インシデント発生時の対応と予防策:組織を守るセキュリティ運用・啓発の鍵

2025年11月19日

インシデント発生時の対応と予防策:組織を守るセキュリティ運用・啓発の鍵

情報セキュリティ対策というと、ファイアウォールやウイルス対策ソフトなどの「技術的な防御」に注目しがちです。
しかし、実際に発生するインシデント(事件・事故)の多くは、従業員の人為的なミスやセキュリティ意識の不足が原因となっています。

本コラムでは、「インシデントが起きたときにどう対応するか」という事後対策(インシデント対応)と、「インシデントを起こさないための仕組みづくり」という事前対策(啓発活動)の両面から、組織のセキュリティ運用について解説します。

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
宅地建物取引士

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サイバー攻撃被害時の初動対応と警察への通報

サイバー攻撃や情報漏洩が発生した場合、初動対応が遅れると被害が拡大し、企業の信頼にも影響を及ぼします。
迅速かつ適切な対応体制を整えておくことが重要です。

インシデント発生時の初動対応の流れ

被害が確認された際は、次の流れで対応します。

被害拡大の防止(封じ込め)

感染したPCをネットワークから切り離す、不正アクセスに使われたアカウントを停止するなど、被害の広がりを防ぐ措置を最優先で行います。

状況の把握と証拠の保全

いつ、どこで、どのような被害が発生したのかを整理し、PCの操作ログなどの証拠を確実に保全します。これらは後の原因調査や警察への通報時に重要な資料となります。

関係者への報告と連絡

経営層やセキュリティ担当(CSIRTなど)に速やかに報告します。情報漏洩の可能性がある場合は、外部の専門家や弁護士への相談も並行して行います。

原因究明と復旧

保全した証拠をもとに原因を特定し、システムを安全な状態に戻すための復旧作業を実施します。

サイバー攻撃に関する警察への通報

不正アクセスやウイルス感染など、犯罪の可能性がある場合は、警察への通報を検討します。

通報のタイミング

事実関係がある程度明らかになり、証拠保全が完了した段階で、「サイバー犯罪相談窓口」または最寄りの警察署に相談・通報します。

通報のメリット

通報によりインシデント対応の正当性を示す根拠になりますし、社外への説明責任を果たすうえでも有効です。また、警察の捜査によって事実関係が明らかになったり、ランサムウェアによって暗号化されたデータの復号に成功するケースもあります。

人為的ミスを防ぐための啓発活動と研修

インシデントを未然に防ぐには、従業員一人ひとりのセキュリティ意識を高めることが欠かせません。

情報セキュリティ研修のテーマ設定

研修は座学だけでなく、従業員が「自分の業務に関係がある」と感じられる実践的なテーマを選ぶことが効果的です。

研修テーマ

目的と内容

標的型攻撃メールの対応訓練

実際の攻撃メールを模して送信し、開封や添付ファイル実行のリスクを体感させる。

パスワードと認証の基礎

強いパスワードの作り方や多要素認証の重要性、使い回しの危険性を学ぶ。

情報取り扱いの基本(内部不正防止)

機密情報の定義や持ち出し禁止ルール、私用クラウドへのアップロード制限などを周知する。

テレワーク時のセキュリティ

公衆Wi-Fi利用のリスクや、家族とのPC共有禁止、Web会議ツールの安全な利用方法を学ぶ。

セキュリティ啓発活動の事例

単発の研修に加え、年間を通して意識を維持する工夫も重要です。

社内ポスターやメールマガジン

チェックリストや簡単な標語を定期的に発信し、注意喚起を行います。

「サイバーセキュリティ月間」の活用

毎年2月は「サイバーセキュリティ月間」と定められています。この時期に合わせて社内キャンペーンや外部講師によるセミナーを開催することで、社会的な関心の高まりを活かして啓発効果を高められます。

知識定着度の確認テスト

研修後に簡単なテストを実施し、理解度を確認します。結果に応じてフォローアップを行うことで、全体のレベル向上につなげます。

よくある質問(FAQ)

Q:サイバー攻撃を受けた場合、まず誰に連絡すればよいですか?

A. まずは社内のセキュリティ対応チーム(CSIRT)や情報システム部門の責任者に連絡してください。その後、被害の内容に応じて警察のサイバー犯罪相談窓口、外部のセキュリティベンダー、法務担当者にも報告します。

Q:情報セキュリティ研修はどのくらいの頻度で実施すべきですか?

A. 法的な義務はありませんが、少なくとも年1回は全従業員向けに実施することが望ましいです。さらに、新入社員研修や異動時の教育に加え、標的型攻撃メール訓練を四半期に1回行うなど、継続的な実施が効果的です。

Q:「サイバーセキュリティ月間」を活用するメリットは何ですか?

A. この時期は社会的にもセキュリティ意識が高まるため、従業員の関心を引きやすい点がメリットです。また、政府や関連団体が提供する無料の啓発素材を活用できるため、自社でコンテンツを一から作成する手間を省きながら効果的な啓発活動を行えます。

まとめ

組織のセキュリティを守るには、技術的な防御だけでなく、「人」に関わる運用と意識向上が欠かせません。

事後対策

インシデント発生時には、「封じ込め」「証拠保全」「警察通報」を迅速かつ適切に行う体制を整える。

事前対策

定期的な研修や啓発活動を通じて、従業員のセキュリティリテラシーを高める。

インシデント対応と啓発活動を両立させることで、組織全体のセキュリティレベルを継続的に高めていくことができます。

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