墓地の相続
最終更新日: 2023年11月17日
はじめに
親族が亡くなった場合、財産の相続手続とともに墓地の「相続」も必要となります。近時は相続を契機に、遠方にある先祖代々のお墓を「墓じまい」をして近傍に改葬する例も増えています。
「墓じまい」をするにあたってもまずは、墓地の「相続」手続が必要となります。今回は、墓地の「相続」手続についてご説明いたします。
民法が定める墓地の「相続」
民法は、相続人が被相続人の財産に属した一切の権利義務(一身専属権を除く。)を承継すると規定していますが(896条)、墳墓などの祭祀財産の所有権は、この規定によらず、祭祀承継者が承継すると規定しています(897条)。
承継者には、単に墳墓などを相続するのではなく、祭祀を行い、墳墓等を維持、管理して先祖を供養することが期待されますので、相続とは別途に、それらを任せられる者に承継させることを可能としています。 墳墓(墓石、墓碑)のほか、墓地の永代使用権も承継の対象となります。遺骨については祭祀財産ではありませんが、祭祀承継者がその所有権を承継すると解されています。
祭祀承継者は、誰の遺骨をお墓に入れるかについて決定する権利がありますので、祭祀承継者(墓地使用権者)と対立している親族がお墓に入ることを拒絶されるというケースもあるようです。
墓地を相続する者の決定方法
墓地を「相続」する祭祀承継者は、法律上、以下⑴から⑶の優先順位で決定されます。
法律に明文の規定はありませんが、相続人ら関係者の協議、合意によって祭祀承継者を決めることも可能です。
被相続人が指定
被相続人が祭祀主宰者として指定した者が、祭祀を承継します。遺産の相続とは別ですから、遺産を相続する者を指定したからといって祭祀主宰者を指定したことにはなりません。
指定方法は、生前に指定することも、遺言書で指定することもできますし、口頭、書面を問いません。
もっとも、争いを防ぐためには公正証書遺言にしておくべきです。 祭祀承継者は、法律上は、親族に限られず、縁故者や墓地管理者、さらには株式会社を指定することもできます。
しかし、適切に祭祀を主宰できる者が承継しなければ、墓地の管理がしっかりとなされず、いずれ無縁墳墓化することも懸念されます。
墓地規則(約款)において、墓所の承継者を「相続人」、「3親等内の親族」などと限定している場合がありますので、墓地管理者に確認する必要があります。
慣習によって決定
被相続人が祭祀承継者を指定していない場合は、被相続人の住所地の慣習や、出身地の慣習など慣習に従って決まります。
とはいえ、慣習というのは明確ではありませんので、ほとんどのケースでは、祭祀承継者の指定がなければ、次の家庭裁判所の調停、審判によって決定することになります。
家庭裁判所が決定
被相続人の指定がなく、慣習も明らかでない場合には、相続人などの利害関係人が申立てをして、家庭裁判所が祭祀承継者を決定します。
家庭裁判所は、祭祀承継者と被相続人との身分関係、過去の生活関係及び生活感情の緊密度、祭祀主宰の意思・能力、その他の利害関係人の意向などを考慮して祭祀承継者を指定しています。 そのため、必ずしも長男が指定されるわけではなく、内縁の妻や二女が指定されることもあります。
特別祭祀承継制度
身寄りがなく、墓地の承継者がいない場合に、永代供養墓を生前に契約するケースが多くあります。
これとは異なり、先祖代々のお墓に自身も入ることを希望する場合に利用できる制度として、特別祭祀承継制度というものがあります。
この特別祭祀承継制度は、生前に墓地経営者を祭祀承継者として指定し(公正証書遺言で指定します。)、亡くなった後は、墓地経営者が祭祀承継者として既に建立されているお墓に納骨し、契約した期間(10年から30年ほど)、そのお墓で供養するものです。
そして、契約期間が満了すると、祭祀承継者(墓地使用者)である墓地経営者が建立されているお墓を墓じまい(改葬)して、焼骨は永代供養墓に移して、供養されます。 この特別祭祀承継制度によれば、生前に先祖代々のお墓を墓じまいするのではなく、自身もそのお墓に入ることができ、かつ承継者がいないことでお墓が荒れ墓になる事態を回避できます。
ただし、墓地の承継者がいないと言っていたものの、亡くなった後に親族が現れ、お墓の承継を主張してくる可能性があります。そうなると、お寺が祭祀承継者に関する争いに巻き込まれてしまいます。
そのため、契約内容には祭祀承継を主張する者が現れた場合には、祭祀承継者は親族の決定に委ねることを定めておくべきです。
また、契約期間満了後に墓地経営者が自ら墓地使用者として改葬する際、行政から親族からの同意書を求められる可能性があります。
そのような事態もありうることから、墓地経営者を祭祀承継者とする場合には、予め親族からその同意書をとっておくことが望ましいといえます。
生前承継
