いじめ被害により生じた精神的苦痛について慰謝料を請求できるのか?弁護士が徹底解説します。
最終更新日: 2023年02月09日
- 「いじめが原因で子どもが不登校になってしまった。加害者に何か請求できないのか。」
- 「いじめによる慰謝料はどのような場合に認められるのか。」
- 「いじめによる慰謝料が認められるとして、その金額はどれくらいなのか。」
いじめ被害は、被害者がうつ状態やPTSDになってしまうこともあり得、果ては自死にまで追い込まれることも十分あり得ます。
このような場合、いじめにより生じた損害やいじめによる慰謝料を請求することは当然に検討されることと思います。
そこで、いじめを理由とする慰謝料請求について、いじめ被害に詳しい弁護士が解説していきます。
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●慰謝料請求の対象となるいじめは執拗かつ継続的に繰り返されているような場合が想定される。
●学校や学校を設置する行政に責任を求めることができるのは、学校がいじめ被害を認識していながらこれを看過し、適切ないじめ防止措置を怠ったと認められるような場合である。
●いじめを理由とする慰謝料請求が認められるためには、これを裏付ける証拠を如何に収集できるかが重要である。
この記事を監修したのは

- 代表弁護士春田 藤麿
- 愛知県弁護士会 所属
- 経歴
- 慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設
いじめによる精神的苦痛について慰謝料は認められるのか
いじめを理由とする慰謝料請求は法律上どのような根拠に基づくものなのか、また、どのようないじめが慰謝料請求の対象となるのかについて説明していきます。
- 精神的苦痛に対する慰謝料の根拠
- 慰謝料が発生するいじめ
- 慰謝料を請求する相手方
精神的苦痛に対する慰謝料の根拠
いじめ加害者に対する慰謝料請求の根拠は、不法行為(民法709条)
になります。
不法行為が成立するための要件としては、条文上、以下のように定められています。
- 他人の権利又は法律上保護される利益に対する侵害であること
- 1について、侵害した者に故意又は過失があること
- 損害が生じていること
- 1と3の間に因果関係があること
また、いじめ被害について学校の責任を問う場合もあります。
私立学校であれば加害者と同様請求の根拠は不法行為になりますが、公立学校の場合は、国家賠償法という法律に基づき、学校を設置する行政に対して請求することになります。
慰謝料が発生するいじめ
裁判例上いじめを理由に慰謝料請求が認められている典型例は、いじめにより自死に至った場合はもちろん、暴行により傷害結果が生じた場合やうつ状態、PTSDに罹ってしまったような場合が挙げられます。
これら重大な結果が生じるのは、いじめにより嫌がらせが執拗に繰り返されているような場合が通常想定されます。
裏返せば、単発的な嫌がらせでは不法行為とまでは評価されない可能性が高いといえます。
慰謝料を請求する相手方
慰謝料を請求する相手方としては、まず、当然ながらいじめ加害者が想定されるでしょう。
なお、いじめの加害者が複数いる場合は、それぞれを相手方とすることになります。
また、いじめの加害者が幼く、法律上の責任を理解するに足りる知能がないという場合には、いじめ加害者の監督義務者である親権者を相手方とすることも考えられます。
現実問題としても、いじめ加害者は未成年であることが大半ですから、高額な損害賠償請求に対応できませんので、親権者を相手方とすることになることが多いといえます。
更に、学校(公立学校であれば学校を設置する行政)を相手方とする場合もあります。
すなわち、いじめ被害を認識していながらこれを看過し、適切ないじめ防止措置を怠ったと認められるような場合には、学校において採るべき対応をしていなかったとして、学校を相手方とすることも検討すべきでしょう。
いじめによる精神的苦痛に対する慰謝料請求の流れ
実際に慰謝料請求をする場合、どのような流れで行われるのかについて説明していきます。
- 慰謝料請求のための証拠収集
- いじめ加害者と交渉
- 民事訴訟
慰謝料請求のための証拠収集
いじめを立証するための証拠は、いじめを裏付けるものであれば制限はないですが、一般的に想定されるものとしては、いじめの場面の録音・録画や、いじめの目撃者の証言などがあるでしょう。
もっとも、いじめは陰で行われることが通常ですから、明確な証拠が残っていることはそれほど多くありません。
その意味でも、いじめと加害者を結びつける可能性があるものは全て証拠として保全しておくことが大切になってきます。
最近では、LINEのトーク履歴の中にいじめの証拠になるやり取りが隠れていることもあり得ます。
いじめ加害者と交渉
慰謝料請求をする場合、証拠が整ったとしても、いきなり裁判所に訴訟を提起するのではなく、相手方に直接連絡を取り、裁判外で交渉を開始することが通常です。
相手方に対して自らの主張、請求内容を記載した書面を送り、これに対する相手方の回答を踏まえつつ、引き続き交渉を続けて解決を模索するか、裁判へと移行するかを判断することになります。
民事訴訟
相手方が交渉段階で自らの責任を認めないなど折り合いがつかなかった場合は、民事訴訟を提起しなければなりません。
裁判所は、当事者双方の具体的な主張や主張を裏付ける証拠から、いじめがあったのか、いじめが認定されるとしてその慰謝料の金額を判断します。
そのため、いじめの事実を裏付ける証拠を如何に収集できるかが極めて重要になるといえるでしょう。
また、民事訴訟の手続は複雑ですから、訴訟手続に精通した弁護士でなければ適切な対応は困難ですので、弁護士に依頼して進めるべきです。
いじめによる精神的苦痛に対する慰謝料を認めた裁判例
