傷害罪の示談金で早期解決へ。相場と交渉を弁護士が徹底解説
最終更新日: 2025年11月24日

もしもあなたが傷害事件を起こしてしまい、警察からの事情聴取を受けている状況であれば、一刻も早く被害者との間で示談を成立させることが、その後の刑事手続きや社会生活への影響を最小限に抑える上で極めて重要です。示談交渉は単なる金銭のやり取りではなく、被害者との和解を通じて、逮捕・勾留といった身柄拘束からの解放、さらには前科が付くことの回避や、刑事罰の軽減に直結する重要なプロセスとなります。
この記事では、傷害事件における示談の重要性から、具体的な示談金の相場、その内訳、交渉の進め方、そして万が一示談が成立しなかった場合の対処法まで、知っておくべき情報を網羅的に解説します。さらに、示談交渉を弁護士に依頼するメリットや費用についても詳しく説明していますので、示談を通じて事件を早期に解決し、平穏な日常を取り戻すための一助として、ぜひ最後までお読みください。
傷害事件における示談の重要性|なぜ早期解決が必要なのか
傷害事件を起こしてしまった場合、その後の人生を大きく左右するのが「示談」の成立です。刑事事件において、加害者と被害者の間で示談が成立しているという事実は、その後の刑事手続きにおいて加害者に極めて有利な事情として考慮されます。示談が成立しているか否かで、逮捕・勾留といった身柄拘束の期間や、さらには前科が付くかどうかが変わってくるため、社会生活への影響を最小限に抑えるためには、早期の示談交渉が不可欠なのです。
特に、日本の刑事司法では、起訴されると99%以上が有罪となるため、不起訴処分を獲得し前科を回避することが何よりも重要です。この不起訴処分を得るために、被害者との示談は最も確実で効果的な手段と言えます。逮捕直後からの迅速な対応が、ご自身やご家族の将来を守る上で決定的な意味を持つため、一刻も早く示談交渉に着手することが求められます。
示談交渉は、単に金銭を支払うだけではなく、加害者の真摯な反省の意思を被害者に伝え、許しを得るためのプロセスでもあります。このプロセスが刑事手続きの各段階に与える影響は非常に大きく、身柄拘束からの解放、社会復帰、そして何よりも前科が付くことの回避に直結します。そのため、傷害事件においては「示談の早期解決」が最も優先すべき課題となるのです。
そもそも示談とは?加害者と被害者の和解
示談とは、刑事事件の当事者である加害者と被害者が、裁判の手続きを通さずに直接話し合い、お互いの合意に基づいて紛争を解決する手続きのことです。具体的には、加害者が被害者に対して謝罪の意思を示し、怪我の治療費や精神的苦痛に対する慰謝料などの金銭(示談金)を支払うことで、和解に至ります。これはあくまで民事上の合意であり、被害者が加害者の処罰を望まないという意思(宥恕意思)を示すことで、刑事手続きに大きな影響を与えることになります。
示談の成立自体が直ちに刑事事件を終結させるわけではありませんが、検察官が起訴・不起訴を判断する際や、裁判官が刑の重さを決定する際に、非常に重要な考慮要素となります。被害者との間で和解が成立しているという事実は、加害者の反省の態度や責任感の現れとして評価され、結果として不起訴処分や刑の軽減につながる可能性が高まります。このため、示談は刑事事件を有利に進める上で欠かせないプロセスなのです。
示談しないとどうなる?前科や実刑判決のリスク
もし傷害事件で被害者との示談が成立しなかった場合、加害者は非常に重いリスクを背負うことになります。まず、逮捕されてしまった場合は、身柄拘束が長期化する可能性が高まります。示談交渉が進まない状況では、検察官が「加害者が反省していない」「証拠隠滅や逃亡のおそれがある」と判断しやすくなり、最大23日間の勾留が継続されることも珍しくありません。
さらに、示談が成立しないままでは、検察官によって起訴される可能性が非常に高まります。日本の刑事裁判は起訴されてしまうと、有罪となる確率が99%以上と極めて高く、ほとんどの場合、有罪判決を受け「前科」が付くことになります。前科は、その後の社会生活、例えば就職や転職、資格取得などに大きな影響を及ぼし、取り返しのつかない不利益をもたらす可能性があります。
特に、被害者の怪我の程度が重い場合や、凶器を使うなど犯行態様が悪質だった場合には、実刑判決(刑務所に収監されること)を受けるリスクも高まります。示談が成立していれば執行猶予が付く可能性のあるケースでも、示談がなければ実刑となることも少なくありません。ご自身やご家族の生活を守るためにも、示談交渉は最優先で取り組むべき課題と言えるでしょう。
示談成立で得られる3つの大きなメリット
傷害事件において被害者との示談を成立させることは、加害者にとって計り知れないメリットをもたらします。示談が成立すれば、刑事処分を大きく軽減できる可能性があり、その後の社会生活への影響を最小限に抑えることが期待できます。具体的には、以下の3つの大きなメリットが挙げられます。これらのメリットは、示談交渉に真摯に取り組む強力な動機となるでしょう。各メリットの詳細については、この後のセクションで詳しく解説していきます。
1. 逮捕・勾留からの早期釈放につながる2. 不起訴処分による前科回避の可能性が高まる3. 起訴されても執行猶予など刑が軽くなる可能性がある
