大麻の共同所持で逮捕された場合の流れ
最終更新日: 2022年07月06日
今回は、複数人が大麻を使用していた際に、大麻取締法の所持罪で処罰されることになる者は誰なのか、もしくは使用していた全員が共同所持の罪で逮捕・起訴されることになるのか、大麻取締法違反の処罰範囲について、ケースごとにご説明いたします。
大麻取締法における所持と使用の処罰について
覚せい剤・MDMA・コカイン等の違法薬物については、所持罪の他に、使用罪についても、各法律に処罰規定が設けられています。
これに対して、大麻を規制する大麻取締法においては、大麻所持罪についての規定は存在しますが、大麻使用罪について処罰規定は存在しません。
大麻以外の薬物犯罪においては、被疑者の体内中または排泄した尿を捜索差押えしたうえで、鑑定を経て陽性となれば、尿から薬物反応が出た事実をもって、被疑者が自己の意思で違法薬物を使用したことについての重要な証拠となりえます。
しかしながら、使用についての処罰規定が存在しない大麻に関しては、使用罪で逮捕・起訴することができません。
そのため、大麻そのものが、複数人の居住・出入りする空間から発見された場合に、誰がその大麻を所持していたのかが、特に問題となるのです。
大麻の所持について
一般的に、薬物犯罪における「所持」罪とは、法規制の対象となっている身体に有害な違法薬物類であるとの認識をもって、これを自己の支配下に置くことで成立します。
そして、自己の支配下に置くことについては、所持者が常にその物を現実に所持しているということを意識している必要はなく、所持者と対象物との間にこれを保管しているという支配関係が持続されていることをもって、所持が認められることになります。
簡単に言うと、所持者が自宅に大麻を持ち込んだ後に、大麻が所在する正確な位置について忘れてしまっていても、大麻が間違いなく自宅にあると思っていれば、持ち込んだ人物が手元に大麻を持っていなくとも、大麻の所持罪が成立することになります。
では、複数人が大麻を使用していた事実が捜査機関に発覚した場合に、その大麻は誰が所持していたことになるのでしょうか。どのような場合に共同所持の罪が認められるのか、共同所持の概念について説明した後に、ケースごとに考えていきましょう。
大麻の共同所持とは?
薬物犯罪における共同所持とは、複数人の間で、各人に、
- 薬物の存在を認識していること
- 薬物を管理処分し得る状態にあること
以上の2つの要件が同時に満たされるときに認められると考えられています。
そうすると、1の薬物の存在をそもそも認識していない場合には、当然に所持は成立しないことになりますから、例えば、複数人が大麻を使用していた場合に問題となるのは、2の要件を満たすかどうかということになってきます。
すなわち、複数人がその存在を認識していた薬物について、共同所持が成り立つかどうかの決め手は、その薬物に対する管理処分権の有無ということになってきます。
管理処分権の有無については、複数人の中の各人が、薬物を保管場所から自由に取り出して、自分の所有物として他人に気兼ねなく使用することができる状態にあるかどうかによって判断されることになります。
そうすると、薬物が存在することは認識しているけれども、薬物が隠されていて保管場所はわからない場合や、保管場所はわかっていても使用を禁止されていたり、保管場所に鍵がかかっていたりして自由に取り出し使用することができない場合には、管理処分権は否定されることになります。
大麻共同所持についてケースごとの考察
夫婦・カップル間の共同所持
この場合には、同棲しているカップル・同居の夫婦が居住する空間内に存在する大麻につき、共同所持罪は成立するのでしょうか。
まず、夫が大麻を所持・使用していることを認識している妻が、夫と一緒に居住空間内で大麻を使用していたとしましょう。
この場合に、夫が保管場所を妻に隠している場合や、保管場所自体は教えていてもその場所に鍵がかかっており自由に妻が取り出すことができない場合には、妻が管理処分できる状態にあるとはいえません。
また、物理的には妻が夫の居ない時に自由に大麻を取り出して使用できる状態にあっても、夫から妻一人で大麻を使用することを禁止されており、実際に妻が一人で使用したことはなかった場合にも、妻の管理処分権は否定される方向になりそうです。
もっとも、この場合には、妻の管理処分権が及ぶかどうかは実際には不明確であるため、供述内容によっては、妻が共同所持の罪で起訴される可能性もあります。
その場に居合わせた複数人間の共同所持
クラブ・飲食店・イベント会場で複数人が大麻を使用していた際に捜査機関の捜索を受けた場合や、交通検問で複数人が乗る車両から大麻が出てきた場合に、居合わせた者に共同所持の罪が成立するのでしょうか。
この場合にも、前述のとおり大麻取締法では使用が処罰されないことから、現実に大麻を所持していた者が誰なのか、前述の基準により決まることになります。
具体的には、現実に大麻を所持していた者が一人であって、他の者の供述も客観的に整合しているのであれば、その所持していた一人が大麻所持の罪で逮捕・起訴されることになるのが通例です。
もっとも、前もって大麻を使用することを知った上で場に参加し、その場で自由に大麻を使用していた者については、共同所持の罪で逮捕・起訴されることになる可能性が高いでしょう。
例えば、音楽イベント等に先立ち、大麻を使用することを呼びかけた者がいて、その呼びかけに前もって賛同していた者が、イベント当日に自由に大麻を使用できる状態にあった場合には、呼びかけた者と賛同した者全員の間で共同所持の罪が成立する可能性が高いといえます。
さらに、大麻の使用について賛同していたのみならず、一人の者が全員を代表して大麻を購入し、購入資金については後で精算する事前の謀議があった場合には、大麻の引き渡しが未了で、各人が自由に使用できる状態に至らない状態で発覚した時点でも、全員に共同所持の罪が成立する可能性が高いといえます。
最後に
大麻の共同所持については、捜査の初期段階における対応が極めて重要です。
薬物事案では、逮捕されてしまうと勾留を回避することが困難な事案も少なくありません。
捜査の初期段階から弁護士に相談し、弁護士の的確なアドバイスに従うことで、逮捕・勾留、起訴を回避し、有罪となっても執行猶予付きの判決とすることができるケースも多数存在します。
また、近年では、栽培キット等を個人が購入した上で、大麻を自宅等で栽培する事案も増加しています。
大麻取締法は、自己消費目的での栽培に比べて、営利目的での栽培を、より重く処罰しています。
捜査の初期段階で、栽培に営利目的が存在していたと受け取られるような供述をしてしまうと、後の裁判で、弁護士が営利目的の不存在を主張しても、結局、営利目的での栽培であったと認定されてしまう可能性もあります。
さらに、本来であれば執行猶予付きの有罪判決が得られる可能性が高い事案であっても、初動対応を誤ったために執行猶予が付かなくなってしまう可能性もあります。
このように、薬物事案では初動対応が非常に重要であることから、大麻取締法違反事件で捜査の対象となっていて対応にお困りの方は、弁護士にお早めにご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。