暴行罪の示談金相場はいくら?示談の流れや交渉のコツを解説

最終更新日: 2025年12月11日

暴行罪の示談金の相場は?金額に影響する要素や減額する方法も詳しく解説

もし暴行事件の加害者という立場になってしまい、その後の対応に不安を感じている場合、示談による解決は非常に有効な手段となり得ます。暴行罪は「人に物理的な力を加える行為」を指し、怪我をさせなかった場合に適用される犯罪ですが、場合によってはより重い傷害罪に問われる可能性もあります。

本記事では、暴行罪と傷害罪の違いを整理しながら、暴行事件における示談金の具体的な相場を、怪我の有無などのケース別に詳しく解説します。

示談を成立させることは、逮捕や勾留の回避、さらには前科を避けるためにも非常に重要です。示談交渉をスムーズに進めるための具体的な手順やポイント、そして弁護士に依頼することのメリットについて、この記事で網羅的にご紹介していきます。

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この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
宅地建物取引士

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目次

暴行罪とは?傷害罪との違いを理解しよう

暴行事件を起こしてしまい、その後の示談交渉を検討している方がまず押さえておきたいのは、ご自身の行為が「暴行罪」と「傷害罪」のどちらに該当するのかという点です。

これら二つの犯罪は、いずれも相手に物理的な力を加える行為に関連しますが、法律上の要件や科される刑罰には大きな違いがあります。示談交渉においても、この違いが示談金の相場や交渉の難易度に直結するため、それぞれの定義と区別を理解しておくことが大切です。

暴行罪が成立する要件と刑罰

暴行罪は刑法第208条に規定されており、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に成立する犯罪です。「暴行」とは、「人に対する不法な有形力の行使」を指し、物理的な接触を伴う行為全般がこれに該当します。

具体的には、相手を殴る、蹴るといった直接的な行為はもちろん、胸ぐらを掴む、突き飛ばす、物を投げつける、水をかける、髪を引っ張るといった行為も暴行にあたります。

また、直接的な接触がなくても、たとえば相手の目の前で大声を出して耳元で叫んだり、壁を叩いたりして恐怖感を与えたり、強い光を当てて視覚を害する行為なども、間接的な有形力の行使とみなされ、暴行罪が適用される可能性があります。重要なのは、実際に怪我を負わせる意図があったかどうかにかかわらず、物理的な力が相手に向けられたという事実です。

暴行罪の法定刑は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」と定められています。懲役刑や罰金刑だけでなく、より軽い拘留(30日未満の身柄拘束)や科料(1万円未満の金銭徴収)も含まれますが、前科がついてしまう可能性もあるため、軽く見てよい罪ではありません。

傷害罪との決定的な違いは「怪我という結果」の有無

暴行罪と傷害罪を区別するうえで最も重要なポイントは、被害者に「怪我(傷害)という結果が生じたかどうか」です。同じように相手に物理的な力を加える行為であっても、その結果として被害者が負傷したか否かで、適用される罪名が変わってきます。

たとえば、相手を「殴る」という行為をした場合を考えてみます。このとき、相手に外傷が全くなく、痛みや精神的苦痛にとどまった場合は「暴行罪」が適用されます。一方、その一撃により打撲、切り傷、骨折といった身体的な損傷が生じた場合、あるいは精神的なショックからPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症するなど、健康状態が悪化したと診断された場合は「傷害罪」が適用されます。暴行の結果として人の生理機能に障害を生じさせた場合に傷害罪となる、というイメージです。

この違いは、警察や検察の捜査において、特に被害者からの「診断書」の提出があるかどうかによって左右されます。診断書が提出され、怪我の事実が確認されれば傷害罪として扱われる可能性が高まり、提出がなければ暴行罪として扱われる傾向にあります。

傷害罪は暴行罪と比較して法定刑が重く、最長で15年の懲役刑または50万円以下の罰金が科される可能性があり、示談金も高額になる傾向があります。そのため、ご自身の行為がどちらに該当する可能性があるのか、また被害者の怪我の状況がどの程度なのかを正確に把握しておくことは、今後の刑事処分や示談交渉を考えるうえで非常に重要です。

 

暴行罪の示談金相場は10万~30万円

被害者の方に目に見える怪我が一切なく、暴行罪にとどまるケースでは、示談金は主に精神的苦痛に対する慰謝料が中心となります。具体的には、相手に恐怖感や不快感を与えたこと、精神的なショックを受けたことへの賠償として、10万円から30万円程度が一般的な水準とされています。

