アスベスト被害で賠償を受けられる?金額や方法は?専門家が解説

最終更新日: 2024年05月09日

アスベスト被害で賠償を受けられる?金額や方法は?専門家が解説

アスベストによる疾病を賠償してもらいたい
建設アスベスト給付金制度を利用できるだろうか
賠償金を請求したいが請求手続に自信がない

何十年も前の仕事が原因でアスベストによる病気を発症して闘病生活を送っている多くの被害者の方がおられます。十分に働くこともできず経済的な不安を抱えている方もおられます。

建設アスベスト給付金制度が令和4年(2022年)1月から施行され、これまでに6000件以上の給付金認定がなされています。同制度によって速やかに多くの被害者に適切な賠償がなされるべきです。

本コラムでは建設アスベスト給付金制度に詳しい弁護士が、同制度による賠償金の要件や請求手続について分かりやすく説明をします。

アスベスト被害に強い弁護士はこちら

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

詳しくはこちら

アスベスト被害への賠償とは?

国が適切に規制権限を行使しなかったことによって、アスベストにさらされる建設工事に従事した人に被害を生じさせたとして最高裁判所は国の責任を認めました。

これを受けて、迅速に被害者への賠償を行うべく令和4年1月から建設アスベスト給付金制度が実施されています。

アスベストの被害には他にも労災保険給付や石綿健康被害救済制度がありますが、いずれも損害賠償とは異なる性質ですから、それらの支給を受けている場合であっても別途に建設アスベスト給付金制度を利用できます。

アスベストの賠償金を請求する要件と請求期限

まずは建設アスベスト給付金による賠償金を請求するための要件とその請求期限について説明します。

請求要件

請求要件は下記①から④です。特に②の一定期間にアスベストにさらされる業務に従事したことの証明が支給を受けられるかどうかの分かれ目となります。

日本国内で石綿にさらされる建設業務(※)に従事していたこと
※土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体の作業、これらの作業の準備作業に係る業務又はこれに付随する業務
上記業務への従事期間が下記期間であること
石綿の吹付け作業に係る建設業務:
昭和47年(1972年)10月1日から昭和50年(1975年)9月30日
一定の屋内作業場で行われた作業に係る建設業務:
昭和50年(1975年)10月1日から平成16年(2004年)9月30日
上記業務によって下記疾病にかかったこと
中皮腫
肺がん
著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
石綿肺(じん肺管理区分が管理2から4又はまたはこれに相当するもの) 
良性石綿胸水
労働者、中小事業主、一人親方、家族従事者であったこと

対象の石綿関連疾病について

対象となっている上記疾病のうち中皮腫の被害は特に深刻です。

中皮腫とは腹膜などにできるガンで、そのほとんどの原因はアスベストと言われています。現状、有効な治療が限られており生存率の低い疾病です。

対象疾病のうち肺がんは、患者が喫煙者ですとタバコが原因と判断されて、アスベストの原因が見落とされるケースが非常に多いようです。過去に建設業務に従事していた方は労災病院などの専門医療機関も受診してみることをお勧めします。

屋内作業について

上記要件に、「一定の屋内作業場で行われた作業」というものがあります。下記職種については一般的に屋内作業のため、屋内作業場で行われた作業に従事していたものと判断されることになってます(下記認定審査会議事録参照)。

【屋内作業】
大工(墨出し、型枠を含む。)、左官、鉄骨工(建築鉄工)、溶接工、ブロック工、軽天工、タイル工、内装工、塗装工、吹付工、はつり、解体工、配管設備工、ダクト工、空調設備工、空調設備撤去工、電工・電気保安工、保温工、エレベーター設置工、自動ドア工、畳工、ガラス工、サッシ工、建具工、清掃・ハウスクリーニング、現場監督、機械工、防災設備工、築炉工

請求期限

建設アスベスト給付金制度で賠償を受けるには下記のとおり請求期限があります。

①石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断日又は石綿肺に係るじん肺管理区分の決定日のうちいずれか遅い日から20年以内
②石綿関連疾病により死亡した日から20年以内
※初日算入、請求期限末日が休日の場合は翌開庁日が期限末日となります。

