弁護士が解説!窃盗目的の住居侵入とその弁護の方法
最終更新日: 2022年05月13日
窃盗事件の場合、コンビニなどの店舗での万引きなどを想像される方も多いかもしれませんが、空き巣など人の住宅に侵入して行う窃盗事件も典型的な窃盗事件の一つです。
たとえば、人の住居に侵入して金品を盗んだ場合、窃盗罪だけでなく住居侵入罪も成立します。ただ、住居侵入自体は犯罪の目的となることは少なく、窃盗や盗撮などその他の犯行の手段とされることが多い犯罪です。
今回は、住居侵入罪について、窃盗を目的とするものを中心に説明をいたします。
弁護士による窃盗罪と住居侵入罪の概要の説明
まずは、窃盗罪と住居侵入罪の概要をご説明いたします。
- 住居侵入罪の成立要件は?
- 住居侵入罪が保護する法益は?
- 窃盗罪の成立要件は?
- 窃盗罪が保護する法益は?
- 窃盗目的の住居侵入罪の量刑は?
住居侵入罪の成立要件は?
刑法130条は、以下のとおり、住居侵入罪について定めています。
「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」
この条文からもわかるとおり、住居侵入罪が成立するための要件は、1.正当な理由がなしに、2.人の住居に、3.侵入した の3つです。
まず、1.「正当な理由」についてです。
刑法130条前段の「正当な理由」は、立入りの目的が住居権者の承諾を得ているか承諾を得られると推定される場合、あるいは法的に正当な根拠がある場合に認められるとされています。
たとえば、宅配業者が敷地内に立ち入ること、適法な警察の捜査が及ぶ場合などが想定されます。
次に、2.の住居は、人の起臥寝食(きがしんしょく。寝泊りや生活のことを意味します。)に使用される場所と定義されています。
では、3.侵入したとは、どのように解釈されるのでしょうか。
この点は、住居侵入罪という行為を犯罪として規定することで守られる利益(住居侵入罪の保護法益といいます)をどのように考えるかという点と関連しますので、次の項目でご説明いたします。
住居侵入罪が保護する法益は?
住居侵入罪の保護法益をどのように捉えるのかという点については、いくつかの見解があります。
一つは、「事実上の住居の平穏」が保護法益であるという「平穏(侵害)説」です。
この平穏説では、「侵入」とは「平穏を害する立ち入り」を意味するとされています。
仮に、この平穏説からすると、平穏な態様で人の住居に立ち入った場合、その立入りが住居権者の意思に反していた場合でも犯罪が成立しないこととなってしまい不合理ではないかとの批判があります。
そこで、現在は、住居侵入罪を「住居に誰を立ち入らせ、誰の滞留を許すかの自由」と説明し直すことにより住居侵入罪が個人的法益(個人の自由)に対する罪と捉える新住居権説が通説・判例であると考えられています。
新住居権説からは、住居侵入罪の「侵入」とは、住居権者の意思に反する立ち入りであると定義されます。
窃盗罪の成立要件は?
次に、窃盗罪について検討いたします。
窃盗罪は、「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と規定されています(刑法235条)。
窃盗罪が成立する要件は、
(1)他人の財物
(2)窃取
(3)故意
(4)不法領得の意思
と言われています。
今回は、住居侵入罪をメインとする記事ですので、詳細は割愛いたしますが、(2)は、占有者の意思に反して、その占有を侵害し、自己又は第三者の占有に移すことを意味します。
また、(4)は、1.権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様に、2.その経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思(大判大正4年5月21日刑録21輯663頁)を意味するとされており、要するに真の権利者を排除して、その財物を利用処分する意思があれば不法領得の意思があると認められます。
窃盗罪が保護する法益は?
窃盗罪の保護法益は、事実上の支配(保持)を意味する「占有」が通説判例である言われています。
窃盗目的の住居侵入罪の量刑は?