たとえば、軽く押した、胸ぐらを掴んだ、水をかけた、服を引っ張ったといった行為でも暴行罪は成立します。これらの行為によって生じた精神的な損害に対し、この範囲での示談金が提示されることが多いといえます。ただし、行為の態様が執拗であったり、公衆の面前で行われたりするなど、精神的苦痛が大きいと判断される場合には、この目安を超えることもあります。

暴行罪の示談金額を左右する4つの要因

暴行罪における示談金は、一律に決まるものではありません。先ほどの相場はあくまで一般的な目安であり、実際の示談金額は、事件の個別具体的な事情を総合的に考慮したうえで、加害者と被害者との交渉によって決まります。ここでは、示談金の最終的な金額に影響を与える主な4つの要因について見ていきます。

暴行の態様や悪質性

暴行の態様やその悪質性は、示談金額を左右する大きな要因の一つです。加害行為が悪質であると判断されるほど、被害者が受けた精神的苦痛は大きいと評価され、結果として示談金、特に慰謝料が増額される傾向にあります。

悪質性を判断する基準としては、まず「武器の使用の有無」が挙げられます。素手での暴行に比べ、凶器を用いた暴行はより悪質と評価されます。次に「執拗さ・暴行時間の長さ」も重要です。一度の衝動的な行為より、長時間にわたる暴行や、何度も繰り返された暴行の方が重く見られます。また「計画性の有無」も考慮されます。偶発的なトラブルから発生した暴行と、事前に準備した上での暴行とでは、後者の方が悪質とされやすいでしょう。さらに「被害者の抵抗が困難な状況での暴行」も悪質性が高いとみなされます。たとえば、酩酊している相手に対する暴行や、複数人で一人を取り囲んで行う暴行などは、一方的な暴行として厳しく評価されます。

被害者の処罰感情の強さ

被害者が加害者に対して抱く「処罰感情」の強弱は、示談交渉の難しさや示談金額に大きな影響を与えます。被害者の処罰感情が強いほど、示談交渉は難航し、示談金額も高くなる傾向があります。

被害者が「加害者には厳しい処分を望む」という気持ちを強く持っている場合、そもそも示談交渉に応じてもらえない可能性があります。仮に交渉に応じてくれたとしても、相場より高い示談金を求められる場合があります。

このような状況では、被害者の感情を少しでも和らげるために、より丁寧で真摯な謝罪と、被害者の気持ちを尊重した示談金の提示が必要となり、その結果、示談金が高額になることもあります。

一方で、加害者の真摯な謝罪を受け入れ、寛大な処分を望む被害者の場合は、交渉が比較的スムーズに進み、示談金額も相場の範囲内に収まる可能性が高くなります。被害者の処罰感情は、加害者側の反省の態度や謝罪の仕方によって変化することも多いため、常に被害者の感情に配慮し、誠実に対応することが大切です。

加害者の反省の態度や社会的状況

加害者側の事情も、示談金額に影響を与える重要な要素です。特に、事件後の「反省の態度」は、被害者の感情を左右し、示談交渉の成否や金額に影響を与えます。

事件後、加害者が速やかに被害者に対して謝罪し、深く反省している態度を示すことは、被害者の怒りや不信感を和らげ、示談交渉に応じてもらいやすくする効果があります。このような姿勢は、最終的な示談金額を抑える方向に働くこともあります。また、誠意ある反省の態度は、被害者だけでなく、警察や検察といった捜査機関に対しても良い印象を与え、刑事処分において有利に評価されることがあります。

また、加害者の「支払い能力(資力)」や「社会的地位」が考慮される場面もあります。医師や公務員、大企業の社員など、社会的地位の高い職業に就いている場合、事件が公になることで仕事や信用に大きな影響が及ぶおそれがあります。そのため、早期の解決を優先するために、一般的な相場より高い示談金を支払って解決を図ることも考えられます。被害者側が、加害者の社会的状況を踏まえた上で、示談金の増額を求めるケースも見られます。

加害者の前科・前歴の有無

加害者に同種の前科や前歴がある場合、示談の重要性は高まり、それに伴って示談金額が増える可能性があります。

前科・前歴とは、過去に刑事処分を受けた経歴を指します。特に同種の犯罪、つまり過去にも暴行罪や傷害罪で有罪になっている場合、検察官は加害者を「再犯のおそれがある」と判断し、起訴に踏み切る可能性が高くなります。