【メリット1】逮捕・勾留からの早期釈放につながる
傷害事件を起こして逮捕されてしまった場合、まず直面するのが身柄拘束の問題です。逮捕後、最長で23日間にわたる勾留(拘置所などで身体を拘束されること)の可能性があります。しかし、この期間中に被害者との示談が成立する、あるいは示談成立に向けて真摯に交渉を進めている姿勢を警察や検察に示すことができれば、状況は大きく変わる可能性があります。
示談が成立しているという事実は、検察官や裁判官に対して「加害者が反省しており、被害者への償いを果たしているため、証拠隠滅や逃亡のおそれがない」という良い印象を与えます。これにより、勾留請求が却下されたり、勾留期間が満了する前に釈放されたりする可能性が高まります。早期に身柄を解放されれば、会社や家族への影響を最小限に抑え、通常の社会生活に早く戻れるという大きなメリットがあるのです。
【メリット2】不起訴処分による前科回避の可能性が高まる
示談がもたらすメリットの中でも、特に加害者にとって最大の恩恵となるのが「不起訴処分」の獲得です。不起訴処分とは、検察官が事件を起訴しないと決定することであり、これによって刑事裁判が開かれず、何よりも「前科」が付くことを確実に回避できます。日本の刑事裁判は、一度起訴されると有罪となる確率が極めて高いため、いかに起訴を免れるかが非常に重要になります。
被害者との示談が成立し、被害者が加害者の処罰を望まないという意思(宥恕意思)を示している場合、検察官は「あえて刑事裁判を起こす必要性は低い」と判断し、不起訴処分(特に起訴猶予)とする可能性が飛躍的に高まります。前科が付かないことは、その後の人生において就職、転職、資格取得、海外渡航など、あらゆる面で非常に大きな意味を持ちます。示談交渉は、この前科回避という最も確実な道を切り開くために不可欠な手段なのです。
【メリット3】起訴されても執行猶予など刑が軽くなる可能性がある
万が一、示談交渉が間に合わず起訴されてしまった場合でも、示談が成立していることには大きな意味があります。刑事裁判において、示談が成立し被害弁償がなされているという事実は、加害者が自身の過ちを真摯に反省し、被害者への賠償責任を十分に果たしていることの証拠として、裁判官に非常に良い心証を与えます。
このことは、判決において様々な有利な事情として考慮されます。具体的には、懲役刑の期間が短縮されたり、罰金額が減額されたりする可能性が高まります。さらに重要なのは、実刑判決(刑務所に収監されること)を回避し、執行猶予付き判決を得られる可能性が格段に高まる点です。執行猶予が付くと、直ちに刑務所に入る必要がなく、社会生活を送りながら更生する機会が与えられます。示談は、起訴後であっても加害者の社会復帰を大きく後押しする重要な要素となるのです。
示談交渉はいつまでに行うべき?最適なタイミングを解説
傷害事件における示談交渉は、そのタイミングが非常に重要です。「早ければ早いほど良い」というのが基本的な原則ですが、刑事手続きの流れに沿って、示談が持つ意味合いも変化します。
最も理想的なタイミングは、検察官が起訴・不起訴を判断する「起訴前」の段階です。この段階で示談を成立させ、被害者から宥恕(加害者を許すこと)の意思表示を得ることができれば、検察官が事件を不起訴処分とする可能性が飛躍的に高まります。不起訴となれば、刑事裁判は開かれず、前科が付くこともありません。逮捕直後から勾留満期までの間に示談を成立させることができれば、身柄拘束からの早期釈放にもつながり、ご自身の社会生活への影響を最小限に抑えられます。そのため、起訴される前のこの時期が、示談交渉に最も力を入れるべきゴールデンタイムと言えるでしょう。
万が一、起訴されてしまったとしても、示談交渉を諦める必要はありません。第一審の判決が下される「判決言い渡し前」までに示談が成立すれば、刑事裁判において加害者に有利な事情として考慮され、刑が軽くなる可能性が残されています。執行猶予付き判決を獲得できる可能性も高まります。ただし、起訴前と比較すると、不起訴処分の可能性は極めて低くなり、刑の軽減効果も限定的になる傾向があることは理解しておく必要があります。いずれにしても、できる限り早く弁護士に相談し、適切なタイミングで示談交渉を進めることが、最善の結果を得るための鍵となります。
【弁護士が解説】傷害罪の示談金相場と内訳
傷害事件を起こしてしまい、その後の示談交渉において、被害者の方へいくら支払えばよいのかと不安に感じている方も多いのではないでしょうか。この章では、多くの方が最も関心をお持ちであろう示談金の具体的な金額について詳しく解説していきます。
示談金には、法律で定められた明確な基準というものはありませんが、これまでの判例や実務上の慣行から形成された「相場」というものが確かに存在します。また、示談金は単一の金額ではなく、治療費や慰謝料など複数の要素で構成されています。これらの内訳を理解することは、適正な金額を判断する上で非常に重要です。続くセクションでは、示談金の基本的な考え方から具体的な内訳、そして怪我の程度に応じた金額の目安まで、詳細に解説していきます。
示談金に法的な相場はないが「目安」は存在する
