ISMS認証(ISO 27001)取得・運用完全ガイド:費用、取得手順、成功する体制づくり

2025年12月09日

ISMS認証(ISO 27001)取得・運用完全ガイド:費用、取得手順、成功する体制づくり

ISMS(Information Security Management System:情報セキュリティマネジメントシステム)認証は、組織が情報セキュリティを適切に管理するための国際規格であるISO/IEC 27001に基づいて、情報資産を守る仕組み(マネジメントシステム)が構築・運用されていることを証明するものです。

単なる技術的な対策だけでなく、組織全体として情報セキュリティに取り組む体制やルールが整備されていることを示すため、取引先からの信頼獲得や大手企業の案件受注に不可欠な要件となりつつあります。

本コラムでは、ISMS認証を成功させるための「取得方法」「費用」「運用体制」の3つのポイントを解説します。

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
宅地建物取引士

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【取得方法】ISMS認証取得のステップと流れ

ISMS認証を取得するためには、情報セキュリティの仕組みを構築し、運用し、外部審査を受けるという段階を踏む必要があります。

認証取得の主な流れ

ISMSの構築から認証取得までは、一般的に以下の流れで進められます。

適用範囲の決定

ISMSを適用する範囲(全社、特定の部署、特定のシステムなど)を明確に定めます。最初は範囲を絞ることで、取得の負担を軽減できます。

情報セキュリティ方針の策定

経営陣のコミットメントとして、情報セキュリティへの取り組みの基本となる方針や行動指針を策定し、社内外に公開します。

ISMS文書の作成

基本方針に基づき、具体的な管理規定やマニュアル、手順書などの文書を作成します。これはPDCAサイクルを回す上での基盤となります。

リスクアセスメントの実施

自社の情報資産を洗い出し、それに対する脅威と脆弱性を分析・評価します。その結果に基づき、具体的なリスク対応計画を策定します。

運用の実行と従業員教育

策定したルールや手順書に基づき、実際に運用を開始します。全従業員に対して教育やトレーニングを実施し、ルールの周知徹底を図ります。

内部監査とマネジメントレビュー

ルール通りにISMSが運用されているかを、社内の内部監査員がチェックします(内部監査)。その結果を経営層がレビューし、有効性を評価し、改善の指示を行います(マネジメントレビュー)。

外部審査(認証機関による審査)

文書審査(一次審査)と現地審査(二次審査)を経て、ISO 27001の要求事項を満たしているか確認されます。指摘事項(不適合)があれば是正し、問題がなければ認証が発行されます。

【運用体制】ISMS認証を成功させるための組織体制

ISMSは「システム」であり、一度取得して終わりではなく、継続的に運用・改善していくことが求められます。これを支えるのが、組織の運用体制です。

 ISMS運用体制の基本構成

ISMSの運用体制は、一般的にPDCAサイクルを回すための以下の役割で構成されます。

役割

目的と主な役割

トップマネジメント(経営層)

ISMSの最高責任者。方針決定、資源の提供、マネジメントレビューによる継続的改善の指示を行う。

ISMS事務局(推進部門)

ISMSの構築、文書作成、従業員教育、運用サポート、内部監査の計画・実行など、実務の中心を担う。

ISMS管理責任者

トップマネジメントを補佐し、ISMSの構築・運用を統括する責任者。事務局のリーダーを務めることが多い。

各部門の責任者/推進委員

各部門におけるISMSルールの適用・遵守を推進し、情報資産の特定やリスクアセスメントの実務に協力する。

内部監査員

ISMSのルールや文書が要求事項に合致し、適切に運用されているかを客観的に評価する。

成功する運用体制のポイント

経営層のコミットメント

ISMSを単なる「お飾り」にせず、経営戦略の一部として認識し、経営層が積極的に関与することが不可欠です。

実務に即したルール

現場の業務実態を無視した非現実的なルールは、形骸化の原因となります。従業員が守りやすい、実務に沿ったシンプルな文書・ルール作りを目指しましょう。

PDCAサイクルの継続

内部監査、マネジメントレビューの結果に基づき、脆弱な部分や非効率なルールを定期に必ず見直し、改善を続けることが、情報セキュリティレベルの向上につながります。

【認証費用】ISMS認証取得と維持にかかる費用の目安

ISMS認証取得には、初期費用と継続的な維持費用が発生します。費用は企業の規模(従業員数)、認証範囲、認証機関、コンサルティング利用の有無によって大きく変動します。

費用の内訳(初期費用)

費用の種類

概要

費用相場(目安)

審査費用

認証機関に支払う、初回審査(一次・二次)にかかる費用。

50万円〜150万円程度

コンサルティング費用

構築支援や文書作成サポートを外部に依頼する場合の費用。自社取得の場合は不要。

50万円〜200万円程度

教育・研修費用

従業員へのセキュリティ教育、内部監査員養成研修などの費用。

数万円〜数十万円程度

設備投資費用

既存のセキュリティ対策が不十分な場合、新たに導入する設備(セキュリティソフト、サーバーなど)の費用。

ケースバイケース

*注:上記の相場は目安であり、企業規模(従業員数10名〜100名程度)やコンサルティング内容により大きく変動します。

維持・更新にかかる費用

ISMS認証は有効期間が3年間であり、認証を維持するために以下の費用が毎年発生します。

維持審査(サーベイランス審査)

認証後、1年ごと(2年間に2回)に実施される審査。費用は初回審査の概ね1/3程度。

更新審査(再認証審査)

3年ごとに認証を更新するために実施される審査。費用は初回審査の概ね2/3程度。

よくある質問(FAQ)

Q:ISMS認証は自力で取得できますか?

A:可能です。特に小規模な企業や情報システム部門に専門知識を持つ人材がいる場合は自力取得もできます。しかし、工数が膨大になり、ISOの要求事項の解釈を間違えるリスクがあるため、多くの企業は効率化と確実性のためにコンサルティングのサポートを利用しています。

Q:取得にかかる期間はどれくらいですか?

A:一般的に、ISMSの構築開始から認証取得まで、6ヶ月から12ヶ月程度が目安です。これは、文書作成やリスクアセスメントに加えて、「運用実績」を確保するための期間が必要となるためです。

Q:ISMSとプライバシーマーク(Pマーク)の違いは何ですか?

A:Pマークは「個人情報」の保護に特化しており、日本国内の規格です。一方、ISMSは「すべての情報資産」を対象としており、国際規格(ISO 27001)です。Pマークは個人情報の取り扱いが主業務である企業向け、ISMSは国際的な取引や高いセキュリティ体制を証明したい企業向け、という使い分けがなされることが多いです。

まとめ

ISMS認証の取得は、情報セキュリティに対する取り組みを国際基準で可視化し、企業の競争力を高める重要な経営戦略です。

取得方法

適用範囲の決定からリスクアセスメント、内部監査、そして外部審査というPDCAサイクルに基づいたステップを確実に実行することが鍵です。

運用体制

経営層のリーダーシップと、各部門を巻き込んだ推進体制が、継続的な改善の原動力となります。

費用

審査費用、コンサル費用、維持費用を事前に把握し、自社のリソース(人的・金銭的)に応じてコンサル利用の有無を慎重に判断しましょう。

 

ISMS認証を通じて、お客様と社会からの信頼を確固たるものにしましょう。

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