発信者情報開示請求の意見照会書が届いたら?弁護士が教える基本対応と手続きの流れ
2026年02月04日

ある日突然、「発信者情報開示請求に係る意見照会書」という書類が届くと、驚きや不安を感じる方も多いと思います。内容を読むほど、「このままどうなるのか」「何をすればいいのか」と気持ちが落ち着かなくなることもあるでしょう。
ただ、意見照会書は“届いた時点で結論が決まる”書類ではありません。プロバイダ(サービス運営者や回線事業者)が、情報を開示する前に契約者の意向を確認するために送る通知で、回答する機会が用意されています。
この記事では、意見照会書の意味、まず確認すべきポイント、主な対応パターンとその後の流れを、初めての方にもわかるように整理します。
突然届いた「意見照会書」…まずは落ち着いて状況を把握しよう
意見照会書が届いた直後は、焦って投稿を消したり、関係者に連絡したりしたくなるかもしれません。しかし、状況によっては行動が裏目に出ることもあります。最初にやるべきことは、「何が、いつ、どこで問題になっているのか」を書面から正確に把握することです。
意見照会書は、プロバイダが契約者の意見を確認するための手続きです。つまり、回答内容によって、その後の進み方や選択肢が変わる可能性があります。まずは書面の情報を整理し、必要であれば早めに専門家へ相談できる状態を作るのがポイントです。
そもそも「意見照会書」とは?
意見照会書は、インターネット上の誹謗中傷やプライバシー侵害など、違法行為の被害者が加害者を特定するために行う「発信者情報開示請求」という手続きの過程で送られる書類です。
発信者情報開示請求は「プロバイダ責任制限法」に基づく制度で、被害者が匿名投稿の発信者を特定するために利用します。プロバイダは請求を受けても直ちに契約者情報を開示せず、契約者の意見を聴取する義務があります。そのため「契約者情報を開示してよいか」と意思確認する目的で意見照会書が送付されるのです。
書類を受け取った方には自身の情報開示について反論や意見を述べる機会が与えられています。無視は厳禁で、適切な対応が重要です。
手続き全体の流れについては、以下の記事で詳しく解説しています。
開示の対象になり得る「発信者情報」とは
発信者情報開示請求によって明らかにされる可能性があるのは、氏名、住所、電話番号、メールアドレスなど本人を特定できる情報です。
さらに、投稿時のIPアドレスやタイムスタンプなど技術的情報も対象になります。IPアドレスは投稿が行われた回線契約者を特定する手がかりとして極めて重要です。どこまでの情報が開示され得るのか、事前に把握しておきましょう。
意見照会書が2回届くことがある(コンテンツプロバイダ/アクセスプロバイダ)
開示手続きは通常2段階で進むため、意見照会書が2回届く可能性があります。この流れを左右するのが「コンテンツプロバイダ」と「アクセスプロバイダ」という二つの主体です。
まず、X(旧Twitter)やYouTube、匿名掲示板など投稿先サービスの運営者が「コンテンツプロバイダ」に該当します。被害者はここに対し、投稿時のIPアドレスなど接続情報の開示を求めるため、最初の意見照会書はコンテンツプロバイダ経由で届くことがあります。
次に、開示されたIPアドレスを管理するインターネット接続事業者(携帯キャリアや光回線事業者など)が「アクセスプロバイダ」です。被害者はアクセスプロバイダへ契約者情報の開示を請求し、ここでも意見照会書が送られる仕組みになっています。書類の差出人を確認し、手続きの段階と開示対象情報を正確に把握しましょう.