アスベスト被害への賠償の金額

次は、建設アスベスト給付金制度による賠償金額、その減額事由や金額調整事由、請求権者について説明します。

賠償金額

建設アスベスト給付金制度によるの賠償金額は、下記表のとおり疾病種類、被害者が死亡したか否かによって異なります。

下記表の同一区分に複数回該当したとしても、同じ金額が複数回支給されるわけではありません。例えば、良性石綿胸水で賠償金の支給を受け、その後に著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚になったとしても再度同じ賠償金が支給されることはありません。

しかし、下記表のうち異なる区分に該当することになった場合には追加請求が可能です。例えば、中皮腫で1150万円の賠償金の支給を受けた後に死亡した場合には、遺族は1300万円との差額である150万円の賠償金の追加請求が可能です。
アスベスト給付金

減額となる場合

下記のとおり、肺がんの場合に喫煙習慣があった場合や石綿ばく露の期間が所定の期間より短い場合には賠償金額は減額されます。

肺がんの場合で喫煙習慣があった場合:10%減額
各疾病について所定のばく露期間未満の場合:10%減額
肺がん、石綿肺:10年未満
著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚:3年未満
中皮腫、良性石綿胸水:1年未満

例えば、肺がんの疾病で、喫煙習慣があり、ばく露期間が10年未満の場合、所定の賠償金額に0.9×0.9が乗じられ、19%の減額となります。

なお、請求時に提出された請求書等から確認されない限りは喫煙習慣はなかったものと判断されますが、もし、診療録、健康診断記録等その他の資料から確認された場合には喫煙習慣は有りと判断されます(下記認定審査会議事録参照)。虚偽申告は刑事罰に問われる恐れがありますので、喫煙習慣は正直に申告しなければなりません。

賠償金の支給調整

アスベストの被害に対しては、裁判で賠償を受けたり、勤務先から見舞金を受けたりなど建設アスベスト給付金制度以外にも賠償金を受け取る場合があります。

このような場合に建設アスベスト給付金制度による賠償金を満額支給した場合、賠償金の二重どりになってしまう可能性があります。これを防ぐために既に賠償金を受領している場合には支給調整がなされます。

こちらについても正直に申告をしないと刑事罰に問われる恐れがあります。

請求権者

被害者本人はもちろん建設アスベスト給付金制度で賠償金を請求できます。そして、被害者本人が死亡した場合には、その遺族が請求できます。

ただし、請求できる遺族には優先順位があり、配偶者(事実婚を含む。)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順に優先順位が決まっています。

同順位者が複数人いる場合、例えば、父と母がともに存命の場合、うち一人が代表者として他方のためにも請求をして、受領したときは他方のためにも受領したものとみなされます。

また、建設アスベスト給付金制度で賠償金を請求してから、その認定通知を受けるまでの間に請求者が死亡してしまった場合には当該請求は無効となってしまいます。そして、請求できる遺族がいれば改めて請求し直す必要があります。

近時、1年以上など審査期間が長期になるケースが増えており、その間に請求者が死亡して請求が無効となる事案が発生しており、審査業務の一層の迅速化が求められています。

アスベストの賠償金の請求方法(労災認定ありの場合)

建設アスベスト給付金制度による賠償金の請求は、厚生労働省労働基準局労災管理課へ所定書類を提出して行います。

既に労災保険給付の支給決定を受けている場合には提出書類が簡略化されますので、まずは労災認定を受けている場合の請求方法について説明します。

労災支給決定等情報提供サービス

アスベストの被害について労災保険給付の支給決定又は石綿健康被害救済制度の特別遺族給付金の支給決定を受けている場合、「労災支給決定等情報提供サービス」を利用することができます。

同制度は労災認定の際に実施された調査結果をもとに、建設アスベスト給付金制度の審査に必要となる情報を提供する制度です。これによれば、建設アスベスト給付金制度の請求の際に提出すべき書類を大幅に省略できます。

下記書類を提出して情報提供サービスを申請します。現状、情報の通知を受けるまでに3か月から6か月ほどかかっています。

【必要書類】
①「労災支給決定等情報提供サービス」申請書
②申請者の公的身分証明書のコピー(運転免許証、健康保険の被保険者証、後期高齢者医療被保険者証又はマイナンバーカード)
③住民票の写し(※)
④(申請者が遺族の場合)遺族と被災者との関係がわかる戸籍謄本(※)
※申請前30日以内に発行のもの

