現場で「使える」社内セキュリティルール:ポリシーを実務に落とし込む規程整備のポイント

2025年11月28日

現場で「使える」社内セキュリティルール:ポリシーを実務に落とし込む規程整備のポイント

企業の情報セキュリティポリシー(基本方針)は、情報資産を守るための理念や大枠の基準を示すものです。
一方で、この理念を現場で具体的な行動に落とし込むためには、「従業員が明日から何をすればよいのか」が分かる行動規範(規程・ルール)が必要になります。

どれだけポリシーが整っていても、現場のルールがあいまいだったり、実際の業務と合っていなかったりすると、従業員は守りづらくなり、ルールが形だけのものになってしまいます。

本コラムでは、セキュリティポリシーを現場レベルに落とし込むための具体的な社内セキュリティルールの例と、セキュリティ規程整備のポイントについて解説します。

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
宅地建物取引士

詳しくはこちら

セキュリティ規程整備の2つの重要ポイント

実効性のある規程を整備するためには、次の2点に注目することが重要です。

業務適合性と実現可能性

ルールが厳しすぎると、従業員は業務効率を優先して、結果的にルールを守らなくなってしまうおそれがあります。

現場の声を聴く

規程の作成や見直しの際には、必ず現場部門の担当者にも参加してもらい、実務上の制約や、既に定着している作業プロセスを把握します。

例外規定の設計

ルール自体は一定程度厳格にしつつも、ビジネス上必要な場合には、申請・承認プロセスを経て例外対応ができる「例外規定」を設けておくことで、ルールを迂回する形での運用を防ぐことができます。

体系的な構造と参照のしやすさ

ルールがバラバラに存在し、「どこに何が書いてあるか分からない」状態では、従業員はなかなか参照しなくなります。

階層化

「基本方針(最上位) → 対策基準(部門共通のルール) → 手順書(具体的な操作マニュアル)」のように階層を整理し、どの文書を見ればよいか一目で分かる構成にします。

専門用語の整理

ITの専門用語をできるだけ避け、誰でも理解しやすい表現で記載します。必要な専門用語を使う場合は、用語集を用意するなどの工夫も有効です。

 

といった運用サイクルに関する規定も整備することが求められます。

社内セキュリティルール必須項目と具体的な事例

ここでは、どの企業でも最低限整備しておきたい社内セキュリティルールの必須項目を、領域ごとにご紹介します。

アクセス制御とアカウント管理のルール

情報資産へのアクセス権限を適切に管理するためのルールです。

必須項目と社内セキュリティルール例

最小権限の原則

従業員のアクセス権限は、業務上必要な最小限の範囲に限定し、定期的に見直します。

パスワード管理

12文字以上、英数字と記号の組み合わせを必須とし、使い回しやメモ書きによる管理を禁止します。
また、パスワードの「定期変更」を一律に求めるのではなく、漏えいが疑われる場合には即時変更を義務付けるといった運用にします。

アカウントの停止

従業員の退職・異動時には、最終勤務日までに、関連するすべてのアカウントを停止または削除します。

資産の取り扱いと情報持ち出しのルール

機密情報が物理的・電子的な手段で外部に流出することを防ぐためのルールです。

必須項目と社内セキュリティルール例

クリーンデスク

離席時や退社時には、機密文書を机の上に放置せず、施錠できる場所に保管します。

PCのロック

離席時には必ずPC画面をロックし、いわゆるショルダーハック(背後からの覗き見)を防ぎます。

情報持ち出しの制限

USBメモリや私用クラウドストレージへの機密情報のコピーを原則禁止とし、やむを得ない場合には上長とセキュリティ担当者の事前承認を必須とします。

情報廃棄

機密情報が記載された文書は、シュレッダーにかけるか、溶解処理など復元不可能な方法で廃棄します。

外部環境利用のルール

リモートワークや、私用デバイスの業務利用(BYOD)に関するルールです。

必須項目と社内セキュリティルール例

リモートアクセス

リモートアクセスは、会社が許可したVPN接続またはVDI(仮想デスクトップ)経由に限定し、私用PCへの機密情報の保存を禁止します。

私用デバイスの利用(BYOD)

私用デバイスの業務利用を認める場合には、会社指定のセキュリティソフトウェアのインストールや、紛失時のリモートワイプ(遠隔消去)への同意を必須とします。

ソフトウェア利用

業務に関係のないソフトウェアのインストールや、ライセンスに違反したソフトウェアの利用を禁止します。

インシデント対応と報告のルール

問題が発生した際に、被害を抑え、迅速に対応するためのルールです。

必須項目と社内セキュリティルール例

インシデント報告義務

ウイルス感染、不審なメール、情報の紛失、パスワードの漏えいなど、セキュリティに関わる異常を認知した場合には、直ちに上長またはセキュリティ担当者に報告することを義務付けます。

初動対応手順

インシデント発生時には、電源を切らず、ネットワークケーブルを抜くなど、状況に応じた初動対応の手順を具体的に定めておきます。

よくある質問(FAQ)

Q:ルール整備で最も時間と労力がかかる項目は何ですか?

A:特に時間と労力を要するのは、「リスクアセスメント(リスク評価)」と、それに紐づく「アクセス制御の設計」です。

組織全体の情報資産を洗い出し、それぞれの資産について「誰が」「どのレベルで」「どのような条件で」アクセスすべきかを決め、それをシステム上の権限設定に反映させる必要があります。この作業には全社的な協力と、一定の専門知識が求められます。

Q:従業員にルールを守ってもらうための効果的な方法はありますか?

A:「罰則」よりも「意識付け」と「利便性」が重要です。

教育

規則の背景にあるリスクや、守らなかった場合の具体的な影響を、事例なども交えて継続的に伝えていきます。

利便性

可能な範囲でツールによる支援を取り入れます。
例:パスワード管理ツールを導入し、複雑なパスワードでも負担なく利用できるようにする、など。

Q:セキュリティ規程はどのくらいの頻度で見直すべきですか?

A:少なくとも年1回の見直しは必要です。

加えて、以下のような場合には、その都度関連する規程の見直しを行う必要があります。

  • 組織体制の大きな変更
  • 新規事業の開始
  • 主要なシステムの更新
  • 重大なセキュリティインシデントの発生

まとめ

セキュリティポリシーを現場で機能させるためには、社内セキュリティルールの必須項目を網羅し、整備のポイントを押さえた実効性のある規程を整えることが重要です。

実現性

現場の声を反映し、実際に運用できるルールにする。

網羅性

アクセス制御、情報持ち出し、インシデント対応など、必要な項目を漏れなく定める。

継続性

ルールを作って終わりにせず、監査や教育を通じて改善と定着を続ける。

 

こうしたルール整備を通じて、企業の情報資産を守るとともに、全従業員が情報セキュリティの「実行者」として行動できる体制を構築していきましょう。

情報セキュリティのコラムをもっと読む

※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。