新しい働き方を守る!クラウド・IoT・モバイルデバイスのセキュリティ戦略

2025年11月14日

新しい働き方を守る!クラウド・IoT・モバイルデバイスのセキュリティ戦略

現代の企業活動において、クラウドサービスの利用、IoTデバイスの導入、そして従業員による私有デバイス(BYOD)の活用は、もはや欠かせない要素となっています。これらは業務効率を飛躍的に向上させる一方で、従来の「社内ネットワークの境界を守る」というセキュリティモデルでは対応しきれない、新しいセキュリティリスクを生み出しています。

本コラムでは、新しいIT環境における具体的なリスクと、それらを効果的に管理し、情報漏洩を防ぐための実践的なセキュリティ対策を解説します。

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
宅地建物取引士

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クラウドセキュリティの課題と対策

多くの企業が基幹システムやデータ保存にクラウド(SaaS, PaaS, IaaS)を利用していますが、セキュリティ責任の所在が曖昧になりがちです。

クラウドセキュリティの「責任共有モデル」を理解する

クラウド環境では、セキュリティ責任は利用者側とプロバイダー側で分担されます。ほとんどの企業では会計ソフト、勤怠管理システム、ビジネスチャットなど何かしらのSaaS(Software as a Service)を利用しています。SaaSにおけるプロバイダと利用者の責任分担は以下のとおりです。

プロバイダーの責任(クラウド側)

ハードウェアからアプリケーションまで提供されるサービス全体についてプロバイダが責任を負担します。

利用者の責任(ユーザー側)

利用者側はアプリケーションへのアクセス管理と保存するデータの管理についてのみ責任を負担します。

最大の課題は「設定ミス」:クラウドにおける情報漏洩の多くは、ユーザー側によるアクセス権限の不適切な設定(公開設定のミス)や、脆弱な認証情報が原因で発生しています。

ユーザー側で取り組むべき対策

適切なアクセス管理の徹底

多要素認証(MFA)を必須とし、クラウドサービスへのアクセスは必ず暗号化された通信(SSL/TLS)を利用します。

データ暗号化の実施

機密性の高いデータは、クラウドにアップロードする前に利用者側で暗号化を行うことで、万が一の設定ミスやプロバイダー側のインシデントに備えます。

クラウド設定の定期的な監査

クラウドセキュリティ設定の自動診断ツールなどを利用し、不適切な設定(パブリック公開設定など)がないか定期的にチェックします。

IoTセキュリティのリスクと対策

工場、オフィス、店舗などでネットワークに接続されるIoTデバイス(センサー、監視カメラ、複合機など)が増加しています。これらはセキュリティホールになりやすい傾向があります。

IoTデバイス特有のセキュリティリスク

監視が行き届きにくい

盗難・紛失や不正アクセス、ウィルス感染に気が付かず放置されやすい傾向があります。

脆弱なデフォルト設定

出荷時のデフォルトのパスワードが変更されていないケースが多く、攻撃者に簡単に侵入されるリスクがあります。

アップデートの困難さ

古いファームウェアのまま放置されがちで、脆弱性の修正が行われにくい場合があります。

実践的なIoT対策

状態の把握と記録

運用管理システムを導入する、ログの取得・チェックによってデバイスを監視します。

ネットワークからの分離

IoTデバイスを、機密データを持つ基幹システムと同じネットワークに接続しないように分離(セグメント化)します。

認証方式の強化

出荷時の認証情報を変更することはもちろんですが、公開鍵暗号方式による認証も検討します。

BYODとモバイルデバイス管理(MDM)の重要性

従業員の私物スマートフォンやタブレット(BYOD)を業務に利用する際、利便性が高まる一方で、紛失・盗難による情報漏洩リスクや、公私混同によるセキュリティリスクが増大します。

BYODのセキュリティ対策の要点

BYOD環境における情報漏洩リスクを管理するための鍵が、モバイルデバイス管理(MDM)の導入です。

モバイルデバイス管理(MDM)とは

企業が従業員のスマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスを一元的に管理・制御するための仕組みです。

MDMが実現すること

1.資産管理:ハードウェア、OS、アプリケーションなどの情報を収集します。

2.リモートワイプ(遠隔消去):デバイスの紛失・盗難時に、リモートワイプ、リモートロックによって、情報漏洩を防ぎます。

3.セキュリティ設定の強制適用:パスコードの設定や特定のアプリの利用制限など、企業が定めるセキュリティポリシーをデバイスに強制的に適用できます。

その他のモバイル対策

公衆Wi-Fi利用ルールの厳格化

業務データを取り扱う際は、セキュリティの低い公衆Wi-Fiの利用を禁止するか、VPN接続を義務付けます。

アプリの利用制限

業務に関係のないアプリのインストールをMDMで制限します。

FAQ(よくあるご質問)

Q:MDMを導入すると、従業員のプライベートも監視されてしまうのですか?

A. 高機能なMDMの多くは、業務領域と私的領域を明確に分離できます。企業が管理できるのは通常、業務データや業務アプリの設定のみであり、個人的な写真、メール、SNSの利用履歴などは監視の対象外となるように設定できます。導入前に管理範囲を従業員に明確に伝えることが重要です。

Q:クラウドの設定ミスを防ぐには、具体的にどうすればいいですか?

A. 最も効果的なのは、設定変更を個々の担当者に任せず、承認プロセスを設けることです。また、クラウド環境の設定を継続的に監視し、セキュリティリスクを自動で検知・通知してくれるCSPM(Cloud Security Posture Management)ツールの導入を検討しましょう。

Q:IoTデバイスに高額なセキュリティ製品を導入するのは難しいです。他にできることはありますか?

A. 最も安価で重要な対策は、「デフォルトパスワードの変更」と「ネットワークの分離」です。高額な製品を導入する前に、まずデバイス自体のセキュリティ設定を強化し、業務に重要な情報が置かれたネットワークから物理的・論理的に隔離することが基本です。

まとめ

クラウド、IoT、そしてモバイルデバイスの普及は、セキュリティ対策の範囲を「社内」から「社外のあらゆる場所」へと拡大させました。

これらの新しい脅威に対抗するためには、以下の対策が重要です。

クラウド:利用者の責任(アクセス管理と設定ミス防止)を果たす。

IoT:ネットワークからの分離デフォルト設定の変更を徹底する。

BYOD/モバイル: MDM(モバイルデバイス管理)を導入し、紛失・盗難時のデータ漏洩リスクに備える。

新しい働き方のメリットを最大限に享受するために、これらの新しい領域のセキュリティ戦略を早急に確立しましょう。

 

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