離婚届を勝手に出すのは罪?対処法は?専門弁護士が解説
最終更新日: 2024年02月13日
- 配偶者がなかなか離婚に合意しないので、離婚届を勝手に出してもよいか?
- 離婚届を勝手に提出し、罪に問われる場合があるのか?
- 離婚届を勝手に出された場合、どのように対応すべきか?
協議離婚の場合は市区町村役場に離婚届の提出をします。まずは夫婦が離婚について話し合い、合意してから離婚届の提出が必要です。
そのため、夫婦の一方が早く離婚をしたいからと、協議もせず勝手に出した離婚届は無効です。
そればかりか、離婚届を勝手に出してしまうと、罪に問われる可能性があるので注意しましょう。
そこで今回は、多くの民事事件に携わってきた専門弁護士が、離婚届を勝手に出すとどうなるのか、勝手に提出された場合の対応等を詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 離婚届を勝手に出すのは無効であるばかりか、有印私文書偽造罪等に問われる可能性がある
- 調停離婚や裁判離婚等をした後なら、夫婦の合意不要で離婚届を提出できる
- 離婚届を勝手に出されたら、離婚無効確認調停・訴訟で無効を主張できる
離婚届を勝手に出すとどうなるのか
離婚について話し合っているが、なかなか離婚の条件が夫婦間で噛み合わず、合意にまで進まないケースもあります。
話し合いが進まないからといって、勝手に離婚届を提出すると、様々なトラブルが発生し、ペナルティを受ける可能性があります。
配偶者に通知される
離婚届を提出するときに、夫と妻双方が市区町村役場の窓口に行く必要はありません。そのため、夫婦の一方が勝手に提出すれば受理されてしまうケースもあります。
なお、本人が離婚届の提出のために出頭した事実を確認できないときは、市区町村長は当事者に通知しなければいけません(戸籍法第27条の2第2項)。
通知を受け、離婚届を同意なく提出した事実が発覚すれば、勝手に出した方の配偶者は信用を失い、ますます離婚の協議が進まなくなる事態も想定されます。
離婚が無効となる
夫婦の合意なく、夫婦の一方が離婚届を勝手に出した場合は無効です。
ただし、勝手に出された方の配偶者は、家庭裁判所に申し立て、離婚無効確認調停や離婚無効確認訴訟を行った上で、離婚を無効にできます。
罪に問われる
離婚届を勝手に市区町村役場へ提出した場合は、刑事罰を受ける可能性があります。
- 有印私文書偽造罪:私的な文書(離婚届)の署名・押印を偽造した場合に適用され、3か月以上5年以下の懲役刑に処される(刑法第159条第1項)。
- 偽造有印私文書行使罪:偽造した私的な文書(離婚届)を使用(役所へ提出)した場合に適用され、3か月以上5年以下の懲役刑に処される(刑法第161条第1項)。
- 電磁的公正証書原本不実記載罪:公務員に嘘の申立をして、戸籍や公正証書等の文書に間違った記載をさせたときに適用され、3か月以上5年以下の懲役刑に処される(刑法第157条第1項)。
なお、勝手に離婚届を提出していなくても、離婚届に自分の署名・押印の他、同意を得ていない配偶者の署名・押印を偽造した場合は、有印私文書偽造罪に問われ懲役刑に処されるおそれがあります。
離婚届を勝手に出すことが認められるケース
離婚届はいかなる場合でも、夫婦の合意のもとに提出しなければならないわけではありません。所定の手続きを経ていれば、夫婦の合意がなくても有効な離婚届と認められます。
こちらでは、調停離婚・審判離婚・裁判離婚について解説します。
調停離婚が成立していること
調停離婚は夫婦間での協議がうまくいかなかった場合に、家庭裁判所に協議の場を移し、離婚の話し合いを継続する方法です。
調停を行うためには、相手方の住所地または当事者が合意で定めた家庭裁判所に、「夫婦関係調整調停(離婚)の申立」をしなければいけません。
家庭裁判所から選出された調停委員(2名)が夫婦の間に入り、アドバイスや意見の調整を図ります。
夫婦双方が合意し、話し合いがまとまったら、家庭裁判所は調停調書を作成します。離婚調停を経て離婚届を出す場合は、届書とともに調停調書の謄本の添付が必要です。
謄本は、戸籍に影響する「離婚」「親権」等の重要な情報だけが明記された「省略謄本」の交付を取得するのが一般的です。
