接近禁止命令は一生有効?手続き・注意点・すべきことを徹底解説
最終更新日: 2025年01月31日
- 配偶者から暴力を振るわれていたが、裁判所から接近禁止命令が出たので安心している。接近禁止命令は一生有効なのだろうか?
- 接近禁止命令を一生続けてもらいたい。手続きはどのように進めるのか知りたい。
- 接近禁止名命令の手続き前に、弁護士と相談しておいた方がよいだろうか?
接近禁止命令とは、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)」に規定されている被害者保護命令の1つです。夫婦の一方が他方に身体的暴力や脅迫をした場合に、裁判所が加害者に対して被害者に近寄らないよう命じます。
被害者が接近禁止命令を希望する場合は、地方裁判所に申し立てる必要があります。
そこで今回は、DV問題の解決に携わってきた専門弁護士が、接近禁止命令の効果、接近禁止命令を申し立てる方法等について詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 接近禁止命令の有効期間は1年だが、期間の延長は何度でも可能である
- 接近禁止命令発令のためには一定の条件を満たす必要がある
- 接近禁止命令では禁止できない行為もあるので注意が必要
接近禁止命令とは
配偶者から日常的に暴力や暴言を受け「このままでは大けがを負ってしまう」「自宅に帰るのすら恐怖だ」などと身の危険を感じるときは、接近禁止命令を申し立てましょう。
「接近禁止命令」は、DV防止法に規定されており、暴力行為や脅迫を行う配偶者(加害者)に対し、裁判所が接近をやめるように命じる制度です(DV防止法第10条)。
接近禁止命令の発令を希望する被害者は、裁判所に申し立てる必要があります。申立てが受理された場合、禁止できる行為は次の通りです。
- 被害者を付け回し、言い寄ってくるような行為
- 被害者の生活圏(自宅の他、勤務先等)を徘徊する行為
接近禁止命令に違反した加害者は、2年以下の懲役(2025年6月1日以降は拘禁刑)または200万円以下の罰金に処されます(DV防止法第29条)。
ただし、接近禁止命令だけでは禁止できない行為もある点に注意しましょう。
被害者や子にメール・電話をする、子・親族に接触する、実家に押しかける行為は対象外です。
そのため、必要に応じ次のような申立ても合わせて行いましょう。
- 被害者や子にメールや電話をする・手紙を出す行為→被害者や子に対する電話等禁止命令
- 子や親族に接触する・実家に押しかける行為→子や親族に対する退去命令
接近禁止命令は一生有効なのか?
接近禁止命令が発令されれば、加害者の暴力や脅迫におびえる心配は減るでしょう。
ただし、接近禁止命令には有効期間があり、一生効果が続くわけではないので注意しましょう。
基本は1年
接近禁止命令の有効期限は発令から1年間です。
加害者は、1年が経過すると付け回す等の行為を、再開するおそれがあります。
万一を考え、加害者が動き出す前に現在の居住地から引っ越す等、何らかの対策をとっておいた方が無難です。
期間延長可能
接近禁止命令の発令から1年経過すると加害者がつきまといを再開し、身に危険が及ぶかもしれないと不安を感じることもあるでしょう。
身の危険を感じるときは、再度、裁判所に申し立てれば期間延長が可能です。
ただし、接近禁止命令申立て〜裁判所からの発令まで、1週間程度を要します。有効期間の残りの日数を考慮し、早めに接近禁止命令の申立てを進めましょう。
当然ながら申立て後、安全が確保できるまで、外出はなるべく控えた方がよいです。
接近禁止命令の裁判所への申立て
加害者からの脅威を一刻も早く退けたいときは、地方裁判所に接近禁止命令(保護命令)の申立てをしましょう。
接近禁止命令の申立ての前に、通常、まず配偶者暴力相談支援センターや警察へ、加害者のDVや脅迫行為を相談して事前準備をします。
本人による手続き
まずは配偶者暴力相談支援センターや警察へ相談しましょう。センターや警察に相談すれば、申立書の記入方法などを助言してもらえます。申立書には保護命令の要件を満たすことを示すDV等の事実の記載が必要です。
なお、センターや警察での相談実績がない場合は、公証役場で「宣誓供述書」の作成が可能です。
センターや警察に相談して申立書の準備ができたら、申立ての段階に進みます。申立ができる人は次のように限定されています。
- 配偶者や元配偶者(事実婚を含む)から、DVや脅迫を受けた被害者本人
- 代理人を依頼された弁護士
それ以外は、たとえ被害者の親族や友人・知人であっても申立てはできません。
申立先
申立ては、次の住所や居所のいずれかを管轄する地方裁判所です。
- 相手方(加害者)の住所地(住所がわからないときは居所地でも可)
- 申立人(被害者)の住所地または居所地
