暴行罪とは?暴行罪にならないケースは?専門弁護士が解説
最終更新日: 2023年12月16日
・暴行罪に問われるとどのような刑罰を受けるの?
・どのような行為が暴行罪なの?
・暴行罪にならないケースはどのようなもの?
暴行罪は比較的軽微な犯罪ではありますが、特に加害者が酒に酔って犯行に及んだ場合などには逮捕、勾留される可能性があります。また、被害者と示談が成立していないときは、起訴される可能性が高まります。
このように暴行罪といえども、その加害者となったときの不利益は大きいです。
今回は暴行罪について基礎知識から具体例まで専門弁護士が解説します。
暴行罪とは?基礎知識を確認
まずは暴行罪について基礎知識を簡単に確認しておきましょう。
暴行罪の刑事罰
暴行罪は、刑法208条に規定があります。
「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」
法定刑(罰則)は、このように2年以下の懲役刑、30万円以下の罰金刑です。
拘留(1日以上30日未満、刑事施設に拘置する刑罰)、科料(1000円以上1万円未満の金銭を納付する刑罰)も規定されていますが、ほとんど例はありません(平成26年から平成30年の間に、科料が1件あるのみです。)。
暴行の定義は?
暴行罪の「暴行」とは、人の身体に対する不法な有形力の行使をいいます。
この人の身体に対する有形力の行使とは、人の身体に向けられたものであればよく、直接的な接触は必要ありません。
また、先ほどの条文には、「人を傷害するに至らなかったとき」とありましたが、傷害結果が生じる程度の暴行であることも要しません。
暴行罪の未遂罪、故意ではない過失による暴行
未遂罪は、法律に未遂罪の規定がある場合のみ処罰されますが、暴行罪には未遂罪の規定はありませんから暴行の未遂は犯罪ではありません。
それもそのはずで、暴行罪の未遂罪とは、暴行に着手したけれどもそれを遂げなかったということになりますが、暴行は着手と同時に既遂になりますので、未遂がありえないのです。
同様に過失犯も法律に規定がある場合のみ処罰されますが、暴行罪に過失犯の規定はありませんから過失による暴行は犯罪ではありません。
ですから、例えば、道を歩いているときに、不注意で肩が他人にぶつかってしまったという場合、人の身体に対する有形力の行使といえるかもしれませんが、故意がありませんので、暴行罪には該当しません。
なお、道を歩いていて他人に次々に他人に肩をぶつけた人が検挙されたという事例がしばしばありますが、そのようなケースは過失ではなく故意による暴行ですから、もちろん暴行罪に該当します。
暴行罪も傷害罪も非親告罪
親告罪とは被害者の告訴(被害届とは異なります。)がなければ、起訴処分とすることができない犯罪です。このような親告罪である犯罪は法律に規定があります。
そして、暴行罪にも傷害罪にも親告罪である旨の規定はありませので、いずれも親告罪ではありません。もっとも、過失傷害罪については親告罪の規定があります。
暴行罪の公訴時効は何年?
何年で公訴時効に完成するかについては、法律が法定刑の重さに応じて定めています。
暴行罪の法定刑は懲役3年以下ですので、公訴時効は3年です(刑事訴訟法250条2項6号)。
暴行罪にならないケース?傷害罪になるケース?
次に暴行罪になるケースと傷害罪になるケースを見ていきましょう。
病院の診断書がなければ傷害罪ではなく暴行罪
加害者の暴力行為の結果、被害者に軽い打撲や擦り傷ができることがあります。この場合、病院に行けば医師は怪我について診断書を作成してくれます。そして、その診断書を警察に出せば加害者は傷害罪として立件されます。
このように診断書を出さなければ、実際には怪我をしていても怪我の内容を特定できないことから傷害罪ではなく、暴行罪として立件されることになります。
全治一週間の暴行事件
暴力行為の結果、被害者が怪我をしたという場合も、怪我の重さは全治数か月の骨折等から全治一週間ほどの軽傷まで様々です。
たとえ全治一週間の軽傷であっても、傷害結果の証拠として被害者が診断書を警察に出せば、暴行事件ではなく傷害事件として立件される可能性は高いです。
もっとも、事件としては傷害罪ではありますが、非常に軽微な傷害結果の場合には起訴処分、不起訴処分を決めるにあっては暴行罪とほとんど変わらない判断となる可能性が高いでしょう。
傷害罪の故意で暴行したが、外傷、怪我なし
加害者が怪我をさせようという故意で暴力行為をしたものの、被害者が怪我をしなかったという場合、傷害罪でしょうか、暴行罪でしょうか。
まず確認ですが、法律には、傷害未遂罪という規定はありません。
そして、先ほど引用しました暴行罪の条文には「人を傷害するに至らなかったとき」とありますので、いかに傷害の故意があったとしても傷害結果が生じない限りは暴行罪になるのです。
暴行罪とは?暴行の具体的な内容
最後に暴行罪の具体的な行為についていくつか説明します。
暴行罪というと他人を殴ったり、蹴ったりする行為が典型的ですが、「人の身体に対する不法な有形力の行使」は、以下の具体例にもありますように、それよりもっと広い概念です。
胸ぐらをつかむ
殴る、蹴るまでは行きませんが、喧嘩になって被害者の腕をつかむ、胸ぐらをつかうという行為も暴行罪に該当します。
ただし、本当に弱い程度のものであったり、被害者にも相当の落ち度があったりするケースでは、捜査をして処罰するほどのものではないということで、警察は被害届を受け付けてくれないこともあるでしょう。
唾をかける
郵便局員の態度に腹が立って唾をかけて逮捕されたというニュースが以前ありました。
このように他人に唾をかける行為もまさに「人の身体に対する不法な有形力の行使」といえますので、暴行罪に該当することになります。
髪を切る
被害者の髪の毛を勝手に切った場合、これも「人の身体に対する不法な有形力の行使」ですから暴行罪の「暴行を加えた」にあたります。
そして、髪の毛を切ったという場合、基本的には暴行罪にとどまりますが、その程度が酷い場合などには傷害罪になる可能性もあります。
煽り運転も暴行罪?
後続車が前の車両との車間距離を詰めたり、先行車両が急ブレーキをかけて後続車両との車間距離を詰めたりする行為を煽り運転といいます。
以前は煽り運転については暴行罪が適用されたこともありますが、高速道路などで煽り運転をされた被害者が死傷する交通事故が社会問題化しました。
それを受け、令和2年6月に改正道路交通法が施行され、煽り運転にあたる行為を類型化し、道路交通法違反として暴行罪よりも重い刑罰が科されることになりました。
酒に酔って駅員に暴行
最近は駅構内に、酒に酔って駅員に暴行を加えることは暴行罪ですと訴えるポスターをよく目にするようになりました。それほどに駅員に対する暴行が多いのでしょう。
暴行罪の被疑者となったときは、弁護士を通じて被害者である駅員と示談交渉をすることになりますが、近時は、鉄道会社の方針として、駅員に対する暴行罪の加害者とは一切示談に応じないことにしているケースがあります。
まとめ
以上、暴行罪について基礎知識から具体例までご説明しました。
暴行罪の加害者となってしまったときは、できる限り速やかに刑事事件の経験が豊富な弁護士に無料相談することが重要です。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。