そのような状況で不起訴処分を得るには、被害者との示談成立、とくに被害者が加害者を許すという「宥恕(ゆうじょ)文言」付きの示談が、非常に重要な役割を果たすことがあります。

「何としてでも示談を成立させたい」という加害者側の事情は、交渉において被害者側を有利な立場に置くことになり、その結果、通常より高い示談金を要求されることがあります。前科・前歴がある場合には、示談成立が特に重要になる分、示談金額が高くなる可能性があることも想定しておく必要があります。

なぜ示談が重要?暴行罪で示談を成立させる3つのメリット

暴行事件が起きた場合、示談は単なる金銭的な解決にとどまらず、その後の人生に大きく影響する重要な意味を持ちます。迅速に示談を成立させることは、加害者にとってさまざまな法的メリットをもたらします。刑事手続きの各段階で、示談がどのように有利に働くのかを確認していきましょう。

メリット1:逮捕・勾留を回避し、早期釈放につながる

示談が成立することは、身体拘束からの解放につながる大きなメリットがあります。事件発覚後、早い段階で被害者との間で示談がまとまれば、警察や検察は「逃亡や証拠隠滅のおそれが小さい」と判断しやすくなり、逮捕されず在宅事件として扱われる可能性が高まります。

もしすでに逮捕・勾留されている場合であっても、示談の成立によって状況が改善する場合があります。検察官が勾留請求をしなかったり、裁判官が勾留を認めない、あるいは勾留を取り消すといった判断をする際に、示談の有無が考慮されることがあるためです。これにより、早期に釈放され、社会生活への影響を最小限に抑えられる可能性があります。

メリット2:不起訴処分となり前科がつくのを防げる

示談を成立させることの大きなメリットの一つが、「前科の回避」です。暴行罪は親告罪ではありませんが、検察官が起訴か不起訴かを判断する際に、示談の有無、とくに被害者が加害者を許すという意思表示である「宥恕文言(ゆうじょもんごん)」の有無は重要な材料となります。

示談が成立し、被害届が取り下げられ、さらに被害者からの宥恕の意思が確認できた場合、検察官は「必ずしも起訴する必要はない」と判断し、「不起訴処分(起訴猶予)」とする可能性が高まります。不起訴処分となれば刑事裁判を受ける必要はなく、前科がつくことを避けることができます。前科は就職や資格取得、海外渡航などに影響し得るため、この点は非常に重要です。

メリット3:起訴されても刑が軽くなる可能性が高まる

示談が成立していても起訴された場合、示談は裁判において有利な情状として評価されます。被害者への謝罪と賠償が済んでいるという事実は、加害者が自身の行為を反省していることを示す材料となるためです。

このような事情が裁判所で考慮されれば、判決が罰金刑にとどまったり、懲役刑であっても執行猶予が付されたりするなど、刑が比較的軽くなる可能性が高まります。示談は、起訴後の刑事裁判においても、加害者を守るための重要な要素となります。

暴行事件の示談交渉を成功させる流れ

暴行事件を起こしてしまい、示談による解決を目指す場合、具体的な交渉の進め方や成功させるためのポイントをあらかじめ知っておくことは大きな助けになります。示談交渉は、感情面と法律面が複雑に絡み合うデリケートな手続きであり、適切な手順と対応が欠かせません。ここでは、示談交渉の全体的な流れと、交渉を有利に進めるためのポイントを順番に整理していきます。

まず示談交渉の基本的な流れをステップごとに確認し、そのうえで、交渉を成功に導くための実践的なコツを深掘りしていきます。これらを参考に、冷静かつ効果的に示談を進め、より良い解決を目指すことが重要です。

ステップ1:弁護士に依頼し、被害者の連絡先を入手する

示談交渉を始めるための最初のステップは、弁護士に依頼し、被害者の連絡先を入手することです。原則として、加害者本人が警察や検察に対して被害者の連絡先を尋ねても、個人情報保護の観点から教えてもらうことはできません。

しかし、弁護士が受任した上で検察官を通じて被害者に示談の意向を伝え、被害者から交渉を許可する旨の同意が得られれば、弁護士に対して連絡先が開示されることがあります。この段階で弁護士に依頼することが、示談交渉のスタートラインに立つために重要な役割を果たします。

