いじめ被害を理由に裁判をする根拠・流れについて、専門弁護士が徹底解説します!
2023年01月06日
- 「自分の子どもがいじめを受けた。加害者に対して、何か責任を取らせることはできないのか」
- 「いじめ被害について裁判を起こしたいが、どのような準備をすればよいかわからない」
お子さんがいじめ被害を受けた場合、その被害を救済すること、加害者に対して法的責任をとらせることなどを考えると思います。このような希望を実現する方法として、「裁判」が考えられます。
しかし、「裁判」を起こすためには、加害者を特定すること、いじめの証拠を集めることが不可欠となります。また、裁判手続に関する専門的知識も必要であり、かなりハードルの高い問題です。
そこで、いじめ被害を理由とした裁判を起こすための法的根拠、裁判の流れについて、いじめに詳しい専門弁護士が実際の裁判例を紹介しつつ、いじめ裁判の実態を解説します。
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- いじめを理由として裁判をするための根拠は、民法上の不法行為と刑事法規
- 裁判をするための加害者特定や、証拠の収集は弁護士に相談
いじめ被害について裁判を起こせる?法的根拠を解説
「子どものいじめについて裁判をするなんて大袈裟では?」
そのように思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、いじめは、時に被害者に対して、深刻なダメージを与える違法行為になることがあります。その場合、たかだか「いじめ」にすぎないと見過ごすのではなく、被害者を裁判手続において救済する必要があります。
そこで、以下において、どのような場合にいじめ被害について裁判を起こすべきなのか、具体的に説明していきます。
- 裁判をするための法的根拠
- 裁判の相手方は誰か
- 刑事裁判
裁判をするための法的根拠
いじめは、民法709条の不法行為に該当する場合があります。この「不法行為」とは、他人の権利を侵害して損害を加える行為を言います。
たとえば、いきなり通り魔から暴行によって怪我を加えられた場合、暴行に対する治療費、慰謝料などをその相手方に請求することができます。お店が商品を万引きされた場合には、窃盗による財産的損害について請求することが可能です。
これら請求の根拠は、いずれも民法上の不法行為となりますので、裁判を起こす十分な理由となりえます。同じことをクラスメイトから受けた場合、「いじめ」だから許されるとする理屈は成り立たないでしょう。
「いじめ」によって、実際に身体的損害、精神的損害、経済的損害を被ったのであれば、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権が、裁判を起こすための法的根拠となるのです。
裁判の相手方は誰か
では、いじめの被害者は、誰を相手どって裁判を起こすのでしょうか。
まず当然考えられるのは、いじめを行った加害者本人です。しかしながら、学校内で行われるいじめについては、当事者は、いずれも未成年であることが通常です。未成年を相手方として訴訟提起をしたところで、何十万円、何百万円もの支払いに対応できるはずがありません。
この場合であっても、加害者が未成年で支払能力がないという理由で、いじめの被害者を救済しないわけにはいきません。
そこで、いじめ裁判の実務においては、加害者の保護者となっている両親を相手方として、子の監督を怠ったことを理由として、本来、加害者に請求すべき損害賠償を行っています(民法714条1項)。
とはいえ、裁判で認められる金額の単位は、何十万円、何百万円ということもあります。一般の家庭で、この金額を用意するのも困難でしょう。特殊な保険に加入していればカバーされることもありますが、そのような保険に加入していることも極めてまれであると言えます。
そこで、確実に損害を回復するとの観点から、いじめを看過したことについて、学校にも責任が認められる場合には、学校を相手方とすることもあります。
刑事裁判
いじめの中でも、傷害、恐喝、わいせつ犯罪など、より悪質な行為がなされる事案があります。刑事罰として規定されている行為が、「いじめ」であるからといって許される理由もありません。
悪質ないじめについては、刑法をはじめとする刑事罰に関する諸規定を法的根拠として、警察署または検察庁に告訴することによって、刑事裁判にかけることもあります。
