自営業夫婦の離婚における財産分与:対象資産から注意点まで弁護士が解説
最終更新日: 2025年02月14日
「夫婦で自営業を営んできたけれど、離婚することになった。財産分与はどうなるんだろう?」
このような疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
自営業夫婦の場合、財産分与の対象となる財産や分け方について、一般的な夫婦の場合と異なる点があるのか、不安に感じる方もいるかもしれません。
そこで今回は、離婚問題に注力してきた弁護士が、自営業夫婦の離婚における財産分与について、対象となる資産から注意点まで詳しく解説します。
自営業夫婦の離婚における財産分与の基礎知識
自営業夫婦の財産分与は、基本的に給与所得者の夫婦の財産分与と同様の考え方で進められます。
財産分与とは
財産分与とは、離婚に際して、夫婦が婚姻期間中に協力して築き上げた財産(共有財産)を分け合うことをいいます。
共有財産は、名義に関わらず、夫婦の協力によって形成された財産であれば、現金、預貯金、不動産、動産(家財や自動車など)、有価証券、退職金、年金などが含まれます。
特有財産とは
共有財産に対して、夫婦それぞれが婚姻前から所有していた財産や、婚姻期間中に相続・贈与によって取得した財産は、特有財産と呼ばれ、財産分与の対象とはなりません。
割合
自営業夫婦の場合も、原則として夫婦それぞれ2分の1となります。
夫婦が合意すれば、夫婦の一方の分与割合を増やすことも、財産分与自体を行わないことも可能です。
種類
財産分与には、主に次の3種類があります。
- 清算的財産分与:婚姻中に築いてきた財産を、夫婦双方の財産形成の経済的貢献度、寄与度を踏まえ公平に分配する方法
- 扶養的財産分与:離婚後、相手が経済的に自立できるまでの一定期間の生活費を支給する方法
- 慰謝料的財産分与:離婚原因をつくった側が相手に慰謝料を支払うとき、慰謝料分を財産分与に上乗せする方法
3種類の財産分与の方法いずれかを選ぶ必要はなく、夫婦の事情に合わせて自由に取り決めが可能です。
自営業夫婦の離婚における財産分与の対象となる資産
自営業夫婦の場合、個人の財産だけでなく、事業用の財産も財産分与の対象となる可能性があります。
個人の財産
婚姻中に得た個人財産は、基本的にすべて共有財産となります。
- 婚姻中に得た不動産(土地や建物)
- 婚姻中に得た自動車やバイク
- 婚姻中に開設した預金口座
- 婚姻中に得た現金や年金、退職金、有価証券、保険金
- 婚姻中に得た骨董品、絵画、貴金属
- 婚姻中に得た家財道具
- 婚姻中に契約したローン等の借入金
なお、婚姻中であっても被相続人から相続した財産、夫婦のどちらかが受け取った贈与物等は特有財産となり、分与対象外です。
事業用の財産
婚姻後に築いた事業財産も、基本的に財産分与の対象です。事業用の口座や土地・建物、器具・備品等が該当します。
ただし、事業用の財産であっても、以下の場合は財産分与の対象とならないことがあります。
- 配偶者が事業に全く関わっていない場合
- 事業用財産と個人用財産が明確に区別されている場合
夫婦の一方が事業用の口座として扱っていたつもりでも、途中から夫婦の口座に利用されていた場合、やはり共有財産に該当し分与対象となります。
自営業夫婦の離婚における財産分与でよくある疑問
こちらでは、自営業夫婦が離婚するときの財産分与に関するよくある質問に回答しましょう。
年金はどうなるのか
自営業者の配偶者は年金分割の対象外です。
年金分割とは、婚姻期間中の保険料納付額に対応する厚生年金または共済年金を分割し、それぞれ自分の年金とする取り決めです。
自営業者が加入する年金は国民年金のため、年金分割の対象ではありません。
ただし、自営業者が自主的に加入している国民年金基金や確定拠出年金があれば、年金分割の対象ではありませんが、財産分与の対象となります。
会社名義の財産はどうなる?
会社名義の財産は会社のもので財産分与の対象外です。
ただし、個人財産と会社の財産が明確に区別されていない場合は、例外的に財産分与の対象に含まれる可能性があります。
会社の株式は、夫婦どちらかの名義で保有していれば個人名義の財産に該当します。
婚姻中に取得したものであれば、夫婦の共有財産となり財産分与の対象です。
事業の債務はどうなる?