意見照会書が届いたら最初に確認すべき3つ
差出人は誰か?(どのプロバイダから届いたか)
差出人がコンテンツプロバイダかアクセスプロバイダかによって、手続きの段階と開示対象情報が異なります。
XやYouTubeなどの運営者から届いた場合は接続情報が対象で、まだ氏名や住所は求められていません。携帯キャリアや光回線事業者から届いた場合は、すでにIPアドレスが開示され、契約者情報の開示が求められている段階と考えられます。封筒や書類を確認し、差出人を特定しましょう。
回答期限はいつか?(通常は2週間以内)
意見照会書には回答期限が明記されています。多くの場合、発送日から2週間程度です。
期限を過ぎると「意見なし」と見なされ、プロバイダが任意で情報を開示するおそれがあります。受領後すぐに期限を確認し、余裕を持って対応方針を固めましょう。
原因となった投稿内容は何か?(URL、投稿日時、投稿内容の抜粋など)
どの投稿が対象か、書面に記載された情報で特定します。ここが曖昧なままだと、同意・不同意の判断も難しくなります。
【ケース別】意見照会書への3つの対応方法と回答後の流れ
意見照会書への対応は、大きく分けて次の3つです。
開示に同意する
ご自身が投稿した内容であり、それが明らかに他者の権利を侵害していると認識している場合や、争う余地が少ないと判断される場合には、発信者情報開示に「同意する」という選択肢が考えられます。
この選択は、問題の早期解決を目指す上で合理的な場合があるでしょう。例えば、明らかに違法な投稿で争っても結果が変わらないと予想されるケースなどです。
同意した場合のメリット・デメリット
開示に同意することのメリットとしては、まず、裁判に移行する前に当事者間で示談交渉を進められる点が挙げられます。これにより、長期化しがちな裁判手続きを回避し、時間と費用の両面で負担を軽減できる可能性があります。また、誠実な対応を示すことで、慰謝料などの損害賠償額の減額交渉に応じてもらいやすくなるケースも考えられます。
一方でデメリットとしては、ご自身の氏名、住所、電話番号、メールアドレスといった個人情報が請求者に開示されてしまう点が挙げられます。そして、情報開示の結果として、慰謝料や損害賠償金といった金銭的な負担が発生する可能性が高いことも考慮しなければなりません。
回答後の流れ:請求者との示談交渉へ
発信者情報の開示に同意した場合、プロバイダから請求者へ情報が提供された後、通常は請求者側の弁護士からご自身宛てに連絡が入ります。この連絡は、多くの場合、権利侵害による損害賠償(慰謝料など)の支払いを求める示談交渉の申し入れです。示談交渉では、具体的な損害賠償額や支払い方法について話し合いが行われます。
この段階で双方の合意が得られ、示談が成立すれば、裁判に至ることなく問題は解決へと向かいます。しかし、もし示談交渉が決裂してしまった場合、請求者は損害賠償請求訴訟を提起する可能性があります。そうなると、裁判所での法的な争いに発展することになりますので、示談交渉は非常に重要なプロセスと言えるでしょう。
示談については、以下の記事でも解説しています。
開示を「拒否する」
ご自身の投稿に全く心当たりがない場合や、問題とされている投稿内容が法的に権利侵害には当たらないと考える場合は、発信者情報の開示を「拒否する」という選択肢があります。ただし、単に拒否の意思を示すだけでは不十分です。なぜ開示に同意できないのか、その法的な根拠を明確かつ説得力のある形で示すことが非常に重要になります。
プロバイダは、発信者から開示拒否の意思が示され、その理由に合理性があると判断した場合には、任意での情報開示を行わない傾向にあります。これは、プロバイダが発信者のプライバシー保護にも配慮する立場にあるためです。したがって、拒否する際には、ご自身の主張を裏付ける具体的な理由をしっかりと提示する必要があります。
拒否した場合のメリット・デメリット
開示を拒否することのメリットは、まずご自身の個人情報が請求者に開示されずに済む可能性がある点です。もしプロバイダが開示請求を拒否すれば、ご自身のプライバシーは保護されます。また、請求者が裁判手続きに移行しなければ、現時点での時間的・金銭的負担は発生しません。
一方、デメリットとしては、請求者が裁判を起こす可能性が高いという点が挙げられます。もし裁判の結果、裁判所が開示を命じる判決を下した場合、最終的に個人情報が開示されるだけでなく、訴訟費用の一部負担を求められるリスクも発生します。安易な拒否が、かえって事態を複雑化させ、予期せぬ費用負担につながる可能性もあるため、慎重な判断が求められます。
回答後の流れ:請求者が裁判手続きに移行する可能性
発信者が情報開示を拒否した場合、請求者は通常、プロバイダを相手取って「発信者情報開示請求訴訟」という裁判を提起することになります。この裁判は、プロバイダに対して発信者情報の開示を求めるもので、ご自身が直接被告となるわけではありません。
裁判では、裁判所が請求者の主張する権利侵害の有無や、情報開示の必要性について慎重に審理します。もし裁判所が、投稿内容が権利侵害に該当し、情報の開示が必要であると判断し、開示を命じる判決を下した場合、プロバイダはご自身の意向に反して情報開示を行わざるを得なくなります。つまり、開示を拒否したからといって、必ずしも個人情報が守られるわけではないという点を理解しておく必要があります。
「無視する」はNG!その理由とは?
