中皮腫は労災になる?補償内容は?専門家が解説

2024年04月29日

中皮腫は労災になる?補償内容は?専門家が解説

中皮腫について何らかの補償は受けられるだろうか
どのような補償が受けられるのか知りたい
補償を受けるための請求のポイントを知りたい

中皮腫の大半の原因はアスベストですが、潜伏期間の長さゆえにアスベストの原因について本人も医師も気が付かないケースがしばしばあり、適切な補償を受けていない被害者がおられます。

アスベストによって中皮腫にかかった被害者への補償制度として石綿健康被害救済制度や建設アスベスト給付金制度もありますが、本コラムでは労災保険による補償について説明します。

中皮腫で労災の補償を受けるには?

中皮腫とは胸膜、心膜など内臓を覆う膜の表面を覆う中皮にできる悪性腫瘍です。そのうち8割ほどが胸膜中皮腫、2割ほどが腹膜中皮腫、残りがその他の部位からの発症です。

中皮腫の潜伏期間は10年から50年と言われており、かつて石綿ばく露作業に従事していた方が近時発症しているケースが増えています。中皮腫の7割、8割は石綿へのばく露が原因と言われています。ごく少量のばく露であっても発症する可能性があります。

非常に稀なガンで、アスベストが唯一知られている原因ですが、専門ではない医師によるとアスベストが原因であることを否定されたり、そもそもアスベストの原因について気が付かないケースも多くあるようです。

中皮腫は早期発見が困難なガンで、病状がかなり進行した段階で見つかることが多く、根治手術が困難で、現状、生存率が高くない状況にあります。

中皮腫は労災保険の対象疾病です。まずは認定基準については下記リンク先の「石綿による疾病の労災認定」をご確認ください。

労災認定を受けるためには中皮腫と石綿ばく露作業との因果関係を証明することが必要です。

しかし、長期の潜伏期間ゆえに、かつての作業内容を証明する資料や証言できる同僚を確保することが困難なケースがあります。労災認定を受ける可能性を高めるために専門の弁護士の協力を得ることをお勧めします。

なお、アスベストに関する労災認定には他の疾病・負傷よりも調査に時間を要し、決定までに申請後3か月から半年ほどの時間がかかります。

中皮腫で受けられる労災の補償内容

中皮腫について労災認定を受けられた場合に支給される主な補償は下記のとおりです。以下各補償について順に説明します。

療養補償給付
休業補償給付
障害補償給付
傷病補償年金
介護補償給付
遺族補償給付
葬祭料

療養補償給付

療養補償給付として、医療、医療費が支給されます。

労災病院や労災保険指定医療機関であれば窓口での自己負担分の支払いは不要ですし(療養の給付)、それ以外の医療機関を受診した場合は、窓口で支払った自己負担分の金額を後日、労働基準監督署に請求できます(療養の費用の支給)。

また、通院交通費も支給されます。通常は住所地や勤務地から2㎞以内の医療機関への通院であることが条件ですが、中皮腫は専門の医療機関が少ないためこのそれ以上の距離の医療機関でも通院交通費が支給されます。

【請求権の時効】
療養の費用の支給については支出した日の翌日から2年

休業補償給付

中皮腫のために仕事を休んだ場合、休業の第4日目から休業補償給付と休業特別支給金が支給されます。

第3日目までを待機期間といいます。この待機期間については雇用者において平均賃金日額(計算は下記給付基礎日額と同じ。)の60%を休業補償として支払う義務があります。

会社の倒産などによって待機期間中の休業補償を受けられない場合、休業補償特別援護金を受けられる可能性があります。

【支給金額】
休業補償給付=(給付基礎日額の60%)×休業日数
休業特別支給金=(給付基礎日額の20%)×休業日数

上記給付基礎日額とは、事故発生日、医師の診断によって疾病の発生が確定した日(賃金締切日が定められているときは直前の賃金締切日)の直前3か月間に、自身に支払われた賃金の総額(ボーナスや臨時に支払われる賃金を除く)を、その3か月間の暦日数で割った1日当たりの賃金額をいいます。

継続して働くことで稼得能力は通常上昇します。そこで、算定事由発生日の属する年度の翌々年度の8月以後の分として支給される給付については、給付基礎日額に毎年公表される所定のスライド率を乗じた金額で算定されます。また、療養開始後1年6か月を経過した場合は、年齢階層別の最低・最高限度額が適用されます。

アスベストによる疾病の場合、石綿にさらされる作業に従事していた当時の賃金に所定のスライド率を乗じて給付基礎日額や平均賃金日額を算出します。

【請求権の時効】
賃金の支払いを受けなかった日の翌日から2年

障害補償給付

中皮腫によって一定の障害が残った場合、障害補償給付が支給されます。

【支給金額】
下記表のとおり障害等級(労働者災害補償保険法施行規則の別表第一)によって支給内容が決まります。

年金は支給要件に該当することになった翌月分から支給され、2月、4月、6月、8月、10月、12月に各2か月分が支給されます。なお、1回に限って所定の年金額の前払いを受けられる障害補償年金前払一時金という制度もあります。
障害補償給付

【請求権の時効】
症状固定日の翌日から5年

傷病補償年金

療養開始から1年6か月を経過しても中皮腫が治ゆ(症状固定)せず、かつ傷病等級(労働者災害補償保険法施行規則の別表第二)の第1級から第3級のいずれかに該当する場合、傷病補償年金、傷病特別支給金、傷病特別年金が支給されます。

