檀信徒等の閲覧請求権

最終更新日: 2023年11月17日

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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備付書類

寺院は、法律上、各種書類の備え付けを求められています(宗教法人法25条2項)。

そして、そのうちの一部の書類については、その写しを毎会計年度終了後4か月以内に所轄庁へ提出しなければなりません(同条4項)。

提出書類については、年間収入の多寡、事業をしているか否か等によって異なりますが、役員名簿と財産目録についてはいかなる寺院も提出義務があります。

 役員名簿財産目録収支計算書貸借対照表境内建物に関する書類境内建物に関する書類
・収益事業は行っておらず、年収が8千万円以内である。
・なお、収支計算書、貸借対照表は作成していない。
    
・収益事業は行っておらず、年収が8千万円以内である。
・収支計算書は作成しているが、貸借対照表は作成していない。
   
・収益事業は行っていないが、年収は8千万円を超える。
・貸借対照表も作成している。
  

・収益事業は行っていないが、公益事業を行っている。

・年収8千万円以内である。
・貸借対照表は作成している。

  

 

公益事業以外の事業を行っていない宗教法人であって、一会計年度の収入が8000万円以内の場合には収支計算書の作成義務は免除されています(宗教法人法昭和26年法律第126号附則第23項、平成8年6月3日文部省告示第116号)。もっとも、作成している場合には提出義務があります。

貸借対照表については、宗教法人法上は作成している場合にのみ提出することとなっていますが、収益事業を行っている場合には、税法上、貸借対照表の作成が義務付けられていますので、収益事業を行っている場合には貸借対照表を提出することになります。

なお、これらの書類の作成、備え付け、提出を怠ったり、虚偽記載をすると10万円以下の過料を科されますので適正な事務処理が必要です。

檀信徒等の閲覧請求権

前記の備え付けられた書類については、檀信徒その他の利害関係人が寺院に対してその閲覧を請求する権利が認められています(宗教法人法25条3項)。なお、権利として認められているのは閲覧のみであり、謄写は認められていません。

このような閲覧請求権を認めることで寺院の管理運営の適正化を担保するという趣旨です。

もっとも、対象となる書類は寺院にとって重要書類もありますので、無制限にこのような閲覧請求権を認めてしまっては不当な目的による閲覧によって、かえって寺院の利益を害されてしまうおそれがあります。

そのため、請求権者は「信者その他の利害関係人」(1)であり、閲覧することについて「正当な利益」(2)があり、かつ閲覧請求が「不当な目的によるものでない」(3)ことが要件となっています。

これらの開示要件を満たすかどうかを判断するのは寺院です。もっとも、閲覧請求者が不開示に納得がいかないときは訴訟を提起することができ、最終的には裁判所が開示・不開示を決定します。

「信者その他の利害関係人」

文化庁は以下の具体例を挙げています。

  1. 宗教法人と継続的な関係を有し,宗教法人の財産基盤の維持形成に貢献している寺院における檀徒や神社における氏子など
  2. 宗教法人の管理運営上の一定の地位が規則等で認められている総代など
  3. 宗教法人と継続的な雇用関係にあり,一定の宗教上の地位が認められている宗教教師
  4. 債権者
  5. 保証人
  6. 包括・被包括関係にある宗教団体

「正当な利益」

宗教法人の適正な運営のための閲覧、債権確保のための閲覧がこれにあたります。

「不当な目的」

文化庁は以下の具体例を挙げています。

  1. 宗教法人を誹謗中傷するための資料を得る目的(第三者への提供目的を含む。)
  2. 宗教法人が一般に公開していない情報を第三者へ売却する目的
  3. 恐喝等、宗教法人から不当に財産的利益を得ようとする目的

行政の情報公開との関係

寺院から所轄庁に提出された書類は、行政文書となりますが、情報公開法(条例)に基づき誰でも開示してもらえるのでしょうか。

この点については、不開示情報であるとする各都道府県宛ての文化庁次長通知があり、最高裁も都道府県はこの通知に従わなければならないと判断しています(最高裁平成19年2月22日)。

寺院の備付書類の書式については以下のウェブサイトで文化庁が公開しています。

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