【2.0対応】NISTサイバーセキュリティフレームワーク(CSF)とは?サイバーリスク管理の世界的基準を解説
2025年12月19日

「経営層から『世界標準レベルのセキュリティ対策』を求められた」
「ISMS(ISO27001)は取得したが、実効性のあるリスク対策ができているか不安だ」
「サプライチェーン全体のセキュリティ基準を統一したい」
サイバー攻撃が経営リスク直結の課題となる中、世界中の企業が共通言語として採用しているのが、米国国立標準技術研究所(NIST)が策定した「NISTサイバーセキュリティフレームワーク(NIST CSF)」です。
本記事では、2024年に公開された最新版(バージョン2.0)の内容を踏まえ、NIST CSFの概要と、なぜこのサイバーリスク管理フレームワークが重要視されているのかを分かりやすく解説します。
NISTサイバーセキュリティフレームワーク(NIST CSF)とは?
NISTサイバーセキュリティフレームワーク(Cybersecurity Framework:CSF)とは、米国の政府機関であるNISTが発行している、サイバー攻撃への対策を体系化したガイドラインです。
もともとは米国の重要インフラ(電力、金融、通信など)を守るために作られましたが、その汎用性の高さから、現在では国や業種、企業規模を問わず、「サイバーリスク管理の事実上の世界標準(デファクトスタンダード)」として利用されています。
なぜ「フレームワーク」が必要なのか?
セキュリティ対策を個別のツール(ウイルスソフトやファイアウォール)の導入だけで考えると、全体像が見えず「どこに守りの穴があるか」が分かりません。
フレームワーク(枠組み)を使うことで、組織の現状を客観的に評価し、「今の自社に何が足りないのか」を網羅的に把握できるようになります。
NIST CSF 2.0の中核:「6つの機能(Core)」
NIST CSFの最大の特徴は、専門的な技術用語ではなく、経営者にも理解しやすい言葉で構成されている点です。
最新のバージョン2.0では、以下の6つの機能でセキュリティ対策を分類しています。
機能 (Function) | 意味 | 具体的なアクション例 |
統治 (GOVERN) 【2.0で新設】 | 組織の体制・戦略 | セキュリティ方針の策定、役割と責任の定義、サプライチェーン管理の方針決定。※すべての活動の土台となる機能 |
特定 (IDENTIFY) | 資産の把握 | 守るべき情報資産(データ、機器)の棚卸し、リスクアセスメントの実施。 |
防御 (PROTECT) | 攻撃を防ぐ | ID管理、パスワード強化、社員教育、データ暗号化、ファイアウォール設置。 |
検知 (DETECT) | 攻撃を見つける | ログ監視、ウイルス対策ソフトによる検知、異常なアクセスの発見。 |
対応 (RESPOND) | 被害を抑える | インシデント発生時の連絡体制、分析、封じ込め、関係機関への報告。 |
復旧 (RECOVER) | 元に戻す | バックアップからのデータ復元、復旧計画の策定、教訓の共有と改善。 |
重要ポイント:2.0の変更点
以前のバージョン(1.1)までは5つの機能でしたが、2.0では中心に「統治(GOVERN)」が追加されました。これは、「現場の技術的対策だけでなく、経営層によるガバナンスが最重要である」というメッセージです。
サイバーリスク管理フレームワークとしての3つのメリット
NIST CSFを採用することで、企業は以下のメリットを得ることができます。
経営層と現場の「共通言語」になる
技術用語ばかりの報告書では、経営層は投資判断ができません。
「『防御』はできていますが、『検知』と『復旧』が弱点です」と説明することで、経営層は「どこに予算を投じるべきか」を直感的に理解できます。
現状(As-Is)と理想(To-Be)のギャップ分析ができる
NIST CSFには「プロファイル」という概念があります。
- As-Isプロファイル: 今の状態
- To-Beプロファイル: 目指すべき状態
この2つを比較することで、「あと何をすれば目標レベルに達するか」というロードマップ(計画)を明確に描くことができます。
サプライチェーン対策として有効
取引先からセキュリティチェックシートの提出を求められた際、NIST CSFに準拠していれば、海外企業を含めた多くの取引先の要求基準を満たしやすくなります。自社の信頼性を示す「パスポート」のような役割を果たします。
ISMS(ISO27001)との違いは?
よく比較されるのが、国際規格であるISMS(ISO27001)です。
項目 | ISMS (ISO27001) | NIST CSF |
性質 | 認証制度(合格か不合格か) | フレームワーク(自主的なガイドライン) |
目的 | 対外的な信用の証明、ルールの整備 | リスク管理、実効性の強化、弱点の発見 |
活用法 | 第三者認証マークを取得する | 自社の成熟度を測り、改善サイクルを回す |
どちらか一つを選ぶ必要はありません。
多くの企業では、ISMSで「ルールの基礎」を作り、NIST CSFで「技術的な対策の漏れ」や「インシデント対応力」を強化するという相互補完的な使い方をしています。
導入のステップ:ティア(Tier)で成熟度を測る
NIST CSFには、組織のセキュリティ成熟度を4段階で評価する「ティア(Tier)」という考え方があります。
Tier 1(部分的)
行き当たりばったりの対応。
Tier 2(リスク情報の活用)
ルールはあるが、組織全体には浸透していない。
Tier 3(繰り返し適用可能)
全社的にポリシーが適用され、状況に応じて更新されている。
Tier 4(適応・順応)
AI活用や自動化など、高度なサイバー攻撃にリアルタイムで適応・改善できている。
いきなりTier 4を目指す必要はありません。自社の事業規模やリスク許容度に合わせて、「まずはTier 2を目指そう」といった目標設定に使います。
まとめ
NISTサイバーセキュリティフレームワーク(CSF)は、複雑化するサイバー攻撃に対し、組織が取るべきアクションを整理した「サイバーリスク管理の羅針盤」です。
2.0へのアップデートにより、経営層の関与(統治)がより重視されるようになりました。「何から手をつければいいか分からない」という企業こそ、このフレームワークに当てはめて自社を診断することから始めてみてください。見えていなかった「守りの穴」が必ず見つかるはずです。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。




