。
不倫の慰謝料調停の調停条項
最後に不倫の慰謝料調停が成立する場合の調停条項について、どのような内容にすべきかご説明します。
慰謝料の支払い方法など
まず慰謝料の支払い方法についてですが、一括支払いであればさほど問題はありません。ただし、約束したにもかかわらず期限までに支払ってこない場合もありますので、支払期限に遅れた場合には年14.6%の遅延損害金が発生することは定めるよう求めましょう。
一方、分割払いになる場合には、最初は支払いがあったのに途中から支払いが滞ってしまう事態を避けるために調停条項に工夫をするべきです。
支払いが滞った場合にはそれ以降、分割支払いではなく残金を一括で請求できるようにします。もちろん、遅延損害金も定めます。
また、慰謝料の金額を多少高めに設定し、一定金額を滞りなく支払えば、残金の支払いは免除するという定め方をします。例えば、200万円を支払ってもらうために、慰謝料は250万円と設定しておき、200万円を滞りなく支払えば残金50万円の支払いは免除すると定めます。
このように定めることで、不倫相手は支払いが滞れば余計に慰謝料を支払う羽目になりますから、滞りなく支払おうという動機付けになります。
接触禁止と他言禁止
不倫相手が配偶者に対して今後連絡、接触をして来ないことを約束させましょう。また、不倫関係や慰謝料請求の件について他人に言いふらされないよう他言禁止も約束させましょう。
ただ約束させただけではちゃんと守るかわかりませんので、違反したときの違約金も設定しておくべきです。
まとめ
以上、不倫の慰謝料請求に関する調停について解説しました。
証拠がない、不十分な場合には調停を選択しますが、そうでない場合には裁判を選択すべきです。裁判をする場合には、主張内容、証拠の出し方について専門的な知識、経験を要しますので、裁判をするときは不倫問題を専門とする弁護士にご相談ください。