調停調書の謄本の交付は、1枚につき150円の手数料(収入印紙)を添付し、家庭裁判所に申請します。
審判離婚が成立していること
離婚調停でも話がまとまらなかった場合、再び夫婦間だけで話し合うか、家庭裁判所に裁判離婚を求める手続きに進みます。
しかし、離婚調停でほぼすべての離婚条件を決定できたものの、些細な事柄が原因で調停不成立となりそうなときは、裁判官が職権で必要な決定をして、離婚を成立させる場合があります。それが「審判離婚」です。
審判後は「審判書」が作成されます。
離婚届を提出するときは届書とともに、次の謄本等の添付が必要です。
- 審判書謄本:1枚につき150円(収入印紙)
- 確定証明書:1通150円(収入印紙)
審判書謄本・確定証明書はいずれも家庭裁判所で取得できます。
裁判離婚が成立していること
裁判離婚とは、離婚調停で話し合いがまとまらなかった場合、家庭裁判所に訴訟を提起し、裁判官に離婚に関する決定を行ってもらう方法です。
裁判は公開の法廷で開かれ、「原告」「被告」となった夫婦が、自分の主張や証拠を提示します。裁判官は当事者の主張や証拠、その他の一切の事情を考慮し、判決を言い渡します。
なお、裁判の過程で原告・被告に裁判官が和解を進める場合もあります。
裁判離婚で判決言い渡しを受けまたは和解した場合、次のような書類が作成されます。
- 判決→判決書
- 和解→和解調書
離婚届を提出するときは、次の謄本等の添付が必要です。
判決を受けた場合
- 判決書謄本:1枚につき150円(収入印紙)
- 確定証明書:1通150円(収入印紙)
和解した場合
- 和解調書謄本:1枚につき150円(収入印紙)
和解調書謄本・確定証明書はいずれも家庭裁判所で取得します。
離婚届を勝手に出されたらすべきこと
離婚届を勝手に出され受理されると、戸籍上は有効な離婚となってしまいます。そのまま放置していると、行政の手続き等においても有効な離婚として取り扱われてしまいます。
離婚の無効を主張するためには、離婚無効確認調停の申立てや離婚無効確認訴訟の提起が必要です。
離婚無効確認調停の申立て
夫婦の一方が行った離婚届の無効を、相手方の住所地または当事者が合意で定めた家庭裁判所に申し立て、話し合いで解決する方法です。
家庭裁判所から選出された調停委員(2名)が夫婦の間に入り、意見の調整等を図ります。
話し合いの結果、離婚届は無効であるという合意ができれば、家庭裁判所が必要な事実の調査等を行った上で、合意に従った審判が下されます。
審判確定後、1か月以内に市区町村役場へ戸籍訂正の申請が必要です。申請のときは、戸籍訂正の申請書と審判書謄本・確定証明書を添付します。
離婚無効確認訴訟の提起
調停が不調に終わった場合、当事者の住所地の家庭裁判所へ訴訟を提起し、無効を争う方法です。
裁判では、離婚に合意していない事実を主張し、その証拠も提出して、審理が進められます。
離婚届の無効を主張する裁判ですから、離婚届が偽造である事実を証明するため、筆跡鑑定等も行われます。
裁判所から無効の判決が言い渡されたときは、1か月以内に市区町村役場へ戸籍訂正の申請が必要です。申請のときは、戸籍訂正の申請書と判決書謄本・確定証明書を添付します。
離婚届を勝手に出される前にすべきこと
協議離婚が思うように進まず、夫婦の一方が勝手に離婚届を提出しそうな場合は、事前に「離婚届不受理申出」を行いましょう。
この申出を行っておけば、本人が窓口に出頭して届け出たという事実の確認がとれない限り、届出を受理しないようにできます。
本人が不受理申出の取下げをしない限り、申出の効力は失効しないので安心です。
不受理申出に必要な書類は次の通りです。
- 不受理申出書1通
- 写真付きの本人確認書類(運転免許証、パスポート、マイナンバーカード等)
まとめ
今回は多くの民事事件に携わってきた専門弁護士が、離婚届を勝手に出した場合のペナルティや、合意のない離婚届を無効にする方法等について詳しく解説しました。
離婚の話し合いがまとまらない場合は、勝手に離婚届を出さずに、裁判調停・裁判離婚により解決を図ることが大切です。
離婚届を勝手に出された等のトラブルが発生した場合は、速やかに弁護士と相談して、今後の対応を話し合いましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。