散骨、樹木葬、海洋葬
最終更新日: 2023年11月17日
はじめに
散骨とは、焼骨を山野、海に撒く葬法です。自然葬とも呼ばれています。
価値観の多様化する現代において、お墓で故人を供養する伝統的な葬法ではなく、このような新しい供養方法を受け入れる方も増えています。
そこで今回は散骨という供養方法について、法的側面からご説明いたします。
散骨は法律違反か
散骨は、遺体を火葬し、遺骨(焼骨)を粉砕し、遺灰を山野や海に撒くものです。
遺骨の取り扱いについては、墓地埋葬法や刑法、自治体の条例で規制されていますので、以下各法令との関係をみていきましょう。
墓地埋葬法との関係
墓地埋葬法4条1項は、「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない。」と規定しています。そして、これに違反した場合には2万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処せられます(同法21条1号)。
それでは、散骨は墓地埋葬法4条1項に違反するのでしょうか。
「埋蔵」とは土に埋めることをいいますから、遺灰を撒くことは「埋蔵」にはあたりません。
もっとも、土に穴を掘ってそこに遺灰を撒き、土や落ち葉を被せる行為は「埋蔵」にあたりますので、同規定に違反します(H16.10.22健衛発第1022001号)。
刑法の遺骨遺棄罪との関係
刑法190条は、「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する。」と規定しています。
そのため、散骨する行為は遺骨を「遺棄」する犯罪に該当するのではないかとも思えます。
しかし、遺族など遺骨を処分する権限がある者が散骨する行為は、遺骨遺棄罪には該当しないと解釈されています。また、法務省も、葬送のための祭祀で節度をもって行われる限り、遺骨遺棄罪との関係で問題ないとのコメントを出しています。
なお、遺骨を遺灰にせずそのまま投棄する行為は遺骨遺棄罪に該当する可能性が高いです。ですから、散骨するときは、人骨とわからない程度まで粉砕することが必要です。
条例との関係
以上のとおり、散骨は、墓地埋葬法、刑法には違反しません。
もっとも、自治体の条例で散骨について規制がされていることがありますので、散骨をしようとする場所を管轄する条例を確認する必要があります。
例えば埼玉県秩父市は、墓地以外の場所での散骨を禁止する条例を制定しています。
墓じまいと散骨
地方にある先祖代々のお墓を墓じまいして、納められた焼骨を取り出して散骨するケースがあります。
このように墓じまいをして散骨する場合に何か行政上の手続は必要なのでしょうか。
同様にお墓から遺骨を取り出す手続きとして改葬があります。改葬する場合には行政から改葬許可証の発行を受ける必要があります。
しかし、改葬とは、「収蔵した焼骨を、他の墳墓又は納骨堂に移す」ことをいいます(墓地埋蔵法2条3号)。散骨は、遺骨をお墓から取り出しますが、他のお墓に移すわけではありませんので、改葬にはあたらず、原則として、行政上の手続きは必要ありません。
ただし、自治体によっては散骨のために墳墓から遺骨を取り出すことについて規制があるかもしれませんので、自治体の担当部署に確認しましょう。
散骨と樹木葬
樹木葬とは、墓石を使用せず、墓地にある樹木の根本に焼骨を埋葬する葬法をいいます。平成11年頃に岩手県の寺院が初めたとされている葬法です。
散骨の場合は、お参りをする対象がなく、故人を偲ぶ場所がありませんので、同じく墓所のない葬法ですが、樹木葬を選択する人も増えてきており、公営墓地や寺院墓地が墓地の一画に樹木葬専用の区域を設けている例もみられます。
樹木葬の方法には、既存の樹木の根本に穴を掘ってそこに焼骨を納め、土や落ち葉をかけて埋める方法もあれば、焼骨を埋葬した場所に新たに苗木を植える方法もあります。
いずれの方法も、「焼骨の埋蔵」にあたりますから、「墓地以外の区域に、これを行ってはならない」ということになります(墓地埋蔵法4条1項)。行政も同様の見解を示しています(H16.10.22健衛発第1022001号)。
このように樹木葬も散骨も自然葬ですが、樹木葬は墓地として許可を得た区域で行わなければならないという違いがあります。
海洋散骨(海洋葬)
散骨方法として、船の上から海に散骨をする海洋散骨があります。近時は、海洋散骨のツアーを組む業者も現れています。
散骨については条例で規制をしている自治体があると先ほどご説明しましたが、海洋散骨という散骨方法については、熱海市のようにガイドラインを定めている自治体こそありますが、条例は未だありません。
規制こそ未だありませんが、公衆衛生、国民の宗教感情、漁業・観光業への風評被害に配慮した節度ある散骨が望まれています。
散骨によるトラブル
散骨は、亡くなった方の焼骨を撒くものですから、嫌悪感をもつ方もおられます。そのため、散骨をする場所によっては海産物や農産物への風評被害が発生するおそれがあります。
また、他人の土地に散骨が及んだ場合には、散骨がなされた土地の所有者、その隣接地所有者が社会通念上受任すべき限度を超えた不快感を強いられた場合には、精神的苦痛に対する慰謝料請求を受けるおそれがあります。
このようなトラブルを避けるためにも散骨の場所については、専門家や行政窓口に相談の上で決めた方がよいでしょう。
最後に
以上、散骨についてご説明しました。価値観が多様化にともない、故人の供養方法についても新しい方法が現れてきています。
最近では、焼骨を特殊な製法で宝石のように固めてアクセサリーにして故人を祀る方法や宇宙葬という方法まであるようです。
新しい葬法については行政も対応が追い付いていない部分もありますので、寺院など墓地管理者は、新たらしい葬法に積極的に協力したとしてトラブルに巻き込まれることのないよう、埋蔵証明書を発行するにとどめ、その後のことについては墓地使用者と行政担当者に委ねるのがよいでしょう。
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