傷害事件における示談金の金額は、法律で「傷害罪の示談金は〇〇円」といった明確な基準が定められているわけではありません。これは、事件ごとに被害の状況や精神的苦痛の度合いが異なるためです。そのため、示談金はあくまで加害者と被害者双方の話し合い、つまり交渉によって決定されるものです。
しかし、完全に自由に決められるわけではなく、示談交渉の場では、怪我の程度、治療にかかる期間、事件の悪質性、加害者の反省の度合い、そして過去の同種事案における裁判例などを参考に、弁護士や裁判実務の間で共有されている「目安」や「算定基準」が存在します。この目安を基準として交渉が進められるのが一般的であり、弁護士はこれらの情報に基づき、適正な示談金額を算定し、交渉に臨みます。
示談金の内訳:慰謝料、治療費、休業損害など
傷害事件における示談金は、単に「いくら」と決まるものではなく、いくつかの項目を合計したものです。ここでは、示談金を構成する主な内訳として、「治療費・通院交通費」「休業損害」「慰謝料」、そして重篤なケースでは「逸失利益」が挙げられます。それぞれの項目は、被害者が受けた損害の種類に応じて支払われるものであり、その性質を理解することが適正な示談金額を判断する上で非常に重要です。次からの項目で、これらの内訳について詳しく解説していきます。
治療費・通院交通費
「治療費・通院交通費」は、傷害事件によって被害者が負った怪我を治療するために実際に発生した費用を指します。具体的には、病院での診察代、投薬費用、手術費用、入院費用、そしてリハビリテーションにかかる費用などが含まれます。これらの費用は、原則として領収書に基づいた実費が請求されます。
また、通院のために発生した交通費も請求の対象となります。公共交通機関を利用した場合の運賃はもちろんのこと、自家用車で通院した場合はガソリン代や有料道路の通行料金、さらには症状によってはタクシーの利用料金なども認められることがあります。これらの費用も、実際の支出が証明できるものが賠償の対象となります。
休業損害
「休業損害」とは、傷害事件によって怪我を負い、その治療のために仕事を休まざるを得なくなり、結果として得られなかった収入の補填を指します。会社員の方の場合、事故が発生する前の3ヶ月間の給与を基に1日あたりの基礎収入を算出し、実際に休業した日数を乗じて計算するのが一般的です。
また、専業主婦(主夫)の方であっても、家事労働の対価が認められるケースや、事件によって就職が遅れた場合の将来の就労可能性を考慮して休業損害が認められることがあります。自営業の方やパート・アルバイトの方についても、過去の収入実績などに基づいて算定されます。この休業損害は、被害者の経済的な損失を回復するために重要な項目となります。
慰謝料(精神的苦痛への賠償)
示談金の中で最も重要な項目の一つが「慰謝料」です。慰謝料は、治療費や休業損害といった具体的な財産的損害とは異なり、被害者が傷害事件によって受けた精神的な苦痛に対して支払われる賠償金です。怪我を負わされたことによる痛み、恐怖、不安、屈辱感、生活への支障など、目に見えない損害を金銭に換算して償うものと考えられます。
慰謝料の金額は、入院期間や通院期間、怪我の具体的な部位や程度、後遺障害の有無などによって算定されるのが一般的ですが、客観的な基準が明確に定まっているわけではありません。そのため、交渉の余地が最も大きい項目であり、被害者の感情や加害者の反省の度合いなども影響することがあります。この慰謝料が、示談金の全体像を大きく左右する要素となります。
逸失利益(後遺障害が残った場合)
「逸失利益」は、傷害事件によって身体に後遺障害が残り、その結果として将来にわたって労働能力が低下したり、完全に喪失したりすることで、本来得られるはずだった収入が得られなくなった損害を補填するものです。この項目は、被害者に重篤な後遺症が残った場合にのみ発生する、非常に専門的な計算が必要な損害賠償です。
逸失利益の算定には、後遺障害の等級(どの程度の障害が残ったか)、被害者の事故発生時の年齢、事故前の収入、そして平均余命などが複雑に絡み合い、極めて専門的な知識が求められます。そのため、高額になる傾向があり、数百万から数千万円に及ぶケースも少なくありません。このような状況では、適切な逸失利益を算定し、被害者に正当な賠償を行うために、弁護士などの法律専門家の助けが不可欠となります。
【怪我の程度別】示談金の金額目安
ここまで示談金の内訳について解説してきましたが、具体的な金額ではないでしょうか。示談金には法律で定められた一律の相場はありませんが、これまでの裁判例や実務経験に基づいて形成されたおおよその目安が存在します。このセクションでは、怪我の程度を基準に、示談金の具体的な金額感を提示していきます。
ここでご紹介する金額はあくまで一般的なケースにおける目安であり、個別の事情、例えば犯行態様の悪質性、被害者の処罰感情の強さ、加害者の反省の度合いなどによって大きく変動することをご理解ください。軽傷から重傷、そして後遺障害が残ったケースまで、それぞれどの程度の金額が想定されるのかを具体的に見ていきましょう。
全治1週間程度の軽傷の場合:10万円~30万円
打撲、擦り傷、軽度の捻挫など、全治1週間程度の比較的軽微な傷害の場合、示談金の相場は10万円から30万円程度が目安となります。この金額には、数回の通院で済む程度の治療費や通院交通費、そして怪我を負わされたことによる精神的苦痛への慰謝料が含まれることが一般的です。
