薬物での逮捕の流れや薬物検査の方法について専門弁護士が解説

最終更新日: 2023年12月20日

薬物での逮捕の流れや薬物検査の方法について専門弁護士が解説

「違法薬物を押収されたのに現行犯逮捕されなかったが、後日逮捕されることはあるのか?」

このような弁護士へのご相談はよくあります。このような疑問については、薬物事件の捜査方法について知る必要があります。

今回は、薬物犯罪の捜査方法、その後の逮捕、勾留手続についてご説明いたします。

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この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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薬物犯罪で逮捕に至るきっかけや流れ

薬物事件で逮捕に至るきっかけや流れは様々ですが典型的なものもあります。まずはこれらについて簡単に見ておきましょう。

職務質問

薬物の単純所持事件の大半は職務質問をきっかけに現行犯逮捕に至っています。路上で挙動不審な人物、駐停車中の不審な自動車などに警察官が職務質問をします。

そして、所持品検査をした結果、違法薬物と疑われるものが出てきた場合、その場で予試験(簡易検査)をします。そして、違法薬物の陽性反応が出たときは、現行犯逮捕となります。

また、違法薬物自体は見つからなかったものの、尿検査の結果、違法薬物の陽性反応が出たときは、緊急逮捕となります。

共犯者の供述

先に逮捕されていた共犯者が違法薬物の授受等について供述することがあります。すると警察はその供述を根拠に捜索差押令状や逮捕状をとって、関係者の逮捕に至るケースもあります。

通報

違法薬物を使用して錯乱状態となった状態で警察に自ら電話をしたり、誰かに監視・盗聴されていると不安になって警察に通報し、異変を察知した警察官が臨場し、逮捕に至るケースがあります。

また、大声でわめいている人がいるとの通報を受けて警察官が臨場し、所持品検査で違法薬物が発見されたり、尿検査で陽性反応が出て逮捕されるケースもあります。

紛失、置き忘れ

カバンや財布を置き忘れたり、紛失して、その中に違法薬物が入っており、一緒に入っていた身分証から所有者が特定され、後日逮捕に至るケースは比較的よくあります。

被疑者が自分のものではないと弁解をすることがありますが、余程そのようなことがありうる場所で紛失、遺留したのでい限りは、そのような弁解が通ることはありません。

警察による薬物検査の方法

次に薬物事件の捜査における薬物検査の各種方法について説明します。

簡易検査の流れ

職務質問や捜索の現場で大麻や覚せい剤などの違法薬物と疑われるものが見つかったときは、警察官はその場で予試験(薬物簡易試験)を実施します。その流れは以下のとおりです。

  1. あらかじめ被疑者に簡易検査の方法を説明し、
  2. 被疑者の同意を得た上で、
  3. 被疑者の面前で簡易検査を実施する
    というものです。

簡易検査の結果、陽性反応が出れば、違法薬物の所持で現行犯逮捕となります。

簡易検査を実施するためには、違法薬物と疑われるものの外見からその違法薬物が何であるのか判別してそれに対応した検査キットを使用する必要があります。

そのため、事前の捜査や被疑者の供述から薬物の種類を推測できなければ、当日は帰宅を許され、正式鑑定を経て、後日逮捕になることが多いです。

覚せい剤の簡易検査

覚せい剤の簡易検査はシモン試薬によるもので、検体が覚せい剤であるメタンフェタミンを含むと青藍色の反応をします。結晶の覚せい剤と疑われるものを被疑者が所持していたときは、簡易検査が実施されます。

なお、危険ドラッグが流行するようになり誤判定のおそれが出てきたことから、マルキス試薬による簡易検査も併用されることがあります。

大麻の簡易検査

大麻の簡易試験で使用される試薬は、大麻成分であるカンナビノイドに反応して青紫色の反応をします。

しかし、覚せい剤の簡易検査ほどに明確な反応ではなく判別が難しいことも多くあります。また、大麻の保存状態によっては陰性となることもあります。

そのため、大麻所持事件では、簡易試験では擬陽性や陰性の結果が出て、その場で現行犯逮捕とはならず、正式鑑定によって大麻であることが明らかになった後に、後日逮捕となるケースがよくあります。

