サイバーセキュリティ契約書はテンプレートで十分?委託先管理で押さえるべき重要条項
2025年11月10日
「クラウドサービスや業務委託が増えたけど、情報漏洩が怖い…」「契約書にセキュリティ条項を入れているけど、本当にこれで十分?」
デジタル化が進む現代において、サイバーセキュリティは企業にとって最重要課題の一つです。自社のセキュリティ対策はもちろんですが、業務を外部に委託する場合、その委託先の管理体制まで含めたセキュリティ対策が不可欠です。セキュリティ事故の多くは、委託先やサプライチェーンを経由して発生しており、自社に大きな損害をもたらす可能性があるからです。
本コラムでは、法律事務所の視点から、企業を情報漏洩リスクから守るために必要なサイバーセキュリティ契約の考え方と、契約書に盛り込むべき主要な条項について解説します。
なぜ「サイバーセキュリティ契約書」が必要なのか?
多くの企業がインターネットの脅威にさらされる中、契約書は単なる取引条件の確認書ではありません。万が一のインシデント発生時、自社を守り、損害を最小限に抑えるための「リスクヘッジの砦」となります。
損害賠償リスクの明確化
インシデントが発生した場合、被害企業は委託先に対して損害賠償を請求する権利を有しますが、契約書に具体的な責任範囲や賠償内容が明記されていないと、長期の法廷闘争になるリスクがあります。
法令遵守(コンプライアンス)の確保
個人情報保護法や各種業界ガイドライン(金融、医療など)は、委託先に対しても適切な情報管理を求めています。契約書のテンプレートを使用する際も、これらの法令・ガイドラインの最新要件を満たしているかを確認し、遵守義務を明確にすることが必要です。
セキュリティ安全性の確保
そもそもインシデント発生を防止するための契約条項が重要です。自社のセキュリティポリシーを満たすセキュリティ対策を実施していることの表明保証、セキュリティ対策の実施状況の監査受け入れ、第三者機関による監査報告の提出義務など委託先のセキュリティ安全性を確保する契約書とするべきです。
テンプレートを利用する際の限界と注意点
市販されている、あるいはインターネット上で入手できる契約書テンプレートは、契約のベースとしては有用です。しかし、企業の業態や委託する業務内容、取り扱う情報の機密性によって、必要なセキュリティレベルは異なります。
テンプレートは「汎用性」を優先している
多くのテンプレートは、多くの企業に当てはまるよう、一般論的な内容になりがちです。しかし、取引内容や委託先によって特に留意すべき点があります。そのような場合にはテンプレートをそのまま利用するだけでは期待した効果を得ることができません。
常に最新の脅威に対応できていない
サイバー攻撃の手法は日々進化しています。新たな攻撃手法を前提とした条項を契約書に加えるべき場合があります。しかし、テンプレートの更新頻度が低い場合、そのような新たな攻撃への対応策が不足する可能性があります。
【必須】委託先管理を強化するための契約条項例
委託先との契約をより実効的なものにするため、以下の例を参考に、貴社の契約書を見直してください。これらは、万が一の際の紛争予防・解決に不可欠な項目です。
条項名 | 盛り込むべき具体的な内容(例) | 契約上の重要性 |
セキュリティ体制と技術的対策の義務 | 適用される法令・ガイドラインの遵守、具体的なセキュリティ基準(例:ファイアウォールの設置、多要素認証の導入、重要データサーバーのネットワーク分離)の導入と維持。 | 委託先のセキュリティ対策を自社のセキュリティポリシーを満たすものとする。 |
監査・調査権 | 委託者(発注側)が、委託先のセキュリティ体制や実施状況を定期的に、またはインシデント発生時に監査・調査できる権利。 | 実効性のある委託先管理を可能にする。 |
インシデント発生時の報告義務と対応 | 漏洩や不正アクセス等のインシデント発生時における、速やかな報告(例:〇時間以内)および、委託者の指示に従った対応、原因究明と再発防止策の実施義務。 | 初動対応の遅れによる損害拡大を防ぐ。 |
再委託に関する制限・管理 | 再委託を行う場合の事前の書面承諾義務、および再委託先に対しても本契約と同等のセキュリティ義務を負わせることの義務化。 | サプライチェーン全体のリスク管理。 |
契約終了後の情報破棄・返還 | 契約終了後、速やかに全ての機密情報を完全に消去または返還し、その証明書を提出する義務。 | 契約終了後の情報流出リスクを根絶する。 |
適切な外部委託契約の策定を
現代のビジネスにおいて、外部委託契約は必須のリスクマネジメントです。特に、機密情報や個人情報を取り扱う契約においては、テンプレートをベースにしながらも、具体的な業務内容とリスクに応じたカスタマイズが不可欠となります。
企業のビジネスモデルや技術的要件、取り扱う情報の機密性を詳細に分析した上で、実効性の高いサイバーセキュリティ契約書の作成・レビューのサポートを弁護士に依頼する必要があります。特に情報処理安全確保支援士の資格をもつ弁護士であれば技術面をよく理解しているので一層実効性のある契約書の作成を期待できるでしょう。
セキュリティは、守りの姿勢だけでなく、信頼構築による攻めの経営にも繋がります。貴社のリスクを適切にコントロールするため、専門家である弁護士にご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。