怪我の程度が軽いからといって示談交渉を軽視してはいけません。たとえ軽傷であっても、被害者は身体的・精神的な苦痛を受けており、加害者としてはその責任を果たす必要があります。誠実な態度で示談に応じ、適切な示談金を支払うことで、被害者の心情に配慮し、刑事手続きにおけるご自身の立場を有利に進めることが重要です。
全治1ヶ月程度の傷害の場合:30万円~100万円
比較的軽度の骨折、複数箇所の打撲、数針縫うような裂傷など、全治1ヶ月程度の傷害を負わせてしまった場合、示談金の相場は30万円から100万円程度と、軽傷の場合と比較して大きく上がることが予想されます。この金額の幅は、怪我の内容や治療期間、さらに休業損害の有無によって変動します。
治療期間が長引くほど、治療費や通院交通費も増加します。また、入院や手術が必要となるケースでは、その分だけ慰謝料も高額になる傾向にあります。加えて、この程度の傷害になると、仕事を休まざるを得なくなり、休業損害が発生する可能性も高まります。それぞれの損害項目が積み重なることで、示談金の総額は高額になる傾向があります。
骨折や入院を伴う重傷の場合:100万円以上
複雑骨折、内臓損傷、脳震盪など、入院を伴うような重傷を負わせてしまった場合、示談金の金額は100万円を下回ることはまずなく、数百万単位に達することも珍しくありません。このケースでは、示談金の上限は事件ごとに大きく変動し、一概に「いくらまで」とは言えないのが実情です。
長期の入院・治療費、高額な手術費用、リハビリテーション費用など、治療にかかる実費が非常に大きくなる傾向があります。また、長期にわたる療養は、精神的な苦痛も甚大であるため、慰謝料も高額になります。さらに、仕事を長期間休むことによる休業損害も多額になるため、これらの要素が複合的に作用し、示談金の総額は必然的に高額になります。
後遺障害が残った場合:数百万円以上になることも
最も深刻なケースとして、傷害事件が原因で被害者に後遺障害が残ってしまった場合、示談金は数百万円から場合によっては数千万円、あるいはそれ以上になる可能性もあります。この場合、示談金の金額に明確な上限はなく、「青天井」とも言える状況になります。
後遺障害が残った際には、通常の治療費や慰謝料に加えて、「逸失利益」が加算されるためです。逸失利益とは、後遺障害によって将来にわたって労働能力が低下したり喪失したりすることで、本来得られるはずだった収入が得られなくなった損害を補填するものです。逸失利益の算定には、後遺障害の等級、被害者の年齢、事故前の収入などを基にした非常に専門的な計算が必要となり、専門知識を持たない個人が適切に算定することは困難です。そのため、後遺障害が残るような重大な傷害事件では、弁護士などの専門家の助けが不可欠となるでしょう。
示談金が高額になる・減額されるケースとは?
傷害事件における示談金は、被害の程度や治療期間といった客観的な要素だけでなく、事件が起きた状況や加害者と被害者の具体的な状況など、主観的な要素によっても大きく変動します。これまでのセクションで一般的な示談金の目安をお伝えしましたが、個々の事情によってはその金額が大きく増額することもあれば、逆に減額されるケースも存在します。ここからは、どのような場合に示談金が一般的な相場よりも高くなるのか、あるいは低くなるのか、その具体的な要因について詳しく解説していきます。
示談金が増額する要因(犯行の悪質性、被害者の処罰感情など)
示談金は、被害者が受けた損害を賠償し、精神的苦痛を和らげることを目的としています。そのため、以下のような要因がある場合、示談金は一般的な相場よりも高額になる傾向があります。第一に、凶器を使用したり、複数人で暴行を加えたりするなど、犯行態様が悪質・執拗であった場合です。このようなケースでは、被害者の身体的・精神的苦痛が甚大であると判断されやすく、慰謝料が増額される要因となります。第二に、顔に傷跡が残るなど、被害者の見た目に影響する重大な後遺症が残った場合です。このような被害は、被害者の生活全般にわたる影響が大きいため、示談金も高額になります。
第三に、被害者の処罰感情が非常に強い場合です。被害者が加害者に対して強い怒りや憎しみを抱き、厳罰を求めている場合、加害者側としては示談を成立させるために、より手厚い賠償を提案せざるを得ない状況になります。第四に、加害者に同種の前科がある場合です。過去にも同様の事件を起こしている場合、反省の態度が薄いと見なされ、被害者感情も硬化しやすく、結果として示談金が高額になることがあります。最後に、加害者の社会的地位が高い、あるいは資力が豊富であると判断された場合も、被害者側が高額な示談金を求める傾向があることを覚えておきましょう。
示談金が減額される要因(加害者の真摯な反省、被害者側の過失など)
一方で、いくつかの要因によって示談金が一般的な相場よりも低くなる可能性もあります。第一に、加害者が事件後速やかに、そして深く反省し、被害者に対して真摯な謝罪を尽くしている場合です。加害者の誠実な態度が被害者に伝われば、被害者の処罰感情も和らぎ、示談交渉が円滑に進むことで、結果的に適正な範囲での示談金合意に至りやすくなります。第二に、事件の発生に被害者側にも何らかの落ち度や過失があった場合です。たとえば、被害者側からの執拗な挑発があった、あるいは加害者に先に暴力を振るったなど、加害者側が一方的に悪いとは言えない状況であれば、示談金の減額交渉の材料となり得ます。