尿の予試験(尿検査)

所持品検査をしても違法薬物が出てこなかった場合、尿の任意提出を求め、尿検査が実施されます。そして、尿の簡易検査や科学捜査研究所の尿鑑定で陽性反応が出たときは、緊急逮捕となります。なお、任意提出を拒否すると、強制採尿令状を得て強制採尿手続がとられることがあります。

尿鑑定の結果、違法薬物が検出されれば、薬物使用を証明できますので、薬物使用事件の捜査においては、尿採取の手続きが全てと言っても過言ではないくらい重要です。

尿検査は、他人の尿とすり替えられたなどの被疑者の弁解を封じるために、常に採尿カップは被疑者の目の面前にあるように進められ、その過程を写真撮影して証拠として保全されます。弁護士としても採尿過程に違法がないか注意が必要です。

尿から違法薬物が検出された場合、尿の採取時から遡って2週間以内に違法薬物を使用したと考えられます。

警察の毛髪検査で覚せい剤は出る?

覚せい剤成分は、毛根から毛髪に取り込まれるので、毛髪検査によって覚せい剤の使用がわかります。毛髪の先端部分にまで覚せい剤が検出されると、慢性中毒、常習者といえます。

1回限りの使用であっても毛髪から覚せい剤は検出されますが、採取可能な部位まで伸びていないと検出されませんので、使用から2週間ほど経過しないと髪の毛から検出されることはありません。

なお、洗う前の髪の毛であれば毛髪自体ではなく毛髪についた汗から覚せい剤が検出されることがあります。

毛髪鑑定で証明できるのは、違法薬物を常習的に使用しているという事実です。毛髪鑑定だけではいつ頃、違法薬物を使用したのかという事実までは証明できませんので、尿検査で違法薬物が検出されなかったときは、違法薬物の使用で起訴することは困難です。

薬物事件で後日逮捕となる流れ

違法薬物を所持していたので現行犯逮捕されるケース、尿の簡易検査で陽性反応が出たので緊急逮捕されるというケースは非常に多くあります。

他方、現行犯逮捕、緊急逮捕はされず、当日は帰宅を許され、科学捜査研究所の正式鑑定の結果を待って、後日逮捕(通常逮捕)となるケースもよくあります。ここではどのようなケースで後日逮捕となるのか説明します。

外見上、薬物の種類を推測できない場合

錠剤型の薬物の場合、含まれている薬理成分が外見上はっきりしませんので、適切な試薬を使用して簡易検査を実施することが困難です。そのため、正式鑑定をして薬理成分が明らかになった後に逮捕状を得て通常逮捕となります。

同様に近時は多種多様な麻薬や危険ドラッグが流通していますので、一見して違法薬物の種類が明らかではないことが多々あります。外見から推測できる違法薬物は、大麻と結晶の覚せい剤くらいではないでしょうか。

簡易検査の結果が擬陽性、陰性だった場合

簡易検査の結果が擬陽性、陰性の場合も、一旦帰宅を許され、正式鑑定で違法薬物との結果が出た場合、後日逮捕となります。

特に大麻の簡易検査は反応がさほど明確ではないことから、陽性反応と判断して現行犯逮捕した後、正式鑑定をした結果、大麻ではないことが判明し、誤認逮捕になったという例がしばしばあります。

薬物事件における後日逮捕までの期間

帰宅を許されてから後日逮捕までの期間は、科学捜査研究所の混み具合や担当警察官の忙しさ具合によってまちまちです。

数日後に後日逮捕となるケースもあれば、半年後、1年後に後日逮捕となるケースもあります。2、3週間から2、3か月後くらいに後日逮捕となっているケースが多いようです。