- 申立ての理由である相手方(加害者)からのDVまたは脅迫が行われた地
申立てのとき、「子や親族にも危険が及ぶかもしれない」と感じたら、当該命令以外の保護命令も一緒に提出できます。
書類
地方裁判所に申し立てるときは、主に次のような書類を提出する必要があります。
- 保護命令申立書:2部(正本・副本)
- 加害者との関係を証明する書類:【法律上の夫婦の場合】戸籍謄本、住民票等【事実婚の場合】加害者と同居している証明資料(例:賃貸借契約書の写し等)
- 加害者からDVや脅迫を受けていた証拠:医師の診断書、負傷部位の写真、脅迫の音声、申立人本人や第三者の陳述書等
- 宣誓供述書:センターや警察に相談しなかった場合に必要
書類を提出後、1週間以内に加害者の口頭弁論または審問が行われます。審理の結果を踏まえ、裁判所の判断で、接近禁止命令を発令するか否かを決定します。
被害者の身体・生命に危険の及ぶリスク等がある場合は、口頭弁論や審問を省略し、接近禁止命令が発令されるケースもあります。
費用
接近禁止命令を申し立てるとき「申立手数料」「切手(予納郵便切手)」が必要です。
- 申立手数料:1,000円分の収入印紙
- 切手(予納郵便切手):約2,700~2,800円
収入印紙は法務局や郵便局、コンビニ等で購入可能です。ただし、コンビニには200円の収入印紙しかないので注意しましょう。
収入印紙は保護命令申立書に貼ります。
接近禁止命令の永続化を希望する場合の注意点
加害者に接近禁止命令を1年発令しただけでは、安心できないかもしれません。
そのような場合は、再び接近禁止命令を申し立てるときの注意点や、自衛策についての確認をしておいた方がよいでしょう。
DVなどの証拠が必要
接近禁止命令の有効期間は1年ですが、1年の期間満了が近づき、加害者からの被害を受けそうなときは、再度の申立てを行えば期間の延長が可能です。
申立てには回数制限がないので、一生申立てを繰り返すこともできます。
ただし、申立てには、加害者から重大な危害を受ける可能性があることの証拠(例:期間満了が近づき、加害者が申立人の住居付近をうろつきはじめた動画等)が必要です。
相手に居場所を知られないよう注意
できれば接近禁止命令が有効なうちに引っ越しましょう。
加害者の住所・居所地からなるべく遠くに離れた方がよいです。遠方に引っ越したとしても、次のような点に注意する必要があります。
- 加害者の行動範囲を避けて行動する:加害者の自宅はもちろん、実家や勤務先にも近づかないようにする
- 加害者の親族や友人、同僚等との接触を避ける:被害者の居場所を加害者に伝える可能性があるため
- 夜間の単独での外出は避ける:加害者がタイミングを見計らい、被害者に襲いかかる可能性もあるため
接近禁止命令を希望する場合にやるべきこと
接近禁止命令によって加害者からのDVや脅迫から逃れたい場合は、まず冷静に証拠の収集を進め、申立てが確実に認められるよう準備しましょう。
申立て前に弁護士と相談しておくのもよい方法です。
証拠収集
裁判所で接近禁止命令の申立てが認められるためには、加害者からDVや脅迫を受けた確実な証拠が必要です。
医師の診断書やDVを受け負傷した部位の写真、暴力や脅迫を受けている動画や音声等を準備しましょう。
ただし、申立人の生命・身体の安全が最優先です。加害者と一緒にいることで重大な事態を招く場合は、証拠集めよりもシェルター(緊急一時保護施設)に非難する方が先です。
そのうえで、接近禁止命令の延長を望むときは、防犯カメラを設置し、加害者が付近をうろついていないか確認しましょう。
加害者の姿を録画できれば、再延長を申し立てるときの証拠の1つとして提出できます。
弁護士への相談
接近禁止命令を申し立てる前に、弁護士と相談しましょう。
弁護士は被害者本人の事情をヒアリングし、次の有益なアドバイスを行います。
- DVや脅迫の証拠を集める方法
- 保護命令申立書の記載方法
- 接近禁止命令の再延長を申し立てるときの注意点
- 再びDV、脅迫の被害に遭わないための心がけ 等
相談している間に「この弁護士に申立て手続きを任せたい」と思ったときは、そのまま委任契約を締結してもよいでしょう。
弁護士には保護命令申立書の作成や、裁判所窓口への書類の提出まですべてを委任できます。
接近禁止命令に向けた対応を希望する方へ
今回はDV問題の解決に尽力してきた専門弁護士が、接近禁止命令の効果や注意点等について詳しく解説しました。
現在、加害者からDVや脅迫の被害に遭っている場合、どんどん加害行為がエスカレートするおそれもあります。
配偶者暴力相談支援センターや警察に相談するとともに、接近禁止命令の申立ての準備を始めましょう。
弁護士と相談しサポートを受ければ、迅速に申立て手続きを進められます。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。