実際にいじめを理由とする慰謝料が認められた裁判例について、どのようないじめ行為が認定されたか、学校を相手方にした事例については学校にどのような義務違反があったか、更には認定された慰謝料の金額を説明していきます。
いじめ被害者がうつ状態に陥ったとして慰謝料150万円を認めた事例 (福島地裁平成31年2月19日判決、平成28年(ワ)第194号事件)
裁判所は、以下の行為が1年半以上にわたって継続かつ執拗に行われていたと認定し、これらの行為について、一般的にいじめ被害者に恐怖感や嫌悪感を抱かせるもの、人格を否定するものであり、悪ふざけの限度を超えたいじめ行為に該当し、不法行為を構成する違法な行為であると判断しました。
・「ころす」や「死ね」などの過激な表現が用いられたメッセージの送信
・いじめ被害者の母親の再婚前の姓をからかうような呼び方をしていた
・上半身裸のいじめ被害者をからかう内容の動画等をインターネット上に公開した
また、いじめ被害者と加害者は同じ部活に所属する仲間であること、いじめ被害者の明確な拒絶がなかったという事情があったとしても、これらの事情をもって上記の行為が違法性を否定することにはならないとも判断しています。
更に、いじめ加害者らは、必ずしも全ての行為を一緒に行っているわけではありませんでしたが、関係者全員が同じ部活に所属し、いじめ行為に対して被害者が抵抗できないでいる状況を踏まえていじめ行為が行われていたことから,一連のいじめ行為を共同して行っていたと判断されています。
私立学校に対し、自死した被害者固有の慰謝料及び遺族らの慰謝料を認めた事例 (福岡地裁令和3年1月22日判決、平成28年(ワ)第3250号事件)
私立高校に通っていた子どもが学校内で受けていたいじめにより自殺したとして、その両親、祖母及び兄弟が、いじめ加害者ら及び私立学校に対し、慰謝料等の請求をした事件です。
なお、いじめ加害者との間では、判決に至る前に和解金の支払や謝罪を条件に和解が成立しています。
認定されたいじめ行為の内容
被害者が1年半以上にわたり継続的かつ執拗に、加害者からいわゆる「肩パン」といった暴力行為や使い走りにされるなどの苛烈ないじめ被害を受けていたことが認定された事件です。
学校に認定された義務違反の内容
本裁判例は、学校側に対しても、以下のようないじめの兆候を発見していたにもかかわらず、教員間での情報共有や調査等を適切に行わなかったとして、不法行為が成立すると認定されました。
・いじめ行為を受けて被害者が一度自殺未遂に及んでおり、担任教員がその跡を認めていたこと
・いじめ被害者が自死の前に無断欠席が増えていたこと
・校内アンケートの結果から、いじめ被害者に対するいじめの兆候が発見できたこと
認定された慰謝料の金額
認定された損害としては慰謝料以外にも逸失利益などがありますが、その内、慰謝料としては、以下の金額が認められました。
・いじめ被害者固有の慰謝料:1440万円
・両親固有の慰謝料:各160万円
・同居する親族(祖母、兄弟)固有の慰謝料:各80万円
いじめ加害者及び公立学校を設置する行政に対し、自死した被害者固有の慰謝料を認めた事例(東京高裁平成14年1月31日、判例タイムス1084号103頁)
公立中学校に転向後、いじめを理由に自殺したとして、その両親が、いじめ加害者らに対しては不法行為に基づき、中学校を設置する行政に対しては国家賠償法に基づき、それぞれ慰謝料等の請求をした事件です。
認定されたいじめ行為の内容
裁判所は以下の行為についていじめ行為に該当するとし、これらの各行為は転校して間もなくいじめの対象となりやすい被害者に対して繰り返し、執拗に行われていることや加害者らは被害者がいじめられているのを認識して繰り返していたのであるから、共同で不法行為に及んだと認定しました。
- 机等の投げ出し
- 教科書等への落書き
- 教科書隠し
- 教科書の投げ捨て
- 机や椅子へのチョークの粉付け、画びょう置き
- 度重なる暴行
- 鞄の持ち去り
- 机、教科書ヘのマーガリン等の塗り付け
行政に認定された義務違反の内容
学校を設置する行政に対しては、以下の対応を採るべきであったにも関わらずこれを怠ったとして、国家賠償法上の損害賠償義務があると判断しました。
・都度注意、指導したにもかかわらずいじめが絶えなかったのであるから、被害者が継続していじめられていると認識して対応すべきであったこと
・いじめが継続した場合にはより強力な指導監督措置を講じるべきであるのに、何らの継続的指導監督措置を講じなかったこと
・マーガリン等の塗り付けという極めて悪質、陰湿ないじめ行為を認識していたにも関わらず両親に報告せず、家庭への連絡措置を怠ったこと
認定された慰謝料の金額
認定された損害としては慰謝料以外にも逸失利益などがありますが、その内、慰謝料としては、以下の金額が認められました。
- いじめ加害者から被害者に対する慰謝料:120万円
- 行政からいじめ被害者に対する慰謝料:450万円
- 行政からいじめ被害者の遺族(両親)に対する慰謝料:各90万円
まとめ
いじめ被害を理由とした慰謝料請求をするためには、慰謝料請求に該当するいじめか否か、誰を相手方にするかなど、専門的な判断が求められます。
また、慰謝料以外にも損害が発生していることもあり得、請求額が多額になる関係上、相手方も争い、長期戦になることが多いです。
更に、訴訟となれば裁判官を説得できるための証拠が重要になってくるところ、いじめの証拠が残りにくいことを踏まえれば、相手方の責任を認めさせるためには経験のある弁護士が対応する必要があります。
いじめ被害を受けた場合、いじめ問題に詳しい弁護士にまずはご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。ご不明な点があるときやもっと詳しく知りたいときは、下にあるLINEの友達追加ボタンを押していただき、メッセージをお送りください。弁護士が無料でご相談をお受けします。