ステップ2:弁護士を通じて謝罪と示談を申し入れる

被害者の連絡先を入手できたら、弁護士が加害者の代理人として被害者に連絡を取ります。この初期の連絡で特に大切なのは、加害者本人の反省と謝罪の気持ちを丁寧に伝えることです。弁護士は代理人として、被害者が受けた精神的・肉体的苦痛に対する深い反省と謝罪の意を伝えたうえで、損害賠償について話し合い、示談による解決を目指したい旨を申し入れます。この段階での対応は、その後の示談交渉全体の雰囲気や進行に影響しやすいため、弁護士による丁寧な対応が非常に重要になります。

ステップ3:示談金額や示談条件について交渉する

被害者が示談交渉に応じる姿勢を示した場合、具体的な示談金額やその他の条件についての話し合いが始まります。弁護士は、過去の裁判例や類似事件の示談状況、今回の事件における被害の内容(怪我の有無、治療期間、精神的苦痛の程度など)を総合的に検討し、適切と考えられる示談金額を被害者側に提示します。

金額だけでなく、示談金の支払い方法(一括払いか分割払いか)、支払い時期、被害届の取り下げ、加害者を許す旨の「宥恕(ゆうじょ)文言」の記載など、示談書に盛り込むべき具体的な条件についても、被害者側の意向を確認しながら話し合いを進めていきます。

ステップ4:示談書を作成し、署名・捺印する

交渉がまとまり、双方が合意に至ったら、その内容を文書にまとめた「示談書」を作成します。示談書には、事件の特定に関する情報、合意した示談金額、支払い条件、被害届の取り下げの意思表示、将来にわたって追加の請求をしないことを確認する「清算条項」、加害者を許し刑事処分を望まない趣旨の宥恕文言など、重要な事項を漏れなく記載する必要があります。

弁護士が作成した示談書に加害者と被害者が署名・捺印することで、合意内容が法的に確定し、後日のトラブルや認識の違いを防ぐことができます。また、この示談書は刑事処分に影響を与えるうえでも重要な資料となります。

ステップ5:示談金を支払い、警察や検察に示談成立を報告する

示談書が作成され、合意内容が固まったら、示談書で取り決めた期日までに、加害者は指定された方法で示談金を被害者に支払います。示談金の支払いが完了したことを確認したうえで、弁護士は示談書の写しを警察や検察などの捜査機関に提出し、示談が成立したことを報告します。

この報告によって、初めて示談成立が捜査機関の判断材料として正式に考慮されることになります。不起訴処分や刑の減軽といった刑事処分への影響を期待する場合には、この示談成立の報告は非常に重要な手続きです。

示談交渉を有利に進める3つのコツ

コツ1:事件後、できるだけ早く誠意ある謝罪を行う

暴行事件が起きた場合、何よりも「スピード」と「誠意」を持って謝罪することが重要です。事件発生から時間が経過するほど、被害者の処罰感情が強くなりやすく、示談に応じてもらうこと自体が難しくなる傾向があります。

そのため、できるだけ早い段階で弁護士に相談し、弁護士を通じて被害者の方に真摯な反省と謝罪の意を伝えることが、示談交渉のスタートとして重要です。形式的な謝罪ではなく、反省の気持ちが伝わる対応を心がけることが、信頼関係の構築につながります。

コツ2:当事者同士の直接交渉は避ける

加害者本人が被害者と直接連絡を取り、示談交渉を進めようとすることは、基本的に避けた方が安心です。当事者同士では感情的になりやすく、冷静な話し合いが難しくなるだけでなく、加害者からの連絡が被害者にとって「圧力」や「脅し」と受け取られるおそれもあります。その結果、示談交渉自体を拒否されてしまう可能性もあります。

弁護士という第三者を介して交渉を進めることで、双方にとって安全で客観的な話し合いがしやすくなります。感情的な対立を避け、建設的な解決を目指すためにも、弁護士を通じてやり取りを行うことが望ましいといえます。

コツ3:起訴・不起訴が決まるまでの時間的な制約を意識する

示談交渉を進めるうえで、意識しておきたいのが「時間的な制約」の存在です。示談の大きな目的の一つである「不起訴処分」の獲得は、検察官が起訴・不起訴の判断を行う前までに示談が成立しているかどうかがポイントになります。

逮捕されている事件では、検察官が勾留を請求できる期間は最長で23日間となっており、その間に示談交渉を進めていく必要があります。示談がまとまらないまま起訴されてしまうと、刑事裁判を受けることになり、前科が付く可能性が高まります。そのため、事件発生後は、できるだけ早く弁護士に相談し、迅速に行動を始めることが重要です。

