盗撮した場合の起訴・不起訴について余罪の扱いも含めて解説
最終更新日: 2024年01月23日
盗撮事件の相談の際、初めて盗撮をして捕まってしまったという方は珍しく、事件が発覚するまでに何度も盗撮をして、そのうち1回が発覚したというケースが大半です。
そして、事件が発覚した場合には、捜査機関は盗撮に使ったカメラや携帯電話、自宅にあるパソコン等を押収して分析しますので、これによって余罪が明るみに出ることは珍しいことではありません。
このように盗撮事件では余罪も含めて多くの犯行が発覚するケースが多いのですが、起訴されて前科が付く可能性は高いのでしょうか。
今回は、盗撮事件の起訴・不起訴について、ご説明をいたします。
盗撮事件の起訴や不起訴の種類
まずは盗撮事件における起訴・不起訴の種類について確認しておきましょう。
不起訴の種類
盗撮事件について、起訴もしくは不起訴の処分をする権限は検察官にあります。
そして、不起訴処分には、いくつかの理由があるのですが、代表的なものとして、以下の3つが挙げられます。
- 嫌疑なし
- 嫌疑不十分
- 起訴猶予
「嫌疑なし」は、被疑者が犯人でないことが明らかなときは、犯罪を認定する証拠がないことが明らかな場合に出されます。たとえば、被疑者にアリバイがあった場合などには「嫌疑なし」となることが考えられます。
「嫌疑不十分」は、被疑者が犯人であることや犯罪の成立について、十分な証拠がない場合に、検察官が起訴を断念し、出されることが多いです。
「起訴猶予」は、被疑者が犯人であり、犯罪の成立についても十分な証拠があるけれども、示談の成立や、被疑者の反省、再犯可能性が乏しいことなどを理由に決定される不起訴処分です。
実務上、不起訴処分の大半は、「起訴猶予」です。
盗撮事件についても、被害者との示談が成立している場合や、被害者が特定されていない場合でも被疑者が深く反省し、再犯をしないだろうと考えられる場合には、「起訴猶予」が選択されることとなります。
略式起訴の可能性
略式起訴(略式裁判)とは、検察官の請求により、簡易裁判所の管轄に属する(事案が明白で簡易な事件)100万円以下の罰金又は科料に相当する事件について、被疑者に異議のない場合、正式裁判によらないで、検察官の提出した書面により審査する裁判手続です。
罪を認めている場合には、被疑者が同意をすれば迅速な処分がなされるので、被告人の負担が軽くなるというメリットがあります。
盗撮自体を認めている場合には、略式起訴によって罰金が科されることが通常です。
起訴(公判請求)となる可能性
上記のとおり、略式起訴は、被疑者が盗撮自体を認めている場合の手続きです。以下のいずれかの場合には公判請求の可能性があります。
- 被疑者が盗撮自体を否定(否認)
- 盗撮自体を認めていたとしても、度重なる前科がある場合
- 被害の程度が甚大な場合(たとえば、被害者の年齢が18歳に満たず児童ポルノにも該当する場合や、盗撮データの販売をしていた場合)
公判請求の結果、罰金刑が科される場合もあれば、懲役刑(実刑の場合も執行猶予の場合も含む)が科されることもあります。
なお、起訴(公判請求)と身柄拘束とは必ずしも合致するものではありませんので、逮捕・勾留されていない被疑者が起訴されることもあり、これを在宅起訴といいます。
盗撮事件の余罪は起訴?不起訴?
さて、冒頭でもお話したように、盗撮事件が発覚すると、捜査が進むにつれて、多くの余罪が発覚することがあります。
では、余罪が出てきた場合、余罪も個別に起訴されてしまうのでしょうか?