回答期限までに何も返信しないと、プロバイダが「意見なし」と判断し、請求者へ任意で情報を開示するリスクがあります。その結果、突然損害賠償請求が届く、裁判で不利な心証を持たれるなど、最悪のシナリオを招きかねません。無視は問題を悪化させるだけなので避けてください。
弁護士が解説|意見照会書への回答書の基本
意見照会書への回答は、形式としてはシンプルに見えても、後の展開に影響することがあります。最低限、次の点を意識すると整理しやすいです。
・どの投稿についての回答か(投稿特定情報を確認)
・結論:同意する/同意しない
・理由:なぜそう判断したか(簡潔でよいが筋は通す)
拒否の理由づけ(法的な主張の組み立て)は事案によって大きく変わるため、詳しい書き方は弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に相談するメリット
発信者情報開示請求の意見照会書が届いた際に、弁護士へ依頼することで得られるメリットは多岐にわたります。主なメリットは次のとおりです。
・投稿内容が法的に問題になるかの見立てを整理できる
・同意/不同意の方針を、リスクと見通しを踏まえて決めやすい
・回答書の記載を整え、後の交渉・手続きに備えられる
・請求者側とのやり取りを任せられる場合がある
詳しくは以下の記事で解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q.自分で回答書を書いても大丈夫ですか?
可能ですが、法的知識がないと不利になるリスクが高いです。
「本音で謝罪を書く」や「感情的に反論する」ことは、かえって「権利侵害を自白した」とみなされたり、反論として不十分だったりするケースがあります。 特に、「拒否して情報を守りたい」場合や「減額交渉を見据えている」場合は、どのような文言で回答すべきか、専門家である弁護士のアドバイスを受けることを強く推奨します。
Q.開示された場合、損害賠償金(慰謝料)の相場はいくらですか?
ケースバイケースですが、数十万円〜数百万円の幅があります。
一般的な誹謗中傷の場合、数万円〜50万円程度が多いとされますが、被害者が企業の場合(業務妨害など)や、リベンジポルノ、深刻なプライバシー侵害の場合は、100万円を超える高額な請求になることもあります。これに加えて、相手方が特定に要した調査費用(弁護士費用など)の一部を請求されることも一般的です。
Q.刑事告訴されて逮捕される可能性はありますか?
内容が悪質な場合、可能性はゼロではありません。
意見照会書は「民事」の手続きですが、並行して「刑事」の手続き(警察への被害届)が行われている場合があります。 特に「殺害予告」「爆破予告」「執拗な脅迫」などは逮捕のリスクが高まります。一般的な名誉毀損や侮辱でも、書類送検されるケースは増えています。
まとめ:意見照会書が届いたら、期限と内容を確認して“方針決め”を
意見照会書は、突然届くうえに専門用語も多く、精神的に負担になりがちです。ただ、やるべきことは整理できます。
・差出人(どのプロバイダか)
・回答期限
・対象投稿(URL、投稿日時、内容)
この3点を押さえたうえで、「同意するのか、同意しないのか」を期限内に決めることが第一歩です。判断に迷う場合や、今後の展開(示談・裁判)まで見据えて動きたい場合は、早めに弁護士へ相談することで全体像を整理しやすくなります。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。







