置き引きで示談交渉を成立させるポイント・相場・実例を専門弁護士が解説
最終更新日: 2022年07月12日
- 置き引きをしたのがバレてしまった
- 窃盗で捕まったので弁護士に依頼したい
- 窃盗の対応に強い弁護士の特徴を知りたい
令和2年版犯罪白書の統計によると、令和元年の窃盗事件の認知件数(被害届が出され、警察が犯罪として認知した件数)は53万2,565件で、このうち検挙数(被疑者を検挙した件数)は18万897件でした。検挙率は34%で、約3人に1人が逮捕されていることになります。このうち、置き引きの認知件数の割合は全体の4.2%で、検挙件数の割合は全体の3.8%となっています。
置き引きは、他人の置いてある鞄を持ち出したり置き忘れた荷物を盗んだりと、ほんの軽い気持ちでやってしまう場合が多い犯罪手口ですが、発覚すれば窃盗として逮捕されます。また、成人事件か少年事件かにより、その後の刑事手続きも違った流れになってきます。
万が一置き引きで捕まった場合でも、その後の示談交渉によって逮捕や起訴を免れる可能性が高まります。
そこで今回は、多くの窃盗事件を解決に導いてきた実績のある刑事事件専門の弁護士が、置き引きをしてしまった場合に、逮捕後の示談交渉を成立させるためのポイントや示談書、示談金の相場などについて解説します。
置き引きでの示談交渉に必要な知識を弁護士が解説
ここでは、置き引きで捕まってしまった場合に弁護士が示談交渉をする上で必要な知識を解説します。
- 置き引きに適用される法律は「窃盗罪」
- 示談書とは?知っておくべき示談書の項目と作り方
- 示談金の相場とは
1つずつ解説します。
置き引きに適用される法律は「窃盗罪」
置き引きでの示談交渉に必要な知識の1つ目は、置き引きに適用される法律は「窃盗罪」ということです。
置き引きとは、置いてある他人の財物を持ち去る行為を言います。置き引きは刑法上の用語ではなく慣用的に用いられている言葉で、窃盗罪の一形態とされています。財物が被害者の占有を離れていた場合には占有離脱物横領罪、被害者の占有の下にある場合には窃盗罪に問われます。
窃盗罪とは、他人の物を盗む行為を罰する規定です。窃盗罪が成立すると、10年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます(刑法第235条)。窃盗行為が常習化し、過去10年以内に3回以上、懲役6か月以上の刑の執行またはその執行の免除を受けたことがある場合は常習累犯窃盗として刑罰が重くなり、3年以上の有期懲役が科せられます。
窃盗罪は7年で公訴時効となり、この期間をすぎると検察官による公訴ができなくなります(刑事訴訟法第250条)。また、窃盗罪で逮捕されると、成人と未成年かによってその後の刑事手続きが異なります。
示談書とは?知っておくべき示談書の項目と作り方
置き引きでの示談交渉に必要な知識の2つ目は、示談書についてです。
示談書とは、示談交渉を行った際の被害金額についての賠償・迷惑料の金額・被害者の要望事項など、加害者と被害者が協議してまとまった示談の条件を記載した書類です。
示談書に入れておくべき主な事項は、支払う示談金の金額・加害者に対して刑事処分を求めないことの表明・清算条項(加害者と被害者の間に債権債務関係はないという確認)の3点です。
加害者と被害者の間に債権債務関係はないとは、この示談金以外に被害者から追加で請求できる金銭はないということです。
示談書は専門家による作成がおすすめですが、インターネット上にある雛形をもとにした作成も可能です。
示談金の相場とは
置き引きでの示談交渉に必要な知識の3つ目は、示談金の相場についてです。
示談金の相場は、法律で金額が決められているわけではありません。置き引きされた財物の持ち主である被害者との交渉により決定されますが、被害金額の賠償額と迷惑料の総額が相場とされています。
中には盗まれた財物を返してくれればそれでよいという人もいれば、代わりのものを買うためのお金が必要という人もいます。置き引きにあった財物が被害者にとって貴重なもので盗んだ行為を許せないと言っているような場合は、被害金額の他に慰謝料を支払う必要がある場合もあります。
置き引きの示談金の相場は、被害に遭った財物の賠償金額や被害者が和解により何を求めているのかによっても異なってきます。
置き引きの示談交渉で逮捕を回避して刑事罰を軽くする方法
置き引きで捕まってしまった場合、弁護士に示談交渉を依頼することで逮捕を回避して刑事罰を軽くできる場合もあります。示談が成立していれば不起訴となる可能性が高くなるため、できるだけ早い段階で被害者との示談交渉に動くことが肝心です。