捜査機関による証拠の押収
捜査機関は、盗撮に使ったカメラや携帯電話のみならず、自宅でデータを保管していたパソコンやタブレット、データ記録媒体なども押収し、分析します。
余罪が立件される可能性
捜査機関が、データを解析して余罪が発覚した場合でも、実際に余罪が個別に立件されることは比較的少ないです。
これは、余罪(過去の盗撮)を立件するには、捜査機関側で、盗撮があった日時と場所を特定しなければならないためです。
過去の盗撮データから、盗撮の事実は把握できますし、データから撮影日時も特定できることは多いでしょう。
他方で、撮影場所については、撮影をした本人も覚えていないことが多く、捜査機関は場所を特定することが困難な場合が多いです。
このように、日時と場所のどちらかが特定されない以上、捜査機関が過去の盗撮を立件することはできず、結果として、余罪が立件されないことが多いということになります。
余罪自体は起訴されなくとも「常習」と評価されるおそれ
とはいえ、過去に盗撮していたことは明らかです。
そのため、個別の犯罪として立件はできないにせよ、もともと立件されていた盗撮事件の処分に影響を与える可能性があります。
たとえば、もともとの盗撮事件に罰金を科される場合に、その罰金の金額が増額してしまうことはあるでしょう。
また、「常習」として評価されることもあり得るため、やはり科される刑罰が重くなる可能性があります。
たとえば、東京都の迷惑防止条例では、常習でない盗撮行為については「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」ですが、常習の盗撮行為については「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」と規定されています。
余罪の立件を防ぐための黙秘権行使
では、余罪の立件を防ぐことは可能でしょうか。
一つの方法として、黙秘権を行使することが考えられます。
黙秘権は、憲法で定められた権利であり、「自己に不利益な供述を強要されない」権利のことをいいます。また、刑事訴訟法でも、自己に不利益かどうかにかかわらず供述を拒むことができると規定されています。
黙秘権は、聞かれたこと全てについて行使することも可能ですし、一部のみについて行使することも可能です。
日本の刑事裁判においては、取調べ段階で作成された被疑者の供述が証拠として用いられることが通常ですので、不利な内容の供述調書を作られないようにするために、黙秘をすることになるのです。
盗撮事件について話を戻すと、さきほども説明したとおり、捜査機関は余罪の日時や場所について特定することを求めて、取調べを進めることが想定されますので、これに対して、黙秘権を行使することが考えられます。
なお、上記はあくまでも一つの例であり、黙秘権の行使をすべきか否かはケースバイケースですから、必ず弁護士に相談するようにしてください。
余罪を立件された場合の弁護活動
余罪が立件されてしまった場合の問題点として、被害者の特定が困難であることがあげられます。
古い時期の事件であり、また現行犯逮捕されたわけでもないため、捜査機関も被害者を特定することができないのです。
すると、加害者側にとっても、被害者と示談ができないという大きな問題が生じてしまいます。
先ほども説明しましたとおり、被害者との示談や被害回復は、盗撮事件の処分を決定するにおいて極めて重要な事情ですので、示談ができないことは、加害者にとって不利な事情といわざるを得ません。
こういったケースでは、たとえば、被害弁償の代わりに、贖罪寄付(「しょくざいきふ」と言い、罪を償うために寄付をします。最寄りの弁護士会などに寄付することが多いです)をしたり、専門家による治療やカウンセリングなどの抜本的な対策を講じるなどして、不起訴処分を目指した弁護活動を行うこととなります。
盗撮事件で起訴された場合は前科がつくのか
最後に、盗撮事件で起訴されてしまった場合には、前科がつくのかどうか、説明いたします。
略式起訴の場合
略式起訴の場合、罰金刑が科されることになりますが、罰金刑も刑法上の刑罰であり、これは前科にあたります。
起訴(公判請求)の場合
犯罪が成立しないなど無罪の場合は別ですが、有罪判決を受けた場合には、罰金刑もしくは懲役刑(執行猶予がつくこともあります)が科されるところ、いずれも、刑法上の刑罰であり、当然に前科がついてしまいます。
つまり、起訴されてしまった場合、無罪とならない限りは、前科がついてしまうのです。
まとめ
いかがだったでしょうか。今回は、盗撮事件の起訴・不起訴について、余罪の立件なども交えながら説明いたしました。
盗撮事件における捜査への対応によっては、今後の処分の有無や内容が変わる可能性もありますから、弁護士への相談をご検討ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。