婚前契約書を作成する上での留意点

最終更新日: 2022年02月21日

婚前契約を結ぶ際に、「とにかく相手がサインすれば、OK!」と考える方もおられるかもしれませんが、それでは契約の法的効力が否定されてしまう可能性があります。

婚前契約書を作成するときは、ビジネス取引における契約書とは異なる留意点があります。ビジネス取引における契約の場合、各当事者は基本的に対等な立場で、最大限自分の利益を得ようと考えるため、双方が細心の注意を払います。

他方、婚前契約の当事者はお互いが相手を信頼し、その幸せを望む関係にあることから、相手が自分を出し抜こうとしているとは考えにくい、細心の注意を払いにくい特性があります。また、恋人同士の契約という点で、第三者によるチェックがないという特性もあります。

このような特性があることから、ビジネス取引における契約よりも一層、不当な契約から当事者を保護する必要性が高いのです。

今回は、婚前契約の作成プロセスにおいて留意すべき点について、ご説明いたします。

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この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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パートナーには婚前契約について十分な検討時間をあげましょう。

例えば、結婚式の前日に初めて婚前契約書を提示され、それにサインをしないなら結婚はしないとパートナーから言われたのでサインをしたというケースを考えてみましょう。

この期に及んで結婚式をキャンセルすることはできませんので、そのままサインをせざるを得ないでしょう。このような強引な方法で婚前契約を結びますと、後々、本意ではなかったのにサインをせざるを得なかったとして婚前契約の法的効力が否定されてしまう可能性があります。

一方、婚前契約書を提示されたのは結婚式の前日だったものの、それまでにその内容について十分に話し合いがなされていたのであれば有効となる可能性は十分あります。

また、結婚式の前日に初めて婚前契約書を提示された場合であっても、自身が弁護士であるなど法律の素養が高い場合には有効となるでしょう。

要するに、婚前契約書を提示されてからサインするまでの時間が検討に十分なものであったかどうかは、それまでの話し合いの状況や、その人の法律的素養の程度、弁護士への相談が容易であったかなど様々な事情から判断されることになります。

ちなみにカリフォルニア州法では、婚前契約書案を提示されてから、サインするまでの間に7日間以上をあけなければならないと定めています。

以上を踏まえますと、婚前契約の法的効力を維持するためには、婚前契約書をよく読んで理解するのに十分な時間、弁護士に相談するのに十分な時間をパートナーにあげることが重要といえます。

婚前契約の内容について十分に理解していなかったら無効になるのか?

婚前契約の内容は明快であるべきですが、法的書面ですから、必ずしもパートナーがその内容を正確に理解できるとは限りません。そうすると、後々、内容を理解していなかったので、婚前契約は無効だと言われる可能性もあります。

もっとも、契約内容について弁護士に相談する時間的余裕があったのであれば、単に内容が法律的な内容で理解できなかったというだけでは法的効力は否定されません。とはいえ、いたずらに難解な内容の文言とするべきではありませんし、相手の理解によっては、弁護士に相談することを勧めるべきでしょう。

外国語で書かれている婚前契約については、法的意味の理解以前に、言語が読めませんので、理解できる言語に翻訳されたものを添付しなければ、法的効力は否定されることになります。

騙されてサインをしてしまった場合

パートナーから提示された婚前契約書について不服があったので修正をして欲しいと頼んだところ、「後日修正するからとりあえずサインして」と言われ、信用してサインしてしまったという場合、婚前契約の法的効力は認められるのでしょうか。

このように婚前契約にサインをする際に、相手に騙されてサインをしてしまった場合には、後日その法的効力を否定することができる可能性が高いです。

サインしないと結婚しないと言われてサインした場合の婚前契約の効力

婚前契約にサインしないなら結婚しないと言われたのでサインをしたというだけであれば、法的効力は否定されません。そのように言った方にも言われた方にも結婚するかしないかを決める自由がありますので、このように婚前契約に渋々サインしたというだけでは法的効力は否定されません。

他方、女性が妊娠しているときに、婚前契約にサインしないなら結婚しないと言われたので、サインしてしまったという場合、婚前契約に法的効力は認められるのでしょうか。

アメリカの裁判例では結論がわかれていますが、共通して、女性が妊娠しているという事実だけでは婚前契約の法的効力を否定していません。

その他の事情、例えば、女性が婚外子を生むことに強く抵抗がありかつ中絶に強く反対していたといった事情があれば、法的効力が否定される可能性があります。また、女性が未成年で、一人で子供を育てる力がないような場合にも法的効力が否定される可能性があります。

最後に

以上、婚前契約の作成プロセスにおいて留意すべき点についてご説明いたしました。婚前契約においてはどのような内容を盛り込むかはもちろん重要ですが、それと同じくらい作成プロセスの公平・公正さが重要になります。

当事者間だけで作成したという場合には、作成プロセスの適正さを担保、証明する方法が乏しいため、少なくとも当事者の一方には弁護士が就いて、適正なプロセスを踏むことが必須となります。

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