情報提供サービスの注意点

労災支給決定等情報提供サービスを申請して、数か月後に提供すべき情報は無いとの通知を受けることがあります。しかし、このような通知を受けたからといって、建設アスベスト給付金制度の利用できないということではありません。

労災認定の要件と建設アスベスト給付金制度の要件は異なりますから、労災認定ではそれに必要な限りでの調査だけがなされています。

例えば、1975年10月1日の前後いずれもアスベストにさらされる業務していたけれども同日以降は労災保険に加入していなかった場合で、同日以前の業務を理由に労災認定されたケースを考えましょう。

この場合、1975年10月1日以降は労災保険に加入していなかったので労災認定の際には調査がなされておらず、建設アスベスト給付金制度の要件を認定するための情報はありません。しかし、同日以降もアスベストにさらされる業務をしていたので建設アスベスト給付金制度の要件に該当する可能性があります。

このように、労災支給決定等情報提供サービスで情報提供を受けられなかったとしても建設アスベスト給付金制度による賠償を受けられないと即断しないよう注意しましょう。

建設アスベスト給付金制度の申請

前記のとおり、労災支給決定等情報提供サービスによる情報提供を受けた場合には建設アスベスト給付金制度の申請書類は大幅に省略できます。必要書類は下記のみです。

【必要書類】
①特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等請求書
②振込を希望する口座の通帳又はキャッシュカードのコピー
③「労災支給決定等情報提供サービス」の通知書のコピー

アスベストの賠償金の請求方法(労災認定なしの場合)

次に通常の請求方法、つまり労保険給付の支給決定も特別遺族給付金の支給決定も受けていない場合の請求方法について説明します。

まずは労災認定の申請?

労災認定の申請ができる場合、まずはその申請をしてその支給決定後に、労災支給決定等情報提供サービスを利用して、その通知結果を利用して建設アスベスト給付金制度による賠償金の請求をする3段階の手続が考えられます。

しかし、労災認定には3か月から6か月ほどの期間を要しますし、情報提供サービスも同程度の期間を要します。このように3段階の手続きをとると建設アスベスト給付金制度による賠償金の支給までに要する期間が長期化します。

そこで、未だ労災認定の申請をしていない方については労災認定の申請と建設アスベスト給付金制度による賠償金の請求を並行して行うことも検討しましょう。なお、もちろん、そもそも労災保険に加入していなかった場合や時効期間を経過している場合には労災認定の余地はありませんので、建設アスベスト給付金制度による賠償金のみを請求します。

建設アスベスト給付金制度の請求

建設アスベスト給付金制度による賠償金の請求にあたり提出する書類は下記のとおりです。

【必要書類】
①特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等請求書
②振込を希望する口座の通帳又はキャッシュカードのコピー
③請求者の住民票の写し(※)
④(請求者が遺族の場合)被災者との関係を示す戸籍謄本(※)
⑤死亡届の記載事項証明書
⑥(決定を受けている場合)労災保険給付や石綿救済法の支給・不支給決定の通知書、じん肺管理区分決定通知書
⑦就業歴等申告書と裏付けとなる資料
⑧医師の診断書(意見書)と診断の根拠資料
※請求前30日以内に発行のもの

建設アスベスト給付金制度で特に重要なのはアスベストにさらされる作業に従事していたことの証明です。上記の就業歴等申告書とその裏付け資料によって証明します。証明方法としては被保険者記録照会回答票と当時の同僚による証言によるケースが多いです。

請求者が遺族の場合に必要となる戸籍謄本

アスベスト給付金戸籍

まとめ

以上、建設アスベスト給付金制度による賠償金の要件や請求手続について説明しました。

建設アスベスト給付金の制度によって賠償を受けるためには、収集し作成する書類が沢山ありますし、過去の就業歴の証明には特に丁寧な対応が必要です。

できる限り速やかに、給付金の支給を受けるためにアスベスト被害の補償に詳しい弁護士に無料でご相談ください。

アスベスト被害に強い弁護士はこちら

アスベストのコラムをもっと読む