第三に、加害者が若年であったり、資力が乏しかったりする場合です。ただし、これは限定的な要因であり、「お金がないから払わない」という主張が通るわけではありません。被害者側も、現実的に支払いが不可能な相手に無理な要求をしても意味がないと判断し、多少の減額に応じる可能性もあります。しかし、この場合は支払い能力を証明する客観的な資料の提出が必要になるでしょう。第四に、加害者に有利な情状が存在する場合です。たとえば、加害者が高齢の親の介護をしており、長期の身柄拘束や実刑判決が下されると家族の生活に重大な支障が生じる、といった事情があれば、被害者や検察官、裁判官の心証に影響を与え、示談金額に一定の考慮がなされる可能性も考えられます。
示談金が高すぎる…払えない場合の対処法
傷害事件を起こしてしまい、被害者の方から相場を大幅に超える高額な示談金を提示されたり、あるいは提示された金額が妥当であったとしても、現状の資力では支払いが困難であったりする場合、どうすれば良いか途方に暮れてしまうかもしれません。感情的になった被害者から、法外な要求をされるケースも少なくないため、そのような状況で冷静に対応するための具体的な方法を知っておくことが大切です。
「払えないから」と諦めてしまうのではなく、取りうる手段はいくつか存在します。このセクションでは、高額な示談金に直面した際にどのように対処すべきか、具体的な方法を解説していきます。
弁護士を通じて減額交渉を行う
被害者から提示された示談金が相場と比較してあまりに高額である場合、最も有効な対処法は弁護士に依頼して減額交渉を行うことです。加害者本人で交渉すると、感情的な対立が再燃したり、冷静な話し合いができなかったりする可能性が高まります。しかし、弁護士が介入することで、感情論を避け、法的な根拠や過去の判例に基づいた客観的な交渉が可能になります。
弁護士は、提示された金額のどの部分が法的に不相当であるか、あるいは過去の裁判例から見てどの程度が妥当であるかといった具体的な根拠を提示し、適正な示談金相場に着地させるよう交渉を進めます。加害者本人が交渉するよりも、はるかに冷静かつ効果的な交渉が期待でき、結果として適正な金額で合意に至る可能性が高まります。
分割払いを提案する
示談金の金額自体は妥当であっても、一括での支払いが経済的に困難な場合があります。そのような場合の次善策として、被害者に対して分割払いを提案することを検討しましょう。
被害者側としては一括での支払いを希望するのが一般的ですが、加害者に資力がないために「全く支払われない」状況になるよりは、「分割であっても確実に支払われる」方が良いと考える被害者も少なくありません。分割払いを提案する際は、ご自身の支払い能力について誠実に説明し、いつまでに、いくらずつ支払うのかといった具体的な支払い計画を明確に提示することが重要です。この合意内容は示談書に明記し、法的に有効な形で残しておく必要があります。
示談を拒否された場合は「贖罪寄付」も検討する
被害者の中には、加害者からの金銭の受け取りを一切拒否し、示談そのものを頑なに拒む方もいらっしゃいます。そのような場合でも、加害者として反省の意を示し、刑事処分において有利な情状を得るための手段として「贖罪寄付」や「供託」を検討することができます。
贖罪寄付とは、加害者が自らの反省の気持ちを形にするために、弁護士会や日本赤十字社、交通遺児育英会などの慈善団体に金銭を寄付する制度です。一方、供託は、被害者が賠償金の受領を拒否した場合に、加害者が法務局にその賠償金を預ける制度です。これらの行為は、被害者への直接的な賠償ではないため示談ほど強力な効果があるとは言えませんが、加害者が反省し、被害回復に努めた客観的な証拠として、検察官や裁判官が刑事処分を決定する際に考慮してもらえる可能性があります。
傷害事件の示談交渉を成功させる4つのステップ
傷害事件を起こしてしまい、示談交渉で早期解決を目指す方にとって、具体的な手続きの流れは非常に重要な情報です。示談交渉は、一歩間違えれば関係を悪化させ、かえって事態をこじらせる可能性もあります。この章では、示談交渉をスムーズかつ確実に進めるための具体的なステップを、順を追って解説します。ここでは「STEP1:被害者の連絡先を入手する」から「STEP4:示談金を支払い、示談書を提出する」までの4つの段階に分けて、それぞれのステップで何をすべきか、どのような点に注意すべきかを詳しく見ていきましょう。
STEP1:被害者の連絡先を入手する
示談交渉を始めるには、まず被害者の方と連絡を取る必要があります。しかし、加害者ご本人が直接、警察や検察に問い合わせても、多くの場合、個人情報保護を理由に被害者の連絡先を教えてもらうことはできません。被害者の方も、加害者本人からの連絡を望まないケースがほとんどです。