さて、では、窃盗目的の住居侵入罪の量刑はどうなるのでしょうか。
冒頭にお伝えしたとおり、窃盗目的の住居侵入罪の場合、住居侵入はあくまでも窃盗を行うための手段として考えられています。
そして、このように、複数の犯罪が目的と手段の関係にある場合、これらの犯罪は牽連犯と評価され、その最も重い刑により処断することとされています(刑法54条1項後段)。
つまり、窃盗目的の住居侵入罪の場合、重い罪である窃盗罪の法定刑である「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」の範囲で処断されることとなります。
なお、実務上は、窃盗罪のような目的となった他の犯罪が成立し、立件可能な場合には、そもそも、住居侵入罪が立件されないケースも相当程度存在します。
窃盗目的の住居侵入について弁護士が必要な5つの理由
では、窃盗目的の住居侵入罪が刑事事件化した際に、弁護士が必要となる5つの理由について解説いたします。
- 犯行を法的に分析することが可能
- 早期の示談を目指すことができる
- 身柄解放を目指すことができる
- 不起訴の可能性が高まる
- 量刑に影響を与える
犯行を法的に分析することが可能
窃盗目的で他人の住居に侵入した場合、理屈上は、住居侵入罪と窃盗罪の両方が成立する可能性があります。
ただし、実際に行った行為が、その犯罪の成立要件を満たしているのか否かという法的な判断が必要不可欠ですので、専門家たる弁護士に相談し、法的分析をしてもらうことが重要です。
早期の示談を目指すことができる
弁護士に依頼することで、早期の示談を目指すことも可能です。
そもそも、住居侵入窃盗の場合、被害者側は住居を知られていることを強く不安に思っており、加害者本人と直接交渉することは現実的ではありません。
そのため、弁護士が必要となるケースが多いです。
たとえば、会社内での窃盗は、窃盗の被害者は財産を盗まれた従業員となることがあり、他方で、住居侵入(建造物侵入)の被害者は、窃盗目的を認識していれば、当然立入りを許さなかったにもかかわらず、窃盗目的を知らなかったために意思に反して立入りをされてしまった会社です。
このように被害者が異なる場合、双方との示談交渉が不可欠なのか、誰と、どのようなタイミングで示談交渉をすべきなのか等、弁護士のアドバイスは不可欠です。
弁護士に依頼をすることで、捜査の進展を見守りつつ、適切な対応をすることが可能です。
身柄解放を目指すことができる
住居侵入窃盗によって逮捕・勾留されている場合には、弁護士に依頼することで、早期の身柄解放を目指すこともできます。
被害者との示談が成立すれば身柄解放につながりやすいですし、また、示談が未成立の状況でも、被害者に接触しないこと、家族がしっかりと監督することなどを伝え、身柄解放が実現されるケースも少なくありません。
いずれにせよ、身柄解放に向けては、刑事手続を熟知した弁護士に依頼をすることが肝要です。
不起訴の可能性が高まる
弁護士に依頼をすることで、不起訴を目指すことも可能です。
たとえば、前科がなく、示談をしたうえで被害弁償を済ませていれば、行為態様の悪質さや被害額の多寡にもよりますが、不起訴となる事案が多いでしょう。
量刑に影響を与える
仮に、不起訴には至らなくとも、弁護士が示談交渉に向けて活動を続け、また加害者にとって有利な事情を積極的に検察や裁判所に伝えることで、可能な限り寛大な処分を得られる可能性も高まります。
この意味でも、弁護士は重要な役割を果たしているといえます。
窃盗目的の住居侵入の自首について弁護士がアドバイス
最後に、窃盗目的の住居侵入の自首について検討いたします。
住居侵入の後日逮捕を防ぐためにも自首は有効な手段です。
- 同じマンションの別室に侵入した場合
- 前科前歴がある場合
同じマンションの別室に侵入した場合
比較的よくある事案として、同じマンションの別室に侵入した場合があげられます。
この場合、目撃証言から加害者が特定されることも想定されますし、防犯カメラなどからも容易に特定される可能性もあり、後日逮捕の可能性が高いといえるでしょう。
したがって、犯行発覚前であれば自首を検討すべきです。
前科前歴がある場合
前科前歴がある場合、防犯カメラなどの映像が残っていれば、捜査機関がデータベースと照合することにより、犯人が特定される可能性が高いです。
したがって前科や前歴がある場合にも、後日逮捕の可能性は高く、自首を検討すべき事情にあたるといえます。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回は、住居侵入のうち、窃盗目的の犯行に的を絞って、検討を加えました。
住居侵入・窃盗ともに、不起訴や略式起訴の可能性も低くはない犯罪ですので、早期に専門家たる弁護士に依頼をし、被害回復に努めることが重要です。 お困りの方は、まず弁護士にご相談ください。