顧客情報流出と企業責任 | 罰則・損害賠償・信用失墜を防ぐための対応
2025年12月09日

現在、どの企業にも顧客情報流出のリスクがあります。
サイバー攻撃、誤送信、委託先の管理不備など、原因はさまざまです。
一度事故が発生すれば、顧客からの信頼を失うだけでなく、企業は法的にも重大な責任を問われます。
本コラムでは、顧客情報流出が起きた際に企業が負う「三重の責任」──行政責任・民事責任・社会的責任──を中心に、罰則や損害賠償の仕組み、そして信頼を守るための対応策を整理します。
顧客情報流出が引き起こす「三重の企業責任」
顧客情報が漏洩した場合、企業は次の3つの側面から責任を問われます。
行政責任:個人情報保護法に基づく罰則
日本の個人情報保護法では、情報漏洩時の報告義務や監督機関からの命令への対応が定められています。
2022年4月の改正により、罰則は従来よりも厳しくなりました。
主な行政上のリスクは以下の通りです。
報告義務違反
重大な漏洩が発生したにもかかわらず、個人情報保護委員会への報告を怠った場合や、虚偽の報告をした場合には罰則が科されます。
命令違反
個人情報保護委員会の改善命令に従わなかった場合、法人に最大1億円(改正前は50万円)の罰金が科される可能性があります。
措置命令・業務停止
法令違反が認められた場合、是正命令を受け、それに従わなければ業務停止などの行政処分に発展するおそれがあります。
これらは単なる注意ではなく、企業のコンプライアンス体制そのものが問われるものです。
日頃から法令順守と報告体制を整えておくことが欠かせません。
民事責任:顧客への損害賠償請求
流出した顧客情報によって被害が発生した場合、顧客は企業に対して損害賠償を請求することができます。
法的根拠
契約上の義務違反(債務不履行)または不法行為(民法第709条)に基づき、企業の管理体制に過失があると判断されれば、賠償責任を負うことになります。
損害の範囲
精神的苦痛に対する慰謝料や、不正利用などによる財産的損害が含まれます。被害者が多数の場合、集団訴訟に発展し、総額が巨額になるケースもあります。
企業側が「過失がなかった」と立証しない限り、責任を免れることは難しいのが実情です。
社会的責任:ブランドイメージと信用の失墜
法的責任と同等、またはそれ以上に深刻なのが「社会的信用の低下」です。
レピュテーションリスク
報道やSNSでの拡散によって、顧客・取引先からの信頼を失い、取引停止や契約解除が相次ぐことがあります。
株価・企業価値への影響
上場企業では、情報漏洩の公表直後に株価が下落する例もあります。
信頼の回復には長い時間と大きなコストがかかります。
事故後の説明・謝罪・再発防止策の内容が、社会的評価を大きく左右します。
法的責任を最小化するための実務対応
被害を最小限に抑え、責任を軽減するためには、初動の早さと報告の正確さが不可欠です。
初動対応と証拠保全
システムの隔離
感染や不正アクセスの疑いがあるシステムを直ちに切り離し、被害拡大を防止します。
証拠保全
後の法的対応(行政報告・賠償請求など)に備え、ログや通信記録などを削除せず保存します。この段階でフォレンジック調査を開始し、技術面と法務面の両方から原因を明確にします。
技術者だけで対応を進めると、法的に有効な証拠が失われるおそれがあります。
専門家(弁護士・セキュリティ会社)との連携が不可欠です。
報告・通知義務の履行
個人情報保護委員会への報告
1,000人以上の個人情報が流出した場合など、法令に定められた条件に該当すれば、速報(3〜5日以内)と確報(原則30日以内)の報告を行います。
本人への通知
流出した情報の内容、原因、講じた対策、再発防止策などを、対象となる顧客にできるだけ早く通知します。
報告や通知を遅らせると「隠蔽」と見なされ、行政からの指導や罰則が重くなる可能性があります。
まとめ:リスクを「想定内」にする企業へ
顧客情報流出は、規模を問わず発生する時代です。
経営層が中心となって、日頃からリスクを想定し、法令に即した対応体制を整備することが最善の防御策です。
専門家と連携して、個人情報保護法に沿った社内ルール・報告体制を構築しておくことで、万が一事故が起きても、法的・社会的ダメージを最小限に抑えることができます。
よくある質問(FAQ)
Q:顧客情報が流出した場合、企業にはどのような責任が生じますか?
A:行政上の責任(個人情報保護委員会への報告・命令への対応)、民事上の責任(損害賠償)、そして社会的責任(信用失墜)の3つが発生します。これらはいずれも並行して問われる可能性があります。
Q:「報告義務違反」とは具体的に何を指しますか?
A:重大な漏洩が発生したのに、個人情報保護委員会へ報告を行わなかった、または虚偽の報告をした場合を指します。報告を怠ると、刑事罰や行政処分を受ける可能性があります。
Q:被害者から損害賠償を求められた場合、企業は必ず支払う必要がありますか?
A:被害との因果関係が認められ、企業に過失があると判断された場合は、損害賠償責任が発生します。過失がなかったことを立証できれば免責されますが、実際には立証が難しい場合が多いです。契約書や利用規約に損害賠償額の上限が定められていれば、賠償額をその金額に限定できます。
Q:外部委託先で情報漏洩が起きた場合、自社も責任を負うのでしょうか?
A:委託先のミスであっても、委託元企業には管理責任があります。委託契約に報告義務・監査条項を明記し、定期的にチェックする体制を整えておくことが求められます。
Q:社会的信用を守るために最も重要な対応は何ですか?
A:事故を隠さず、正確な情報を迅速に公表することです。誠実な対応と再発防止の具体策を明示することで、信頼を取り戻す第一歩となります。
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