離婚で退職金はどうなる?財産分与となるケース・計算方法・すべきことを解説

最終更新日: 2023年10月05日

離婚で退職金はどうなる?財産分与となるケース・計算方法・すべきことを解説

  • 配偶者と離婚を話し合っているが、将来の退職金は財産分与の対象になるのだろうか?
  • 退職金が財産分与されるならば、どのように分ければよいのだろう?
  • 離婚時に配偶者の退職金の分与を請求したい、どのような方法があるのか知りたい

財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して得た財産を、離婚するときまたは離婚後に分ける方法です。

配偶者に支払われた退職金はもちろん、将来に支払われる退職金も、財産分与の対象となる可能性があります。

ただし、配偶者がどのような職業かでも、退職金の財産分与が可能かどうかは変わりますし、退職金が支払済みか未払いかでも財産分与の計算は違ってきます。

そこで今回は、多くの民事事件に携わってきた専門弁護士が、退職金が財産分与となる条件、退職金を財産分与する場合の算定方法等について詳しく解説しましょう。

本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。

  • まだ退職金を受け取っていなくても、退職時期が近づいている、または退職金が確実に期待できる職業ならば、財産分与の対象になりやすい
  • 夫婦が協議し、退職金ではなく別の財産の分与で調整してもよい
  • 退職金の財産分与で揉めたら、調停や裁判で解決を図る

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この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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離婚時に退職金が財産分与となるケース

退職金とは従業員が退職するとき、事業所等が従業員の働きに応じた金額を支給する制度です。

退職金は実際に支払われたときの他、現在まだ支払われていなくとも、財産分与の対象となる可能性があります。

支払い済みで手元にある

財産分与には婚姻中、配偶者が得た給与も含まれます。退職金も給与の「後払い」的なものとして財産分与に該当します。

すでに退職金が配偶者へ支払われているケースならば、婚姻期間に応じた割合で退職金を分与するのが一般的です。

支払われることがほぼ確実

いまだ退職金を支払われていなくとも、自分が退職する年齢にかなり近づいている場合や、退職金が確実に期待できる職業(上場企業の従業員、公務員等)の場合、財産分与の対象となる可能性が高いです。

ただし、退職金が確実とされる職業に就いていても、その後、独立し自営業者となるため、「自己都合退職」をしたら、一般的に退職金は満額支給されません。

このような場合は、退職金の財産分与も困難となります。

離婚時に退職金が財産分与とならないケース

離婚時に退職金を全て使い果たした、退職金が支払われるかわからない、といった場合は財産分与の対象となりません。

支払い済みだが手元にない

退職金が支払われたものの、そのお金で借金やローンの全額を返済し、手元に無い場合は財産分与の対象に含まれません。

別の財産で双方が納得できる分配を行いましょう。

婚姻中の財産としてお金があまり無い状態でも、婚姻中に得た不動産や自動車等が残っている場合、売却して現金化すればそれぞれに分配しやすくなります。

支払われることが不確実

近い将来に勤め先が倒産してしまう、勤務先の退職金規定や退職金の算定方法が不明確で支払われるかどうかわからないという場合、退職金は財産分与の対象外になる可能性があります。