暴行罪の示談は弁護士に依頼すべき?費用とメリットを解説

暴行事件を起こしてしまい、被害者との示談を考えている方にとって、示談交渉を自力で進めることは、現実的には難しい場合が少なくありません。当事者間での交渉は感情的になりやすく、話がこじれてしまったり、かえって状況が悪化してしまったりするおそれがあります。

このような場面で、専門家である弁護士に依頼することは、費用がかかる一方で、それ以上のメリットを得られる可能性が高く、結果として迅速かつ適切な解決につながることが期待できます。

弁護士に依頼する4つのメリット

被害者の連絡先を入手し、交渉のテーブルにつける

暴行事件における示談交渉では、被害者の連絡先を入手できるかどうかが最初の大きなハードルです。警察や検察などの捜査機関は、被害者の安全確保やプライバシー保護の観点から、加害者本人に被害者の連絡先を教えることはありません。

しかし、弁護士が介入することで、検察官を通じて被害者に示談の意向を伝え、同意が得られれば、弁護士に連絡先が開示される可能性があります。弁護士がいなければ、示談交渉のスタートラインに立つこと自体が難しいケースも多く、弁護士は加害者と被害者との間に立って交渉の道筋を作る重要な役割を担っています。

感情的な対立を避け、冷静な交渉を進められる

暴行事件の当事者同士が直接交渉しようとすると、双方の感情が先行してしまい、冷静な話し合いが難しくなることが多くあります。加害者は罪悪感から必要以上に謝罪してしまったり、逆に被害者の態度に反発してしまったりすることがあります。被害者側も、恐怖や怒りから交渉自体を拒んだり、不当に高額な金額を求めたりする可能性があります。

弁護士が代理人として間に入る場合、第三者の立場から、感情に流されない冷静な交渉が可能になります。弁護士は、法的な観点から事案を整理し、双方にとって無理のない解決策を提案することで、感情的な対立が悪化することを防ぎながら話し合いを進めていきます。

適正な示談金額での解決が期待できる

示談金の金額は、事件の状況や被害の程度によって大きく異なります。なかには、加害者に対する処罰感情から、相場を大きく上回る高額な示談金を求めるケースもあります。加害者側が示談金の相場を知らない場合、提示された金額が妥当かどうか判断できず、結果として必要以上の金額を支払ってしまうおそれもあります。

弁護士は、過去の裁判例や類似の示談事例、法律上の損害賠償の考え方などを踏まえて、適正な示談金の目安を算定することができます。そして、その根拠を示しながら被害者側と交渉することで、加害者が不当に大きな負担を負うことを避け、適切な金額での解決を目指すことができます。

法的に有効な示談書を作成し、後のトラブルを防止できる

示談交渉がまとまり、口頭では合意していたとしても、その内容をあいまいなままにしておくと、後になって「言った・言わない」のトラブルが生じるおそれがあります。特に当事者だけで示談書を作成した場合、法的に必要な条項が抜けていたり、表現が不明瞭であったりして、十分な効力を発揮しないケースも少なくありません。その結果、後から追加の請求を受けるなど、紛争が再燃してしまう可能性もあります。

弁護士に依頼すれば、合意内容を正確かつ明確に示した示談書を作成してもらうことができます。清算条項(本示談書に定める以外の債権債務が存在しないことを確認する条項)や、宥恕文言(被害者が加害者を許し、刑事処分を望まない旨を示す条項)など、後のトラブルを防ぐために重要な条項も、漏れなく盛り込むことができます。これにより、事件が「蒸し返される」不安を抑え、安心して日常生活に戻りやすくなります。

弁護士費用の目安

弁護士に示談交渉を依頼する場合には、費用についても事前に確認しておくことが大切です。弁護士費用は、一般的に「相談料」「着手金」「成功報酬金」の3つから構成されることが多くなっています。

相談料は、初めて弁護士に相談する際にかかる費用で、1時間あたり5,000円〜1万円程度が一つの目安ですが、初回相談を無料としている法律事務所も多くあります。着手金は、弁護士が事件に取りかかる際に支払う費用で、結果にかかわらず返還されないのが原則です。

暴行事件の示談交渉の場合、30万円〜50万円程度を目安としている事務所もあります。成功報酬金は、示談成立や不起訴処分の獲得など、依頼した目的が達成された場合に支払うもので、20万円〜50万円程度が一つの目安とされています。

これらはあくまで一般的な目安であり、事件の内容や交渉の難易度、法律事務所ごとの報酬基準によって金額は変わります。そのため、弁護士に依頼する際は、事前に費用の見積もりを確認し、料金体系や支払い方法などについて十分な説明を受けておくことが大切です。