このような状況で被害者の連絡先を入手する最も現実的で有効な手段は、弁護士に依頼することです。弁護士は、「示談交渉のため」という正当な目的を説明することで、捜査機関(検察官など)を通じて被害者の連絡先を入手できる可能性が高まります。弁護士が間に入ることで、被害者の方も安心して連絡先を提供してくれることも少なくありません。弁護士なしでは、示談交渉のスタートラインにすら立てないことが多いため、この段階で弁護士に相談することの重要性は非常に高いと言えます。
STEP2:謝罪と示談条件の交渉
被害者の連絡先が入手できたら、いよいよ具体的な交渉に入ります。この段階で何よりも重要なのは、加害者ご本人による真摯な謝罪です。弁護士を通じて謝罪の意を伝えることはもちろん、必要であれば、弁護士立ち会いのもとで直接謝罪する機会を設けることも検討すべきです。また、手書きの謝罪文を用意することも、反省の気持ちを伝える上で有効な手段となります。
その上で、弁護士が代理人として、示談金の具体的な金額やその支払い方法、そして被害者の方が加害者の処罰を望まないことを示す「宥恕(ゆうじょ)文言」を盛り込むかどうかなど、詳細な示談条件について被害者側と冷静に交渉を進めていきます。加害者本人が感情的になって交渉を試みると、かえって被害者の感情を刺激し、トラブルを深刻化させるリスクがあります。弁護士が法的な観点から客観的に交渉を進めることで、適切な示談条件での合意形成を目指します。
STEP3:法的に有効な示談書を作成する【重要】
示談条件について双方の合意が得られたら、その内容を「示談書」として書面に残します。この示談書は、合意内容を法的に証明する唯一の書面となるため、その作成は極めて重要です。示談書には、一般的に以下の項目を明確に記載する必要があります。
当事者(加害者と被害者)の氏名や住所
事件の具体的な概要(いつ、どこで、どのような経緯で発生したか)
示談金の具体的な金額と、支払い期日、支払い方法
被害者が加害者の処罰を望まない旨の条項(宥恕条項)
示談書に記載された内容以外には、事件に関して今後一切の債権債務関係がないことを確認する条項(清算条項)
これらの項目に漏れがあったり、表現が曖昧であったりすると、後に無効と判断されるリスクや、新たなトラブルの原因となる可能性があります。特に、清算条項や宥恕条項は、今後の刑事手続きに大きな影響を与えるため、弁護士による法的に有効な示談書の作成が不可欠です。
STEP4:示談金を支払い、示談書を検察官に提出
示談書に加害者と被害者の双方が署名・捺印を済ませたら、示談書に記載された期日までに、約束どおり示談金を被害者の方に支払います。支払い方法(現金手渡し、銀行振込など)も示談書に明記し、確実に実行することが重要です。支払いと引き換えに、被害者から示談書の原本を受け取ることで、一連の示談交渉が完了します。
そして最も重要な最終ステップは、作成した示談書の写しを、速やかに事件を担当している検察官や裁判所に提出することです。示談が成立したという事実は、加害者にとって非常に有利な情状となりますが、その情報が捜査機関や裁判所に伝わらなければ意味がありません。示談書を提出することで、初めて示談が刑事手続きにおいて考慮され、不起訴処分や刑の軽減といった効果が期待できるようになります。提出が遅れると、すでに起訴されてしまったり、判決が下されてしまったりする可能性もあるため、タイミングを逃さないよう注意が必要です。
傷害事件の示談交渉を弁護士に依頼すべき5つの理由
傷害事件を起こしてしまい、その後の対応に不安を感じている方は少なくないでしょう。示談交渉は、刑事処分の回避や軽減、そして何よりも平穏な日常を取り戻すために極めて重要です。しかし、加害者本人が示談交渉を進めることには、感情的な対立や法的な知識不足からくる多くの困難が伴います。
理論上は本人でも交渉可能ですが、実際には深刻なデメリットが生じ、かえって事態を悪化させてしまうリスクも考えられます。そこで、このセクションでは、なぜ示談交渉を弁護士に依頼すべきなのか、その具体的な理由を5つに分けて詳しく解説します。弁護士に依頼することで、よりスムーズかつ有利に、そして確実に事件を解決できる可能性が高まることをご理解いただけるはずです。
理由1:被害者が交渉に応じてくれやすい
弁護士に示談交渉を依頼する最大のメリットの一つは、被害者の方が交渉に応じてくれやすくなる点です。多くの場合、被害者は加害者に対して強い怒りや恐怖心を抱いており、加害者本人からの連絡には応じたくないと考えています。直接連絡を試みても、拒否されたり、感情的に対応されたりすることがほとんどです。
しかし、第三者であり法律の専門家である弁護士が間に入ることで、被害者の方も冷静に話を聞く態勢になりやすくなります。弁護士は示談交渉の目的と法的な枠組みを明確に説明し、感情的な側面を排して客観的に話し合いを進めることができるため、交渉のテーブルについてもらいやすくなるのです。弁護士なしでは、そもそも交渉のスタートラインにすら立てないケースも少なくありません。
理由2:加害者本人が対応する感情的なトラブルを回避できる
加害者本人が直接被害者と交渉することは、新たな感情的なトラブルを引き起こすリスクが非常に高いです。加害者側が良かれと思って述べた謝罪の言葉が、被害者の感情を逆なでしてしまったり、逆に被害者からの厳しい言葉に加害者が感情的になってしまったりと、さらなる対立に発展してしまう恐れがあります。
