弁護士法人 春田法律事務所

痴漢の時効について

痴漢の時効について

2019年12月06日

はじめに

痴漢事件の多くは現行犯逮捕となりますが、容疑者が逃げてしまった場合や、被害にあった直後には被害届を出すことができなかったという場合があります。

直ぐに犯人が見つかれば良いのですが、防犯カメラの映像からは犯人を特定できなかったという場合には、時効の問題が出てきます。

痴漢の時効が問題になる場合、刑事の時効と民事の時効の2つが問題となります。一つは、公訴時効と言われるもので、もう一つは民事の消滅時効と言われるものです。

今回は、痴漢事件の時効問題についてご説明します。

公訴時効とは?

公訴時効とは、検察官の公訴権(事件を起訴する権限)を消滅させるものです。もしも、痴漢行為に手を染めてしまった場合、いつまでも逮捕されたり、起訴されたりする可能性があるかというとそうではありません。

公訴時効が経過すれば、起訴されることがなくなりますし、逮捕して捜査を行っても起訴されないのであれば意味がないため、警察から逮捕されることもありません。

公訴時効については、刑事訴訟法第250条に定められており、刑の重さによって、時効期間が定められています。

痴漢の公訴時効は?

痴漢の公訴時効は何年?

それでは、痴漢の公訴時効は何年でしょう?

迷惑防止条例違反に該当する痴漢行為の公訴時効は、3年です(刑事訴訟法250条2項6号)。痴漢行為が刑法上の強制わいせつ行為に該当するとなった場合には、公訴時効は7年です(同4号)。

迷惑防止条例違反である痴漢と刑法上の強制わいせつ罪は一体何が違うのでしょうか。

まず、迷惑防止条例が違反行為として禁止するのは「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所又は公共の乗物において、衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること」です(大阪府迷惑防止条例6条1項1号、各都道府県によって規定には差異があります。)。

一方、強制わいせつ罪は、刑法176条に規定があり「13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も同様とする。」と規定されています。行為態様としては、「暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為」をすることです。

「暴行」「脅迫」の程度については、被害者の意思に反してわいせつ行為を行うに足りる程度であればよいと解されています。強制わいせつ罪に該当するわいせつ行為かどうかは、単に女性の衣服の上から陰部・乳房等に触れるだけではなく、衣服の上からでも弄んだといえるような態様が必要であるとされています。

電車内の痴漢行為をしてしまった場合、被害者の衣服の上から触っただけであっても、触れる方法や回数から、強制的要素があると判断されれば、強制わいせつ罪が適用される場合があります。

条例違反と考え、3年が経過し、公訴時効が完成したと勝手に解釈していても、強制わいせつ罪で警察から逮捕される可能性はあります。

痴漢の公訴時効はいつから進行するの?

公訴時効は、犯罪行為が終わった時から進行します(刑事訴訟法253条1項)。被害届が出た日が基準になるのではありません。

痴漢を行った日から3年が経過することで、警察から逮捕されたり、検察官から起訴されたりすることはなくなります。

なお、初日を算入するかどうかという点については、公訴時効の場合には、初日を算入して計算します。ドラマなどでよくありますが、犯人が国外にいる場合などには、その国外にいる期間は時効の進行が停止します(同255条1項)。

時効が完成する前に検挙してもらうためには?

痴漢被害にあったことを警察に申告しても、犯人を現行犯として捕まえていない場合、警察が被害届を受け付けてくれず、捜査をしてくれない可能性があります。

そうすると、時間が経つに連れて防犯カメラ映像など証拠がどんどんなくなってしまいます。

そこで、そのような場合は、告訴状を作成し、警察に告訴を受理してもらうことを検討しましょう。被害届は単に犯罪があったことの申告ですが、告訴はそれに加えて犯人を処罰することを求める意思表示であり、法律上の制度です。告訴を受理されれば、警察は捜査をしなければならなくなります。

もっとも、警察は容易には告訴を受理しませんので、弁護士に依頼しましょう。

民事における消滅時効とは?

公訴時効が、私人(被疑者)と捜査機関(国)との関係の問題であるのに対し、民事における消滅時効は、被害者との関係で私人間の問題になります。

痴漢行為は、民法上の不法行為(709条)に該当します。この場合、加害者は被害者に対し、損害賠償義務を負います。

しかし、消滅時効が成立すると、損害賠償債務が消滅することとなるため、被害者が加害者に対し、損害賠償を請求しても、加害者側は支払い義務に応じる法的義務がないことになります。

民法上の消滅時効は、不法行為の場合、被害者が損害及び加害者を知った時から3年間、不法行為の時から20年間行使しないときは、時効によって消滅するとされています(724条)。

損害及び加害者を知った時とは、損害の存在を現実に認識し、加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に、それが可能な程度に損害の発生を知った時とされています。

ですので、被害者の立場からすると、民事上、損害賠償請求権が発生している場合には、警察に被害届を出すだけではなく、弁護士に依頼し、時効が消滅する前にきちんと手段を講じることが重要となります。

刑の時効とは?

なお、公訴時効や民事の消滅時効のほかに、「刑の時効」というものがあります。刑の時効とは、刑事裁判で言い渡された刑罰が執行される際に問題になる時効です。

刑事裁判で刑罰が言い渡されて確定した後、その刑の執行を受けることなく一定期間が経過すれば、刑の執行が免除される制度です(刑法31条)。ただし、例外として、「死刑」の執行については免除されません。刑の時効については、その刑の重さによって、時効期間が定められています(刑法32条)。

最後に

以上が時効についての決まりです。ただ、もし痴漢行為を行ってしまった場合、公訴時効や民事上の消滅時効が成立することを期待して何もせずに待つということは得策ではありません。

痴漢事件の逮捕を避けるためには、問題となっている痴漢事件の被害者と早めに示談を締結することが大切です。また、被害者と適切に示談することで、検察官が起訴をしないという判断をすることもあります。

行為態様が悪質な場合や、同様の犯行を繰り返している場合は、起訴の可能性が上がる事由になりますが、仮に起訴されたとしても、被害者と示談が成立することで、裁判所は被害者との示談の成立という事情を量刑を判断する際に有利な事情として考慮してくれます。

ですから、痴漢事件の加害者になった場合、刑事事件の経験が豊富な弁護士に早めに相談することが大切です。

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