刑事事件化すれば、いじめの加害者に対する捜査が開始されます。捜査の結果、いじめが重大事案であると認識されれば、加害者を逮捕して、さらに取調べを行うこともあります。
また、検察庁は捜査の結果、加害者のした犯罪行為を起訴できると判断したなら、いじめであっても起訴して、刑事裁判にかけることもあります。刑事裁判では、いじめの加害者に対して、懲役刑、罰金刑などを科すことになります。
もっとも、いじめに加害者については、刑事事件において少年法が適用される「少年」であることが多いと思います。
少年法が適用される場合、成人のような刑事裁判ではなく、家庭裁判所の少年審判という特殊な裁判を受けることになります。少年審判では、いじめの加害者について、少年院送致、保護観察など、少年に対する適切な処遇を決めます。
いじめ被害について裁判をする流れ
次に、いじめ被害に遭った方が、実際に裁判をするにあたり、どのような手順を踏むのかについて説明します。以下では、最も利用される裁判手続である、民事訴訟を利用した裁判の流れについて、詳しく説明していきます。
- 裁判を見越した証拠の収集
- 裁判前にいじめ加害者と交渉する
- いじめ加害者との裁判
裁判を見越した証拠の収集
裁判をした場合に勝訴できる見込みがなければ、加害者に請求をしていくことは難しくなります。そこで、弁護士としては、まず、裁判手続に耐えうる証拠が十分にあるのかどうか、検討していくことになります。
加害者を特定する証拠
裁判を起こすためには、訴状をはじめとした裁判書類を相手方に届けることが必要となります。加害者の氏名と住所の情報さえ揃っていれば、裁判を起こすことは可能ですが、加害者の住所が不明ということでは、裁判手続を利用することさえできません。この場合、加害者の住所調査が必要となります。
加害者の電話番号がわかっているのであれば、加害者が契約している携帯電話の会社に対して住所の開示を求める方法があります。これは、弁護士法23条の2第1項に基づいてなされる弁護士会による照会手続を利用することになります。
なお、学校に加害者の住所を求めることはできないかとの要望を受けることが多いのですが、残念ながら、学校が児童生徒の個人情報を開示することは基本的にありません。
いじめの証拠
加害者を特定することができても、いじめの事実自体を否定されることもあります。この場合は、いじめの事実を裏付ける証拠が必要となってきます。
いじめの証拠としては様々考えられますが、何が有効な証拠になるかは、ケースバイケースです。いじめ被害を受けた本人の証言、クラスメイトの証言、写真、LINE、学校内外で得られるあらゆる証拠が対象となりえます。
いじめは、学校内という閉鎖的な空間で行われる性質上、証拠の収集が困難です。ただ、被害を受けた児童生徒から事情を詳しく聞き取り、証拠の手がかりになりそうな事実に当たっていくことで、得られることもあります。
また、いじめ自体が非常に悪質な事案であれば、警察が動く場合があります。警察の捜査が開始すれば、加害者を特定し、いじめを認めさせることも可能になるので、警察に働きかける方法もありえます。
違法性を基礎づける証拠
さらに、いじめの事実を認定できたとしても、それが不法行為であるというためには、違法性が必要となります。この違法性とは、社会通念上の受忍限度を超える程度の加害行為がなされたかどうかによって判断されます。
いじめそれ自体の行為態様が悪質なものかどうかも重要ですし、被害者が受けた損害の程度も重要となります。また、いじめ防止対策推進法2条1項では、「いじめ」の定義について、被害者自身が「心身の苦痛を感じているもの」を要素としているので、被害者の主観も重要といえます。
裁判前にいじめ加害者と交渉する
証拠が十分であることが確認できたなら、実際に、加害者等に請求をかけることになります。もっとも、すぐに裁判を起こすのではなく、交渉から始めることが一般的です。
交渉とは、当事者同士による協議や、話し合いのことです。代理人弁護士を入れる場合、本人と代理人が話をすることもありますし、双方代理人が就いていれば代理人同士による話し合いになります。
交渉は、相手方と直接会って話し合いをするイメージが一般的と思いますが、弁護士による交渉の場合は、書面でのやり取りによることが通常です。