弁護士が代理人として交渉にあたることで、こうした感情的な対立を未然に防ぐことができます。弁護士はあくまで冷静な第三者として、客観的な事実と法的主張に基づいて話し合いを進めます。これにより、感情論に終始することなく、建設的な解決へと導くことが可能になり、加害者と被害者双方の精神的な負担を軽減することにも繋がります。
理由3:適正な示談金額での早期解決が期待できる
示談金の金額交渉は、専門知識がなければ非常に難しいものです。加害者本人は、早く事件を終わらせたいという焦りや、法律知識の欠如から、相場を大きく超える被害者の要求を鵜呑みにしてしまう危険性があります。不当に高額な示談金を支払ってしまえば、経済的な負担が大きくなるだけでなく、後々の後悔にもつながりかねません。
刑事事件に精通した弁護士であれば、怪我の程度や事案の内容に応じた適正な示談金の相場を熟知しています。そのため、不当に高額な要求に対しては毅然と交渉し、法的な根拠に基づいた妥当な金額での合意を目指すことができます。結果として、迅速かつ適正な金額での解決が期待でき、加害者の経済的負担を最小限に抑えることにも繋がります。
理由4:職場や家族に知られずに解決できる可能性が高まる
傷害事件を起こしてしまった際、多くの方が心配されるのが、事件が職場や家族に知られてしまうことでしょう。弁護士に依頼することで、このリスクを最小限に抑えられる可能性が高まります。
弁護士は、示談交渉を迅速に進め、早期の身柄解放や不起訴処分の獲得を目指します。事件が早期に解決し、刑事手続きが終結すれば、逮捕された事実が会社や学校に発覚する前に事件を終結させられる可能性が高まります。また、家族への説明や対応についても弁護士がサポートすることで、精神的な負担を軽減し、周囲への影響を最小限に抑えながら事件解決を図れるという大きなメリットがあります。
理由5:刑事手続きを有利に進めるための弁護活動を任せられる
弁護士の役割は、示談交渉だけにとどまりません。示談交渉と並行して、刑事手続き全体を通じて加害者の権利を守り、最善の結果を得るための包括的な弁護活動を行います。具体的には、警察や検察の取り調べに対する適切なアドバイス、不当な身柄拘束に対する不服申し立て(準抗告など)の実施、そして検察官や裁判官に対して加害者に有利な事情を主張する意見書の作成・提出などです。
示談が成立した場合、その事実を最大限刑事処分に反映させるための専門的な働きかけが不可欠です。弁護士は、示談が成立していることを検察官や裁判官に適切に伝え、不起訴処分や執行猶予付き判決など、加害者にとって最も有利な結果を得られるよう尽力します。このように、刑事手続きの専門家である弁護士に依頼することで、あらゆる段階で強力なサポートを受けられるのです。
傷害事件を弁護士に依頼した場合の費用相場
弁護士に依頼することで、傷害事件の早期解決や前科回避といった大きなメリットが得られることはご理解いただけたかと思います。しかし、次に気になるのは「具体的にどのくらいの費用がかかるのか」という点ではないでしょうか。弁護士費用は決して安価なものではありませんが、それによって得られる安心や社会生活への影響を最小限に抑えられるメリットは計り知れません。この章では、弁護士費用の一般的な内訳と、傷害事件における費用相場を具体的に解説していきます。弁護士費用の全体像を把握し、依頼を検討する上での参考にしてください。
弁護士費用の内訳(相談料・着手金・成功報酬)
弁護士費用は、主に「相談料」「着手金」「成功報酬」の3つの要素で構成されているのが一般的です。まず、相談料とは弁護士に法律相談をする際にかかる費用のことを指します。多くの法律事務所では、初回相談を無料としている場合も少なくありません。次に、着手金は弁護士に正式に事件の依頼をした際に最初に支払う費用で、結果にかかわらず返還されないのが原則です。これは、弁護士が事件に着手するための費用として位置づけられます。そして、成功報酬は、不起訴処分や執行猶予付き判決の獲得、示談の成立など、依頼した事件で一定の成果が得られた場合に、その成果の度合いに応じて支払う費用です。これらの3つの費用が組み合わさることで、弁護士費用総額が決まります。
傷害事件の弁護士費用の目安
傷害事件を弁護士に依頼した場合の費用は、事案の複雑さや事件がどの段階で解決するかによって大きく変動しますが、一般的な目安としては総額で60万円から100万円程度になることが多いです。具体的には、着手金が30万円から50万円程度、成功報酬が30万円から50万円程度となるケースが多いでしょう。ただし、これはあくまで目安であり、被害者の怪我の程度が重く交渉が難航する場合や、刑事裁判にまで発展した場合などには、さらに費用がかさむ可能性もあります。また、法律事務所によっては、事件が起訴されずに解決した場合と、起訴されて裁判になった場合とで、着手金や成功報酬の体系が異なることがありますので、依頼する前に必ず費用体系を確認することが重要です。
傷害事件の示談に関するよくある質問(Q&A)
この章では、傷害事件の示談に関して、多くの方が疑問に思われる質問をQ&A形式で解説します。これまでの内容で触れきれなかった点や、読者の方が抱きやすい具体的な疑問について、分かりやすくお答えしていきます。