傷病補償年金が支給されると休業補償給付は支給されなくなります。

傷病補償年金の支給を受けるのに特に請求手続は不要で、労働基準監督署長の職権で支給決定がなされます。ただし、療養開始後1年6か月を経過しても中皮腫が治っていないときは、その後1か月以内に「傷病の状態等に関する届」を労働基準監督署長に提出しなければなりません。

【支給金額】
下記表のとおり支給内容が決まります。年金は支給要件に該当することになった翌月分から支給され、2月、4月、6月、8月、10月、12月に各2か月分が支給されます。
傷病補償年金

上記算定基礎日額とは、事故発生日、医師の診断によって疾病の発生が確定した日以前の1年間に自身に支払われた特別給与(賞与など3か月を超える期間ごとに支払われる賃金です。臨時に支払われた賃金は含みません。)の総額(算定基礎年額)を365で割った金額といいます。

ただし、特別給与の総額が給付基礎年額(給付基礎日額×365)の20%を上回る場合は、給付基礎年額の20%を算定基礎年額とします(上限は150万円)。

介護補償給付

障害補償年金又は傷病補償年金の受給者で、常時介護又は随時介護(労働者災害補償保険法施行規則別表第三)を要する状態にあり、かつ現に介護を受けている場合(病院や介護施設に入院・入所している期間は除く。)、介護補償給付が支給されます。

支給金額は下記のとおりです。
介護補償給付

【請求権の時効】
介護を受けた月の翌月1日から2年

中皮腫で遺族が受けられる労災の補償

次に、中皮腫に罹患した方が死亡した場合にその遺族が受けられる遺族補償給付(遺族補償年金と遺族補償一時金)及び葬祭料について説明します。

なお、これらの補償が時効にかかってしまい遺族が請求できなかった場合、その代わりに石綿健康被害救済制度の特別遺族給付金の請求ができる可能性がありますのでご確認ください。

遺族補償年金

遺族補償年金の受給権者や支給金額については以下のとおりです。なお、障害補償年金と同様に1回に限って遺族補償年金の一定額を前払いで支給されることのできる遺族補償年金前払一時金という制度があります。

【受給権者】
被害者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していた、配偶者(事実婚を含む。)、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹です。

妻以外の遺族は年齢や一定の障害が要件となっており整理すると下記①~⑩のとおりです(①が最先順位)。

①妻又は60歳以上か一定障害の夫
②18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の子
③60歳以上か一定障害の父母
④18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の孫
⑤60歳以上か一定障害の祖父母
⑥18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか60歳以上又は一定障害の兄弟姉妹
⑦55歳以上60歳未満の夫
⑧55歳以上60歳未満の父母
⑨55歳以上60歳未満の祖父母
⑩55歳以上60歳未満の兄弟姉妹

※⑦~⑩は60歳になるまでは支給されません(若年停止)
※一定の障害とは労働者災害補償保険法施行規則第15条に定める障害です。
※死亡時に胎児だった場合、生まれたときから受給資格者になります。

※下記理由によって先順位者が受給権を失うと次順位者が受給権者となります(転給)。
(1)死亡したとき
(2)婚姻をしたとき(事実婚を含む。)
(3)直系血族又は直系姻族以外の者の養子となったとき(事実上の養子縁組を含む。)
(4)離縁によって、死亡した労働者との親族関係が終了したとき
(5)子、孫又は兄弟姉妹については、18歳に達する日以後の最初の3月31日が終了したとき(被災労働者の死亡の時から引き続き一定障害の状態にあるときを除く。)
(6)一定障害の状態にある夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹については、その事情がなくなったとき

【支給金額】
遺族補償年金に加え、遺族特別支給金と遺族特別年金が支給されます。

下記の表のとおり、遺族数(受給権者及び受給権者と生計を同じくしている受給資格者の数)に従って支給額が決まります。

もし受給権者が2人以上いる場合は、支給額をその人数で等分した金額が各自に支給されます。やむを得ない事情がない限りは、そのうちの1名が代表者として年金の請求と受領を行います。
遺族補償年金

【請求権の時効】
死亡日の翌日から5年

遺族補償一時金

遺族補償一時金は、被害者の死亡時に遺族補償年金の受給権者がいない場合、又は受給権者がすべて失権し、かつそれまでに支給された年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たない場合に支給されます。

【受給権者】
受給権者は下記①~④のとおりです。①の配偶者が最先順位で、②~③は先に記載の者が優先します。

①配偶者
②被害者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた子・父母・孫・祖父母
③その他の子・父母・孫・祖父母
④兄弟姉妹

【支給金額】
遺族補償一時金に加え、遺族特別支給金、遺族特別一時金が支給されます。支給金額は下記の表のとおりです。
遺族補償一時金

【請求権の時効】
死亡日の翌日から5年

葬祭料

葬祭料は、葬祭を行う者に支給されます。支給金額は下記のとおりです。

①315,000円+給付基礎日額の30日分
②①の額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は給付基礎日額の60日分
【請求権の時効】
死亡日の翌日から2年

労災以外の補償については下記コラムもご覧ください。

まとめ

以上、労災保険による中皮腫の被害者への補償について説明しました。

アスベストによる被害について労災認定を受けるためには、過去の石綿暴露作業への従事を証明できることがポイントとなります。

十分な証明によって労災認定を受けるためには、アスベスト被害への補償に詳しい弁護士に無料でご相談ください。

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