痴漢事件を起こすと懲戒処分を受けるのか?
最終更新日: 2021年07月08日
はじめに
今回は、会社員や公務員が痴漢事件の加害者となってしまったとき、痴漢事件で逮捕された事実や、刑事処分を受けた事実を理由に会社から懲戒処分される可能性についてご説明いたします。
痴漢事件は職場に露見してしまうのか
職場から懲戒処分を受ける場合には、職場に痴漢事件が露見していることが前提となりますが、痴漢事件を起こした場合、職場には知られてしまうのでしょうか。
職場に露見するパターンは、
- 逮捕・勾留された場合
- 加害者本人又は家族が職場に正直に話した場合
- 報道された場合
- 警察から職場に連絡が行った場合
です。
逮捕・勾留された場合
逮捕された被疑者は、原則として48時間以内に身柄拘束されたまま検察庁に送致されます。
そして、そこから24時間以内に検察官が裁判官に10日間の被疑者の勾留を請求することとなります。そして、裁判官が被疑者の勾留を決定すると10日間もの間、身柄拘束され、さらに10日間、身柄拘束が延長されることがあります。
このように長期間の身柄拘束がなされると、職場に対して欠勤理由について言い訳ができませんので、正直に痴漢事件について話さざるを得なくなります。
加害者本人又は家族が職場に正直に話した場合
痴漢事件を起こすと警察署に連れていかれ、終日、あるいは数日間、外部との連絡がとれなくなります。
そのため、無断欠勤となり職場に迷惑をかけることを避けるために、逮捕される直前に加害者本人から職場へ痴漢行為で逮捕されたことを連絡したり、加害者から連絡を受けた家族が職場に痴漢行為で逮捕されたことを連絡するケースがあります。
報道された場合
痴漢行為は毎日たくさん発生していますので、報道価値という点で一般の会社員の痴漢事件が報道されることは多くはありません。
他方、公務員の場合は報道されることがよくあります。そして、報道されると職場に知られる可能性が高くなります。
警察から職場に連絡が行った場合
痴漢事件で警察に逮捕されると、担当刑事から職場に電話連絡が行くことがあります。もっとも、会社員の場合は、このように警察から会社に連絡が行くことは稀です。
他方、公務員の場合には警察から職場に連絡が行くことも比較的よくあります。
また、捜査のために職場に連絡が行くこともあります。例えば、同僚との飲み会の後に、泥酔した状態で痴漢行為をしたため、被疑者に痴漢行為の記憶がないというケースの場合、本当に飲んでいたのか、どれくらいの量を飲んでいたのかという事実を捜査するため、同席していた同僚から事情を聴取するべく警察から会社に連絡が行くことがあります。
痴漢事件を起こした会社員は懲戒処分を受けるか
懲戒処分は、会社員に重大な不利益を与える処分ですから、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます(労働契約法15条)。特に懲戒解雇は、労働者としての地位を失う重大な不利益を与える処分のため、慎重な判断が要求されます。
以下、痴漢事件で逮捕された段階と刑事処分を受けた段階のそれぞれについてご説明します。
痴漢事件で逮捕されただけでも懲戒処分を受けるか
痴漢事件で逮捕された場合、逮捕された事実だけでも懲戒処分を受けるのでしょうか。
被疑者は逮捕されたとしても起訴されて、裁判所から有罪判決を受けるまでは、無罪推定の原則により、真に痴漢行為を行ったかどうかは未確定なものとして扱われます。
そのため、会社としても、当該会社員が痴漢行為をしたことを前提に懲戒処分をすることはできません。
ただし、当該会社員が痴漢行為を認めている場合には懲戒処分をすることは許されます。
もっとも、懲戒処分にも戒告から懲戒解雇まで重さに幅があり、有罪判決を受けていない段階での懲戒解雇は違法となる可能性があります。
逮捕されたとしても、その後、被害者と示談が成立したなどの事情によって不起訴処分となる可能性もあります。不起訴処分となった場合、業種や職種にもよりますが、懲戒解雇という一番重い懲戒処分を受ける可能性は低いでしょう。
痴漢事件で有罪判決を受けた場合の懲戒処分
次に、痴漢事件で有罪判決を受けた場合、会社から懲戒解雇処分を受けるのでしょうか。
