子の引渡しに関する審判、保全処分の流れ

最終更新日: 2024年02月29日

連れ去りの違法性

親権者は、子の居所を指定する権限を有しています。子が親権者の指定する居所以外の場所にいる場合(子に意思能力が備わっていて、自己の意思で親権者の指定する居所以外の場所にいる場合は除きます。)、親権者は子の引渡を実現する方法を検討する必要があります。

親であっても、子の奪取の態様によっては、刑法上の略取誘拐罪(刑法224条)が認められる場合があります。例えば、離婚協議中の夫婦において、子を監護していない親が保育園の送迎の際に、監護親の同意なく連れ去った場合などです。

したがって、子の引渡を求める場合には、法に則り、手続きを踏む必要があります。これらの方法はいくつかありますが、どの方法によっても、「子の利益」の実現がなされなければなりません。以下、主な手続きを見ていきます。

子の引渡しの調停

家庭裁判所に調停を申し立て、子の引渡を求める場合です。調停が不成立になった場合には、調停申し立ての時に審判の申立てがあったものとみなされ、審判手続きに移行することとなります(家事事件手続法272条4項)。つまり、話し合いで決着がつかない場合には裁判所が結論を出します。

また、調停事件が係属している間、調停委員会は、調停のために必要があると認める処分として、子の引渡を命じることができます(同266条1項)。

ただし、当事者に申立権はなく、職権で発令され、執行力もありません。すなわち、相手方が任意に応じない場合には、強制はできません。

子の引渡しの審判

調停と同様、子の引渡を求める審判を申し立てることができます。審判前の保全処分が認められており、後述のとおり、緊急性がある場合には保全処分が認められます。

子の引渡の判断要素は、親権者・監護権者の指定における判断要素と重複しており、以下の事情を総合的に考慮します。

父母側の事情として
  1. 監護能力
  2. 精神的
  3. 経済的家庭環境
  4. 居住環境
  5. 教育環境
  6. 従来の監護状況
  7. 親族の支援体制
子側の事情として
  1. 環境の変化の有無
  2. 変化に対する適応性
  3. 子の年齢
  4. 心身の発育過程
  5. 兄弟不分離
  6. 子の意思

人事訴訟

離婚訴訟の附帯請求として、子の引渡を請求することができます(人事訴訟法32条1項)。子の引渡の審判と同様、保全処分の申立ても可能です。

人身保護請求

子の引渡しの調停・審判や人事訴訟の判断主体が家庭裁判所であるのに対し、人身保護請求は、高等裁判所又は地方裁判所が管轄します。

しかし、子の引渡しについては、子の利益にかなった判断が必要となり、その判断に当たっては、地方裁判所や高等裁判所ではなく、家庭裁判所調査官などがいて、専門的知見を有する家庭裁判所の判断に委ねることが適切であると考えられており、最高裁においても、子の引渡に関する判断は家庭裁判所が関与すべきことが適切であるとされました(最高裁平成5年10月19日判決)。

すなわち、人身保護請求による引渡しが認められるためには、顕著な違法性が求められ、顕著な違法性があると言えるためには、子の福祉に反することが明白であることが要求されています。このように、家庭裁判所の関与しない人身保護請求による引渡しが認められるケースは限定的です。

緊急性のある場合

仮処分:審判前の保全処分等

子の引渡しの審判に際し、審判前の保全処分の申し立てをすることにより、これが認められることもあります。また、上述したとおり、人事訴訟においても、保全処分の申立てが可能です。

強制執行

父母の一方がその一方に子を引き渡すよう命じる裁判所の判断が出た後も、他方がこれに従わず、子を引き渡さない場合、強制執行の申し立てをすることができます。子の引渡を命じる審判は、確定したときに効力を生じ、執行力が生じます。執行の方法は間接強制と直接強制とがあります。

間接強制は、執行裁判所が、子を現に監護している者(債務者)に対し、遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の金額を支払うよう命ずることで子の引渡しを実現するものです。

しかし、間接強制の場合、お金さえ払い続けば子を引き渡さなくてもよいという態度を取られてしまう可能性もあります。

そこで、直接強制の手段があります。

直接強制は、執行官が現地に赴き、子を引き渡さない親から子の引渡しを受け、他方の親に引き渡す方法です。

この場合、最高裁判所は、「子の引渡の執行の方法については、執行裁判所とも事前によく協議し、その円滑な実施のために、債権者から必要な情報を入手するとともに、必要に応じて、家庭裁判所調査官とも相談するなど、事前に十分な準備をしておく必要がある」と考えています。

執行官は、執行に際し、現に監護している者(債務者)の占有する場所に立ち入ることができ、施錠されている扉を開錠させることもできます。執行官が子を引き受けた場合、すぐに他方の親(債権者)に子を引き渡すことができるよう、通常、他方の親も現場に一緒に行く運用がなされています。

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