 

暴行罪の示談に関するよくある質問

Q. 示談金の支払いは分割でも可能ですか?

示談金の支払い方法は、原則として一括払いが基本です。被害者としては、早期に金銭を受け取り、事件から気持ちを切り替えたいと考えることが多いためです。そのため、加害者側から分割払いを提案すると、交渉が難しくなったり、示談自体が成立しなかったりする可能性もあります。

もっとも、加害者側の資力の問題などから、一括での支払いが難しい場合には、弁護士を通じて事情を丁寧に説明し、誠意を示すことで、分割払いが認められるケースもあります。

その場合、示談書には分割回数、各回の支払い金額、支払い期日を明確に記載し、さらに支払いが滞った場合の遅延損害金や一括請求の条項など、万一の事態への備えも盛り込むのが一般的です。分割払いが認められたとしても、被害者側には不安が残るため、可能な範囲で頭金を支払うなど、誠実な対応が重要になります。

Q. 被害者が示談に応じてくれない場合はどうすればよいですか?

被害者の処罰感情が非常に強く、弁護士を通じて真摯な謝罪や賠償の申し入れをしても、示談に応じてもらえないケースも現実には存在します。示談が成立しない場合でも、加害者の反省の気持ちや被害回復に向けた努力を、検察官や裁判官に伝えるための別の手段を検討することが大切です。

具体的な方法としては、「贖罪寄付(しょくざいきふ)」や、法務局への「供託(きょうたく)」が挙げられます。贖罪寄付とは、犯罪被害者支援団体などに対する寄付であり、示談金として直接被害者にお渡しするものではありませんが、反省の気持ちを具体的な行動で示すものとして、刑事手続き上、有利な事情として評価される可能性があります。

供託とは、示談金相当額を法務局に預ける制度で、被害者が示談金の受け取りを拒んでいる場合に、加害者側が支払う意思を示す手段となります。これらの方法は示談成立と同じ効果までは期待できませんが、加害者の反省や被害弁償の意思を示すうえで、有益な手段となり得ます。

Q. 示談しないとどうなりますか?逮捕や起訴の可能性は?

暴行事件において示談が成立しない場合、逮捕や起訴のリスクが高まる可能性があります。示談は、民事上の損害賠償問題を解決するだけでなく、被害者の処罰感情を和らげ、加害者の反省の姿勢を示す大きな要素です。

被害者の処罰感情が強い状態が続くと、警察や検察は「反省が十分ではない」「被害回復の努力が不十分」と判断しやすくなります。その結果、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断され、逮捕・勾留が選択される可能性も出てきます。

また、起訴・不起訴を判断する段階でも、被害届が取り下げられていない、あるいは宥恕文言が得られていない場合には、検察官が起訴に踏み切る可能性が高くなります。

起訴されれば、刑事裁判を受け、有罪判決が出れば前科がつくことになります。このように、示談の有無は、その後の刑事手続きや今後の生活に大きな影響を与える重要な要素であることを理解しておくことが大切です。

まとめ|暴行罪の示談は早期の弁護士相談が解決の鍵

暴行事件を起こしてしまい、前科を避けつつ円満な解決を目指したい場合、示談の成否はその後の人生に大きな影響を及ぼします。示談金の相場は、被害の程度、とくに怪我の有無や内容によって大きく変動しますが、金額だけでなく、示談を成立させることで刑事処分が軽くなったり、前科がつくリスクを抑えられたりする点が非常に重要です。

示談交渉は、感情面と法律面の両方を考慮しなければならないデリケートな手続きであり、迅速な対応も求められます。加害者ご自身で被害者と直接交渉を行うと、感情的な対立を招いたり、適切でない示談金額を提示してしまったりして、かえって事態が悪化するおそれもあります。また、被害者の連絡先を入手すること自体が難しいため、当事者だけで解決に導くのは容易ではありません。

そのため、暴行事件が起きてしまった場合には、できるだけ早く刑事事件に詳しい弁護士に相談することが、適切な解決への近道といえます。弁護士は、被害者の連絡先の確認、示談金額の検討・交渉、法的に有効な示談書の作成、警察や検察への報告まで、一連の示談交渉を専門的な立場からサポートします。これにより、加害者側の精神的な負担を軽減しつつ、適正な条件での示談成立を目指し、早期の社会復帰と平穏な日常を取り戻すことが期待できます。

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