墓地使用権は墓地使用者が亡くなった後に承継されることが通常ですが、法律上、生前承継は否定されていませんし、離婚や離縁の際には、法律上も生前承継が認められています(民法769条、817条)。
このような法律上の生前承継ではありませんが、例えば、墓地使用者が遠方に居住しているために墓地管理が困難となった場合や、高齢や病気によって墓地管理が困難になった場合に、生前承継を認める必要性があります。
このような場合に生前承継を認めてもらえるかどうかは、墓地管理者との協議によることになります。生前承継を認めることに墓地管理上の支障はなく、むしろ生前承継を認めた方が、お墓の無縁化を防ぐことができるなど墓地管理上、望ましい場合には生前承継を認めてくれるでしょう。
なお、公営墓地の条例や民間墓地の規則で生前承継を明示的に認めている例もあります。
墓地の相続放棄はできるのか
墳墓や墓地所有権は祭祀承継者が承継します。
これは相続とは異なる制度で、相続における相続放棄の制度はありません。
とはいえ、祭祀承継者に指定されたからといって、それを承継する義務は負いません。
ですから、被相続人から祭祀承継者に指定された者が、祭祀を主宰したくないというという場合には、墓地管理者に相談の上、他の承継人を選定し承継させることになります。
墓地使用者と祭祀承継者が異なるケース
親族のお墓の場合、故人の祭祀承継者と、親族のお墓の墓地使用者が一致しないケースがあります。
例えば、亡夫の祭祀承継者は妻で、亡夫の実兄が親族の墓地の使用権者となっている場合、祭祀承継者と墓地使用者が異なることとなります。
通常はこのように祭祀承継者と墓地使用者が一致せずとも不都合はありませんが、親族間で仲たがいなどがあるとトラブルに発展することがあります。
遺骨の所有者は妻ですから、墓地に納骨された遺骨を改葬するために妻が遺骨の引渡しを求めた場合、墓地使用者である実兄はそれに応じなければなりません(東京高判S62.10.8判タ664号117頁)。
墓地の名義変更の手続き
お墓の名義変更とは、墓地使用契約の契約上の地位を変更するということです。
墓地使用は墓地の管理者である寺院との墓地使用契約によって認められる権利ですから、その契約上の地位の承継については、寺院との間で手続きが必要となります。 墓地によって承継手続は多少異なります。
一定範囲の親族全員の同意書を求める墓地もあれば、承継者として不自然ではない者からの承継申請があれば、墓地の承継を認める墓地もあります。
前者の場合には、親族が遠方に散らばっていたり、親族の協力が得られない場合には、承継手続が滞ってしまい、墓地管理に支障がありますので、近時は、後者の対応をする墓地が多数派のようです。
ただし、後者の対応をとった場合、後日、墓地の承継に異議を述べる親族が出てくる可能性があります。そのような場合に寺院が紛争に巻き込まれ、責任を問われることのないようにすることが重要です。
具体的には、その者を承継者として認めたことの合理性、妥当性を示すために、承継手続の際には、その者が承継者として申請をした経緯や理由を記した事情説明書を作成するべきです。
また、万が一にも親族間で紛争が生じた場合には自身の責任で紛争を解決することの誓約と、承継者が決定するまでの間、墓地使用権を停止することの同意をとっておくとよいでしょう。
墓地と相続税
お墓などの祭祀財産は、相続財産に含めて計算することはしません。
また、下記のとおり相続税法とその解釈通達で明示されていますが、祭祀財産に相続税はかかりません。 もっとも、生前承継をする場合には贈与税を課税される可能性がありますので、専門の税理士に相談することをお勧めします。
相続税法第12条 1次に掲げる財産の価額は、相続税の課税価格に算入しない。
墓所、霊びよう及び祭具並びにこれらに準ずるもの
相続税法基本通達12-1 「墓所、霊びょう」には、墓地、墓石及びおたまやのようなもののほか、これらのものの尊厳の維持に要する土地その他の物件をも含むものとして取り扱うものとする。
相続税法基本通達12-2 「これらに準ずるもの」とは、庭内神し、神たな、神体、神具、仏壇、位はい、仏像、仏具、古墳等で日常礼拝の用に供しているものをいうのであるが、商品、骨とう品又は投資の対象として所有するものはこれに含まれないものとする。
墓地の相続の基礎からお知りになりたい方は、下記コラムもご覧ください。
最後に
以上墓地の「相続」、墓地の名義変更についてご説明しました。 墓地の承継人が誰であるのかについてトラブルになるケースがしばしば見られます。
このようなトラブルになると墓地の管理運営にも支障をきたします。
墓地の「相続」をめぐるトラブルを避けるためには、あらかじめ墓地使用契約・規則の整備をすべきです。また、トラブルになってしまった場合には墓地法務に詳しい弁護士に相談しましょう。
有期限の墓地使用契約については、下記コラムもご覧ください。