開業医の離婚で出てくる課題と対策は?手続きの流れや押さえたいポイントを解説
最終更新日: 2023年11月09日
- 専門的な職業のため離婚手続きで注意すべき点があれば知りたい
- 開業医だと離婚の慰謝料や養育費も高くなるのだろうか
- 財産分与の割合を有利に進める方法はないものだろうか
開業医が配偶者との離婚を考えている場合は、財産分与をどうするのかについて、最も慎重に検討する必要があります。
なぜなら、医師である配偶者の才覚で婚姻中の財産の大部分が形成され、財産分与の「夫婦それぞれ2分の1ずつ分配する」という原則が、修正される可能性もあるからです。
しかし、一方の配偶者は分与割合の修正を認めないかもしれません。
そこで今回は、多くの民事事件に携わってきた専門弁護士が、開業医が離婚するときに向き合う課題、開業医が離婚をスムーズに進めるためのコツ等を詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 医師である本人の才覚で婚姻中の財産の大部分が形成された場合、多めに財産分与が受けられる可能性がある
- 医師本人の財産と、病院の財産の区別は不明瞭な場合があり、共有財産の確認が難航する可能性もある
- 財産分与をはじめ離婚の話し合いで揉めたら、調停や裁判で解決を図る
開業医が離婚するときに向き合う課題
開業医が離婚する場合、給与所得者等とは異なる事情をよく把握したうえで、離婚手続きを進める必要があります。
出資持分の返還
出資(金)は、医療法人が経営を行う上で原資となる財産となります。そして、出資持分はその出資額に応じて払戻しや残余財産の分配を受ける権利です。
医療法人設立のときに配偶者が社員となって、出資をしてもらっているケースはあるでしょう。
その後、離婚により配偶者が医療法人を退社するとき、出資持分の返還請求が行われる可能性もあります。
返還請求を受けた場合、原則として(1)退社時の医療法人の総財産に、(2)退社する配偶者(社員)の出資額の総出資額に対する割合を乗じ、お金を返さなければいけません。
その金額は非常に高額となる場合があり、病院の運営に大きな影響を与えるおそれが想定されます。
財産分与の範囲
財産分与の対象は婚姻中、夫婦が協力して得た財産すべてに及びます。開業医の場合、医師個人の財産なのか、それとも病院の財産なのか判別が困難な事態も考えられます。
単純に病院名義の財産は個人名義の財産でないので分与対象外だ、と言い切れない点に注意しましょう。
なぜなら、開業医が婚姻中に得た財産を使用し、病院名義の財産を増加させた等の事情があれば、実質的に夫婦の「共有財産」として認められ、分与対象になる可能性もあるからです。
財産分与の割合
財産分与の割合は夫婦それぞれ2分の1で分配するのが一般的です。
なぜなら、実務上、婚姻中に財産を築いてきた夫婦の貢献度は同等であり、公平に2分の1で分けるのが妥当と考えられているからです。
もしも2分の1の分与割合を修正したいならば、根拠として特段の事情を証明しなければなりません。
開業医の場合は、国家資格に基づいた高度の専門職である他、病院経営は個人の才覚によるところが大きいので、この分与割合の修正を図れる可能性があります。
親権者
離婚のとき、未成年の子の親権者をどちらにするか決めなければいけません。この場合、母親を親権者とするケースがほとんどです。
ただし、たとえば開業医である夫が子どもを病院の後継者にしようと考えているなら、家を出る妻との間で、親権を巡り対立が生じる可能性もあります。
親権者の選定は子どもの福祉を目的とするので、病院の後継者にしたいので親権を持ちたい、という親の希望はあまり重視されません。
それでも子どもの親権者となりたいならば、子どもの養育に関して、開業医である自分が配偶者より適切である、という根拠を具体的に示す必要があります。
開業医が離婚するときの流れ
開業医が離婚する場合も、一般的な離婚手続きの流れにそって、離婚の成立を進めていきます。
こちらでは協議離婚、調停離婚、裁判離婚について説明します。
協議
まずは夫婦が話し合いで離婚の条件を取り決めます。話し合うべき内容は様々であり、親権、財産分与、慰謝料、養育費等を冷静に話し合っていきます。
