暴行罪の被害を受けた場合、訴えたいときにすべきこと

暴行罪の被害を受けた場合、訴えたいときにすべきこと

2020年07月12日

1 暴行罪の訴え方(刑事、民事)

暴力行為の被害を受けた場合、被害者としては当然、加害者のことを訴えたいと思うでしょう。

加害者を訴える方法としては刑事手続での訴えと、民事手続での訴えの二種類があります。

刑事手続での訴えとは、被害者が警察などの捜査機関に暴力被害を申告し、加害者に対して刑事罰を科すことを求めるものです。

他方、民事手続での訴えとは、被害者が加害者に対して専ら損害賠償として金銭の支払いを求めるものです。

刑事手続での訴えの中で損害賠償の問題も解決できる場合があり、必ず両方の手続が必要になるわけではありません。以下順番にご説明します。

2 暴行事件で慰謝料請求をするにはまずは被害届を

暴行事件の被害者が加害者に対して慰謝料請求をしたい場合、まずは警察に被害届を出します。

被害届を出すことによって、警察による捜査が始まります。現場検証、防犯カメラ映像の精査、被疑者の取り調べなど一連の捜査によって暴行罪の証拠が収集されます。

慰謝料請求をする場合にも加害者による暴行があったことの立証が必要となりますので、警察による強力な捜査権の行使によって、十分な証拠を集めてもらうのです。

ですから、たとえ慰謝料などの金銭的賠償にしか関心がなく、加害者に対して刑事罰を与えることには関心がないという場合も、被害届を出します。

3 暴行事件の被害届を出す流れ

⑴ 嘘の被害届はやめましょう

暴行の被害を受けたらその場で加害者を逮捕(私人逮捕)し、警察に通報し、警察が来るのを待ちます。そして、そのまま警察の指示に従って警察署で被害届を作成することになります。

犯人がその場を逃げてしまった場合にも直ちに警察に連絡することが重要です。

なお、被疑者と被害者の認識に多少の差異があり、被害者の話と被疑者の話が多少食い違うことはよくあることです。

もっとも、明らかに暴行被害が無いにも関わらず、加害者を陥れようと被害を訴えた場合、虚偽告訴罪に問われるおそれがありますので、嘘の被害届を出してはいけません。

⑵ 暴行罪の被害届はいつまでに警察に出せば良いのか。期限はあるのか

暴行罪の公訴時効は3年です。そのため、被害を受けてから3年以内に被害届を出せば良いのではないかとも思えます。

しかし、防犯カメラ映像を始めとする物的証拠は時間とともに失われますし、被害者や目撃者の記憶も時間とともに薄れていってしまいます。

ですから、暴行事件の発生から相当時間が経った後に被害届を出そうとした場合、被害届の受理を警察が断ってくる可能性があります。

したがって、被害届は事件直後に出すことが重要です。

⑶ 警察が動かないときは、告訴状を出しましょう(刑事告訴)

被害届を出そうとしたところ、証拠を得られる見込みが薄い、あるいは故意の暴力行為であるのか疑わしいといった場合、警察が被害届を受理してくれないことがあります。

もちろん警察のリソースも有限ですから、被害を訴えればどんなケースでも全力で捜査をしなければならないことになりますと、キャパオーバーになってしまいます。

ですが被害に遭ったことは疑いない場合には証拠を保全してもらうためにも警察に動いてもらう必要があります。

それにもかかわらず警察が被害届を受理してくれない、あるいは被害届は受理してくれたものの警察が動かないときは、告訴状を出して刑事告訴することを検討します。

告訴のあった事件については特に速やかに捜査をしなければならないという決まりがあるからです。

4 刑事手続の中で損害賠償を受けられることがあります

被害届を出し、被疑者に対する捜査が始まると、被疑者に弁護人(弁護士)が付くことがあります。

そうすると通常、弁護士から示談の申し入れがあります。示談の申し入れとは要するに、示談金として慰謝料などの損害賠償をするから、許してもらいたい(刑事罰は求めないと表明してもらいたい)ということです。

