墓地の拡張、区画整理
最終更新日: 2021年07月08日
はじめに
墓所区画を増やすために、例えば隣地を購入して墓地を拡張する場合があります。
また納骨堂を建設する、景観をよくする、整理して墓所区画を増やすなどの理由で墓地の区画整理を実施することがあります。
これら墓地の拡張や区画整理に関する法的留意点などについてご説明します。
墓地の拡張
墓地を拡張する場合には、境内地に墓地を拡張する場合と、他人の土地を取得して墓地を拡張する場合があります。
いずれについても、宗教法人法の檀信徒に対する公告(23条2号、4号)や寺院規則の定める手続、包括宗教法人の承認といった内部的な手続きが必要となります。そして、対外的には行政から墓地経営許可を取得する必要があります(墓地埋葬法10条)。
これらの手続きを履践すれば問題ないのですが、しばしばこれらの手続きを踏まずに墓地の拡張が行われるケースがあります。特に、行政から墓地経営許可を得ずに墓地の拡張が行われた場合に大きな問題に発展しかねません。
無許可で墓地の拡張が行われた場合、無許可を理由に原状回復を求めると、既に墳墓を設けている墓地使用者に著しい不利益が生じますので、行政が事後的に許可をするケースが多いようです。
しかしながら、全ての市町村がこのように追認してくれるとは限りません。
当該土地を墓地として使用することの禁止を命じ(墓埋法19条)、墓地使用者との墓地使用契約を解除した上、改葬させるよう寺院に指導するという厳しい対応をとる市町村もあります。現にこのような対応をとられたことによって、墓地造成工事代金の支払いや、使用者に対する損害賠償に耐えられず破産してしまった寺院の例もあります。
墓地の拡張を行政には知られないだろう、知られたとしても追認してくれるだろうという安易な見通しで無許可の拡張を進めると、このような大事に至る可能性があります。
墓地の区画整理
既存の区画から墓地内の他の場所に墓所を改葬してもらい墓地の区画整理をする場合、既存の墓地使用者全員の同意が必要なのでしょうか。一人でも反対者がいる場合、区画整理を強制的に進めることはできないのでしょうか。
寺院墓地の場合
区画整理に必要な宗教法人法、寺院規則所定の手続きをとったものの、一部の檀信徒が区画整理に反対する場合、区画整理を進めることはできないのでしょうか。
檀信徒には寺院が手続に則って決定した区画整理に協力する義務があり、そのような義務は墓地使用権に内在的に伴う制約であると判断し、改葬に承諾すること、現墓所を明け渡すことを命じた判例があります(東京地判H21.10.20判タ1328号139頁)。
このように寺院墓地の場合には、寺院とその檀信徒という関係から、檀信徒は寺院の決定に従う義務があると考えられています。したがって、区画整理に反対する檀信徒の存在にかかわらず、寺院は区画整理を強制的に実施できるということになります。
とはいえ、無論、区画整理の必要性、計画について十分に檀信徒に説明を尽くすこと、できるだけ多くの檀信徒の同意を得るよう誠実に話し合いをするできです。
なお、このように同意がなくとも区画整理を実施できる以上、反対を理由に、反対者との墓地使用契約の解除はできないと考えられます。
民営墓地
寺院墓地の場合は、前記のとおり、檀信徒と寺院との関係性を理由に結論が導かれました。
では、寺院墓地ではない民営墓地の場合はどうでしょうか。
民営墓地と墓地使用者との法律関係は、墓地使用契約によって規定されます。そして、墓地使用規則(約款)上、墓地使用者は墓地管理者の管理に服する義務があると考え、反対者に対して区画整理を強制できるという見解があります。
しかし、この理屈は、墓地使用規則制定以前から存在する古い墓所で、規則制定後も規則に服する旨の同意を得ていない場合には使えません。それでは、このような墓所区画があると区画整理は頓挫するのでしょうか。
例えば、マンションの建て替えについても、法律上、区分所有者全員の同意は必要とされていません。そのため、墓地の区画整理についても、例えば、説明義務を尽くし、4分の3以上の墓地使用者の同意があり、かつ、改装前と改装後の墓所区画の立地、広さがある程度均衡しているのであれば、反対者の存在にかかわらず、強制的に区画整理の実施は可能と考えられます。
以上のとおり、寺院墓地、その他の民営墓地いずれについても、区画整理の実施に必ずしも墓地使用者全員の同意は必要ないといえます。