アメリカの婚前契約に関する法律について
最終更新日: 2022年02月21日
日本の民法では、婚前契約に関する規定は、民法第755条から第759条に定めがあるだけです。
アメリカでは、National Conference of Commissioners on Uniform State Laws(NCCUSL)が起草し、1983年に発表された「統一婚前契約法」(UNIFORM PREMARITAL AGREEMENT ACT(UPAA))があります。UPAAは、多くの州法に採用され、そのまま又は修正を加えて各州の家族法に引用されています。
UPAAは、婚前契約について、基本的には当事者間の自由に任せ、その作成過程での公平・公正について最低限の制限をしようという姿勢をとっています。
なお、UPAAは、2012年、婚姻後の夫婦間契約も対象としたUNIFORM PREMARITAL AND MARITAL AGREEMENT ACT(UPMAA)として改訂されました。
日本で婚前契約を作成する際にも参考になりますので、今回はUPAAの主な条項について見ていくことにします。
形式的要件(第6条)
婚前契約は、当事者双方が署名した書面でなす必要があると規定しています。最初に婚前契約を作成するときだけでなく、その修正や取消しについても口頭ではなく、書面による合意を求めています。
判例法では、口頭による合意や、婚前契約の内容と矛盾する夫婦の言動による修正、取消しが認められていましたが、いずれも書面でなすことを求める立場をとったものです。
日本で婚前契約を作成する際にも、契約変更や取消しについては、夫婦の書面による合意が必要であることを規定しておくと良いでしょう。なお、日本では入籍後の婚前契約の変更、取消しが認められるかどうかについて、民法の規定との関係で論点があります。
効力発生時期(第7条)
婚前契約は婚姻時に効力を発生すると規定していますが、婚姻後の時期に効力が発生する条項を置いたり、逆に、婚姻後の時期に効力が失効する条項を置くことは妨げられません。
例えば、一定の年数、婚姻関係が続いた場合に、夫婦の一方に何らかの権利を与えるような条項を置くことも許されます。
法的効力(第9条)
本条からは、婚前契約においては公平・公正な作成プロセスが強く求められることがわかります。日本で婚前契約を作成する際にも、これらの事項に留意して作成すると良いでしょう。
- 真意に基づかないこと、強迫によること
例えば、大幅に修正された婚前契約を結婚式の3日前に提示された、法的助言を得る機会も十分な財産開示も受けられなかった、DVがあったといった事実を立証することになります。 - 他方当事者の影響を受けない弁護士から法的助言を得る機会がなかったこと
具体的には、弁護士に相談するかどうか検討する十分な時間がなかったこと、弁護士から受けた助言について考える十分な時間がなかったこと、弁護士に相談、依頼するお金がなかったことなどを立証することになります。 - 弁護士からの法的助言がなかったから権利を放棄してしまったこと、かつ権利義務を修正・放棄することについて平易な言葉で記載されていなかったこと
- 十分な財産情報の開示を受けなかったこと
以下のような場合には、十分な財産情報の開示を受けたといえるでしょう。
- 資産、負債、収入についての正確な開示とその概算金額(正確な金額は不要。)について誠実な開示を受けている
- 財産開示を受ける権利を放棄するという書面にサインをしている
- 開示を受けなくても他方当事者の財産状況について十分な知識、情報を持っている
- 不誠実な条項
- 結婚後に事情変更があり、その条項を強制することが非常に酷な場合
法的効力のない条項(第10条)
以下のような事項は、日本で婚前契約に定める場合も同じく法的効力は認められないでしょう。
- 子の養育を受ける権利を制限すること
- DV被害者のために法律が与える救済を制限すること
- 法律が認める別居原因、離婚原因を修正すること
- 別居、離婚のための裁判所に申し立てる権利を制限すること
- 子に対する監護責任に関する権利義務を制限すること
- 子の養育方針についての定め
最後に
以上、UPAAの主な条項についてご紹介しました。
日本の民法では婚前契約に関する条文はほとんどなく、その内容や作成プロセスについてのルールが不明確です。婚前契約のこれらの事項を定めたアメリカの法律は国が違うとはいえ、日本で婚前契約を作成する際にも大いに参考になります。
日本でも将来、婚前契約が普及した際には、契約自由を原則としつつ、最低限のルールが定められることが期待されます。
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