薬物事件で逮捕された後の流れ

最後に薬物事件で逮捕された後の流れについて説明します。

留置場での勾留期間

逮捕されると48時間以内に警察から検察庁へ事件が送致されます。

そして、そこから24時間以内に検察官は裁判官に勾留を請求し、裁判官が勾留を認めると10日間勾留されることとなります。

薬物事件の場合、入手ルートなどについて証拠隠滅の恐れがあることから大半のケースでは勾留の決定が出ています。

10日間の勾留期間では捜査が終わらないときは、更に最大10日間の勾留延長となります。薬物事件の場合、鑑定未了であったり、共犯者の取り調べも必要であったりという理由で勾留が延長されるケースが多くあります。

単純所持事件の場合、取り調べにはさほど時間は必要なく、ただ鑑定結果が出るのを留置場でひたすら待たされているというケースが非常に多くあります。このようなケースの場合、弁護士が勾留延長決定に対する準抗告をすると勾留期間が短縮されることがあります。

このような事案では、逮捕・勾留するのではなく、正式鑑定を待って通常逮捕し、10日間の勾留期間で終えることが望ましく、もっといえば逮捕はせずに在宅捜査で済ませるべきでしょう。

薬物事件の釈放条件

近時は薬物事件でも裁判官が検察官の勾留請求を却下するケースがしばしばみられるようになってきました。

初犯の薬物使用・所持事件の場合、違法薬物は押収しており、自宅などの捜索差押も終えており、入手先についても信用できる供述をしている場合には、弁護士が裁判官・裁判所に意見書の提出や準抗告の申立てをすると、釈放されるケースがあります。

このように勾留を回避して釈放してもらうためには、最低限の条件として、初犯であること、共犯者がいないこと、単純使用・所持の事案であること、犯行を認め、入手先についても信用できる供述をしていることが挙げられるでしょう。

2018年の統計をみますと、勾留請求却下率は、大麻取締法違反が2.21%であるのに対し、覚せい剤取締法違反は0.38%です。覚せい剤取締法違反の方が法定刑が重いこともありますが、検挙人員に占める再犯者が多いことも勾留されやすい要因と考えられます。

薬物事件の起訴・不起訴

犯行を否認している場合で捜査機関が有罪判決を得るに足りる証拠を収集できなかったときは、不起訴処分となります。

また、証拠上は犯罪の成立を十分に証明できるケースであっても、諸般の情状から起訴猶予処分となることもあります。

2018年の統計によりますと、覚せい剤取締法違反は76.9%と非常に高い起訴率です。覚せい剤取締法違反は検挙人員のうち6割以上が再犯(覚せい剤取締法違反に限らない。)であることもこのような高い起訴率の要因でしょう。

なお、検察庁が終局処分をした1万5697件のうち、3629件が不起訴処分でしたが、うち1158件(7.3%)が起訴猶予処分でそのうち初犯は384件(33.1%)でした。

薬物事件の保釈

初犯の薬物の使用・所持事件の場合には、身元引受人を用意できれば保釈が許可されることも多くあります。

他方、再犯者の場合、実刑判決となる可能性が高く、逃亡の恐れもありますので、保釈のハードルは相当高くなります。このような場合、弁護士による保釈のための弁護活動が非常に重要となり、保釈後の制限住居を薬物依存治療のために病院とするなどの対応が必要となることもあります。

まとめ

今回は、薬物犯罪の捜査方法、その後の逮捕、勾留手続についてご説明いたします。

薬物犯罪の場合、初犯であれば(営利目的など出ない限り)刑事裁判は執行猶予判決となりますが、弁護士が入ることで、刑事裁判となる前の段階で、身柄拘束からの解放や不起訴処分を目指せるケースが多くあります。

薬物犯罪の容疑をかけられたときは、刑事事件の経験が豊富な弁護士にご相談ください。

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