自営業者の配偶者が事業の債務(借金)の連帯保証人となっている場合、離婚しても原則として連帯保証人の立場は変わりません。
離婚した配偶者を連帯保証人から外すためには、新たに他の連帯保証人を立て、債権者(金融機関)の承諾を得なければなりません。
他の連帯保証人が見つからない場合は、離婚後も元配偶者を連帯保証人にしておく必要があるでしょう。
元配偶者と連帯保証人の件で揉めそうなときは、財産分与の増額等を提案し、連帯保証人を継続するよう説得した方がよいです。
自営業夫婦の離婚で財産分与を決める流れ
自営業夫婦の財産分与は、夫婦間の協議、調停、審判、訴訟という流れで進められることが一般的です。
協議
まずは夫婦間で財産分与について話し合いましょう。
夫婦が協力して共有財産を調査し、財産分与割合を決めます。夫婦が2分の1ずつ分けることが基本ですが、夫婦が合意すれば柔軟に分与割合を決定できます。
たとえば、夫婦が協力して店舗経営を行ってきた場合、夫婦の一方が事業を続け、得た収入は自分のものとし、他方には店舗経営以外のすべての財産を分与する方法も可能です。
財産分与をはじめとした離婚条件に夫婦が合意したら、条件内容を書面化した「離婚協議書」を2通作成し、それぞれが大切に保管しましょう。
離婚の合意ができなかった場合、または財産分与の合意ができなかった場合、家庭裁判所に話し合いの場を移し、調停による解決も可能です。
調停
協議が不調に終わった場合は、相手方の住所地か夫婦が合意した家庭裁判所に、調停の申立てが可能です。
- 離婚と財産分与などの離婚条件の調停→「夫婦関係調整調停(離婚)」
- 離婚後に財産分与の調停→「財産分与請求調停」(離婚成立日から2年以内に申し立てる必要)
いずれも家庭裁判所の裁判官と調停委員が申立人と相手の仲立ちを行い、互いの言い分をよく聴き、和解のためのアドバイスや和解案を提示する等して、自主的な和解を目指します。
ただし、調停で無理に和解する必要はありません。調停不成立の場合は次のような方法で解決を目指します。
- 夫婦関係調整調停(離婚)→家庭裁判所に「離婚訴訟」を提起する
- 財産分与請求調停→自動的に「財産分与請求審判」に移る
裁判
夫婦関係調整調停(離婚)が不成立となった場合、夫または妻の住所地を管轄する家庭裁判所に、「離婚訴訟」を提起できます。
ただし、離婚訴訟を提起するには、次の法定離婚事由のいずれかに該当していなければなりません(民法第770条)。
- 配偶者に不貞な行為があった
- 配偶者から悪意で遺棄された
- 配偶者の生死が3年以上明らかでない
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
- その他婚姻を継続し難い重大な事由がある
夫婦の性格の不一致やすれ違いだけでは、離婚訴訟の提起は認められない可能性が高いです。また、申立人が有責配偶者に該当する場合も、基本的に申立てはできません。
離婚訴訟では夫婦が原告・被告に別れ、自己の主張や立証を行います。裁判を進めている途中に、裁判官から和解案が提示されるケースも多いです。
和解しなければ、最終的には離婚・離婚条件について、判決が言い渡されます。
原告・被告のどちらかが判決に不服がある場合は、判決書の送達を受けた日の翌日から14日以内に控訴が可能です。
自営業夫婦の離婚での財産分与の注意点
自営業夫婦の離婚時の財産分与を進めるときに、注意しなければならない点があります。
財産分与を含め、離婚を話し合うときはトラブルなく合意していきたいものです。
婚姻費用の発生
夫婦がすでに別居している場合、夫婦のどちらか一方が他方に、毎月婚姻費用を負担しなければならない場合もあるので注意しましょう。
婚姻費用は夫婦が婚姻生活を維持するために必要な費用です。別居している状態でも、夫婦には互いの生活を保持する義務があるのです。
婚姻費用は基本的に、収入の高い方から低い方に支払う必要があります。
毎月支払う費用は夫婦の合意で決めますが、裁判所の公表している「婚姻費用算定表」を参考にして算定が可能です。
配偶者は解雇できない
配偶者を従業員として雇っていた場合、離婚を理由とした解雇は認められません。
たとえ経営者側が「配偶者の顔もみたくない」と思っても、配偶者が離婚後も職場で働くことを希望すれば、離婚前と同じように働かせる必要があります。
雇用中の元配偶者に辞めてもらいたいのであれば、元配偶者に対して有利な退職条件を提示し、同意を得られるように説得しなければなりません。
一人で対応しない
自営業の夫婦が直接話し合うと、お互いが感情的となり、離婚の合意ができないかもしれません。
直接顔を合わせるとトラブルになりそうなときは、法律の専門家である「弁護士」に相談し、代理人を依頼した方がよいです。
弁護士が代理人となれば依頼者に代わり、相手と財産分与を含めた離婚の交渉に臨みます。
弁護士は法律に則り、理性的に離婚条件を提案するため、相手が提案に納得し、離婚の同意を得られる可能性が高まるでしょう。
自営業夫婦の離婚で財産分与にお悩みのときは春田法律事務所まで
今回は離婚問題の解決に尽力してきた専門弁護士が、自営業の夫婦が財産分与を取り決めるポイント等について詳しく解説しました。
春田法律事務所は財産分与をはじめとした離婚問題に強い法律事務所です。まずは弁護士と、財産分与に関する対応方法をよく話し合ってみましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。