徹底すべきエンドポイントセキュリティ:リスクと法的責任を回避する対策

最終更新日: 2025年11月14日

徹底すべきエンドポイントセキュリティ:リスクと法的責任を回避する対策

従来は境界防御によってファイアウォールの内側は安全であるという前提がありました。しかし、一度内部に侵入されてしまうと被害が拡大してしまうという問題や、クラウドサービスやテレワークなどのネットワーク環境の変化から、境界の内部も外部も信用しないというゼロトラストという考え方が昨今はセキュリティ対策の主流となっています。

ゼロトラストにおいてはネットワーク内部への攻撃者の侵入を完全に防ぐことはできないという前提のもと、セキュリティ対策を講じます。そこで重要となるのが、サーバー、社員が使用するパソコン、スマートフォンなどのエンドポイントのセキュリティ対策です。

エンドポイントのセキュリティ対策の不備は、不正アクセスによる被害拡大の直接的な原因となり、結果として企業に多額の損害賠償や行政処分といった法的責任と社会的責任をもたらします。本コラムでは、企業が取るべきエンドポイントセキュリティの具体的な対策と、その不備が引き起こす法的リスクの回避策について解説します。

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
宅地建物取引士

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エンドポイントセキュリティの重要性と法的リスク

エンドポイント(サーバー、PC、スマートフォンなど)は、機密情報が扱われ、かつ外部との接続が頻繁に行われるため、最も攻撃を受けやすいポイントです。この対策が不十分であると、以下の深刻なリスクに直面します。

インシデント発生源となるリスク

ランサムウェア感染拡大

社員のパソコンがランサムウェアに感染し、そこから他のパソコンやサーバーへ感染が拡大し、重要なデータが暗号化される事例が発生しています。

不正アクセス・情報漏洩の起点

VPN機器の脆弱性を突いた攻撃や、社員の端末がマルウェアに感染したことによる不正アクセスが、顧客情報漏洩の直接的な原因となります。

法的責任に直結するリスク

エンドポイント管理の不備は、インシデント発生後の企業の法的責任に直接影響します。

過失認定のリスク

基本的なセキュリティ対策(パッチ適用、ウイルス対策ソフト導入など)を怠っていた場合、「適切な安全管理措置を講じていなかった」と判断され、民事上の損害賠償責任を問われる可能性が高まります。

行政処分の可能性

エンドポイントの脆弱性が原因で個人情報が漏洩した場合、個人情報保護法に基づき、個人情報保護委員会への報告義務が生じます。不備が重大であれば、行政指導や行政処分を受けるおそれがあります。

エンドポイントセキュリティ対策の基本と法的観点

エンドポイントセキュリティは、単にウイルス対策ソフトを導入するだけでなく、「検知・防御・対応」を一貫して行う体制づくりが重要です。

技術的な基本対策

OS・ソフトウェアの最新化(パッチ適用)

脆弱性を悪用した攻撃を防ぐため、OSやアプリケーションのセキュリティパッチ(修正プログラム)を迅速に適用することが重要です。

EDRの導入

エンドポイントを監視し、攻撃を関知するとそれを封じ込めるEndpoint Detection and Responseを導入することが重要です。

多要素認証(MFA)の導入

アカウント乗っ取りを防ぐため、パスワードだけでなく、別の認証要素(生体情報やワンタイムパスワードなど)を必須とします。

バックアップの徹底

ランサムウェアなどの攻撃に備え、感染端末からネットワーク的に隔離された場所(オフラインまたはクラウド)に、重要データの完全バックアップを定期的に取得しておくことが必須です。

エンドポイント管理と法務の連携

アクセス権限の管理

機密情報へのアクセス権限を必要最小限に限定し、不正アクセス時の被害範囲を限定します。

証拠保全のルール化

インシデント発生時に、エンドポイントの電源を切断せず、ログやメモリなどのデジタル証拠を確実に保全するための手順を、社内マニュアルに明記します。この証拠保全は、後の警察捜査や法的対応の基礎となります。

エンドポイントセキュリティインシデント発生時の対応フロー

エンドポイントでのセキュリティインシデント(ウイルス感染、不正アクセスなど)が発覚した場合、以下の初動対応が法的リスクの最小化につながります。

対応フロー

対応内容

法的・実務的ポイント

ネットワーク隔離

感染端末を直ちにネットワークから切り離す(LANケーブルを抜くなど)。

他の機器やサーバーへの感染拡大を防ぐことが最優先。

責任者への報告

経営層や情報システム、法務部門へ即座に報告し、対応チームを立ち上げる。

従業員による自己判断での操作や電源断は厳禁

専門家への連携

フォレンジック専門会社情報セキュリティに精通した弁護士へ速やかに連絡する。

法的報告義務の判断証拠保全の指示を仰ぎ、初動の遅れを防ぐ。

証拠保全

専門家の指示に基づき、端末のログやディスクイメージを保全し、被害範囲を特定する。

後の損害賠償請求(民事)被害届提出(刑事)に必要な証拠を確保する。

法的・対外的な対応

個人情報保護委員会への報告、被害者への通知、警察への被害届提出などを、弁護士と協議しながら進める。

公表内容やタイミングは、将来的な訴訟リスクを考慮して慎重に判断する。

まとめ:エンドポイントの防御こそが最大の防御策

企業の情報セキュリティ対策において、エンドポイントセキュリティはネットワークの最前線であり、最も重要な防御ラインです。

エンドポイント管理の不備は、インシデント発生時に企業の法的責任を重くする主要因となります。技術的な対策(パッチ、多要素認証)に加え、情報処理安全確保支援士の資格を持つ弁護士など、情報セキュリティに精通した専門家と平時から連携体制を構築し、万一の際に迅速かつ法的に適切な対応ができる体制を整えておくことが不可欠です。

よくある質問(FAQ)

Q:エンドポイントセキュリティ対策として、従業員のスマートフォンも対象にすべきですか?

A. はい、対象にすべきです。業務で利用するスマートフォンやタブレット(BYOD含む)は、機密情報へのアクセス経路であり、情報セキュリティガイドラインにおいてもエンドポイントに含まれます。紛失・盗難時のデータ消去機能の導入や、セキュリティ設定の強化を義務付けるなど、適切な管理方針を定める必要があります。

Q:エンドポイントで情報漏洩が発生した場合、弁護士に相談する最適なタイミングはいつですか?

A. インシデント発生直後、初動対応段階での相談が最も理想的です。弁護士に早期に関与させることで、法的に有効な証拠保全の指示を受けられるほか、個人情報保護委員会への報告内容や公表方針を法的観点から適切に判断でき、後のトラブルや手続きの遅延を防ぐことができます。即座に連絡できるよう情報セキュリティを専門とする弁護士と顧問契約を結んでおくことをお勧めします。

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