民事裁判の支払命令を無視するとどうなる?差押え対象と具体的な対処法を弁護士が解説
2025年01月30日
- 民事裁判で勝訴し相手からの支払いを待っているが、相手が一向に支払わない。今後どうすればよい?
- 民事裁判の支払い命令を無視したいが、無視した場合どのようなことになるのだろう?
- 相手が支払いを拒否している。強制執行を行う方法について知りたい。
裁判所から債務(借金や慰謝料等)を支払うよう命じられたにもかかわらず、債務者が支払いを拒否している場合、債権者は強制執行の申立てが可能です。
支払いを命じられた債務者は、支払いを拒否せず、別の方法を検討した方がよいでしょう。
そこで今回は、債務問題の解決に携わってきた専門弁護士が、債権者が債権回収を行う方法、支払いを命じられた債務者の対処方法等について詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 民事裁判の支払命令を無視した債務者に対し、債権者は強制執行(差押え)が可能
- 強制執行(差押え)の対象は、原則として債務者の財産全般に及ぶ
- 債務者が民事裁判の判決に不服がある場合は、速やかに控訴した方がよい
民事裁判の支払命令を無視するとどうなる
民事裁判の支払命令を無視し続けると、債務者は最終的に強制執行(差押え)を受けることになります。
債権者は、次の手順で債権回収を行っていくでしょう。
1.支払督促の申立て:債務者の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てる
2.支払督促の発付:簡易裁判所が申立てを受理すれば、支払督促を出す
3.支払督促正本の送達:債務者にお金を支払うよう、支払督促正本を送る
4.仮執行宣言申立て:債務者が支払督促正本の受領日から2週間以内に督促異議の申立てをしないときは、2週間目の翌日から30日以内に仮執行宣言の申立てを行う
5.仮執行宣言の発付:簡易裁判所が申立てを受理すれば、支払督促に仮執行宣言を付す(債務名義)
6.仮執行宣言付支払督促正本の送達:債権者・債務者双方に仮執行宣言付支払督促正本を送る
7.確定:債務者が仮執行宣言付支払督促正本の受領日から2週間以内に仮執行宣言後の督促異議の申立てをしないとき、仮執行宣言付支払督促が確定
8.強制執行の申立て:債務者が仮執行宣言付支払督促正本を受領後も支払わないとき、強制執行の手続きに移行
地方裁判所に強制執行の申立てを行い受理されると、債務者の財産に対し強制執行(差押え)が開始されます。
民事裁判の支払命令を無視した場合の差押え対象
強制執行(差押え)は、債務者の金融資産の他、不動産・動産全般が対象です。
ただし、債務者の生活の維持も考慮され、一定の財産は差押えが禁止されています。
預貯金
債務者の普通預金や定期預金、当座預金等が差押えの対象です。
債権者は仮執行宣言付支払督促(債務名義)で認められた金額に達するまで、何度でも債務者の預金を差し押さえできます。
給料
債務者の給与だけでなく、賞与・退職金も差押えの対象になります。
差し押さえ可能な給与等は、原則として手取り額の4分の1までです。
ただし、手取り給与等が高額なときには、それ以上差し押さえることもできます。
たとえば、手取り給与額が44万円を超えるときは、33万円を超える部分が差し押さえ可能です。
金融商品
保険や債券、株等の金融商品も差押え対象です。
債務者の有する金融商品に応じ、差押え手続きを進めていきます。たとえば、債務者が株を保有している場合は次の通りです。
- 債務者が株券を持っている:基本的に株式の鑑定評価後、差押えが可能
- 債務者が株券を持っていない:株券発行請求権に基づき株券を発行後、競売にかけて回収
住居
債務者の所有する土地や建物も差押えの対象となります。
一般的に不動産は財産的価値が高いので、高額な債権の回収が可能です。
たとえば、債務者が借りた住宅ローンの返済が滞っている場合、契約した金融機関(債権者)が対象不動産を差し押さえて競売にかけることもあるでしょう。
民事裁判の支払命令を無視する前にすべきこと
民事裁判の支払命令を無視しても、債権者が強制執行を申し立てれば、債務者の所有する財産はいずれ差し押さえられてしまいます。
財産を差し押さえられないよう、債務者は事前に対策を進めておく必要があります。
異議申立て
債務者は債権者の支払督促の申立て〜強制執行の申立てまでに、異議申立てが可能です。
- 仮執行宣言前の督促・異議申立て:支払督促正本の受領日から2週間以内に申立て
- 仮執行宣言後の督促・異議申立て:仮執行宣言付支払督促正本の受領日から2週間以内に申立て
異議申立書を裁判所に送付すれば民事訴訟へ移行するので、差押えまでの時間に余裕が生まれます。その間に、差押えを避けるための対策を検討できます。
弁護士への相談
債務者が、支払督促や仮執行宣言付支払督促・強制執行申立てに、どのように対処してよいかわからない場合は、弁護士と相談しましょう。
弁護士は債務者の状況をヒアリングしたうえで、次のようなアドバイスをします。
- 債務整理で強制執行を回避できる可能性
- 債務整理の種類
- 債務者の経済状況・収入等を把握し、適切な債務整理(任意整理・個人再生・自己破産)を提案
- 自己破産・個人再生をすれば差押えが解除される旨
- 債務整理を行うときの手順 等
相談をしている間に「強制執行を避けるための債務整理は弁護士に任せたい」と思ったときは、そのまま委任契約を締結してもよいです。
