宗教法人の設立費用はどれ位?その手続きについても専門弁護士が解説
2022年07月21日
団体として宗教活動を行っておられる方の中には、これから宗教法人を設立し、法人格を取得することを考えている方もおられるでしょう。もっとも、宗教法人の設立にあたっては経るべき手続きや段階が多数あり、複雑です。
そこで、今回は宗教法人の設立費用、設立の要件・手続きについて、宗教法人を専門とする弁護士が解説します。
宗教法人の設立費用はどれ位?
宗教法人を設立する手続きは複雑で、時間も要します。そのため、専門家のサポートなく設立にこぎつけることは相当ハードルが高いといえます。
宗教法人の設立手続をサポートする専門家には行政書士や弁護士がいます。行政書士に依頼する場合も弁護士に依頼する場合も、概ね50万円から100万円ほどの費用を要します。
宗教法人の設立費用以外の要件
宗教法人を設立するには、まず、所定の事項を記載した規則を作成し、その規則を所轄庁に認証してもらう必要があります。
そして、所轄庁が、規則を認証するためには、規則を認証申請した団体が、宗教法人法上の宗教団体でなければなりません(法2条、14条1項1号)。
そして、宗教法人法上の宗教団体と認められるためには次のような活動や設備を備える必要があります。
- 宗教に係る能動的な活動をしていること
- 団体固有の教師(住職・宮司・牧師など)がいること
- 公衆的礼拝施設を備えること
- 永続性があること
- 団体運営能力があること
- 公衆的礼拝施設を備えること
宗教に係る能動的な活動をしていること
宗教法人法によれば、宗教団体とは「宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的」とする団体のことをいいます(法2条)。
ポイントは、受動的な活動ではなく、教義を「ひろめ」、儀式行事を「行い」、信者を「教化育成する」といった能動的な活動をしている団体である必要があるということです。 概ね3年程度の活動実績が必要といわれています。
団体固有の教師(住職・宮司・牧師など)がいること
宗教団体として能動的に活動するためには教師、すなわちお寺でいえば住職の存在が必要となります。また、教師は宗教活動に専念し、原則として、その教師活動のみで生活ができていることが必要となります。
そこで教師には専任性と教師の生活を支え得うる信者の数が必要となります。
公衆的礼拝施設を備えること
礼拝の施設として、家庭内の神棚や仏壇といった閉鎖的な場所にあるものではなく、信者等が自由に出入りすることができる公衆性を備えた施設を有することが必要です。
永続性があること
負債等、永続性を妨げる要因がなく、将来も継続して活動しうる団体であることが必要です。
団体運営能力があること
「団体」であるといえるためには継続的な組織として確立している必要があります。 継続的な組織というためには、団体の規約・代表機関・総会の設置、運営に必要な書類(役員名簿、議事録、事務処理簿、財産目録、収支計算書、境内建物に関する書類など)を作成し、備え付けることが必要です。
宗教法人の設立の流れ
次に、宗教法人を設立する流れを見ていきましょう。
- 所轄庁への事前協議
- 規則の作成
- 設立会議の議決
- 包括宗教団体による承認
- 規則の公告
- 規則認証申請
- 認証
- 設立登記
- 登記の届出
所轄庁への事前協議
宗教法人の所轄庁は、主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事、2つ以上の都道府県にも境内建物を備える宗教法人の場合は文部科学大臣となります(宗教法人法5条)。
規則の作成
宗教法人を設立しようとする者は、宗教法人法12条1項に掲げる事項を記載した規則を作成し、その規則について所轄庁の認証を受けなければなりません。
設立会議の議決
規則案を作成後、宗教法人を設立しようとする者が集まる設立発起人会議(設立会議)を開催し、設立と規則案の承認に関し議決します。
包括宗教団体による承認
包括宗教団体がある場合は、宗教法人となることについて包括宗教団体の承認を得る必要があります。
規則の公告
設立会議の議決後、認証申請の少なくとも1か月前に、信者その他の利害関係人に対し、規則の案の要旨を示して、宗教法人を設立しようとする旨を公告しなければなりません(宗教法人法12条3項)。
公告の方法は、新聞紙又は当該宗教法人の機関紙に掲載し、宗教法人の事務所の掲示場へ掲示するなど信者その他の利害関係人に対し周知させることができる適当な方法によることになります(同条2項・3項)。
規則認証申請
設立認証を受けようとする者は、認証申請書及び規則2通のほかに、次に掲げる書類を添えて、これを所轄庁へ提出し、その認証を申請しなければなりません(宗教法人法13条)。
認証
所轄庁は、申請を受理した場合においては、その受理の日を付記した書面でその旨を当該申請者に通知した後、当該申請を受理した日から3か月以内に、次に掲げる要件を備えているかどうかを審査し、当該要件を備えていると認めたときは、その規則を認証する旨を決定する(宗教法人法14条1項、3項)。
所轄庁は、上記要件を備えていないと認めたとき又は受理した規則及びその添付書類の記載によっては要件を備えているかどうかを確認することができないときはその規則を認証することができない旨の決定をしなければなりません(同法14条1項)。
また所轄庁は、認証できない旨の決定をしようとするときは、あらかじめ申請者に対し自ら又は代理人を通じて相当の期間内に意見を述べる機会を与えなければならないとされています(同法14条2項)。
設立登記
宗教法人の設立の登記は、所轄庁による規則の認証書の交付を受けた日から2週間以内に、主たる事務所の所在地においてする必要があります(宗教法人法52条1項)。 なお、設立に際し従たる事務所を設けた場合には、上記登記をした日から2週間以内に、従たる事務所の所在地において、従たる事務所の所在地における登記をしなければなりません(同法59条1項1号)。
登記の届出
宗教法人は、設立の登記をしたときは、遅滞なく、登記事項証明書を添えて、その旨を所轄庁に届け出る必要があります(宗教法人法9条)。
宗教法人の設立が難しい理由
以上みてきましたとおり、宗教法人の設立手続は、時間をかけずに比較的手軽に誰でも設立することのできる株式会社とは異なり、要件も厳しく、時間もかかります。 前記のとおり、宗教団体として3年程度の活動実績をつくり、それを所轄庁(都道府県知事又は文部科学大臣)に認証されて、更に法務局で登記をすることによってようやく宗教法人になることができます(宗教法人法15条)。
既に宗教団体としての実績があったとしても、法人化には所轄庁による審査に最低2~3年はかかると言われています。 このよう設立の要件が厳しく実際に設立されるまでのかなりの時間を要することとされているのは、宗教法人に税金の優遇措置があることが理由です。
仮に、簡単な審査で宗教法人が設立できるとすれば、本当はもっぱら営利目的の活動をしている団体であるのにも関わらず、表向き宗教法人であるように装って宗教法人を設立することができれば、本来なら課されるべき税負担を免れることが可能となってしまいます。
宗教法人が持つ公益性を考えれば、このように厳しい審査が設けられることもやむを得ないでしょう。
まとめ
以上、宗教法人の設立費用、設立の要件・手続きについて解説しました。
宗教法人の設立は容易ではありません。宗教法人設立の可能性を高め、かつできる限りスムーズに設立を行うためには、宗教法人を専門とする弁護士に相談することをお勧めします。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。