ただし、近い将来勤め先の倒産が確実でも、「倒産=退職金がもらえない」とは一概に断言できません。

なぜなら、退職時に会社側の支払い能力が著しく低下していても、従業員が退職金・未払い賃金を受け取る権利が消滅するわけではないからです。

退職金の全額カットが確実という状況でなければ、財産分与の対象外とは言えません。

離婚における退職金の計算方法

退職金を財産分与の対象とする場合、退職金が支払い済みの状況と、支払われていない状況とで、計算方法は異なります。

支払い済みの場合

退職金がすでに支払われているならば、「支払われた退職金×婚姻期間÷勤務期間」の計算式で算定します。なお、婚姻期間に別居期間を含めないのが一般的です。

具体例をあげて計算してみましょう。

(例)夫に支払われた退職金は1,500万円で、婚姻期間は28年、勤務期間は40年である。

1,500万円(支払われた退職金)×28年(婚姻期間)÷40年(勤務期間)=1,050万円

1,050万円が財産分与の対象額となります。

財産分与の割合は1/2にするのが基本的なルールなので、

1,050万円÷2=525万円

525万円ずつ夫婦で分けます。

支払われていない場合

まだ支払われていない状況ならば、「現時点で退職したと仮定し計算」または「定年退職時に受取予定の退職金で計算」する方法があります。

現時点で退職したと仮定し計算

「現時点で退職したら支払われる退職金×婚姻期間÷勤務期間」の計算式で算定します。

具体例をあげて計算してみましょう。

(例)現時点で退職したら支払われる退職金は800万円で、婚姻期間は14年、勤務期間は20年である。

800万円×14年÷20年=560万円

560万円が財産分与の対象額となります。

財産分与の割合は1/2にするのが基本的なルールなので、

560万円÷2=280万円

280万円ずつ夫婦で分けます。

定年退職時に受取予定の退職金で計算

こちらは東京地裁(平成11年9月3日)で採用された特殊な計算方法です。

計算方法は次の通りです。

  1. 将来退職をしたとき、支給される予定の退職金の見込み金額を基礎に、財産分与の金額を計算
  2. その金額から中間利息を差し引く

財産分与の割合を1/2にするルールなので、算出された金額の5割が財産分与の対象額に相当します。

離婚時に退職金を請求する方法

離婚時には退職金の財産分与についても話し合います。

しかし、分与するかどうかで揉めてしまい、離婚手続きが進まなくなった場合、調停や裁判により解決を図っていきます。

協議

離婚自体には夫婦が合意していても、財産分与で揉めるケースは多いです。

退職金を将来的にもらえるのが確実なら分与の対象にします。しかし、もらえない可能性が高ければ、分与対象から除外して柔軟に話し合いを進めましょう。

また、退職金がもらえた場合を想定し、財産分与を支払う側は受け取る側へ、多めに財産を分配しておくのもよい方法です。

調停

協議が物別れに終わった場合は、家庭裁判所に話し合いの場を移し、調停で解決を図ります(調停離婚)。調停は非公開で行い、原則として夫婦双方が出頭します。

離婚前に調停を行う場合、相手方の住所地または当事者が合意で定めた家庭裁判所に、「夫婦関係調整調停(離婚)の申立」が可能です。

なお、離婚後に財産分与の話し合いを続けたい場合は、離婚のときから2年以内に家庭裁判所に調停(財産分与請求調停)または審判の申立てをすれば、財産分与の請求が可能です。

いずれの調停でも、家庭裁判所から選出された調停委員が、夫婦それぞれの意見をヒアリング後、アドバイスや解決案を示して、合意するように働きかけます。

夫婦関係調整調停(離婚)の申立が不成立となれば、裁判離婚で解決が図れます。

しかし、財産分与請求調停では、調停が不成立の場合、引き続き審判手続で必要な審理が行われ、家庭裁判所が決定を下します。

裁判

調停離婚が不成立だった場合は、裁判離婚で解決を図ります。ただし、裁判離婚を起こしただけでは、裁判所から財産分与の判断をしてもらえません。

財産分与も決めてもらいたい場合は、裁判所へ附帯処分を申し立てる必要があります(財産分与に関する処分)。

ただし、離婚裁判と同時に行う必要はなく、裁判離婚の口頭弁論の終結時までに附帯処分の申立てが可能です。

離婚で退職金請求時にすべきこと

退職金を財産分与の対象とする場合は、特に退職金の支給をまだ受けていないと、相手が退職金の分与に応じず、離婚交渉が進まなくなる可能性もあります。

そのようなときは、離婚問題に詳しい弁護士へ相談してみましょう。

夫婦の事情に応じて、退職金を財産分与にするのは可能か、分与対象にするなら得られる金額はどれくらいか、をわかりやすく説明します。

また、弁護士に代理人を依頼すれば、自分の代わりに相手との交渉を任せられるので、円滑に離婚手続きが進みます。

まとめ

今回は多くの民事事件に携わってきた専門弁護士が、退職金が財産分与の対象となるケース・ならないケース、退職金の計算方法、退職金を財産分与とする場合の請求方法等について詳しく解説しました。

相手の職業や退職まで勤務先で働くつもりなのか、いろいろな事情も考えて、退職金を財産分与に含めるのか、よく検討してみましょう。

財産分与で悩んだら、まずは弁護士に相談し、対応を話し合ってみましょう。

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