大麻栽培に適用される大麻取締法違反について
最終更新日: 2021年07月08日
はじめに
薬物犯罪のうち、大麻取締法違反は覚せい剤取締法違反に次いで検挙件数の多い薬物事件です。
平成30年の統計によりますと、大麻取締法違反の検挙件数は4605件でした。そのうち85%ほどが大麻所持事件であり、大麻栽培事件の検挙件数は175件と割合としては大きくありませんが、大麻種子や栽培道具の販売業者が逮捕されるとその顧客も芋づる式に逮捕されることが多く検挙件数は増加します。
最近はインターネットで大麻の栽培方法に関する情報、大麻種子、栽培に必要な器具を簡単に入手できますので、個人的に大麻を使用していた一般人が、興味本位で室内栽培を始めるケースが増えています。
今回は、大麻栽培に関する法律について弁護士がご説明いたします。
合法な大麻栽培と違法(犯罪)となる大麻栽培
大麻栽培というと不正栽培を想起しやすいですが、大麻は古くから、農業として栽培され、その繊維を採取した麻製品の製造、販売が行われてきました。
そのため、都道府県知事の免許を受けて農家が大麻を栽培することは合法です。また、都道府県知事の免許を受けて研究目的で栽培することも合法です。
もっとも、たとえ麻製品の製造という目的であったとしても、農家が免許を受けずに栽培をすれば大麻取締法に違反して刑罰を科されることになります。
大麻取締法は、このように合法に大麻を栽培できる大麻栽培者及び大麻研究者を「大麻取扱者」としています(大麻取締法第2条1項)。
大麻栽培で逮捕に至る経緯
大麻の栽培は人目のつきにくい山林で行われることもありますが、室内やベランダで行われるケースも多くあり、近所の人が警察に通報をして逮捕に至ることがあります。
また、室内栽培の場合には、照明など特殊な設備を常時稼働させますので、出火原因となることがあります。そして、火事になって駆け付けた消防、警察によって大麻栽培を現認され、逮捕に至ることがあります。
最も多いケースは、栽培した大麻の購入者が逮捕され、そこから入手ルートをたどる捜査が行われて、大麻の栽培者までたどりつき、逮捕に至るケースです。栽培した大麻を売れば売るほど逮捕される可能性が高まるといえます。
大麻栽培の刑罰に関する法律の規定
大麻取締法第24条は以下のように規定しています。
- 大麻を、みだりに、栽培し・・・た者は、七年以下の懲役に処する。
- 営利の目的で前項の罪を犯した者は、十年以下の懲役に処し、又は情状により十年以下の懲役及び三百万円以下の罰金に処する。
- 前二項の未遂罪は、罰する。
「栽培」とは、種まきから収穫に至るまでの育成行為をいいます。とはいえ、種をまいた時点で大麻の栽培という犯罪としては既遂となり、その後に採取することなく引き抜いて捨てたとしても犯罪の成立には影響しません。
大麻栽培は大量の大麻が生産され、無償・有償で多数の人に譲渡される可能性があり、社会に与える害悪が大きいことから、大麻所持と比較しても非常に重い懲役刑が定められており、初犯であっても執行猶予が付かない可能性もあります。
なお、営利目的の場合には、原則として懲役刑に加えて罰金刑も科されます。
初犯の大麻栽培の懲役刑は実刑判決か、執行猶予判決か
営利目的の栽培の場合には、初犯であってもほぼ実刑判決となります。では、営利目的でない栽培の場合はどうでしょうか。
大麻栽培の場合、所持していた大麻の量が100グラムや200グラムと大量になることが通常です。過去の量刑傾向を踏まえますと、初犯であれば2年から3年の懲役刑で、3年から4年の執行猶予判決となることが多いようです。
種子の販売も大麻栽培の罪に問われます!
発芽能力のある大麻種子を販売した場合、販売者はどのような罪に問われるのでしょうか。
大麻栽培の幇助罪
購入した者が大麻の種子をまいたとき、大麻栽培は既遂となりますので、この時点で栽培に使われることを知っていた販売者は大麻栽培の幇助罪となります。
大麻栽培の予備罪
購入者が栽培に着手する以前の段階では、購入者は大麻栽培の予備罪として処罰される可能性があります。その場合、販売者は大麻栽培の予備罪の幇助としてではなく、資金提供罪としてそれよりも重く(3年以下の懲役)処罰されることになります。
大麻種子は、大麻取締法の規制対象である「大麻」から除外されています。本来は発芽能力のある種子が出回らないような法制度になっていますが、密輸などによって市場に出回っています。
この種子を所持しているだけではなかなか大麻栽培の予備罪で検挙することは難しいですが、照明器具や肥料、栽培マニュアル本などを持っていると、大麻栽培の予備罪で検挙されることになります。
もっとも、大麻栽培の予備罪の場合は、未だ違法性は高くはないことから、在宅捜査で書類送検され、起訴猶予処分となる可能性があります。
予備罪
「第二十四条第一項又は第二項の罪を犯す目的でその予備をした者は、三年以下の懲役に処する。」(大麻取締法第24条の4)
資金提供罪
「情を知つて、第二十四条第一項又は第二項の罪に当たる行為に要する資金、土地、建物、艦船、航空機、車両、設備、機械、器具又は原材料(大麻草の種子を含む。)を提供し、又は運搬した者は、三年以下の懲役に処する。」(大麻取締法第24条の6)
おおり、唆し(そそのかし)
インターネット上で大麻種子を販売する場合、ウェブページ上の表示内容によっては、大麻栽培を助長したとして麻薬特例法のあおり、唆しの罪で検挙される可能性があります。
「薬物犯罪(前条及びこの条の罪を除く。)、第六条の罪若しくは第七条の罪を実行すること又は規制薬物を濫用することを、公然、あおり、又は唆した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」(麻薬特例法第9条)
大麻の栽培と所持
大麻を栽培し、その後、葉っぱを乾燥させたり、それを加工した製品を所持していた場合、栽培罪の他、所持罪も成立し、加重された罪で処罰されます。
大麻栽培の公訴時効
刑事訴訟法第250条2項によると、大麻栽培については、5年を経過すると時効となり、営利目的の大麻所持については時効期間は7年です。
最後に
以上、大麻栽培に関する法律についてご説明しました。
大麻栽培は暴力団が資金源とするために組織的に行われるというイメージがあるかもしれませんが、ニュースを見ていると大麻を愛好して使用していた一般人が逮捕されている例が多く見られます。
売人から買うことにはリスクが付きまといますし、自分で栽培した方が安上がりではないかという安易な動機から栽培を始め、沢山収穫できたので、そのうち親しい友人に売るようになり、しまいには逮捕され、営利目的栽培、所持という非常に重い罪で起訴されてしまうことになるのです。
単純所持とは異なり、初犯であっても身柄拘束期間は長期に及ぶことが通常です。また、営利目的栽培、所持で起訴され、被告人になった場合には、初犯であっても高い可能性で執行猶予が付かずに実刑判決となります。
そのため、早期の身柄解放、刑事裁判における減刑のための弁護士の活動が非常に重要となります。
大麻栽培に関連して逮捕された場合、容疑をかけられ被疑者となった場合には、刑事事件の経験が豊富な弁護士にご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。