日本の刑事裁判では、一度起訴されてしまうとほぼ確実に有罪となり前科がついてしまいます。示談が成立していれば、検察もそれを考慮して不起訴とするか、起訴されても執行猶予付きの判決となる可能性が高まります。このように示談をすることで、不起訴を獲得しやすくなる、執行猶予付きの判決を得やすくなるといった多くのメリットがあります。
示談金は置き引きの被害額の弁償と迷惑料を支払うのが通常です。また、示談金とともに謝罪文を提示することで謝罪の意思が被害者に伝わります。謝罪文は書き慣れていないために、どのように書いてよいのかわからないことが多くあります。このような場合は、対応に慣れた弁護士に相談するのがおすすめです。
置き引きが捜査機関に発覚する前に示談が成立していると、被害届が出されませんので、警察に逮捕される心配もありません。
置き引きで万が一逮捕されてしまった場合の流れ
置き引きで万が一逮捕されてしまった場合、少年事件と成年事件ではその後の刑事手続きが異なります。それぞれのケースについて、以下に解説します。
少年事件
中学生や高校生などの未成年者が起こした事件を少年事件といいますが、置き引きでも被害金額が高額であったり犯行手口が悪質であれば成人と同様に逮捕されます。逮捕の方法は、現行犯逮捕・後日逮捕・緊急逮捕のいずれかです。
逮捕直後の手続きは基本的に成人の場合と同じですが、大きく異なるのは、逮捕後に検察官が勾留請求するか、または勾留に代わる観護措置として少年鑑別所に移送するかという点です。逮捕後は少年法に基づいて、事件は少年法上の保護処分を含め家庭裁判所が審判します。
家庭裁判所に事件が送られると、少年は裁判官と面接し、少年を観護措置にするのか、あるいは在宅観護にするのかを裁判官が判断します。観護措置である少年鑑別所への移送の決定は、家庭裁判所に送られてから24時間以内に行われます。なお、在宅観護の場合は、在宅のままで家庭裁判所の調査官の観護を受けることになります。
家庭裁判所が観護措置を決定すると、その少年は少年鑑別所に送られます。少年鑑別所に移送されるのは逮捕または勾留後が多いですが、事件の内容によって移送されるタイミングは異なります。
証拠が明白で捜査の必要があまりない比較的軽微な事件においては、留置場で勾留されずにすぐに少年鑑別所に移送されることが多い傾向にあります。一方で、強制捜査の必要が高く比較的重い事件の場合は、成人事件と同じように10~20日間勾留されたあとに少年鑑別所に移送されます。
また、少年鑑別所にいる間に、家庭裁判所の調査官が本人と面談をしたうえで審判の必要があるか否かを調査します。審判の必要があると判断されれば、少年審判が行われます。必要がないと判断されれば審判不開始となります。最終的な処分は少年審判によって言い渡されます。最終的な処分には以下の4つがあります。
検察官送致 | 事件を検察官に送致し、刑事裁判による処罰となる処分。少年は地方裁判所または簡易裁判所で起訴され、成人と同じ刑事裁判を受けることになる。 |
保護処分 |
保護観察官や保護司の指導・監督を受けながら社会内で更生できると判断された場合に付される処分。決められた約束事を守りながら家庭などで生活し、保護観察官や保護司から生活や交友関係などについて指導を受ける。
再非行のおそれが強く、社会内での更生が難しい場合には、少年院に収容して矯正教育を受けさせる処分。 ・児童自立支援施設等送致 児童自立支援施設(主に不良行為をした、または不良行為をするおそれのある少年の自立支援を目的とした施設)に送致される処分。少年が比較的低年齢で、開放的な施設での生活指導が相当と判断されると、この処分となる。 |
不処分 | 調査や審判などにおける様々な教育的働きかけにより少年に再非行のおそれがないと認められた場合に、少年を処分しないとする決定。 |
都道府県知事または児童相談所長送致 | 都道府県知事または児童相談所長送致 少年を児童福祉機関の指導に委ねるのが相当と認められた場合に、知事または児童相談所長に事件を送致される処分。児童相談所では 18歳未満の児童をめぐる各種の相談に応じ、児童福祉司による指導、児童福祉施設への入所や里親への委託措置を行う。