請求の原因となるいじめの具体的な事実、請求金額、回答期限などを明示して、加害者側に回答を求めます。書類の送付方法は普通郵便でも構いませんが、いつ、どのような請求をしたのか証拠化するため、内容証明郵便の方法によることが一般的です。
交渉での解決が不可能となったのであれば、交渉を打ち切って、裁判に移行することになります。
いじめ加害者との裁判
裁判は、原告・被告が双方主張を出し合い、証拠を提出し、どちらの言い分が正しいのかを決める手続きです。
裁判の方向性としては、大きく分けると1判決、2和解という二つの解決方法があります。
判決とは、たとえば「金100万円を支払え」などの結論を示すものです。判決には、執行力という強制力があり、応じない場合には資産に対する強制執行が可能となります。
和解とは、双方が互いに譲歩して、紛争を解決することです。当事者同士の話し合いとは異なり、裁判所が仲介・調整して、条件の擦り合わせを行うので、当事者間ではまとまらなかった紛争であっても解決に向かうことが非常に多いです。
いじめの裁判例
では、実際に裁判実務において、いじめを理由とした裁判ではどのような判断がなされているのでしょうか。参考になるいじめの裁判例を3つほど紹介します。
いじめ加害者の責任を認めた裁判例1
まず、いじめ加害者の責任を認めた裁判例として、福島地方裁判所平成31年2月19日判決があります。
これは、原告が、高校の同級生であった被告ら3名から、平成26年4月頃から平成27年12月頃までの間、継続的かつ執拗にいじめ及び嫌がらせ等をされたことによって、うつ状態、PTSD様状態になったと主張して、被告らに対して損害賠償請求を求めた事案です。
結論としては、いじめの加害者らの1年半にわたる継続的かつ執拗的で悪質ないじめ行為による精神的苦痛の慰謝料として150万円を認めました。
いじめ加害者の責任を認めた裁判例2
続いて紹介する裁判例として、京都地方裁判所平成22年6月2日判決があります(判タ 1330号187頁)。
これは、中学校における同級生からのいじめにより、転校せざるを得ない状況に追い込まれて、精神的かつ肉体的な苦痛を被ったとして、いじめを受けた生徒とその両親が、いじめをした同級生とその親権者、及び中学校の設置者を被告としてした、不法行為又は安全配慮義務の債務不履行を原因とする損害賠償請求をした事案です。
この事案では、被害生徒を殴るなどの行為(負傷した事実は無し)のほか、多数の嫌がらせ行為が継続してなされていた事実を認定し、いじめをした加害者本人には55万円(内訳は精神的苦痛の慰謝料50万円と弁護士費用相当損害金5万円)の支払義務を認めました。
他方、中学校の責任について、いじめをした生徒の問題行動に対しては、学校設置者としての合理的な裁量の範囲内で対応しており、また、いじめを受けた生徒を転校させるについても、合理的な転校先を指定しており、いずれの点についても安全配慮義務違反はないとして、責任を否定しています。
いじめについて学校の責任を認めた裁判例3
学校の責任を認めた裁判例として、福島地方裁判所平成2年12月26日判決(判例タイムズ746号116頁)があります。
これは、自殺した市立中学校三年生の自殺原因が同級生のいじめによるものであるとされており、学校側がいじめを解消するための適切な手段をとらなかった等の点において、生徒に対する安全保持義務違反(過失)があるとされた事例です。
学校の過失判断に際しては、悪質・重大ないじめがあることの認識が可能であれば足り、被害生徒が自殺することまでの予見可能性があることを要しないものとして、いじめ被害者を救済する可能性を指摘しました。
まとめ
いじめ被害について、裁判を起こす根拠や、流れについて説明しました。いじめ被害を理由とした裁判を起こすためには、証拠収集など入念な準備が必要不可欠です。
紹介した裁判例でも、いじめ被害者の代理人として対応した弁護士の苦労が垣間見えますが、あきらめずに証拠を探せば、いじめの責任追及も可能なのです。
いじめ被害に悩んだときは、一度、いじめ問題に詳しい弁護士に対応方法を相談しましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。ご不明な点があるときやもっと詳しく知りたいときは、下にある「LINEで無料相談」のボタンを押していただき、メッセージをお送りください。弁護士が無料でご相談をお受けします。