この示談交渉の申し入れがあったときは、被疑者の弁護士と協議して、納得のできる示談金の提示があれば示談をすることで、損害賠償を受けることができます。

後に説明します民事手続での損害賠償請求は手間も時間もお金もかかりますので、示談ができるのであれば、示談によって損害賠償を受けることをお勧めします。

5 暴行罪で不起訴になったら、民事で慰謝料請求はできないのか

警察、検察が捜査を尽くしたものの、検察官が起訴処分とはせず不起訴処分とすることがあります。つまり裁判にはならず、有罪も無罪も確定しないということです。

不起訴処分となるケースには二つあります。

一つは、被疑者が暴行を認めているものの、暴行の程度が軽微である、被疑者が反省している、前科が無いなど諸々の事情を考慮して、検察官が起訴猶予処分とするケースです。

もう一つは、被疑者が暴行を否認しており、捜査を尽くしたものの十分な証拠を集められなかったというケース、嫌疑が不十分なために不起訴処分となるケースです。

前者の場合には、起訴処分とはならなかったものの被疑者は犯行を自白していますから、民事訴訟で慰謝料請求をした場合、慰謝料の支払いを命じる判決を得られる可能性が高いです。

問題は後者の場合です。刑事罰という重い制裁を科すためには犯行が間違いないと言えるだけの十分な証拠が必要となります。他方、民事手続では刑事手続よりも必要とされる証明の程度は若干低くなっています。

そのため、刑事手続では犯行を証明できないと検察官が判断し、不起訴処分としたケースであっても、民事訴訟では暴行の事実が認定され、損害賠償を命じる判決を得られる可能性があります。

したがって、後者の場合であっても、刑事罰を科すほどの証明は難しくとも、損害賠償を認めさせるほどの証拠がある場合には、慰謝料請求はできるということになります。

6 暴行事件を民事訴訟で訴えるには(損害賠償請求)

⑴ 暴行罪の民事訴訟の費用

民事訴訟を起こす場合の費用には、裁判所に納める費用と弁護士費用があります。

裁判所に納める費用は印紙代と郵券代があり、郵券代は5000円ほどですが、印紙代は請求金額によって異なり、例えば、100万円を請求する場合は1万円です。

弁護士費用については、法律事務所によって費用体系は異なりますが、請求金額や裁判で認容される損害賠償金額の見込金額によって設定されます。

後でご説明しますが、暴行罪の場合、損害賠償額はさほど高額にはなりませんので、弁護士は概ね30~40万円ほどでしょう。

⑵ 裁判で慰謝料はいくら取れる? 損害賠償の相場は?

暴行罪は、傷害結果に至らない程度の暴行ですから、慰謝料も高額にはなりません。

過去の裁判例では、慰謝料は数万円から高くても30万円となっています。

このように慰謝料額は高額にはなりませんので、弁護士を付けて民事で訴えると費用倒れになる可能性が高いといえます。

ですから、暴行罪で損害賠償を受けるには、刑事事件の中で示談をする方が良いということになります。

⑶ 治療費の請求

打撲などの診断を受けている場合であっても診断書を警察に出さなければ傷害罪ではなく暴行罪として扱われることになります。

ですから、暴行事件であっても必ずしも怪我をしていないというわけではありません。

そして怪我をして診察、治療を受けた場合には治療費が発生しますので、これを被害者は加害者に対して請求することが可能です。

⑷ 健康保険は使えるのか?

他人から暴行を受けた場合も健康保険を使って診察、治療を受けることができます。

この場合、自己負担(通常は3割)は自費で医療機関に支払いますので、その支払い分を加害者に請求します。

そして、残りの7割については後日、保険者(市町村等)が加害者に対して請求することになります。

⑸ 慰謝料のほかに弁護士費用も請求できるのか

暴力行為の被害を受けた者としては本来支出する必要のなかった弁護士費用を支出しているわけですから、その全額を加害者に負担させたいと考えるでしょう。

もっとも、民事訴訟は弁護士に依頼せずとも被害者本人でも制度上は、起こすことができます。

そのため、弁護士に依頼することは必須ではないことから、弁護士に依頼をしたのは被害者の判断だということで、その全額については暴行との因果関係のある損害とは認められません。

概ね裁判所が認容した損害賠償額の1割にあたる金額が弁護士費用分として認められています。

例えば、裁判所が認容した損害賠償額が20万円であれば、2万円が弁護士費用分の損害として認められるということです。

7 暴行事件の被害者から慰謝料等の請求を受けたときは弁護士へ相談を

以上、暴行事件の被害者がとるべき行動についてご説明しました。

暴行事件、傷害事件の加害者となって被害者から慰謝料等の請求を受けた、あるいは刑事手続の中で被害者と示談をしたいという場合は、刑事事件の経験が豊富な弁護士にご相談ください。

この記事を書いたのは

代表弁護士春田 藤麿
愛知県弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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