Q. 傷害罪と暴行罪の違いは何ですか?
傷害罪と暴行罪の最も大きな違いは、「相手に怪我をさせたかどうか」という点にあります。暴行罪は、人に暴行を加えたものの、その結果として相手に怪我をさせなかった場合に成立します。例えば、平手打ちをしたけれど怪我はなかった、といったケースが該当します。一方、傷害罪は、暴行によって相手の身体を「傷害」させた場合に成立する犯罪です。ここでいう「傷害」とは、単なる外傷だけでなく、体調不良や精神的な苦痛といった生理機能の障害も含まれるとされています。つまり、怪我という結果が発生したかどうかが両罪の分かれ目となります。
法定刑も大きく異なり、傷害罪は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」と定められているのに対し、暴行罪は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」と、傷害罪の方が重い刑罰が科せられることになります。
Q. 示談金と慰謝料は違うものですか?
「示談金」と「慰謝料」は混同されやすい言葉ですが、それぞれ異なる意味を持ちます。「示談金」とは、加害者が被害者との和解のために支払う金銭全般を指す総称です。これには、被害者が被った様々な損害を補填するための項目が含まれます。
それに対して「慰謝料」は、示談金を構成する項目の一つであり、特に被害者が受けた精神的な苦痛に対する賠償金を指します。具体的には、傷害事件による恐怖、痛み、屈辱といった精神的損害に対して支払われるお金です。したがって、「示談金」という大きな枠組みの中に「慰謝料」が含まれる関係性となります。多くの場合、示談金は「慰謝料」の他に、実際に発生した「治療費・通院交通費」や、仕事ができなかったことによる「休業損害」などの合計額として算出されます。
Q. 被害者に示談を拒否されたらどうすればよいですか?
被害者から示談交渉を拒否されてしまうケースは少なくありません。加害者本人に対する強い不信感や処罰感情から、一切の連絡を拒否されたり、金銭の受け取りに応じてもらえなかったりする場合があります。このような状況で最も有効なのは、やはり弁護士を通じて粘り強く交渉を継続することです。弁護士が間に入ることで、被害者の方も冷静に対応してくださる可能性があります。
しかし、それでも被害者が示談を頑なに拒否し、金銭の受け取りを拒むような場合は、「贖罪寄付(しょくざいきふ)」や「供託(きょうたく)」といった代替手段を検討することも重要です。贖罪寄付とは、反省の意を示すために、弁護士会や交通遺児育英会などの慈善団体に金銭を寄付する制度です。また、供託は、被害者が受け取りを拒否している賠償金を法務局に預ける制度です。これらの行動は、被害者への直接的な賠償ではないため、示談ほどの効果は期待できません。しかし、加害者が反省し、償いをしようと努力している姿勢を客観的な形で示すものとして、検察官や裁判官が刑事処分を判断する際に有利な情状として考慮してくれる可能性があります。
Q. 示談が成立すれば、絶対に前科は付きませんか?
示談が成立したからといって、「絶対に前科が付かない」と断言することはできません。しかし、起訴前に示談が成立し、特に被害者が加害者の処罰を望まない旨の意思(宥恕意思)を示している場合は、検察官が不起訴処分とする可能性が「非常に高く」なります。
最終的な起訴・不起訴の判断は検察官に委ねられています。そのため、示談が成立していても、犯行態様が極めて悪質であったり、加害者に同種の前科が多数あったりするなど、事案の悪質性が高い場合には、検察官が起訴に踏み切る可能性もゼロではありません。示談は刑事処分を回避または軽減するための強力な要因ではありますが、あくまで一つの要素として考慮されることを理解しておく必要があります。過度な期待はせず、弁護士と密に連携しながら、最善の結果を目指すことが重要です。
まとめ:傷害事件の早期解決は示談交渉が鍵。まずは弁護士に相談を
傷害事件を起こしてしまった場合、その後の人生への影響を最小限に抑えるためには、被害者との間で早期に示談を成立させることが極めて重要です。示談が成立することで、逮捕や勾留からの早期釈放、不起訴処分による前科の回避、あるいは起訴されたとしても刑の軽減といった、加害者にとって大きなメリットが得られます。
しかし、示談交渉は感情的な側面も強く、適切な示談金の算定や法的に有効な示談書の作成など、専門的な知識と交渉技術が不可欠です。加害者本人が直接交渉しようとすると、かえって事態を悪化させてしまったり、相場を超えた不当な要求に応じてしまったりするリスクも伴います。
したがって、傷害事件に直面した際は、独力で抱え込まず、速やかに刑事事件に精通した弁護士に相談することが最善の策です。弁護士は、被害者の連絡先入手から示談交渉、示談書の作成、そして検察官や裁判所への提出まで、示談成立に向けたプロセスを一貫してサポートしてくれます。あなたの未来を守るためにも、まずは一刻も早く弁護士に相談し、具体的な行動を起こすことを強くお勧めします。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。




