2019年12月10日
1 はじめに
盗難にあったので被害届を出して犯人が逮捕されたのはいいけれど、盗まれたお金はいつになったら返って来るのか? どのようにして返してもらえばいいのか?
窃盗事件の被害者としては、犯人の処罰にも関心はありますが、それと同等以上に盗まれたお金が返って来るのかどうかに関心があるでしょう。
そこで、今回は、窃盗で盗まれたお金は返却されるのかについてご説明いたします。
2 犯人は被害者に盗んだお金を返す義務はあるか
窃盗罪については、刑法235条で、「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」と刑罰が規定されているのみで、窃盗の被害者への返還義務について直接的には規定した法律はありません。
もっとも、窃盗は、民法709条の不法行為に該当しますので、犯人は被害者に対して損害賠償義務を負います。また、民法703条の不当利得返還義務の対象ともなります。
このように、窃盗の犯人には、被害者に対して盗んだお金を返す法律上の義務はあります。
3 盗まれたお金は被害者に返却されるのか
窃盗の犯人には被害者に盗んだお金を返す法律上の義務があることを確認しました。では、盗まれたお金は被害者に返却されるのでしょうか。
⑴ 自主的に返却される場合
犯人が警察に検挙された場合、犯人が自主的に被害者に盗んだお金を返してくれる場合があります。仲介するわけではありませんが、警察が事実上、間をとりもって犯人から被害者に被害金額の弁償をさせるケースがあります。
また、犯人に弁護士が就いている場合、示談交渉の依頼を受けた弁護士から連絡があり、示談金として被害額の賠償を受けられるケースもあります。
このように犯人が検挙されている場合には、犯人が自主的に被害者にお金を返してくる場合があります。
もっとも、例えば被害金額が数十万円、数百万円の場合には、犯人は借金の返済など何かに充てるお金が必要なために窃盗に及んだという場合が多いでしょうから、盗んだお金は全て使い込まれており、犯人には被害弁償をするお金が残っていない可能性が高いです。そのような場合には犯人から自主的に被害者にお金が返却される可能性は低いでしょう。
⑵ 法的請求をする場合
犯人から自主的にお金が返却されない場合には、被害者は、犯人に対して不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)又は不当利得返還請求(民法703条)をする必要があります。
被害者が犯人と面識がない場合には、犯人の氏名、住所がわかりませんが、加害者に対してこのような法的請求をするために必要であることを告げれば、担当検察官から必要な情報を教えてもらうことができます。
その上で、被害者本人又は弁護士から犯人に対して通知書を送るなどして被害金額の弁償を求める請求をしていきます。
犯人がこのような法的請求を受けて自主的にお金を払ってくればよいのですが、そうでない場合には、民事訴訟を起こす必要があります(支払督促、少額訴訟制度の利用も考えられます。)。
裁判を起こしたものの、犯人が裁判に出てこない場合には、被害者の請求した金額がそのまま認められ、判決が下りますので、その判決に基づき犯人の預金や給料債権などの財産に対して強制執行をかけ、被害金額の回収をすることとなります(法改正によって債務者の財産調査がしやすくなります。)。
このように法的手続を最後まで行えば、被害金額の弁済を受けられる可能性は高まりますが、それまでに弁護士費用などの費用もかかりますので、被害金額が大きくない場合にはこのような法的手段をとることは費用倒れになってしまうという難点があります。
4 窃盗の被害者支援制度はあるのか
振り込め詐欺や、闇金などの組織的犯罪の被害者には法務省の管轄する被害回復給付金支給手続という、犯人から没収、追徴した金銭を原資に被害者に金銭を支給する制度がありますが、残念ながら窃盗罪についてはこのような制度はありません。
5 最後に
以上、窃盗で盗まれたお金は返却されるのかについてご説明いたしました。犯人に被害額を弁償する資力がある場合には最終的に盗まれたお金を取り返すことができる可能性は十分にありますが、そうでない場合には諦めざるを得ない場合も少なくないかもしれません。
窃盗事件を起こしてしまい被害者と示談交渉をしたいという方や盗難被害にあってしまったので被害弁償をさせたいという方は、刑事事件の経験が豊富な弁護士に相談することをお勧めします。
この記事を書いたのは
- 代表弁護士春田 藤麿
- 愛知県弁護士会 所属
- 経歴
- 慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設
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