遺産は財産分与の対象か?なる状況・ならない状況・すべきことを解説
最終更新日: 2023年09月28日
- 親の遺産を相続したが、離婚のときにこれも財産分与の対象となるのだろうか?
- 遺産が財産分与の対象となるケースについて教えてほしい
- 自分は配偶者の親(被相続人)の介護をしてきたが、財産分与で介護に貢献した分を主張できるのか?
婚姻中に夫婦が協力して得た財産は、財産分与をして離婚のときに清算・分配します。
そのとき、配偶者が相続人となり引き継いだ遺産は、夫婦が協力して得た財産とはいえないため、基本的に財産分与の対象となりません。
ただし、ケースによっては配偶者の得た遺産が財産分与になる可能性もあります。
そこで今回は、多くの民事事件に携わってきた専門弁護士が、遺産が財産分与となる状況・ならない状況等について詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 配偶者の遺産は原則として、財産分与の対象とならない「特有財産」に該当する
- 配偶者の遺産を夫婦で共有したり、配偶者に代わり遺産の価値を高めたりした場合、財産分与の対象となる可能性がある
- 遺産を財産分与の対象としたいなら弁護士に相談し、助言を受けた方がよい
遺産は財産分与の対象か?
配偶者が相続した遺産は、基本的に特有財産として財産分与の対象外となります。なぜなら、遺産は婚姻中に夫婦が協力して得た財産といえないからです。
特有財産とは、夫婦の協力なしに得られた財産を指します。
遺産の他、次のような財産も特有財産です。
- 婚姻前に得た現金、預金
- 婚姻前に購入した家や自動車
- 配偶者に贈与された物 等
ただし、これらの財産もケースによっては財産分与の対象となる可能性があります。
遺産が財産分与となる状況
以前は特有財産であっても、事情の変化で財産分与の対象となる場合があります。
こちらでは、遺産が財産分与となるケースを2つ取り上げます。
特有財産だと判別がつかないとき
遺産は婚姻前や婚姻中に配偶者が得ていても、基本的に特有財産として扱われます。
ただし、被相続人の遺産である現金を配偶者が受け取り、夫婦の共有口座に相続した現金を預金すると、財産分与の対象となる可能性があります。
なぜなら、共有口座から夫婦の共同生活のために、その費用を引き出して使っていると、夫婦共有財産となっているお金から引き出したのか、相続したお金から引き出したのか、わからなくなってしまうからです。
このように夫婦の共有財産と、夫婦の一方が相続した財産が混然一体となった場合は、夫婦の共有財産であると推定されます(民法第762条第2項)。
資産価値の大幅向上に貢献したとき
配偶者が遺産を相続し、配偶者の代わりに遺産の価値を大幅に向上させた場合は、財産分与の対象となる可能性があります。
たとえば、夫が建物を相続したものの、その建物が傷みはじめ、妻が共有口座の預金を使い、リフォーム代を支払ったケースがあげられます。
その他、夫が相続したホテルや旅館を、妻が女将として経営していた場合、その貢献度に応じて金銭を受け取る権利があります。
遺産が財産分与とならない状況
たとえ婚姻中に配偶者が遺産を取得しても、保管方法をしっかりと分けていた等、明確に遺産と共有財産とを区分していたら、財産分与の対象外です。
こちらでは、財産分与の対象にならないケースを3つ取り上げます。
相続分の現金だと判別できるとき
配偶者が相続した現金を、頻繁に生活費等で利用する共有口座ではなく、貯蓄用の共有口座に入金したならば、特有財産として財産分与の対象外になります。
たとえ共有口座に入金しても、相続のときに得た遺産として判別できる状態なら特有財産です。
遺産が財産分与の対象か否かは、保管方法ではなく、配偶者が取得した遺産と判別できる容易さが基準となります。
資産価値向上に貢献していないとき
配偶者が相続した建物や自動車等を使用していても、その資産価値の維持、向上に貢献していなければ財産分与の対象外になります。
たとえば、夫が相続したホテルや旅館を、夫と共に妻が共同経営者となっていても、実際に働いていなければ、資産価値向上に貢献しているとは言えません。
また、夫が相続した自動車を、妻の方が頻繁に利用していても、共有口座から妻がメンテナンス費用に充てる等の対応をしなければ、特有財産として扱われます。
介護していたとき
配偶者の親を亡くなるまで介護していても、残念ながらその親の遺産は財産分与の対象となりません。ただし、その介護のおかげで、介護事業者を利用する負担が軽減されているのは事実です。
この場合には、被相続人の介護に寄与した相続人以外の親族が、貢献した分のお金を相続人へ請求できる権利「特別寄与料」があります。(民法第1050条)。
特別寄与料をどのくらい請求できるかについては、介護(療養看護型)の場合「介護日数×介護報酬相当額×裁量割合」で計算するのが一般的です。
介護報酬相当額は概ね1日5,000円〜8,000円程度で、裁量割合は0.5〜0.9を乗じますが、0.7を採用するケースが多いです。
具体例をあげて計算してみましょう。
- 介護日数:150日
- 介護報酬相当額:1日7,000円
- 裁量割合:0.7
150日×7,000円×0.7=1,500,000円
請求できる特別寄与料は150万円となります。
遺産を財産分与とするためにすべきこと
配偶者と離婚の話し合いを進めるとき、遺産を分与対象にするかどうかもよく話し合い、納得したうえで離婚条件を取り決めていきましょう。
弁護士への相談
遺産を財産分与の対象としたいならば、まずは弁護士に相談しアドバイスを受けましょう。
遺産の保管方法を弁護士に伝えれば、弁護士が遺産の財産分与を主張できるか、特有財産となり配偶者の同意は得られにくいか等を助言します。
また、財産分与について夫婦間で話がこじれた場合、弁護士に依頼すると自分の代理人として交渉を任せられるので安心です。
なお、相談や代理人を依頼する弁護士は、離婚交渉に豊富な実績のある人物を選びましょう。
豊富な実績があるかどうかは法律事務所のホームページで確認します。
たとえば、離婚問題の相談・解決実績数が具体的に明記されている、離婚問題の事例や話題が豊富に掲載されているならば、実績のある弁護士と判断できます。
対象財産の確定
財産分与の対象となる遺産は、別居する前までに得られた財産となります。
そのため、別居前に夫婦の共有財産か、それとも特有財産なのかを明らかにする必要があります。
別居してから時間が空いてしまうと、別居の前後で得られた財産の判別が難しくなり、夫婦で財産分与をどうするか揉めてしまうかもしれません。
なるべく同居の段階で夫婦が協力し合い、遺産も含めた分与の対象財産を確認しておきましょう。
離婚時の条件として含める
財産分与は養育費や慰謝料等と同じように、離婚時に離婚条件として取り決めておきましょう。
なお、お互いの合意で離婚が成立したものの、財産分与だけが決まらないケースもあります。
その場合は、離婚のときから2年以内に家庭裁判所に調停(財産分与請求調停)または審判の申立てをすれば、財産分与の請求が可能です。
ただし、財産分与は時間が経てば経つほど、夫婦の共有財産か特有財産なのか区別しにくくなります。
なるべく離婚する前に決めておいた方が、より正確に財産分与となる財産を特定できます。
まとめ
今回は多くの民事事件に携わってきた専門弁護士が、遺産が財産分与となるケース、財産分与をするときの対応等について詳しく解説しました。
特に財産分与をどうするかは夫婦間で揉めやすいので、夫婦双方ともに慎重かつ冷静な話し合いが求められます。
財産分与の問題で悩んだら、なるべく早く弁護士に相談し、対応を話し合ってみましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。