盗撮事件を起こした場合、懲戒処分を受けるのか
最終更新日: 2021年07月08日
はじめに
会社員や教員、役所の職員などが盗撮をしたというニュースが流れることがよくあります。
盗撮事件を起こしてしまった場合、勤務先から懲戒処分を受ける可能性がありますが、ひとえに懲戒処分といっても、戒告から懲戒解雇まで様々な処分が存在します。
どのような場合に懲戒処分を受けることになるのかについて、会社に勤める会社員の場合と公務員の場合に分けてご説明します。
盗撮をした会社員は懲戒処分を受けるのか
会社における懲戒処分の考え方
会社員が、私生活上の行為として、盗撮行為を行い逮捕され有罪判決を受けた場合に、会社から懲戒処分を受けることはあるのでしょうか。
本来、懲戒処分は企業秩序維持のために行われるものですから、会社員は、職務と関係のない私生活上の非違行為については、当然に会社から処分を受けるものではありません。
もっとも、会社が私生活上の非違行為を対象とする懲戒事由を就業規則に規定している場合には、私生活上の非違行為を理由に懲戒処分を行う可能性があります。
例えば、多くの企業では、就業規則の懲戒事由として、「従業員が会社の名誉・信用を毀損したとき」や、「犯罪行為を犯したとき」などと規定されています。
したがって、会社員の私生活上の非違行為について、会社が上記事由に該当すると判断した場合には、当該会社員に対して懲戒処分を行う可能性があることになります。
盗撮行為が発覚した段階での会社からの懲戒処分
盗撮行為が発覚した時点では、無罪推定の原則が及ぶことから、懲戒処分、特に懲戒解雇・免職については慎重に判断されることが多いです。
問題となるのが私生活上の非違行為であることからすると、懲戒処分を行うためには、盗撮行為が企業秩序や職場規律へ与えた支障が大きいものであることが求められます。
裁判例には、盗撮行為の性質・情状、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針、当該社員の会社における地位・職種等の事情を総合的に判断すべきである、と判示しているものもあります。
したがって、盗撮行為が発覚した段階で処分がなされるのは、上記事情に照らし、盗撮行為が企業秩序や職場規律へ与えた支障が大きいものであると判断された場合といえるでしょう。
刑事処分を受けた段階での会社からの処分
裁判例は、使用者は、会社員の私生活上の行為であっても、企業秩序維持のために、会社員の私生活上の行為を規制の対象とし、これを理由として懲戒処分を行うことも許されると判示しています。
具体的に、懲戒処分を課すことが認められるのかどうかは、当該非違行為が、会社の利益、名誉・信用、企業秩序や職場規律等に影響を与えたかどうかによって、判断されることとなります。
もっとも、被害者との間で示談が成立することにより、被疑者は刑事処分を受ける可能性が低くなります。
会社員に関しては、逮捕されない場合には勤務先に盗撮行為の被疑者として捜査されていることが発覚することは多くはありません。
そのため、検察官により起訴されるまでの間に、被害者と早急に示談を成立させることで、刑事処分を免れる可能性が高くなります。そのため、盗撮事件において懲戒処分を免れるためには、示談が成立していることが重要です。
盗撮をした公務員は懲戒処分されるか
公務員の懲戒処分の考え方
公務員の身分は、憲法に「全体の奉仕者」として規定されています。
公務員に対する懲戒処分は、公務員としてふさわしくない非違行為があった場合に、公務員関係の秩序を維持するため科される制裁ですから、懲戒処分を行う処分庁には広範な裁量が認められます。
この点で、公務員は会社員とは異なります。
裁判例は、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、結果、影響等の他、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきか、いかなる処分を選択すべきかについても決定できるとしています。
公務員は盗撮で逮捕されると懲戒処分を受けるのか
公務員の場合には、「懲戒処分の指針について」という懲戒処分基準が人事院により定められています。多くの地方自治体においても、これと同様の規定が存在しています。
「懲戒処分の指針について」では、盗撮行為を行った場合には「停職又は減給とする」と定められています。
そのため、盗撮行為が勤務先に露見すると停職又は減給の懲戒処分を受ける可能性が高いといえます。そして、公務員の場合、逮捕されると警察から勤務先に通報されるケースが多くありますので、会社員よりも勤務先に盗撮事件が露見する可能性が高いといえます。
もっとも、停職又は減給処分は免れないとしても、盗撮行為の行為態様や情状が悪くなければ、懲戒解雇・免職処分がなされる可能性は低いといえるでしょう。
公務員は盗撮事件で懲戒免職されることはあるのか
刑事処分が確定した場合には、国家公務員法・地方公務員法に規定されている欠格事由との関係が問題となります。
国家公務員法38条2項・地方公務員法16条2項はいずれも、禁固以上の刑に処せられた者について、公務員の欠格事由として規定しています。
この欠格事由とは、公務員としての資格が存在しないことを定めるものであり、禁固以上の刑に処せられてしまうと、懲戒免職されることになります。
そして、多くの盗撮行為は各都道府県の迷惑防止条例違反となりますが、その法定刑として、都道府県により異なりますが、最も重い条例では100万円以下の罰金または1年以下の懲役を定めています。
そのため、仮に裁判で1年以下の懲役刑が言い渡されてしまうと、「禁固以上の刑」に当たってしまうため、欠格事由に該当してしまいますが、罰金刑の言い渡しであれば、欠格事由には該当しません。
盗撮行為は、初犯の場合ですと、常習性が極めて高い等、情状面が悪質でない限りは、罰金刑となることが多い犯罪ですから、初犯の盗撮行為では、情状が極めて悪質でなければ、懲戒免職となる可能性は低いといえるでしょう。
最後に
盗撮行為は、公務員の場合には、発覚しただけで懲戒処分がなされる可能性が高いですが、発覚したとしても結果的に刑事処分を受けなかった場合には懲戒免職は免れるのが通常です。
他方、会社員の場合には、刑事処分が確定しない場合には、勤務先へ発覚しない場合も多いため、懲戒処分を受けないことも多くあります。
いずれにしても盗撮事件の被疑者として捜査の対象となってしまった時点で、できる限り早く弁護士に依頼して、示談交渉を開始することが肝要です。
盗撮事件の捜査の対象となっていて対応にお困りの方は、刑事事件の経験豊富な弁護士にお早めにご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。