特に財産分与の場合、病院名義の財産か個人名義の財産かで、揉める可能性が考えられます。
離婚を早めに成立させたいなら、どちらかが分与割合を譲歩(たとえば夫2:妻8にする等)し、双方の合意を得やすく調整しても構いません。
また、弁護士に依頼をすれば、財産分与の対象となる財産を判別し、適正に財産分与が行えます。
協議離婚が成立したなら、次のいずれかの方法で離婚内容を書面化しておきましょう。
- 離婚契約書:夫婦間で作成・取り交わし、2通作成後、1通ずつそれぞれが保管する
- 離婚公正証書:公証人が作成、強力な証拠力を持つ文書になる
離婚公正証書にすれば、原本は公証役場に保管されるので、相手から破棄されたり、改ざんされたりする危険がないので安心です。
調停
協議離婚が不成立に終わった、または配偶者が話し合いに応じない、という場合は調停で問題の解決を図ります。
なお、自分が訴訟を提起したくても、まずは調停を経なければいけません(調停前置主義)。
相手方の住所地または当事者が合意で定めた家庭裁判所に、「夫婦関係調整調停(離婚)」を申し立てます。
調停では家庭裁判所から選出された調停委員が、夫婦それぞれの意見をヒアリング後、アドバイスや解決案を示し、合意するように働きかけます。
調停で夫婦が合意に達すれば、家庭裁判所は調停調書を作成します。
裁判
調停が不成立の場合、夫または妻の住所地を管轄する家庭裁判所に訴え、裁判離婚で解決を図ります。
裁判離婚では公開の法廷で、夫婦がそれぞれ原告と被告に分かれて、主張や証拠提出を行います。
その後、裁判官が原告・被告の主張や証拠、様々な事情を考慮したうえで、判決を下します。
開業医が離婚をスムーズに進めるためのポイント
協議離婚、調停離婚、裁判離婚を有利に進めたいならば、前もって把握しておくべき事柄を確認し、手続きを行う準備も済ませておく必要があります。
法定離婚事由の理解
裁判離婚を行うときは、法定された法定離婚事由に該当するかよく確認しておかなければいけません。
法定離婚事由は次の5つです(民法第770条)
- 配偶者に不貞行為があった:配偶者が浮気相手と性行為を行った
- 配偶者から悪意で遺棄された:正当な理由がなく、配偶者が家を出た等
- 配偶者の生死が3年以上明らかでない
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
- その他婚姻を継続し難い重大な事由がある:DVやモラハラ等で夫婦関係が破綻した等
なお、裁判離婚では有責配偶者(離婚する原因をつくった配偶者)からの申立ては原則として認められません。
有責配偶者が訴訟を提起しても、離婚する原因をつくった事実が明らかになれば、相手方が離婚を望まない場合、請求は棄却される可能性が高いです。
証拠収集
配偶者が離婚する原因をつくったならば、その証拠を収集する必要があります。
有力な証拠となる物は以下の通りです。
- 不貞行為:配偶者の自白を記録したテープ、浮気相手とラブホテル等に出入りする画像や動画等
- DVやモラハラ:配偶者が暴行や暴言を行った動画や録音、ケガやあざの写真、医師の診断書等
証拠が提出できれば離婚はもちろん、配偶者(不貞行為の場合は浮気相手にも)へ慰謝料請求が可能です。
弁護士への相談
配偶者の離婚を決意した場合は、まず弁護士に相談し対応を話し合った方がよいでしょう。
弁護士は、
- 開業医が離婚手続きを進めるときの注意点
- 離婚手続きの進め方
- 有利に手続きを進めるコツ 等
を詳しくアドバイスします。
また、配偶者がすでに別居していても、弁護士を代理人に立てれば、本人に代わり配偶者との交渉が可能です。
自分と配偶者が顔を合わせて話し合う必要もなくなるので、互いにいがみ合う事態も回避できます。
まとめ
今回は多くの民事事件に携わってきた専門弁護士が、開業医が離婚を行うときの注意点やポイント等について詳しく解説しました。
特に開業医が離婚をする場合、財産分与はかなり複雑化する可能性があります。そのようなときは弁護士の助力を得て、慎重に離婚条件の取り決めを進めていきましょう。
開業医が離婚を決意したら、まずは弁護士に相談し、今後の対応を話し合ってみてはいかがでしょうか。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。