会社員は、職務と関係のない私生活上の非違行為については、当然に会社から処分を受けるものではないということが原則です。もっとも、裁判例では、会社の社会的評価や企業秩序に重大な影響を与えるような会社員の私生活上の非違行為については、懲戒処分の対象となるとされています。
従業員が痴漢行為という犯罪によって有罪判決を受けた事実は、会社の社会的評価を低下させうるものですから、懲戒処分をすることは許されると考えられます。もっとも、懲戒処分をするかどうかは会社に裁量がありますので、情状によっては懲戒処分を受けない可能性もあるでしょう。
痴漢事件を起こした公務員は懲戒処分を受けるか
公務員は、憲法に「全体の奉仕者」として規定されています。
公務員に対する懲戒処分は、公務員としてふさわしくない非違行為があった場合に、公務員関係の秩序を維持するため科される制裁ですから、懲戒処分を行う処分庁には広範な裁量が認められるというのが一般的な考え方です。
以下、痴漢事件で逮捕された段階と刑事処分を受けた段階のそれぞれについてご説明します。
痴漢事件で逮捕されただけでも懲戒処分を受けるか
会社員の場合と同様に、無罪推定の原則により、裁判所から有罪判決を受けるまでは、真に痴漢行為を行ったかどうかは未確定なものとして扱われます。
そのため、役所としても、当該職員が痴漢行為をしたことを前提に懲戒処分をすることはできません。ただし、当該職員が痴漢行為を認めている場合には懲戒処分をすることは許されます。
痴漢事件で有罪判決を受けた場合の懲戒処分
公務員の場合、人事院が「懲戒処分の指針について」という懲戒処分基準を定めており、地方公務員についても同様の基準が定められています。
この「懲戒処分の指針について」では、「公共の場所又は乗物において痴漢行為をした職員は、停職又は減給とする。」と規定しています。
したがって、痴漢行為をした公務員は、原則として、停職又は減給の懲戒処分を受けることとなります。
公務員は痴漢事件で懲戒免職されることはあるのか
刑事処分が確定した場合には、国家公務員法・地方公務員法に規定されている欠格事由との関係が問題となります。
国家公務員法、地方公務員法は、禁固以上の刑に処せられた者について、公務員の欠格事由として規定しています。
痴漢行為には各都道府県の迷惑防止条例違反となるものと、刑法の強制わいせつ罪となるものがあります。
迷惑防止条例違反の場合、都道府県によって多少異なりますが、罰金刑と懲役刑を定めています。初犯の場合には罰金刑となることがほとんどですから、欠格事由には該当しませんが、2回目、3回目の場合には懲役刑の有罪判決を受け、欠格事由に該当する可能性があります。
他方、刑法の強制わいせつ罪にあたる痴漢行為の場合、罰金刑の定めは無く、初犯であっても起訴処分となって有罪判決を受けると懲役刑となりますので、欠格事由に該当することとなります。
そして欠格事由に該当した公務員は懲戒免職処分を受けることとなります。
痴漢事件を起こした場合に懲戒処分を免れるためには
前記のとおり、職場に痴漢事件が露見したり、有罪判決を受けると懲戒処分を受ける可能性が高くなります。
そのため、懲戒処分を受けないためには、まずは痴漢事件が職場に露見することを回避する必要があります。そのためには、逮捕・勾留されることを回避することが最も重要です。この逮捕・勾留を回避することは報道のリスクを低下させることにもつながります。
次に、有罪判決を受けることを回避するためには、被害者と示談することが最も重要です。痴漢事件の初犯であれば、被害者との間で示談が成立していれば迷惑防止条例違反の場合も、刑法の強制わいせつ罪の場合も不起訴処分となるのが通常です。
このように逮捕・勾留を回避する、被害者と示談交渉をするためには刑事事件の経験豊富な弁護士に相談、依頼することが必須となります。
最後に
以上、痴漢事件を起こした場合の懲戒処分についてご説明しました。
会社員であっても、公務員であっても仕事はとても重要です。もちろん、犯してしまった過ちについてはきちんと償う必要がありますが、家族のためにも仕事を守りたいという気持ちも理解できるところです。
痴漢事件を起こしてしまい、会社に露見することを避けたい、懲戒処分を避けたいという方は、刑事事件の経験豊富な弁護士にご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。