民事裁判の支払命令を無視された場合に行える強制執行の内容
債務者が民事裁判の支払命令を無視している場合、債権者は次の3種類の強制執行手続きを進められます。
不動産執行
債権者が債務者の所有する不動産に対し強制執行を行う場合の手順は、次の通りです。
2.裁判所が「競売開始決定」を行う。
3.債務者の不動産を差し押さえる。
4.裁判所による売却の準備:売却基準価額等を決定する。
5.売却実施:売却の日時・方法を決め、買受人を探す。
6.入札・売却許可:最高価で入札した買受人へ、裁判所が売却許可決定を行う。買受人が指定期限内に代金を納付する。
7.配当:債権者に裁判所が売却金額を分配する。
債権執行
債権者が債務者の給与等に対し強制執行を行う場合の手順は、次の通りです(給与を差し押さえる場合)。
2.裁判所が「債権差押命令」を行う。
3.債務者の勤務先に送達し給料を差し押さえる。
4.勤務先が差し押さえられた分の給料を取り分ける。
5.取り分けた分の給料が債権者に支払われる(供託されるケースもある)。
6.裁判所が差押えを認めた金額に達するまで、給与の差押えが継続する。
動産執行
債権者が現金や貴金属類・美術品・骨董品等に対し強制執行を行う場合の手順は、次の通りです。
2.動産執行前の準備:申立てが認められた後、執行官と執行日を調整する。
3.執行当日に債務者の自宅等へ向かう:執行官が主導し差押えを開始する。
4.差し押さえた動産は、債務者が勝手に処分しないよう持ち帰って保管する。
5.動産を競売:売却期日の決定後、競売を開始する。
6.配当:売却金額から債権回収を行う。
民事裁判の支払命令を無視されて行う強制執行の注意点
強制執行の内容が不動産執行・債権執行・動産執行いずれであっても、費用はかかるので注意が必要です。
また、債務者のどのような財産を差し押さえるかによって費用は大きく異なり、債権回収までの期間にも差が出てきます。
費用
不動産執行・債権執行・動産執行を行う場合、強制執行費用の目安は次の通りです。
- 不動産執行:総額70万円以上が相場(収入印紙代:4,000円、予納金:60万円、登録免許税:確定請求債権額の0.4%)
- 債権執行:総額7,000~9,000円が相場(収入印紙代:4,000円、郵券切手代:3,000~5,000円)
- 動産執行:総額4~6万円が相場(収入印紙代:4,000円、郵券切手代:3,000円、予納金:3~5万円)
強制執行にかかる費用が最も少ないのは債権執行で、総額1万円程度に収まる可能性が高いです。
一方、最も高額となるのは不動産執行で、総額70万円以上がかかってしまいます。
期間
不動産執行・債権執行・動産執行いずれの場合も、基本的に数週間や1か月程度で債権回収は完了しません。
- 不動産、動産執行:不動産や動産の差押え後、調査・査定、売却価格の決定を行い、売却価格の公示・競売へと進むので、申立て〜配当を受け取るまで、少なくとも半年以上はかかる
- 債権執行:債務者に潤沢な預金等がない限り、半年~1年以上かかる可能性もある(給与から少しずつ配当される場合等)
民事裁判の支払命令を無視する前にすべきこと
民事裁判の支払命令を無視すれば、債務者としての立場がどんどん不利になっていきます。
強制執行を回避するための対策について、弁護士と冷静に話し合ってみましょう。
弁護士への相談
お金の貸し借りや慰謝料等に関する民事訴訟を提起された段階で、弁護士と相談し、対応を協議しておいた方がよいです。
弁護士は相談者の事情を考慮し、次のようなアドバイスやサポートをします。
- 相談者は債務を返済する必要があるのか
- 民事訴訟のときに提出する証拠の収集方法
- 弁護士のサポート内容
- 民事訴訟で敗訴した場合の対応
- 債務整理を行う有効性 等
弁護士が代理人となれば債権者への対応はもちろん、訴訟対応、裁判での主張・立証、債務整理の手続きのほとんどを任せられます。
心当たりがない場合
お金の貸し借りや慰謝料に関する民事訴訟を提起され支払いを命じられたが、被告である自分に心当たりがないという場合は、速やかに控訴しましょう。
民事訴訟を終え、判決書の送達を受けた日の翌日から14日以内に控訴が可能です。
ただし、控訴審は第一審に誤りがないか否かを審理する手続きです。裁判をやり直す手続きではないので、新しい証拠は原則として調べない点に注意しましょう。
心当たりがある場合
債権者の請求に心当たりがあるのであれば、強制執行を回避する方法について検討しましょう。
「支払回数を増やせば債務を返済できる」「利息が抑えられれば完済は可能だ」と考えるときは、債権者に「任意整理」を提案するのもよい方法です。
任意整理とは、裁判所が関与せず債務者・債権者で話し合いを進め、和解を目指す方法です。
債務者が直接債権者と交渉しても和解できるか不安なときは、弁護士を代理人に立て、任意整理の交渉を任せましょう。
民事裁判支払命令の無視でお困りなら春田法律事務所まで
今回は債務問題の解決に尽力してきた専門弁護士が、債権者の債権回収方法および債務者の対処方法等について詳しく解説しました。
春田法律事務所は債務問題の解決に実績豊富な法律事務所です。まずは債務問題に関してどのような対応方法が有効なのかを、弁護士とよく話し合いましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。