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少年に対する処分を直ちに決めることが困難な場合は試験観察となります。試験観察とは、少年を一定期間家庭裁判所調査官の観察に付する暫定処分で、少年に対して更生のための助言や指導を与え、少年が問題点を改善しようとしているのかを観察します。この観察結果をふまえて、裁判官が改めて最終的な処分を決定します。
成年事件
成人が置き引きで逮捕されると、警察による取調べが行われます。事件と身柄は48時間以内に検察に送検され、検察官は勾留請求を行うか否かの処分を決定します。勾留請求は、送致を受けてから24時間以内かつ逮捕から72時間以内に行わなければなりません。
裁判官が検察官の勾留請求を認めると原則10日間・勾留が延長される場合はさらに最大10日間・逮捕から勾留請求まで最大3日間のため、最大で合計23日間身柄が拘束されることになります。
勾留中に検察官が起訴・不起訴を決定します。不起訴となれば釈放されますが、起訴されるとさらに被告人勾留が続くことになります。起訴されると99%の確率で有罪となり、略式裁判で罰金刑が科されるか、公判で懲役刑が科されることになります。
置き引きの示談交渉の実例を弁護士が紹介
ここでは置き引き事件の示談交渉の実例を3つ紹介します。
実例1
依頼者は、パチンコ店で財布を拾い店を出ましたが、途中で後悔して道端に捨てました。
翌日、同じパチンコ店に遊びに行ったところ、警察に任意同行を求められて逮捕されました。
捨てた財布は見つかり、カード類はそのままでしたが、現金1万数千円は全てなくなっていました。依頼者は現金は取っていないと警察に供述をしていましたが、全く信用してもらえませんでした。
弁護士から、裁判所も現金を取っていないという供述は信用しないこと、財布を持ち去った時点で窃盗が成立すること、否認したままだと勾留されてしまう可能性が高いことを説明したところ、現金の窃取についても認めて、今後は被害者との示談交渉をしていく方針となりました。
検察官は10日間の勾留を請求しましたが、裁判官は勾留を認めず、釈放となりました。釈放から5日後、弁護士が被害者と面談し、1万数千円を賠償することで示談が成立しました。そして翌月末、本件は不起訴処分となり終結しました。
実例2
依頼者はスキー場に落ちていた財布から現金を抜き取り、財布は管理者に届けました。財布を届けたことで足がつき、警察に後日逮捕されるのではないかと不安になり、当事務所に依頼をしました。
弁護士から警察に連絡をしたところ、やはり被害届が出ていました。自首をすること、弁護士を通じて被害者に賠償をしていくことを伝えたところ、逮捕はせず在宅捜査としてもらえることとなりました。
その後、弁護士が被害者と面談し、被害金額の賠償と迷惑料を合わせて5万円にて示談が成立しました。
書類送検後に依頼者は検察官から呼び出しを受け、簡単に取調べを受けました。検察官は、自首をしたこと・初犯であること・被害者と示談が成立していることを考慮して不起訴処分(起訴猶予)としてくれましたので、本件は前科がつくことなく解決しました。
実例3
依頼者はパチンコ店でパチンコ台に置き忘れてあったパチンコのICカードを持ち去り、全額利用してしまいました。その約3か月後、警察から電話があり、防犯カメラからICカードを盗んだことはわかっていると告げられ、出頭を求められました。逮捕はされませんでしたが、被害者と示談をすべく当事務所に依頼しました。
ICカードの残高は7千円ほどでした。弁護士が被害者と話し合ったところ、10万円であれば示談に応じるということでした。依頼者も了承したことから示談金10万円を支払い、示談が成立しました。
被害者は被害届も取り下げると警察に伝えたものの、警察はもう捜査は始まっているので書類送検はするということでした。その後、書類送検はされましたが、検察官からの呼び出しもなく、不起訴処分(起訴猶予)となり本件は解決となりました。
まとめ
今回は置き引きをしてしまった場合に、逮捕後の示談交渉を成立させるためのポイントや示談書、示談金の相場などについて解説しました。
示談交渉を行うときには、置き引きの被害品の持ち主である被害者の状況を理解することで交渉がスムーズに進むと言えます。示談金額は法律で決められていませんが、被害者の損害賠償額と迷惑料を支払うことが必要となることが多いです。
また、置き引きをした加害者が被害者と直接交渉をすると話がうまく進まないことが多々あります。少しでも疑問に感じることがあるようでしたら刑事事件専門の弁護士に相談してください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。